No.596756

すみません。こいつの兄です。68

妄想劇場68話目。めずらしく、いちゃいちゃシーンが少ないです。男子高校生にしてはレアな女の子のことを考えていない二日間の話。珍しく、お日様いっぱいのところでのお話です。
最初から読まれる場合は、こちらから↓
(第一話) http://www.tinami.com/view/402411
メインは、創作漫画を描いています。コミティアで頒布してます。大体、毎回50ページ前後。コミティアにも遊びに来て、漫画のほうも読んでいただけると嬉しいです。(ステマ)

2013-07-11 23:16:59 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:1110   閲覧ユーザー数:1036

 ネットで天気予報を確認したら、真っ赤な禍々しい太陽のマークだった。その意味は『「晴れ」というレベルではない「激晴れ」なのだ」』という意味だ。

 

 期末試験も、無事に終わり…美沙ちゃんも赤点は英語一つだけだった…無事に夏休みがやってくる。受験生は夏休みの過ごし方で差がつくそうだ。差がつくということは、前に進む人と、その場にとどまるか後退する人の両方がいるということだ。全員が前に進んだら、差がつかない。

 俺は小学校のときに書いた目標に従うことにした。

《人のやりたがらないことを進んでやる》

 ということで、後者。あんまり勉強しない方になることに決めた。

 家にいると、母親からの勉強しろという無言のプレッシャーがきつい。だから、禍々しいほどの太陽の下に出てきた。

 ぼんやりと歩きながら、川原に出る。橋の下の日陰に座って一休みする。きらきらと光る川面と、流れる水を見ていれば少しは涼が得られるだろうか。

 夏休みの高校生というのは、機動力がない。九月になるまで定期券がない。くそぉ、自転車さえあれば、もう少しいろいろと出て歩けるのに…。今の俺には自転車がない。

 きらきらと光る川面と、流れる水を見る。

 俺の自転車は、あの下だ。

 俺とともに橋の上からダイブして、俺は九死に一生を得た。自転車は死んだ。俺一生、自転車九死。逆じゃなくて良かった。

 あの光る水面の下に、自転車があるはずだ。夜中に、おまわりさんに呼び止められて防犯登録番号を調べられても大丈夫な俺の自転車があるはずだ。

 川。

 すずしそうだな…。

 

 俺は、携帯電話を取り出してメールを打つ。

 

 三十分後、自転車に乗って上野がやってくる。その五分後に橋本もやってくる。上野の彼女の八代美奈ちゃんと、橋本の彼女の東雲史子さんもやってくる。

 五人で川面を見る。

「二宮、本気か?」

「本気だ」

つまり、こういうことだ。

 この地域に住んでいる高校生にとって、定期が切れると自転車が唯一の交通手段だ。自転車無しで、文化的な生活はない。そして、俺の自転車は川の底。

 今日は猛暑。外にいるだけで、水に飛び込みたくなるような気温。そして、俺の自転車は川の底。

 取りに行ってやろうじゃないか。待ってろ、自転車。待ってろ、俺の交通手段。

 

 五人で、土手の上から川を見る。

 

 けっこう大きな川だ。見た目は、それなりに穏やかに見えるが、このくらい流れていると、生半可な泳力では一方的に流されるだけだ。実際にダイブして、流された俺が言っているのだから間違いない。

「二宮くん」

東雲さんが心配そうな声を出す。

「ん?」

「正気?」

せめて、本気?と聞いてくれないかな。

「たぶん」

実は俺自身も、正気度に自信がない。それでも、橋桁の影に隠れて水着に着替えて、水中眼鏡も装備する。橋本の持ってきた荷造りロープを両腕の付け根に回して結びつける。

「やばそうだったら、引き上げてくれ。あと、ロープはたるませないで、いつもある程度テンションをかけておいてくれ。ロープがたるんでいると、余計なところに絡まる」

「了解」

「おっけー」

橋本と上野がロープの反対の端を腰に巻きつけて言う。

「二宮くん」

「正気かどうかはわからないけど、本気なのだけは分かったわ」

 川べり、ぎりぎりで橋本と上野を待機させる。水面まで、二メートルってところか…。上を通る橋を見上げる。橋から水面までは四メートルくらいはありそうだ。俺、この上からダイブしたのか…。水深はけっこうあるはずだ。なにせあの上からダイブして大丈夫だったんだから。

 意を決して、ガードレールをまたぐ。急斜面になっているコンクリートの土手をブロックのつなぎ目を頼りに降りて行く。スニーカーは履いたままだ。危ないからな。

 そろそろと土手を降りて行く。水面まであと、二十センチ。もう一度、土手の上にいる友人たちを見上げる。

 あれ?

 おまわりさんが自転車を止めていた。

「君!早くあがって来なさい!」

やっべー。おこられる。

 

 十五分後。交番にいた。

 

「あー。君かー」

交番にいた別のおまわりさんが俺の顔を見るなり、そう言った。どうやら、以前、自転車とともにダイブしたときに通報を受けた人らしい。

「その節はお世話になりました」

あらためて、お礼を言う。もちろん、おぼれていてあの世の入り口を見ていた俺は初対面だ。でも、これで話が早くなったのは確かだ。助かった。さっきから五人で並んで、パイプ椅子に座らされて、事情聴取みたいなことになっているからだ。

「なるほどねー。あのときに川に沈んだ自転車をねー」

さっきまでは、暑くて脳がアレになった大バカという雰囲気だったが、薄い理屈がつながって、大バカからバカくらいまでトーンダウンする。

「環境にも悪いですしー」

「不法投棄はいけませんしー」

ここぞとばかりに、俺と上野がへらへらと言い訳をする。

「でも、あの川、泳いじゃいけない川だからね。あと、えーと、二宮直人くん?君も懲りないねー。いつか本当に死んじゃうよ。危ないでしょ」

そりゃ誰だっていつか死ぬよ、百年くらいは前後するけど…と思ったが余計なことは言わない。

 いろいろと絞られて、遊泳禁止の川で泳いだりしませんと約束させられて、三十分くらいで開放される。

「いや。悪かった。申し訳ない」

上野、橋本、東雲さん、八代さんに頭を下げる。俺のせいで、警察沙汰になってしまった。まぁ、こってり絞られただけだけど。

 

 それにしても、自転車どうしよう。

 

 翌日。俺はデジカメとロープを持って、橋の上にいた。

「にーくん、なにする気っすかー」

呼んでもないのに、妹がついてきている。まぁ、別に邪魔にもならないからほうっておく。

 俺は、あきらめていない。

 デジカメをビニール袋に入れて、レンズのところでビニールがたるまないようにピンと張る。きっちりと空気を抜き、テープでぐるぐる巻きにして防水する。それを二本のロープできっちりと固定する。デジカメの下側のすこし離れたところに、同じくビニール袋に入れた使用済みの乾電池の山を重りとしてつける。

 デジカメを動画録画モードにする。

 そして、橋の上から静かにロープを垂らす。

 まず、重りが川に沈んで行く。続いてデジカメが川に沈んで行く。二本のロープを静かにクロスさせるように半回転させる。戻す。また、半回転させる。

 ロープを引き上げる。

「これで、川の中の様子が写ってるといいけどな」

「なにしてるっすか?」

「自転車探してる」

橋の欄干によりかかって、妹とふたりで撮影した映像を確認する。

 ゆれながら、景色がゆっくりと移動して水面に降りる。お。意外と写っているぞ。あった。俺の自転車だ。最初に沈めた方向。すなわち、下流方向にぼんやりと自転車っぽい影が写っている。沈めた方向からすると、あの辺か…。カメラの映像を止めて、荷物をまとめると土手のほうに移動する。

 カメラで撮影してあたりをつけた位置を陸上からにらむ。水面に反射する光がまぶしくて、さっぱり分からない。土手の上から見たり、橋の上から見たりする。

「にーくん、あそこから見てみるっす」

妹が、川沿いに立つ雑居ビルを指差す。なるほど、距離は離れても角度が変われば、水面の反射がなくて見やすいかもしれない。二人で雑居ビルに入る。人気のない階段をのぼる。小さなテナントがバラバラと入っているおかげか、わりと怪しまれもしないで五階の非常階段の扉にたどり着く。そこから外に出ると、ほぼ真下が川だ。

「みえるっすか?」

「見えた」

なるほど、遠いが確かに光の反射の方向が変わって、キラキラと光る水面の隙間に俺の自転車特有の緑っぽい色が見える。あそこに沈んでいると知らなかったら、気づかないくらいだが、沈めた当人が水中にカメラを沈めて確認したんだ。間違いない。

「で?どうやって、回収するっすか?」

「考えてない」

波間にちらちらと見える緑色に目をこらしながら答える。となりの妹も無言になる。

 どうしよう。

 ある場所は分かった。だいたい橋から三メートル。岸から五メートルくらいのところだ。橋からは高さがあるから、岸からのほうが距離は近いかもしれない。

 だけど、回収の仕方が分からない。

 

 とりあえず、家に戻る。暑くてたまらない。

 

「直人!あんた受験生でしょ。遊びまわっていないで、勉強しなさい。真菜を見習いなさい」

家に帰ると、母親にしかられた。妹も一緒に遊びまわっていたのだが、こいつは受験生じゃない上、チート脳みそ性能で成績がいいから仕方ない。

 家のクローゼットから、針金でできたハンガーをひとつ拝借する。折り曲げて、ロープと重りをつける。ハンガーのカギになっている部分で、自転車を釣ろうという計画だ。ロープに五十センチごとにビニールテープでマークを付ける。これで、距離を正確に飛ばす。

「にーくん、マジっすね」

「……」

実を言うと、自転車の回収というより、勉強したくなくて現実から逃避しているだけのような気もする。それでも、勉強机に向かう気にもならない。

 出来上がった。

「いくぞ」

黙って妹がついてくる。炎天下の中、汗だくになりながら二度目の川へと向かう。

「八本目だったっす」

そう言って、妹が橋からガードレールの支柱の数を数える。

「上から見たときに覚えていたのか?」

「そうっすよ」

異常記憶能力、便利だな。

「距離はわからないか?」

「橋のリベット五十八個目くらいだったっす」

妹が橋を指差すが、さすがに役に立たない。まぁ、六メートルくらいから行くか…少し遠くても地引するからな。左手で、ロープに付いたビニールテープの十二個目を握る。

「危ないから、離れてろ」

「ういっす」

妹が距離をとる。

 右手で、三個目くらいを握って重りとハンガーの付いた端を振り回して…投擲!

 ひゅるる…っと重りと仕掛けが飛んで行き、水しぶきを飛ばしてじゃぷんと沈む。ロープを引っ張って回収する。

「にーくん。だめっすー。水面までの距離があるっすー」

なるほど。上下の距離を計算に入れてなかったから、届いていないんだな。水面までって二メートルくらいか…斜めになるから…六メートルと一メートル半を足して…。左手の持つ位置を三つずらす。これで、岸からの距離が七メートル半になったはずだ。しぶき散らせながら、また右手で重りをガンダムハンマーのように振り回して…投擲…!

 重りが沈んだのを確認して、ロープを引く。引っかかってくれ。

 あ。

 手ごたえあり!

「おおっ!やったぞ!真菜!手ごたえあり!」

ぐいっとロープを引くと、なにか大きなものを引きずっている手ごたえを感じる。やった。やったぞ。

 あせる心を抑えて、慎重にロープを引く。

 突然ロープが重くなる。

「あれ?別のものに引っかかっちゃたか?」

まてまて。あわてるな。

「真菜」

「なんすか?」

「あの、ロープが水面に消えてるところの場所と、ビニールテープのマークの数を数えて覚えててくれ」

「了解っす」

ちょっと強引にロープを引く。ばしゃんっと水面に何かが一瞬浮かび上がって、手ごたえが一瞬でなくなる。

 ぬぅ…。

 仕掛けを回収する。ハンガーのカギになっている部分が伸びていた。

「引っかかってはいたんだな」

折れないでくれよと祈りながら、ハンガーを曲げなおして、またJの字を作る。

「あと三メートル半まで来てるっす」

引っかかったところの距離は三メートル半か…。

 左手で、八つ目のビニールテープの場所を握る。五十センチ先くらいからもう一度試すぞ。

 三度目の投擲。空振り。なにもつれずに仕掛けがあがってくる。

 四度目。

 引っかかった。

 よし。慎重に力を加えて行く。いい感じに重みを感じたままロープを手繰り寄せる。いけるぞ。

 ビニールテープの目印二つ分引く。あと二メートル半。水面までの距離を考えると、もうほとんど真下まで来ている。願わくば、この真下に排水溝とか引っかかる構造物がありませんように…。

「おっ」

「おおっ」

妹と同時に声をあげる。何か、タイヤ的なものが水面に顔を覗かせている。

「ちょっとまて。真菜。これ、保持してろ」

妹にロープを託す。

 ここで、無理に引っ掛けたハンガーで引き上げたら、浮力を失った瞬間にハンガーが壊れるのは目に見えている。

 俺はロープの反対側をガードレールの支柱にくぐらせる。その反対側の端を腕に絡ませて、急斜面になっている土手を、ブロックのつなぎ目を頼りに降りて行く。この壁は意外と手がかりが多くて、つかまりやすい。前回気づいたことだ。そろりそろりと、土手を降りて行き、水面にちょこっと顔を出しているタイヤ的なものまで近づく。足元、十センチくらいのところにタイヤ的なものが顔を出している。

 さてとどうするか…。

 橋本と上野がいれば、このまま俺ごとダイブして、自転車を捕まえてから一緒に引き上げてもらうんだが、上にいるのは体重四十キロ以下の中学生みたいな妹が一人だ。到底、無理だ。

 仕方ない。慎重に右手をコンクリートブロックから外し、右足のスニーカーを脱ぐ。

「んぐ…」

スニーカーの紐を咥えて、落とさないようにしながら靴下も脱ぐ。スニーカーの中に靴下を押し込む。上に投げ上げようとして、やめる。飛距離が足りずに、コンクリートの土手に跳ね返って、リバウンド王水面に奪われる未来が見えたからだ。かわりに、ベルトのバックルを外し、靴紐にくぐらせて、またベルトを戻す。これで、落とすことはない。

「うぐ…」

身体を極限まで曲げて、アクロバティックな姿勢で左手のロープを裸足になった右足でつかむ。

 よぉし。

 そろそろと、右足をタイヤに近づけて、水面にくぐらせる。

 足に硬いホイールの感触を感じながら、ぐいっと足先を通す。足、攣りそう…。

 慎重に右手で、右足からロープの先っちょを受け取る。

 やったぞ。これで、ロープが自転車のホイールを通っているはずだ。

 ロープの端をつかんで、ロッククライミングの要領で土手を登る。

 いろんな種類の汗をかきながら、二メートル上にいる妹のところへ生還する。

「よぉし。これで、後は釣るだけだぜ!」

勢いづいて、じゃんじゃかロープを手繰り寄せる。

 確かな手ごたえを持って、にごった水から、その物体が姿を現した。

 ひゃっほぉーっ。

「あれ?」

「あれ?」

水を滴らせてあがってきたそいつを見て、俺と妹が固まる。自転車は自転車だが、妙に小さい。補助輪までついている。どう見ても、子供用だ。

「…」

「…」

妹と顔を見合わせる。どうして、こうなった?

「とりあえず、引き上げてみるか?」

「そっすね」

がっくり感を感じながら、水を滴らせるそいつを引き上げる。

 引き上げてみると、間違いなく子供用の自転車だった。コケと錆に覆われているが、割れたプラスティックのかごと、ゆがんだチェーンガードには、俺が小学校低学年のころに流行ったアニメのキャラクターが描かれている。

 タイヤの空気は抜けきっていて、じゃぶじゃぶと水が入り込んでいる音がする。

「にーくん、乗るっすか?」

「乗らない」

「じゃあ、どうするっすか。これ?」

たしかに、困った。一度引き上げてしまった以上、もう一度川に投げ込んだら、なんとなくだが違法投棄な気がする。

 やっべぇ。

 なんだか、空き巣に入ったら中で人が死んでて、このままでは殺人犯にされてしまうみたいな状況になってしまった。

 なんであんな苦労して、こんな目にあうのだ…。

 バチか?バチなのか?

 心配する母さんの忠告を無視して、勉強しなかったバチなのか?

 むむむ…。

 困って、悩んだ。

 そして、出した結論。

 

「自転車見つけました」

妹と二人で、先日お世話になってしまった交番に『落し物』を届けた。

「…で、どこに落ちてたの?」

例の、何度もお世話になったおまわりさんに落ちていた場所を聞かれる。

「土手沿いの道の近く、ちょっと入ったところ。五メートルくらいです」

嘘はついてない。

「川の中?」

「まぁ、そんな感じっす」

そんな感じどころか、もろ川の中だ。

「ふーん」

追求しない、やさしいおまわりさん。

「で、二宮くん。持ち主が見つかったら、お礼とかもらえるかも知れないけど、相手に連絡先教えちゃっていい?」

こんなもの絶対に持ち主は取りに来ない。確信がある。たぶん、持ち主、俺と同い年くらいになってるぞ。

「いや。いいです…」

本当に、一円の得にもならないことに、丸一日時間を使ってしまった。がっかりだ。

 しかも、家に帰ると、また母親に小言を言われた。ごめんなさい。まじめに勉強するよ。

 

 部屋にもどって、これ以上バチが当たらないように、勉強を始める。

 しばらく勉強していると、携帯電話にメールがあった。美沙ちゃんだ。

《スカイプしてもいいですか?》

 ああ、そうだった。パソコンを起動していなかった。横にあるパソコンの電源を入れる。自動的にスカイプが起動して、自動的に美沙ちゃんからコールが鳴る。

『お兄さん。こんばんわぁ。なにしてました?』

ああ、スカイプ越しでも、美沙ちゃんの声はかわいいなぁ。

「ん。勉強だよ。美沙ちゃんは?」

『お兄さんのこと考えてました』

ひゃううぅ。やめて、落ちちゃう。

『それとさっきまで、お姉ちゃんとお父さんと、警察署に行ってきました』

「は?な、なんで?!」

まさか、真奈美さん、なんかやっちゃったのか!?交番でお漏らしとか。

『お姉ちゃんの自転車が見つかったって連絡があって、取りに行ったんですよ』

「え?真奈美さん、自転車なんて持ってたの?」

真奈美さんが、自転車に乗って出かける姿がまったく想像できない。髪の毛がチェーンに絡まって泣いてるところしか想像できない。

『小学校のころのが、今頃出てきたんですよー。すごいびっくりです』

ここまで聞いて、ぎょっとした。

 まさか…それって?

「それって、ひょっとして川の中から発見されたの?」

『えっ!?なんで知ってるんですか?!』

あー。やっぱりかー。

「たぶん。それ、拾ったの、俺と真菜だよ」

『ええっ!?なんで!?』

「説明すると長くなるんだけど…」

時間をかけて、昨日と今日の出来事を説明する。

『そ、そうなんだー。なんか…やっぱりお姉ちゃんばっかり、ずるいです』

「別に、真奈美さんのためにやったわけじゃないし…」

だいたい、いくら真奈美さんだって、いまさらあんな自転車を取り戻しても乗れないだろう。ってか、お父様もよく取りに行ったよな。

『でも。私も、なんか、お兄さんに必死になって、なんかして欲しいです…』

美沙ちゃんのためなら、わりと死ねるんだが。ただわざわざ死ななくてもいいってだけだ。

「まぁ、なんかあったらね」

『じゃあ、私、今から自転車、川に落としてくるんで拾ってください』

「やめて!狙って回収できるものじゃないから!ってか、俺の自転車だって回収できてないし!」

『わかりました…。それじゃあ、好きって言って下さい』

川底から潜らずに自転車を回収するくらいに難易度高いことを要求された。

「なにか、じゃあなのか分かんないから」

『なんでもいいから、好きって言って下さい』

むりむりむりむり。

「むりです」

『なんで?』

「は、恥ずかしいし」

『照れながら言ってくれるのが、いいんですよ』

バカップルみたいなスカイプだが、カップルじゃないので困る。しかも美沙ちゃんが天使より可愛いので、もっと困る。

「じゃあ、美沙ちゃんは言えるの?」

意地悪にみせかけて、自分の欲望を丸出しにしてみる。録音ボタンはどこだっけ。

『…い、言えますよ。楽勝です。えと…こほん…な、なおと…さん。す、好きですよ』

ぎゃふぅうっー!

 即座にマイクをミュートにすると、俺は奇声をあげてベッドにジャンプした。

 ひゅごぉおおおーっ。

 は、破壊力ありすぎ。枕を抱きしめて、ローリングする。ベッドから落ちる。

 ぎゅばあぁーっ。ローリング。ローリング。

 はぁはぁはぁ。

 ミュートを解除する。

「あ。ご、ごめん。美沙ちゃん、ちょっとSAN値がピンチになっちゃったよ」

『わ、私、言いましたし!お、お兄さんも言って下さい!』

美沙ちゃんも、さすがに恥ずかしかったらしい。声が上ずっている。

「む、無理だから!言えないから!」

ここで、言っちゃったら告白を受諾したみたいになっちゃうじゃないか。それは、ダメなんだってば。

 

 結局、その日も、美沙ちゃんの可愛さのせいで勉強に手がつかなかった。

 小悪魔だ。

 妹よ。これが、小悪魔だ。悪魔メイクとかしてる場合じゃないぞ。

 

 それにしても…あの子供用自転車が真奈美さんの自転車だったとは…。いったいなんで、川の底に沈んでいたんだろう…。

 

(つづく)


 
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