No.595672

三匹が逝く?(仮)~邂逅編・sideティカ~

この作品は、TINAMIで作家をしておられる
YTA(http://www.tinami.com/creator/profile/15149
峠崎丈二(http://www.tinami.com/creator/profile/12343
上記の両名の協力の下で行われるリレー型小説です。

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2013-07-08 10:53:30 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:1840   閲覧ユーザー数:1738

 そこは、とても奇妙な部屋だった。

 

 一般には“玄室”と表現されるような、そのような感じの部屋だ。

 

 広さはおよそ8m2程だろう。一般的な日本の小中学校の教室を正方形にしたような広さだと思えば、およその大きさは判るだろう。教室との広さの違いは、天井までの高さも8m程はある、というところか。

 壁や床、天井を構成する素材は、石とも金属ともガラスとも強弁すれば言えてしまうような、なんとも言えないものだ。

 魔術に明るい者が見れば、これらは全て“月光石”と呼ばれる、微小ながらも魔力を溜め込む性質を持つ、非常に希少な素材で造られたものだと理解した事だろう。

 玄室と異なるのは、素材の継ぎ目が無く、磨き上げた大理石のようにつるんとしていること。有体に言えば大きな岩を刳り貫き、内部を徹底的に磨き上げた、そのような印象を受ける。

 もしこの部屋が本当に月光石を刳り貫いて造られたものだとしたのなら、その金銭的価値は計り知れない。

 貨幣に換算するのが馬鹿馬鹿しい、そのくらいの価値がある。

 部屋の唯一の出入口には、幾何学的な象嵌を施された、見るからに重さを感じさせる扉があるが、扉には取手も鍵穴もなく、人の手で動かせるような要素は見当たらない。

 

 そんな、なんとなくSF的なものを感じさせる奇妙な室内には、現在10人の男女が居た。

 そのうちの8人は、部屋の中心を基点として、およそ半径3mくらいの位置に等間隔で真円を描くようにして立っている。

 彼ら彼女らの口からは唄のような韻律を持つ“音”としか表現できない声が漏れている。

 これは教会の“聖歌(神韻)”と並んで儀式魔術に用いられる“音韻”と呼ばれる魔術の一形態だ。

 言葉に魔力を乗せて言霊と成し、それに韻を加える事により効果を増幅する。

 非常な集中力を必要とするため、こういった儀式等でしか用いられないものだが、その効果は数多存在する魔術の中でも聖歌と並んで最高だと言われている。

 

 彼ら彼女らの“音韻”に合わせ、壁や天井、そして床に幾何学的でありながらどこか生物的なモノを感じさせる文様が縦横に縦横に走り、青白く明滅し続ける。

 まるで、心臓の鼓動のように。

 

「………今回は外れではあるまいな」

 

 そう呟いたのは、儀式を続けている男女とは別に、部屋の隅に立っている二人の男のうちの片方だ。

 男の服装は、しっかりとした身分を感じさせる仕立てと素材の良さを素人でも見て取れる、とても豪奢なものだ。驚く事に、このような場合にありがちな品の無さとは無縁であり、身に付ける人物のセンスの良さが感じられる。

 年の頃は高めに見積もっても40に届くかどうか。

 その顔立ちと眼差しからは、余人の上に立つ教育を受け、それを甘受することなく高めてきた事が判る。

 体の線も決して緩んではいない。まさに“男盛り”と呼べる風貌だ。

 その隣にいるのは、灰色のローブを纏った壮年の男である。

 手にした杖といい、ローブに施された刺繍といい、それを纏い手にするに足るだけの知性と教養、そして“格”を感じさせる、やはりこちらも見事な男振りだ。

 そして、壮年の男はその言葉に小声で、しかしはっきりと答える。

 

「殿下には申し訳なく思うのですが、そこはやはり“運”でございますな」

 

「……侭為らぬものよ」

 

 その表情には苦々しさが溢れている。

 男はこれが外法であることは十分に承知している。

 それは壮年の男も、儀式を行っている男女も皆同じだ。

 

 ただし、それに至る理論というか思考というか、そういうものは現代の日本に生きる人間の大半には到底受け入れられるようなものではありはしない。

 

「俺の“力”にもならぬような塵芥などいくら呼び寄せたとて、せいぜいどこぞに売り払うしかないではないか。資金はいくらあっても困らぬとはいえ、それが食わせる価値もないようなものばかりでは困るのだぞ」

 

 男の傲岸不遜とも言える言葉に、壮年の男もまた頷く。

 

 彼らにとっては、民衆など虫螻のようなものだ。

 かの江戸幕府の方針ではないが、

『農民は生かさず殺さず、油を搾り取るように扱うべし』

 このように考えている。

 正確を期するならば、農民という単語を平民と亜人、と当て嵌めればいいだろう。

 

 『平氏にあらずんば人にあらず』ではないが、人間の貴族王族にあらずば人ではない。

 そういった選民思想を立脚点とし、その範疇に於いては公平で慈愛に満ち、寛大かつ冷酷でもある。

 それがこの男、アレクシス=エマニュエル・ル・ロワイエ公爵そのひとであった。

 

 彼の感覚ではこのようになる。

 いくら卑賤の身とはいえ、王国に生きる人間は選良であり大事な臣民である。

 亜人と嘉を通ずるような輩は度し難いが、それは教養も知性も存在しない輩であるから、仕方がない。

 このような風潮を是認するような従弟は業腹ではあるが、それに面と向かって意を唱える程、自分も政治を知らぬ馬鹿ではない。

 ならどうすればいいか。

 異界のモノなど、亜人にも劣る使い捨ての道具でしかない。

 過去の伝承では、異能を有し時の王国を崩壊させたりしたような存在が呼び出される事から王国では異界召喚を禁じてはいるが、それは召喚に失敗しただけの単なる無能者の所業でしかない。

 俺はそのような無能とは違う。

 

 使えないようならどこぞに下げ渡すなり売り払い、使えるようなら俺に使われるという栄誉をくれてやればよい。

 王国では奴隷の存在を認めていないが、こいつらと牛馬に何の違いがあるのか。

 

 幸か不幸か、公爵自身はそのような矜持の持ち主であったため、例えどれだけ見目がよかろうが、召喚したモノに性的興奮を覚えるような事はなかった。

 それはそうだ。

 牛馬や亜人に懸想するなど、まさに変態の所業ではないか。

 そういう趣味の人間は貴族にも多いのは知っているが、そういう連中は腹の中で変態と見下しておけばそれで済む。

 同じ嬲るにしても、平民の娘で止めておけばいいものをとは思うが、個人の嗜好をどうこう言ってもはじまらない。

 

 ロワイエ公爵はそのように考え、選良による“正しい”社会を取り戻すべく、同胞を長い年月を掛けて集め、そして実行したのである。

 

 それは用意周到であり、病的なまでに注意を払い、そして執拗なものだった。

 王家の直轄地にある伝承を紐解き、召喚儀式に向いた地を洗い出し、王位継承に欲がないと見せかける為に敢えて王都からも監視がしやすく、それでいてそれらの干渉を適度に排除できる場所に封ぜられるように仕向ける。

 

 教育係を兼ねていた王宮魔道士を顧問として引き連れ領地にこもり、餌を与える程度の感覚で租税を緩和し治安を向上させることで風聞を手に入れ。

 

 亜人共の神殿跡に屋敷を構えるという不愉快な真似までして、遺跡から玄室を掘り起こし。

 

 遠国との貿易で莫大な利益を上げている商人を抱え込む事で奴隷売買ルートを構築し。

 

 

 全ての準備を終えたのは、実に5年も前の事となる。

 

 

 これらの事に狂喜したのは、公爵に与した貴族達とその商人と、何よりも元王宮魔道士、そして彼の弟子達だった。

 

 商人は王国では扱えない商品である奴隷を遠国で扱う事で莫大な利益と権益を手にする事ができた。

 

 魔道士達は、本来10年単位でしか行えないはずの大儀式魔術を研究し実践できるという事に耽溺した。

 

 公爵に与する貴族達は、それで得られる利益と将来必ず手にする事ができるだろう権力と財宝に盲従した。

 

 

 この結果、5年間で公爵一統が手にした財貨は、実に王国国家予算に匹敵する莫大なものとなる。

 財力という面でいうのなら、既に現王室と戦うことも可能となる、桁外れの数字だ。

 

 しかし、公爵本人はこの結果に満足していない。むしろ不満でしかない。

 

 なぜなら彼が考え望んでいたのは、王国を手にする事ではないからだ。

 

 ロワイエ公爵本人は、実に王族としての矜持と忠誠に溢れた人物だ。

 公爵にしてみれば、現王室が元の矜持を取り戻し、世界に覇を成すように“目を覚まして”くれればよい。

 

 そして、その先鋒として最大にして至高の戦力として、公爵が率いる戦力があればよい。

 

 

 これは、そのための“下準備”でしかないのだ。

 

 

 だからこそ、公爵は不満を隠すことがない。

 

 召喚魔法陣には最初から“服従と支配”という名の“呪い”が組み込まれており、簡単に言ってしまえば公爵から離れられず害する事もできなくなるという呪いが組み込まれている。

 この呪いの性質の悪いところは、公爵が不利益と感じれば、それが発動するという点だ。

 だったら奴隷として売れない、と言いたくなるのだが、そこがこの呪いの非常に悪質な点であって、公爵の魔力を介して“支配者”の書き換えが可能なのだ。

 この呪いを見出したのも、この神殿によるものであり、召喚者はその“命”を特殊な加工を施された羊皮紙に封じられ、それを媒介として生きていく事となる。

 これに公爵が最初に魔力を与え、後はその所有者を定められた手続きによる魔力を介して変更していく事で所有権が変わる。

 

 これは玄室を解析した元王宮魔道士が編み出した“太古の呪法”であり、一度施されたら現在の魔術では解析も解除も不可能な、本当に性質の悪いものだった。

 玄室の仕組みを解析しなければ呪いを解くきっかけすら掴めないのだから、羊皮紙を端末とした“結果”だけを見て解呪しろという方が無茶なのだ。

 

 このような“呪い”を用いて、自分だけの最強の“軍隊”を欲する公爵であったが、この5年間での勝率はいまのところゼロである。

 

 なによりも“子供”の数が多すぎて、使い物にならない。

 

 だから公爵はこう呟く。

 

「今回は新たに“調整”を施したと言うが…」

 

 壮年の男は、それに頷く。

 

「ようやく次の段階に向かえるようになりましてな。運というのは事実ではございますが、より殿下のお望みに近いモノが呼び出される、それだけは確実です。後は今回の結果を元に、調整を繰り返していけばよろしゅうございます」

 

「ふむ……」

 

 そう、公爵も、そして召喚に携わる者達も、決して“慢心”してはいなかった。

 強力な軍隊の為に、世界を“正しく”統治するために、異能ともいえる能力を持った“召喚者”は欲しい。

 しかし、それは“制御できる範疇”でなくては意味がない。

 

 彼らはその意味で、非常に丁寧に細心に、召喚という“実験”を繰り返してきたのだ。

 

 

 そんな彼らの視界で、玄室が激しく明滅を繰り返す。

 

「此度こそ、期待したいものよ…」

 

 そして、玄室の中に目も眩まんばかりの光が満ち溢れる。

 

 

 

 それは、彼らにとって最後の、そして最悪の召喚の儀式の終わりを意味していた。

(………ここは、どこだ…?)

 

 “男”は、右手で髪をかきあげながら、ゆっくりと顔を上げる。

 

(“此処”は、おいらが居た世界じゃ、ない……?)

 

 恐ろしいまでの違和感に苛まれながら、同時に違和感が全くない。

 この矛盾した感覚を確かめるように“男”はゆっくりと視線を巡らせる。

 

(あれ? “俺”って自分の事を“おいら”なんて言ったっけか…)

 

 まあいいか、そんな風に考えて“男”はゆっくりと瞼を閉じる。

 なにやら雑音が聞こえてくるが、そんな事よりも今はこの“違和感がないという違和感”を確かめる方が先だ。

 

(おいらの名前はティカ。虹の部族の最後の生き残りのエルフィティカ…。でも俺は日本人で名前は………あれ? おいらの名前が……なんだったっけ?)

 

 目を瞑ったまま、ゆっくりと思考を巡らせる。

 

(うん、キャンプに行って魚食って骨酒飲んで、ティカのキャラ設定考えてたんだよな。そのまま寝たのは確かだ。で、俺の名前はティカ………。あれれ? なんかおかしくないか?)

 

 そのまま、立っていた場所にどかっと座り込んで胡座をかく。

 素肌に石のような冷たい感覚が心地よい。

 座るときに開けた目と、尻の感覚でなんとなく察する。

 

(ありゃ……。俺素っ裸じゃね? でも、なんでかこれが“自然”なんだよな…。まあ、おいらが“ティカ”なら当然か。だってそんな感じの設定だったもんな)

 

 雑音が煩いが、やっぱりそれを無視して“男”は考える。

 

(う~む……。これって俗にいうトリップとか憑依とか、なんかそんなヤツなのか? しかし、ティカの設定だと、こんな場所なんかないんだよな。なんか色々とチグハグというか、やっぱ混乱してんのかね?)

 

 そう考えているうちに、どんどんと“自我”が溶け合っていくような、そんな感覚に襲われる。

 

(うん、なんかよくわからんけど、おいらは“ティカ”というので間違いはないっぽいな。なんかおいらが“生きていた世界”の他に、訳がわからん知識とかが山程あるけど、とりあえず問題はないっぽいし)

 

 テレビがどうだネットがどうだとか、なんか解らんけど“地球にある日本国”の知識を知っている。

 同時に、ティカが生きてきた“世界”の知識もある。

 それらが喧嘩することなく、自然にあるという状況は、なんともいえず居心地が悪いものだった。

 

 腕を組んで首を左右に傾けながら、うんうんと唸る。

 混乱がないから混乱しているという、なんとも言えない状況に陥っているからだ。

 

「おい、貴様! 土人の分際で俺の言葉を無視するとはいい度胸だ!」

 

 うんうんと唸っていると、怒りと不快感で顔を真っ赤にした、なんかキラキラして動きづらそうな格好をしたおっさんが怒鳴っているのが見える。

 

 それを見たときに感じたのは、なんともいえない不快感と、それを補足するような知識だった。

 

(ああ、なんとなく解った気がする。おいら、自我とかは“ティカ”がベースで、知識とかそういう部分を“日本人の俺”が補填してるような、そんな感じなんだな。目の前のおっさんが欧米人の貴族っぽい感じなのを“知識”で理解して『テンプレ乙!』とか考えてるけど、部族を根絶やしにした連中に似てるっていうんで不快感が湧き上がってくるのを止められない、そんな感じだ…)

 

 土人と言われて『差別用語じゃねえか』とかいう“日本人としての知識”と同時に異様な反発心がある。

 これが日本人だったら、こうまで強烈な反発心というか、殺意に近い状態にならないだろう。

 

(つーか、このおっさん、おいらが黙ってると思って、なんか勘違いしてねえか?)

 

 そう、ティカには解っている。

 肌で感じてると言ってもいい。

 

 本来ならばティカはこのようにのんびりと構えている事はできなく、犬猫が擦り寄るかのように目の前のおっさんの足元に這い蹲っているはずだ、と。

 ティカの“瞳”には、今は光を失っている部屋中に刻まれた魔術式の文様がしっかりと“視えて”おり、その内容や文字は理解できないが、自分の体に刻まれた“紋章”とそれに宿る“祖霊”が、それらがティカを縛り付けるためのものだ、と伝えてきていたからだ。

 

 その事実をしっかりと認識したティカは、不快感を顕にする。

 

「おいらを勝手に呼びつけて、その上で飼おうとか、死にたいのか?」

 

『なっ!!』

 

「あのさあ、おいらの体も心も“祖霊”が護ってくれてんだ。おめえらみたいなチンケな連中じゃ、おいらを縛り付けようなんてできやしねえよ。それに…」

 

(こいつらは、おいら達を追い詰め土地を奪い、勇敢な戦士達を殺し、女子供を嬲り、全ての同胞を“腐泥の国”へと追いやった“あの連中”と同じ“臭い”がする。臭い、臭くて腐くてたまらない…)

 

 当然、公爵達は知らない。知るはずもない。

 “虹のエルフィティカ”と呼ばれるこの少年が、彼が“生きるはずだった世界”において、どのような位置にいるのか、などという事を。

 88の氏族に分けられた“祖の紋章”を全てその身に抱え、戦士として祈祷師として、そして再び全ての氏族の“父”とならんとして、長く苦しい戦いにその身を投じる事を定められた“英雄”あるいは“悪魔”であった、という事を。

 

 これは、公爵達にとっては完全な誤算の産物であった。

 本来なら、呼ばれていたのはティカではない。

 偶然、今回の条件に合致し“喚ばれた”のは、日本人の“男”であった。

 そこにたまたま“情報”として存在していた設定や資料その他の様々なものを召喚魔法陣が“男の情報”と誤認し、結果それらが“混ざり合って”しまったのだ。

 

 故にティカにとっての幸運、公爵達の不幸は、公爵達の自業自得である。

 

 本来であれば、この世界の魔術師10人分の魔力と、成人男子5人分に匹敵する肉体を持つ“支配”された“日本人の男”がやってくるところを、そういった“外部干渉”を拒絶する要素を持つモノを喚び出してしまったのだ。

 呼び出されてから“混じって”しまったのだから、これはもう対処のしようもないものだった。

 

 もっとも、後10年も研究が進んでいれば、こういったイレギュラーにも対処できていたのではあるが、それは後の祭りというべきだろう。

 

 この異常事態にあって、公爵はやはり無能ではなかった。

 状況から“ティカ”が“服従と支配”の影響下にないと即座に判断し、即殺すべきと断じたのだ。

 

「お前ら! この土人めを今すぐ殺せ!!」

 

 そして有事に備え、自身は壮年の男と共に入口へと向かう。

 最悪でも即座に玄室から出て、この男を閉じ込めてしまえば後はどうとでもなる。

 

 その判断そのものは間違ってはいなかった。

 むしろ、非常に適切だと言える。

 

 そして、公爵の声と共に、即座に8人の男女の口から“言霊”が紡がれ、殺意を具現化したかのような魔力の槍が数十本、座っていたティカに叩きつけられた。

 そう、8人の魔術師達も、決して無能ではないのだ。

 通常、一般的な“緑”ランクの魔術を扱う冒険者が一度に放てる“魔法の槍”の数はせいぜいが2本。普通は一本がいいところである。

 それらの倍はあろうかという数の“魔法の槍”なのだから、彼らが一流と呼ぶに相応しい力量を有しているのは間違いがない。

 魔法の選択も“同士討ち”を避け狙った的に“必ず当たる”魔法を全員が即座に選んだという事実からも、やはり無能とは程遠い。

 その威力も、当たり所がよければ全長2mの熊を一撃で仕留められるという、非常に殺傷力の高いものだ。

 

 そんな魔法が周囲から数十本。

 熊どころか象ですらも余裕で殺しきれる。必然、人間に耐えられるようなシロモノではない。

 

 ティカ以外の全員が、その光景に必殺を確信する。

 

「ふん…! どういう理屈かは知らぬが“服従と支配”が組み込まれておらぬとはな…。これはお主の失点だぞ」

 

「申し訳ありませぬ。しかしこれで、殿下が望むようなモノを召喚することが証明されました。後は今回の事を解析し、完璧を期すれば…」

 

「うむ、期待しておるぞ。………ぬ?」

 

 公爵はここでひとつ、致命的なミスを犯した。

 彼はここで安心するべきではなかったのだ。

 どうして“服従と支配”が効果を及ぼさなかったのか、それをもっと真剣に考え、保身に走るべきだったのだ。

 

 そして公爵は“それ”を見る。

 

 前に手を突き出し、魔法を放ったままの姿勢で、ゆっくりと首だけがずれて落ちていく、8人の魔術師達の姿を。

 

 首のないオブジェと化した柱でできた円の中心に立つのは、骨と牙と爪で組み上げ皮で編みこまれた鞭、としか表現できない武器を両手に、似たような意匠の腰巻と手甲足甲を身に付け、首飾りを幾重にもぶら下げ、巻頭型の見事な羽飾りを乗せて立つ、ティカの姿である。

 

 そして公爵は気付く。

 

 ティカの全身に浮き上がった奇怪な紋章、それが自分達が識る魔術とは全く異なるものであり、それが“自分達には御せないシロモノ”である、という事実に。

 

「な…あ…」

「そ、そんな馬鹿な…」

 

 公爵と壮年の男の口から、言葉にならない声が漏れる。

 

 ティカはそれを“雑音”と認識し、その顔を耐え難い不快感によってくしゃくしゃに歪めた。

 

「道理で“臭い”訳だ…。ここはおいらが居た“どちらの世界”とも違うけど、それでも判る。お前らみたいなのの“臭い”は何時でも何処でも全く同じだ。本当に、臭くて腐くてたまらない……」

 

 ティカの頭のどこかで、あの缶詰もこんな臭いかも、という馬鹿な思考が一瞬だけ過ぎる。

 

 そんな思考を振り払うように、ティカは硬直する二人の男に目を向ける。

 これ以上はない、不快な“物体”を見るかのように。

 

「食わないものを殺すなんてのは、本当はいけないんだけどな…。でも、無理だ。臭くて腐くて、おいらにゃとても耐えられない。だから許せよ? せめてお前らが“常春の国”に行けるよう、おいらが祈ってやるからさ。でも多分、お前らが行くのは“腐泥の国”だろうけどな……」

 

 ティカのその呟きと同時に、8本の柱がゆっくりと崩れていく。

 

 ティカの瞳に映るのは、ヒトのカタチをしただけの、ただの腐泥の塊でしかない。

 

 

 

 そして、ただ冷たい殺意に満ちた空気の中、選ばれた強者による弱者への蹂躙が。

 奇しくも歪んた形ではあっても公爵が信じ望んでいた“それ”が。

 

 

 今、はじまろうとしていた。

本来、後書きなんてのは言い訳っぽくなりがちなんで苦手なんですが、今回はリレーでもありますので一応毎回書こうかな、と。

 

 

つーことで、作者のモロ趣味そのままの、なんというかダメなキャラ、登場です。

 

色々と色々な意味で残念なキャラなんですが、読者の皆様に少しでも好いていただければなあ、と、生みの親としては思っております。

 

邂逅編が終わりましたら、全部ではないですが、設定その他はあげさせていただきます。

 

 

 

こんなもんに参加したい、という方や「俺が考えたキャラ出してくれ」などという危篤(誤字ではない)な方がいらっしゃいましたら、私のHPにあるチャットまでおいでませ。

YTAやジョージにショトメでもいいけどさ(笑)

 

ああ、リレーに参加したい場合もそれでよろしく。

ただし、参加はお断りする場合もあるので、そこはご理解を。

 

 

ちなみに、基本の流れ以外は打ち合わせとかしてないから、マジで展開は丸投げ状態だ(ぇ

 

 

 

では、次にバトンを回します、頑張れYTA、私は丸投げ大好きだぞ(コラ


 
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