それは、突然に優しき学生生活から投げ出された。今までの微温く甘い世界観が、社会に溶け込むにつれて崩壊していく、この世界はイカれてる。
僕は都内でも有名な私立校に、両親のこれまで貯めていたお金を注ぎ込まれ通っていた。
高校三年間、バイトもしていない。全て親の脛を齧って生きていた。
「大学までお金出せないよ。もうアンタ働きな」
「そうだな、成績も良くない部活動も文化部。お前にかける金は、もうない」
突然に優しい世界から放り出された。僕は、卒業まで就職活動。
しかし、これまでの人生サボったツケが、僕を襲った。
卒業しても就職決まらず、自宅警備員として家で寝てる日々が数ヶ月続く。
とりあえず僕は、バイトを始める。地元に根強く営業しているカラオケ店だ。置いてある機種に新しく入荷した曲は去年の日付で止まっている。だから良く来店する客層は、年寄りばかりだ。
ギリギリ一ヶ月は、働いた。仕事が出来ない訳でも無く、仕事仲間に不満を抱いた訳でも無い。
「ただ、満たされなかった。そんな事で社会を生きていけないよ」
この言葉は、店長からの捨て台詞だ。
「こんな小さい店で、生きているアンタに言われたくないね」
僕は反発して酷い事を言う。これも全て社会が悪い。
僕は誰かに責任を押し付けるのが癖になりつつあった。
また自宅警備が始まる。悪臭に満ちてる男の部屋で、布団なのかゴミなのか分からない場所で寝転がる。
「なんか、ゲームしても漫画読んでも性欲処理しても何も感じない」
寂しくなると僕はいつもテレビを点ける。その中でニュースキャスターが読み上げる。
「本日、正午。渋谷区で覚せい剤とアルコールを大量に摂取して暴れてる有名芸能人の○○○さんが、民間人に追報され警察に補導されました」
僕は一寸も間を空かずに笑った。凄まじく人の不幸を馬鹿にし、人の揚げ足を取り、自分の価値の底上げをする。ただ彼は、ストレスの吐き場を間違えただけなのに。
「あんなに憧れ、羨ましいがれ、尊敬され、人気のあった人が、ざまぁねぇーな」
炭酸の抜けたチューハイを口に含み水分を求めるが、逆にお茶が欲しくなる。
でも動くのも面倒で、このまま脱水症状で死んでも誰も悲しまないだろと体を仰向けにして真っ暗な天井を見つめる。何も見えないけど、何かがコチラを見てるような気がする。笑ってるような気がする。僕は、そんな考えを抱く自分が壊れてると判断する。そして、久しぶりに工作箱からカッターを取り出す。
「ハァハァ」恐怖で胸の鼓動が早くなるのが分かる。右腕動脈に刃を突きつけながら、僕は勢いよく引き裂こうとする。
できない。できない。できない。できない。怖い。恐い。死にたくない。こんなはずじゃ無い僕の人生。
中学生時代僕は、いじめてる側だった。苛めさせられている側だ。いじめないと僕が標的にされるからし方がなかった。いつも仲良しだった高橋君。僕は酷い事をして彼を傷つけた、心にも体にも。
そして今、僕は心も体も傷つけようと衝動に駆られてる。支離滅裂な僕の思考。
僕は、考えをまとめてもう一度勢いよくカッターの刃を右腕に当て勢いよく引き裂く。
僕の体を巡るはずだった、酸素を大量に含んだ血液が外部に放出される。
「う、うわぁー」
情けない声が出る。この行為は、死ぬ為にヤったんじゃない、過去の過ちを自分の中でリセットする為に引き裂いたんだ。
「止血止血」と慌ててテッシュ箱から何枚も出して右手に押し付ける。
それから僕は、無心に働いた。自分の考えを投げ出し、満たされなくてもどんな仕事でも頑張った。
すると、正社員で雇ってくれる場所が出来た。好きな人も出来た。そして付き合う事も出来た。
「少しづつ、少しづつ。満たされてくこの世界は、素晴らしい」
そうだ。この世界は素晴しき日常、それに僕は気づかなかっただけだ。
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この世界は糞だ。ありもしない理想を求め飛び出しても打ち砕かされる。好きなモノが嫌いになる。死にたいと思いながらも弱い僕は、死ぬ事ができない。
そんな僕は、あるリセットを思いつき実行する。
すると世界の見え方が変わってくる。そして気づく素晴しき世界に。