No.594907

武器の御遣い

第拾話

2013-07-06 14:49:28 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:1856   閲覧ユーザー数:1628

 

 

 

 

 

三人称Side

 

 

平原を5人の少女達が歩いていた。このご時勢に女の5人旅、それも彼女達のような見目麗しいと形容できる少女達なら、その危険度は計り知れない。しかし、それも仕方がない。馬を買おうにも、旅商人に同行しようにも、先立つものがないのである。まあ、5人の内3人がそれなりの武を持っている為、それほど心配しなくても良いのだが

 

 

戯志才「さて、次の街までそれほど距離がないとはいえ、何事もないといいのですが……」

程立「そですねー。昨日の街では、この辺で賊が出るという噂は聞かなかったので、たぶん大丈夫とは思いますけどねー」

 

 

眼鏡をかけた理知的な雰囲気の少女が、黒手袋を嵌めた手でその眼鏡を直しながら零す言葉に、飴を舐めながら、頭に人形を載せるというなんとも奇妙な風貌の少女が答える

 

 

程立「お金がないなら、星ちゃんみたいに公孫賛さんのところで働けばよかったのに。稟ちゃんも強情ですねー」

戯志才「いえ、伯珪殿も一角の城主としてはそれなりに有能ですが、仕官しようとは思えませんでしたので。かく言う風こそ、何故仕官しなかったのですか?」

程立「そりゃ、稟ちゃんが心配だったからに決まってるじゃないですかー」

戯志才「はいはい、わかりましたから。………それで本音は?」

程立「………………………ぐぅ」

戯志才・姜維・太史慈「「「寝るなっ!!」」」

程立「おぉっ!?」

 

 

風と呼ばれた少女――程立は、それには答えずに眠りに落ちる。稟――戯志才と青白い髪のネコ型ヘアーの少女――姜維と明るい紫色の髪の少女――太史慈の対応を見るに、これもいつもの光景らしい。程立も戯志才と姜維のツッコミに特に何か言葉を返すこともなく、先ほどの質問への答えを述べた

 

 

程立「いえいえー、公孫賛さんもそれなりにいい人なんですけどー、なんていうか………」

戯志才・姜維・太史慈「「「なんていうか?」」」

程立「普通、すぎるんですよねー」

戯志才「………………………もういいです」

姜維「まあ、風らしいっちゃらしいね」

徐晃「………風の言う通りでもある」

 

 

程立の答えに、はぐらかされたことを感じ取るや否や、戯志才も溜息を吐いて、再び進行方向に目を向ける。姜維は姜維で適当に返す。クリーム色の髪の少女――徐晃は程立の意見に同意する。どうやらこれも、いつもの光景のようだ

 

 

と、程立は、横を歩く少女の腕をちょいちょいと引く。それに答えるように相手も彼女の方を向くが、対する程立は、また別の方角を見つめていた

 

 

戯志才「どうしました?」

程立「稟ちゃん、緑ちゃん、神楽ちゃん、桜ちゃん。走る準備はできていますかー?」

 

 

 

 

張三姉妹は曹操が討った

 

 

そんな知らせが世間に知れ渡り、黄巾の乱は終息しつつあった。そんな折、迦楼羅と菖蒲(しゃうほ)銀狼(インロウ)の背から降りて歩いていた。と、その時

 

 

銀狼(インロウ)《迦楼羅、左遠方、丁度林を挟んだ向う側の後方に砂塵。この匂いは、黄巾賊の残党だな。それと、何人か追われてる》

『………ん、分かった。菖蒲、左遠方後ろに賊。迎え撃つ』

菖蒲「ハッ!分かりました師匠!」

『……ん。後、何人か追われてる。追われてる人の救助任せる』

菖蒲「御意に」

 

 

少し言葉を交わすと迦楼羅と菖蒲は、銀狼と共に駆けて行く

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戯志才「はぁ、はぁ…………風!もっと早くっ!」

程立「む…無理ですよー。風は稟ちゃんみたいに血が有り余っている体力莫迦とは違うんですからー」

戯志才「だ、誰が体力莫迦ですか!!………はぁ、それだけ言えるならまだ大丈夫そうですね」

程立「なんとかですけどねー」

姜維「そこ!話してる、暇が、有るなら、足を、動かす!」

 

 

走り続ける少女達の後ろには、5万人ほどの男たちが追ってきていた。皆が皆、腕や頭に黄色い布を巻きつけている。走りながらも後ろを振り返った戯志才は、その色合いに、軽い眩暈を覚える。しかし、脚を止めるわけにはいかない。一度追いつかれてしまえば、その先の未来が容易に想像できるからだ

 

 

彼女達の内、2人は武人では無い。3人武人が居れば大丈夫にも見えるが、2人を守りながら5万もの軍勢を退けられる程器用でもない。故に、只管に逃げているのだ。しかも普通に逃げているのではない、武人3人だけであったら5万を殲滅するなり、別方向に逃げてまた合流すると言う手も有る。しかし、体力の乏しい軍師が共に逃げているなら話は別。3人が本気で走れば2人は置いて行かれてしまう。そうなれば、2人は遅からず賊に捕まり、慰みものに成ってしまう。そんな真似は3人に出来る訳も無い。友を置いて逃げる等、彼女らのプライドが許さない。そして、武人の3人は思う――――――――――せめて、あと一人。武に長けた者が居たのなら――――――――――そうして浮かぶのは、半年前まで共に旅をしていた青髪の槍遣い。彼女が居れば、まだこの状況を打破できたかも知れない。そんな無い物ねだりをしながらも、懸命に逃げる

 

 

そして、5人が同じ事を願う――――――――――この窮地から自分達を救い出してくれる誰かを。かつて本で読んだ英雄のような救世主を

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

かくして、5人の願いは一つの声によって叶えられた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『………伏せろ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

迦楼羅達は現在、賊の進行方向――少女達の逃げる先に居る。しかし、少女達は逃げるのに必死なのか、迦楼羅達の存在に気付いていない。当然賊達は逃げている少女達を捕まえてからする事に思いを馳せており、全く気付かない

 

 

菖蒲「師匠。賊の数は5万。5人ほど追われています。5人の内、3人が武人、残り2人は軍師かと。軍師を守りながらの為か、逃走の速度が遅く、少しづつ追い付かれつつあります」

『………ん、銀狼は賊の後ろに回り込んで、合図を出すから合図が来たら突撃。菖蒲は5人の傍に行って守ってくれ』

銀狼《分かった》

菖蒲「了解です」

 

 

そう言うと銀狼は隣の林に入り、姿を見えなくして賊の後ろに回り込む。そして迦楼羅は長槍皇炎を何処からともなく取り出すと、地面に突き刺し、大量の苦無を用意する。そして

 

 

『………伏せろ』

 

 

少女達に聞こえる音量で伏せるよう言った後、大量に用意した苦無を全て投げつけた

 

 

5人「「「「「ッ!!」」」」」

 

 

少女達5人は、声が聞こえて始めて迦楼羅達の存在に気付き、すがる思いで走る勢いもそのままに転がるように身を屈める。投げられた大量の苦無は、伏せた5人の背中に当たることなく全て最前列を走っていた賊に命中し、最前列の賊をハリネズミにする

 

 

最前列の賊が倒れ、それに連鎖するように後ろに居る賊も次々とこける。

 

 

『菖蒲、合図頼む』

菖蒲「了解!………【ピイィィィィィィィィィィ!!!】」

 

 

迦楼羅は、地面に刺した長槍皇炎を引き抜き、菖蒲の吹く笛の音を合図に賊軍に斬り掛かる

 

 

賊1「なんだテメェ――」

賊2「こいつっ!?」

 

 

迦楼羅はまず先にこけて倒れている賊達から斬り伏せる。その剣速はどれ程の物なのだろう。迦楼羅は重そうな獲物の重量を物ともせずに幾人もの肉を斬り裂く。にも関わらず、検束が早過ぎる為か、血は一つもついていない

 

 

賊頭「おい!回り込んで、あの女どもを人質にしろっ!!」

 

 

群れの向こうから、そんな叫び声が聞こえた気がしたが、迦楼羅はそれを無視した。人質に取られようと関係ない。そんな理由等ではない

 

 

賊頭「ぐあぁっ!!」

賊3「か、頭っ!?」

 

 

賊の頭と思われる者の頭・首・左胸の三ヶ所に矢が突き刺さる。後方では弓の不琉弟院具を構えている菖蒲が居る。そして

 

 

賊4「うわああああああああ!!な、何だこの狼は!!」

 

 

後方からは銀狼が賊を鋭い爪や牙で切り裂いている。隣の林の中には銀狼が頼んだのか、熊や毒蛇が逃げて来た賊を毒や牙等で次々と倒していく。最早賊共に逃げ場はない

 

 

 

 

 

 

 

 

『………ん、終わった』

銀狼《なんか、物足りん》

『………賊崩れ、だから、仕方ない』

 

 

迦楼羅は物足りないとブー垂れる銀狼を連れて菖蒲の所まで戻る

 

 

『………菖蒲、怪我無い?』

菖蒲「大丈夫です師匠!僕弓使ってたし!」

『………ん、ならいい』

 

 

そう言って迦楼羅は座り込んでる5人に向き直る

 

 

『………大丈夫?』

5人「「「「「………………」」」」」

 

 

しかし、迦楼羅の問いかけに、少女達は答えない。迦楼羅の武に圧倒されたのも有るが、銀狼の大きさを見てただ言葉を失っていたのだ

 

 

仕方がないかと、迦楼羅は5人のうち眼鏡をかけている少女――稟に近づいて彼女の前にしゃがむと、その顔を覗き込んだ

 

 

『………大丈夫?』

戯志才「………はっ!?ぁ、ぇ……なんでこんな近くに………まさか、このまま私達を攫ってあんな事やこんな事を―――――ぷっはぁぁぁぁっ!」

『どわぁあっ!?』

菖蒲「おぉー」

 

 

少女が目の前の迦楼羅に気づき、小声で何事かをぶつぶつと呟いていたかと思うと、いきなり鼻血を、文字通り噴出した。その血流はそのまま迦楼羅の顔面へとぶつかり、彼を真っ赤に染め上げていく。流石の迦楼羅も、この攻撃は予期していなかったようで、動けずにいた

 

 

程立「はーい、稟ちゃん、とんとんしましょうねー」

 

 

菖蒲が少女の鼻から描かれるアーチに感激し、迦楼羅がその光景に茫然としていると、頭に人形を乗せた少女――程立が戯志才に話しかけ、その首筋を叩いている。その間も鼻血を流し続ける少女は何事かをぶつぶつと呟き、恍惚の表情を浮かべているのであった

 

 

 

 

戯志才「さ、先程はお見苦しい所を」

姜維「ホントだよー。命の恩人に鼻血ぶっ掛けるなんて」

『…………戦闘以外であれだけ血まみれになったのは初めてだ』

 

 

あの後、姜維・徐晃・太史慈の三人が戯志才の行動を説明し、迦楼羅は近くを流れていた川に服を着たまま入り、血を落とした。そのため、迦楼羅は今ずぶ濡れだ

 

 

『………それで、さっきの鼻血は賊にやられたのとは関係ないんだな?」

戯志才「はい、貴方たちのお蔭で、なんとか無事に済みました」

程立「稟ちゃんの鼻血は、稟ちゃんの妄想癖の副作用みたいなものですので、お気になさらずにー」

戯志才「風っ!」

 

 

一刀と恋が見ている間も、ずっと二人で喧嘩――といっても、戯志才が一方的に捲し立てており、それを他の三人が窘めているのだが――する様子を見て、なんとなく雪蓮と冥琳を思い出した

 

 

『………雪蓮と、冥琳みたい』

菖蒲「そうですね」

 

 

どうやら菖蒲も同じ人物を思い出していたようだった

 

 

数分後、ようやく落ち着いたのか、少女たちは迦楼羅・菖蒲・銀狼に向き直る

 

 

戯志才「度々すみません」

程立「ほんとですよー、稟ちゃんは―――」

姜維「もうそのネタはいいですから!話が進まないでしょう」

程立「はいはいー」

太史慈「では、遅くなりましたが、助けていただきありがとうございました。半年前までは腕に覚えのある者がもう一人居て、6人旅をしていたのですが、路銀稼ぎに客将なってしまい―――」

徐晃「人手不足で逃げてた」

 

 

台詞を掻っ攫われた太史慈は徐晃に抗議をしたが、徐晃は素知らぬ顔をして聞き流していた

 

 

程立「改めまして、風の名は程立仲徳と言いますですよー。で、こちらが………」

戯志才「戯志才と申します」

太史慈「私は性を太史、名を慈。字を子義と申します」

姜維「私は姜維伯約です!」

徐晃「徐晃公明です……」

菖蒲「私は馬良季常です。で、こちらの方が…」

『………馬謖。馬謖幼常。こっちは銀狼』

太史慈「! 何と!轟将軍の馬幼常に白眉の馬季常でしたか!お強い訳だ」

程立「おぉ~~この人達がそうでしたか~。風はもっと筋肉ムキムキのゴツイ人だと思ってたのです~」

『………取敢えず。ここから離れる。ここは臭い』

 

 

迦楼羅の言う通り、迦楼羅達の居る場の近くには賊の死骸が有り、腐臭や血の匂いがきつく成っていた

 

 

『……銀狼、7人行ける?』

銀狼《…………本来は迦楼羅達以外を乗せるのは余りしたく無いのだが、私も此処から早く去りたい。良いだろう》

『………ん。ありがと。皆、銀狼に乗る』

菖蒲「分かりました。動けます?」

太史慈「無論だ。と、言いたいが。腰が抜けて動けん」

徐晃「…同じく」

 

 

どうやら全員安心して腰が抜けたらしいので、迦楼羅と菖蒲に抱えられて銀狼の背に乗せてもらうと、そのままその場から去った。残された肉塊たちには鴉等の獣たちが群がり始め、半刻(一時間)で骨だけに成った

 

 

因みに、程立が想像したのは『奇怪噺 花咲一休』に出てくる名無しの化物ソックリな二人組だったりする

 

 

 

 

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