第一話
荊州という地に、水鏡女学院という建物がある。人里から少し離れたこの場所で学んだ者は栄達の道を進むと言われ、
優秀な文官を育て上げる事で有名な私塾だ。
同時に、女性のみであること、また師となる水鏡先生の目に適わぬ者は入門を許されない門戸の狭さも有名だった。
水鏡女学院の中庭、その一角に建てられた櫓(やぐら)の中に、満天に輝く星空を眺める影二つ。日課の星読みを行なっているのだが、
ここ最近は櫓に篭る時間が増えていた。
「朱里ちゃん、どう?」
水色の髪を背中に下ろした寝巻姿の少女が、隣に立った同じく寝巻き姿の少女に問いかける。
「うん、星の配置に二週間前との明らかな違いが見て取れるよ、雛里ちゃん」
そう答えたのは、朱里と呼ばれた金髪を顎の高さほどに整えた少女。その手には星読みに使うのであろう占盤が携えられている。
星空は天下の写し鏡、幾億もの星々はまさしく大陸に住まう人々のごとし。強く輝く星は英傑を示すとされ、
最近は日に日にその数が目立つようになった。
しかしながら、英傑の星が輝くということは、すなわち戦乱が巻き起こる事の裏返しでもある。二人が睡眠時間を削って星を読むのも、
その戦乱の兆しを正確に見極めようとせんが為であった。
とはいえ、一夜で星が激しく動くわけでもなく。しばらく見続けた後は専ら、親友との語らいの時間と化しているのが日常だった。
「そういえばこの間、街に出かけた時に気になる噂を聞いたなぁ」
「へえ、どんなの?」
人見知りが激しく、朱里なしでは街にも出かけられない雛里と呼ばれた少女には、親友の話は貴重な情報源だ。
促された朱里は、言葉を続ける。
「えぇと、“管輅曰く、黒天を切り裂き、流星の如く彼の地に舞い降りる者あり。その者、天下の乱れを治め、
平安を齎す天の御遣いなり。”…確かこんな感じの予言が流行ってるんだって」
「あわわ、それって…」
雛里が狼狽えたのも仕方がない。この時代、“天”とは皇帝のことであり、皇帝とはすべての民から傅かれる唯一無二の存在である。
下々の者の間ではその尊顔を直視すれば、神々しさのあまり目を焼かれるという噂が囁かれる程に敬われると同時に畏れられる存在だ。
なのに、こうして“天の御遣い”などという本来、口憚られるような不遜な噂が民草の間で囁かれているというのはどういうことか。
それは公職にありながら私欲を貪る官吏が蔓延り、まるで挨拶であるかのように上は要職から、下は一兵卒に至るまで賄賂を要求する。
天災に見まわれた民の窮状など省みず、変わらず税を絞りとり、いいことを思いついたとばかりに新たな税を課す。
税を払えなければ刑罰が待っており、女人を抱えるものは彼女たちに迫りくる悲惨な未来を嘆く。
困窮極まった者達の一部は、奪われるものから奪うものに回り、同じ苦しみを味わっていたはず民に襲いかかる賊となった。
賊に襲われた者たちからまた、賊へと身を落とすものが現れ……なのに朝廷は動かない。
朝廷が動かねば、蓄財に忙しい官匪(かんぴ)が動くはずもなく、賊がのさばればまた新たな命が奪われていく。
そうして、納税者が減れば当然税収が少なくなり、官匪は目減りした分を取り戻そうと更なる重税を掛ける。……悪循環である。
こうなってくれば最早、誰も官吏を恐れは持っても敬う心など持てないだろう。
そして彼らの専横を止めない朝廷に期待も持てないのが道理。
長い時間をかけこの国を蝕み、蓄積された澱みは最早どうにもならないところにまで来ていた。
つまり、そこに在りながら救ってくれない天より、実在も実力も不確かながら平安を齎してくれるかもしれない天に、
今の民草は希望を見出しているのであった。
雛里がそこまで察したように、朱里もまた“天の御遣い”の噂を聞いて星読みから感じた戦乱の兆しは確かなものだと考えていた。
もはやこの鬱屈した民衆の感情が爆発するのは間違いないだろう。比較的治政が穏やかであるここ荊州なら、
巻き込まれ無いと考えるのも危険だ。
「で、でも本当にいるといいね、天の御遣いさん」
「うん、こんな時代だからこそ、一つくらいいい話があってもいいよね」
「この夜空の何処かにいるのかな」
そう言って星空を見やる雛里、釣られるように朱里もまた星空に目を向ける。
そうして二人で見上げたまま、まだ見ぬ天の御使いについて語り合う。
男か女か、腕が立つのか頭が冴えるのか、優しいか怖いか、かっこいいか可愛いか、背は高いか低いか、
巨乳派か貧乳派か、異性好きか同性好きか、攻めか受けか……途中からは趣味の話になっていたが。
「朱里、雛里。今夜は十分読んだでしょう。そろそろ中にお入りなさい」
「はわわ、水鏡先生!わかりましゅた!」
「あわわ、了解でしゅ!」
気づけば随分と話し込んでいたようだ。師である水鏡先生に櫓のそばまでやって来ていた。夜更かしをやんわり咎められて、あわてて返事をする二人。
そんな二人の姿を見てクスクスと笑い、水鏡先生は踵を返し屋内へ戻っていった。
今日の見納めにと、櫓からクルリと空を見回した時、二人の目にそれは映った。
朱里と雛里は自分たちが暮らす二人部屋に戻ると、寝巻を脱ぎ外出用の私服に着替えていた。
「よし、これで準備完了」
「しゅ、朱里ちゃん、本当に行くの?」
やや及び腰で雛里が尋ねる。二人はこれから水鏡女学院をこっそり抜け出し、西にある林へ向かうつもりなのだ。
事の発端は、二人が先ほど見た流星。櫓の上にいた二人だから見えたそれはまるで、葉先から水滴が
ポタリと落ちるかのように天上から真っ直ぐと林の中に落ちていき、一度光った後に消え去ったのだ。
流星が間近に落ちるのも初めてなら、衝突音もしないのも不可思議だ。
一度好奇心が首をもたげてしまえば、朱里は大人しく眠る事が出来なくなった
「雛里ちゃんもあの流星を見たでしょ。着替えまで済ませてるのは、雛里ちゃんも気になってるんだよね?」
「あわ、その言い方はずるいよ朱里ちゃん…。そ、それに私が行かないと一人で行っちゃうでしょ。
友達ならそんな時放って置けないよ」
頬を赤らめながら照れたように告げる雛里に感謝の抱擁をしつつ、臆病な親友の気持ちが鈍らない内に行こうと、
裏口からこそこそと外に出る。手を繋ぎ、月明かりを頼りに林へ向かう。もちろん念のための松明は忘れない。
おっかなびっくりで進み続け、風が草木を揺らす度に、はわわ、あわわ、と鳴き声を響かせつつ二人は流星が落ちたであろう先を目指す。
ある程度進むと、焦げ臭い匂いが鼻を突いた。流星の仕業だろうか、何にせよ、目的地は近い。
二人は顔を合わせ頷くと、やや小走りになり終点を目指すのだった。
二人は今佇んでいる。いや、呆けていると言ってもいいかもしれない。
二人の視線の先では、大地は抉られ、そこに在ったであろう木々は跡形もなく、ただ焦げ臭い匂いを漂わせていた。
ここに流星が落ちたのは間違いない。音もなくこの惨状を引き起こすとはいかなる妖術か仙術か。
だが今二人が気にしているのは、そのような事ではなかった。
抉られた大地の中心。そこに、人が倒れていたからだ。
「はわわわ、ひ、人がいましゅ!!!」
「あわわわわ、ど、どうしよう朱里ちゃん!!!」
「ええっ、どうしようって……どうするの雛里ちゃん!!!」
「あわわ、えっと…そうでしゅ!まずは生きてるかどうか確かめるが上策でしゅ!!」
「それでしゅ!行こう雛里ちゃん!!」
正気に戻って一頻り慌てた後、そう言って窪地を転がるように下りる…もとい転げ落ちる少女二人。
倒れていたのは男性のようだ。恐る恐る首に手を当ててみると温かい。脈も確かであった事に軽く息を吐く。
「…ねぇ、朱里ちゃん、何かおかしくない?」
「うん…、なんて言うか無事というか無事すぎる気が…」
月明かり故に判りづらいが、よくよく見れば怪我どころか衣服も汚れていない。
年の頃は二十代、二人にとっては見慣れない意匠の服。そして彼の持ち物と思われるこれまた見たこともない造りの鞄。
「目覚める気配もないし、放って置くわけにも行かないよね」
「そうだね、とりあえず最寄りの場所…学院に連れて行こう。先生も人助けの為なら部外者でも許してくれるはずだよ」
「無断外出で怒られるのは確定しちゃうけどね…」
「それは言わないで雛里ちゃん…」
二人で溜息をつく。流石に人を拾って帰るなどとは予想していなかったのだ。
そしていざ連れ帰るべく、男性の両脇に肩を入れるようにして運んでいるのだが、
「はぁ…はぁ…、大、丈夫?雛、里ちゃん…」
「朱、里、ちゃんこそ…はぁ…はぁ…無理しな、いでね…」
元々小柄な上、頭は鍛えても体力はさっぱりな二人にとって、成人男性の運搬は大変な重労働であった。
その身長差ゆえに、彼の足先が引きずられるようになったのも仕方がないだろう。
ただ来た道を帰るだけの道程が千里に思えるほどに長い。
この体たらくでは朱里と雛里、二人で決めた“あの計画”にも修正を加えねばなるまい。
「はぁはぁ…こ、この人、には色々と、話っ、を聞かせてもらいましゅ!」
「ふぅふぅ…その、時はっ、私も、お供させて、もらいましゅ!」
疲れのあまり、少々八つ当たりな思考に走りつつも学院を目指し歩を進める。
ぜぇ、はぁ、はわわ、ぜぇ、はぁ、あわわ、フラフラと危なっかしい足取りを繰り返しなんとか部屋までたどり着く。
さて男性を寝台に寝かせようとするわけだが、疲労困憊であった二人は背中から、抱えた男性ごと寝台に向かって倒れこむ。
見た目だけなら、男性の腕枕で眠る汗だくな二人の少女。とんでもない構図であるが、ヘトヘトな二人は気づかないまま
そっと意識を手放した。
ゆっくりと覚醒した意識が最初に捉えたのは、両腕に感じる重み。
何事かと腕を動かそうとするが、肘から上が全く動かないではないか。
得体のしれない感覚にゆっくりと目を見開いてみれば、右手には金色、左手には水色が映った。
「何だこりゃ…」
思わず口に出したが、何かは分かっている。髪の毛だ。どうやら自分は腕枕をしているらしい。
だが分からないのは金色と水色の髪をした知り合いに心当たりがない。女性二人に腕枕といえば聞こえ(?)もいいが、
男相手だったなら即座に蹴落して逃げよう。
そう決意して首を動かし、すぅすぅと寝息を立てる二人を見ると、無事に女の子のようだ。どちらも美少女と言っていい。
ならばよし。空いた両手を二人の体に添え、腕枕続行である。
昨日のことを、最後の記憶を思い出そうとするが、霞がかかったように思い出せない。
唯一覚えていることといえば、強烈な白い光。それでも、一体何の光であったかまでは思い出せない。
仕事を終え、家路についた後の事がさっぱりなのだ。
結果を得られそうにない作業に見切りをつけ、仕方なしに周囲に目を向けた彼は、新たな疑問を浮かべていた。
見知らぬ部屋なのは、おそらく彼女たちの部屋だからなのだろう。中華風といえばいいのか、アジアンテイストな内装だ。
ベッドがもう一台あり、机の上には何やら硬そうな巻物と硯と筆。棚にも似たような巻物と書物が並んでいる。
あとは竹細工のつづら箱が大小いくつかあるくらいで、テレビどころか時計も室内灯もない。床も壁も天井もすべて木造だ。
窓はあるがガラスはなく、簾と雨よけの戸がついているのみだ。
それらが妙に古臭いと感じた。
部屋が汚いのではない、むしろ綺麗だ。建物が古いのでもない、特に傷んでいるようには見えない。
古臭いというよりレトロと表現した方がしっくり来る部屋だった。
そういえば今何時だろう。
ちらりと腕時計を見た瞬間、彼の全身が急速に熱を帯びる。頭がジワリと汗を掻いているのが分かる。
「お、おいっ!二人共起きてくれ!!」
「はぅっ」
「あぅっ」
勢い良く上体を起こしたせいで、二人の頭が彼の腕から滑り落ち、ボスリとベッドに沈む。
そして二人仲良く、目を擦りながらゆるゆると起き上がる。
「起き抜けで申し訳ないんだが、会社に遅刻してしまう!すまんがここはどこなんだ!?」
「え?」
「…………?」
「うわ、可愛い…じゃなくって!ホラホラもう八時だぞ!全員起床!!」
「はわわわわわ!!」
「あわわわわわ!!」
彼の質問に、まだ意識が覚醒していない二人は首をコテンと傾けて疑問符を浮かべるだけだ。
一瞬その寝ぼけ顔に見惚れるが、焦っている彼は二人の肩を掴み、申し訳ないと思いつつガクガクと前後に揺らして覚醒を促す。
「朱里!雛里!お前らま~だ寝てるのかい!早く朝餉に…」
そんな声が扉の向こうから聞こえてきたかと思うと同時に、勢い良く扉が開かれる。
そこに佇むのはスラリと伸びた長身の女性。彼女は部屋を見回し、こちらを認識すると一気に怒気を孕ませ
「狼藉者め!!その手を離せ!!!」
そう言って一瞬で距離を詰めると、次の瞬間には彼の首元に小刀を当てていた。
彼は混乱の極みにあった。
見知らぬ部屋で目を覚まし、両腕には見知らぬ美少女。気づけば会社に遅刻する瀬戸際。慌てて部屋の主を起こし、
住所を聞こうとしたら勢い良くドアが開かれ、闖入者が現れたかと思えばいつのまにか首に刃物を突きつけられているのだ。
あまりの急展開の連続に加え、分からないことが多過ぎて何から考えればいいのか分からなくなり、
ただただ身を固くすることしか出来なかった。
「聞こえなかったのかい、手を離せって言ってんだよ」
耳元で囁かれたドスを持った女性のドスの効いた命令をなんとか聞き取り、ゆっくりと手を離す。
次の瞬間、首の後ろに強烈な衝撃が走ったのを感じ、彼は意識を失った。
ズキリと首の痛みが走ったことで意識が戻る。どうやら、またしてもベッドで眠っていたようだ。
見れば、先ほどと同じ部屋である。ただ違うのは人が自分以外に四人いること。
二人は腕枕をしていた金髪と水色髪の美少女、何故か床に正座をしてズーンと俯いている。
もう一人は先ほどこちらに刃物を向けていた女性。改めて見れば、中々の美人だ。
黒髪を後ろで纏めて三つ編みにし、腰には何本も小刀が差されたベルトをしている。
最後の一人は……シスターだ。白い頭巾に白い法衣のようなものを纏った女性。これまた美女。
穏やかな笑みを湛えているのに、彼女の目の前で正座している二人を見ると何故か体が震えてくる。
「あの…」
呆けていても仕方がないと思い、声をかける。
「あら、お目覚めになりましたか。お加減はどうですか?」
「はい、首が少し痛みますが、それ以外は何ともありません。」
こちらに気づいたシスターが答えてくれる。彼女の優しげな口調に、知らずに入っていた肩の力を抜く。
「色々話すこともありましょう。ですがまずは、誤解があったとはいえ、身内が刃を向けたことをお詫びいたします」
シスターが彼に頭を下げる。続いて、
「ゴメンよ、兄さん。まさか二人が自ら男を連れ込むとは思わなかったんだ」
「げ、元直ちゃん!その言い方じゃ語弊がありましゅ!!」
「あわわ、つ、連れ込むなんてそんな…」
元直と呼ばれた女性がペコリと頭を下げる。復活したのか何やら金髪少女が反論して、水髪少女は何やらつぶやき顔を赤くしている。
とりあえず謝罪を受け入れ、話を進めようかと言う所で、名乗っていないことに気づく。
「あ、申し遅れました。私、東雲典明(しののめのりあき)と申します」
「ご丁寧に有難うございます、私は司馬徽。水鏡と呼ばれております」
「シノノメ…珍しい響きだね。あたしゃ徐庶、字(あざな)は元直だよ。ほら、二人も名乗りな」
「しょ、諸葛亮、字は孔明です!はじめまして、しのののさ…はわわ、間違えました!」
「わ、私は龐統、字は士元でしゅ!あの…はじめまして、しののしゃっ!あぅ、噛みましゅた…」
彼こと、東雲典明の思考が再び混乱の渦に落ちたのは仕方がないことだったであろう。
「…つまり、今は劉宏皇帝陛下?が治める後漢王朝?の時代で、ここは荊州?にある水鏡女学院?という場所で、
私は孔明ちゃんと士元ちゃんに、林の中で倒れている所を助けてもらったと…」
「かいつまんで言うと、そういう事ですね」
水鏡の言葉に典明は深く項垂れる。もはや遅刻を気にする必要はない。彼女たちの話が本当なら二度と出社出来ないのだから。
どうやら自分は、国どころか時代まで遡ってこの地にやってきてしまったらしい。
彼女達が嘘を言っているようには思えない。ドッキリなら大掛かりすぎるし、尚且つ対象が無名の一般人では面白くも無いだろう。
典明の記憶が確かなら、後漢は血みどろの戦いが繰り広げられる時代だ。戦なんて現代日本人の典明がどうこうできる領分じゃない。
そうでなくても、今の典明には今日を乗り切る為の寄る辺すら持たないのだ。着の身着のままこの地に突然放り出された。
「どうすりゃいいんだよ……」
そんな弱音が思わず口をついて出てしまう。典明はこっそり呟いたつもりだったが、四人にも聞こえていたようだ。
「はわわ、先生、何とかなりませんか?」
「あわわ、私からもお願いしましゅ」
「朱里、雛里、そうは言ってもねぇ…」
朱里と雛里。それぞれ諸葛亮と龐統の“真名”というものらしい。
典明には字(あざな)同様にイマイチ馴染みが無い風習だが、迂闊に呼べば首が飛ぶと言われれば、その重要性は理解できる。
曰く、真名とは、その者の本質を表すものであり、真名を許されるという事は、その者から大きな信頼を得たという事である。
曰く、本人から呼ぶことを許されていない限り、例え帝であっても勝手に真名を呼んではいけない。
曰く、戦場における挑発であっても、真名を勝手に呼ぶ行為だけは行われない。
曰く、真名の扱いは個々人に委ねられており、いかなる法にも縛られる事はない。
後難を避けたければ相手が名前らしき言葉を口にしても、まずは自分から名乗り、相手の名前を聞くようにとは徐庶の言だ。
そんなことを思い起こしていると、徐庶と何事かを話していた水鏡から話しかけられる。
「東雲さん、提案があるのですがよろしいでしょうか?」
「え?」
「貴方さえよければここに逗留する許可を出しましょう」
「うっそマジっ、いえ、本当ですか!」
「ええ、可愛い生徒の頼みとあっては無碍にはできませんので…どうしますか?」
「ぜ、是非!」
何と魅力的な提案であろうか。勢い良く顔を上げた典明は、水鏡の言葉に一も二もなく食らいつく。
「ただし、食客を囲うほど我が学院は余裕がありません。差し当たって力仕事をお願いする事になります」
「はい、自分に出来る事ならやらせてもらいます!」
今なら水鏡の背に後光すら差して見えそうだ。シスターの格好は伊達ではないなどと変な感動すら覚えている。
「よろしい。では東雲典明さん、ようこそ水鏡女学院へ」
こうして東雲典明、第二の人生が始まった。
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素人の初執筆。文法は投げ捨てられる。