第5話 偽名
袁術軍が来たという知らせを受け洞窟の中は騒がしくなり始めた。
だがそんな中馬元義だけは落ち着き払っていた。
椅子に座ったまま静かに目を閉じ、何かを考えているようだ。
そして深いため息をつくと静かな声で告げた。
「落ち着けお前ら…。」
その一言で騒いでいた連中は一瞬で大人しくなった。
「袁術軍は今どこだ?」
「まだ山の麓には着いていません。」
「なら、まだ時間はあるか…。全員をここに集めろ!」
「はい!」
3分も経たない内に広間には大勢の若い男達が集まってきた。
ざっと見て100人程だろうか?
恐らく対策について話し合うつもりだろう。
(俺、完全に蚊帳の外だな…。)
そんな事を考えていると抱いていた赤ちゃんがごそごそ動き始めた。
「お、お昼寝は終了か?」
赤ちゃんは欠伸をして俺の顔見るとぐずり始めた。
「どうした?ん、下着が濡れてるか…。」
俺はそこら辺にあった木桶と水差しを拝借した。
そしてバッグに入っていたタオルを取り出す。
下着を綺麗にしながら聞き耳を立てていると
馬元義達の話し合いが始まっているようだ。
「お前達、聞いての通り袁術が俺達を討伐するための軍を起こした。」
「どうするんですか大将!」
不安を隠しきれないのか仲間達は声をあげる。
「正直ここら辺が潮時だと俺は思う…。
だが知っての通り袁術は民に圧政を敷く馬鹿だ!
例え俺達が無抵抗で投降した所で全員の処刑は免れん。」
「………。」
「だがな、年老いた俺はともかくお前達を死なせたく無い!」
そう言って馬元義は仲間達を見渡す。まるで息子を心配する父親のような目で…。
「お前達、今から俺が言う事を良く聞け…。上手くいけばお前達は
無罪放免とは行かずとも処刑される心配は無い。」
馬元義は俺の方を見ながら叫んだ。
「桐山殿、折り入って頼みがある。こっちへ来てくれないか?」
「?」
俺は機嫌が良くなった赤ちゃんを連れ馬元義の元へ向かった。
「一体何の用だ?」
程遠志は突然俺に向かって頭を下げた。
「桐山殿頼む!こいつらを救ってやってくれ!」
「どういう事だ?」
「あぁ、俺の考えを聞いてくれ…。」
「間もなく袁術軍が到着します!」
「わかった…。」
洞窟の前で俺は馬元義と2人で並んでいた。
目を引くのは馬元義が手足を縛られ跪いた状態で俺の隣にいる事だ。
「さて、本当に良いんだな?確かにお前の話は理に叶っているが…。」
俺が念を押して聞くと馬元義は黙って頷いた。
その時前方に一騎の騎馬を先頭に500人程の軍隊が現われた。
馬に乗っているのは刀を持った男だった。その男は
俺達の様子を見ると右手を上にあげ進軍を止め前に進み出た。
「俺は袁術軍武将紀霊…。賊の討伐に来た…。」
『寡黙で実直な勇将』第一印象はそんな感じだった。
向こうが名乗ったので俺も自己紹介のため、縛られた馬元義を伴い前に進み出る。
「俺の名は桐達(とうたつ)、遠方からの旅の途中この近くの集落を襲っている賊と遭遇した。
集落から逃走した賊を追ってここに辿り着き、こいつらを成敗した。
横にいるこの男が賊の大将だ。他の奴らは大将が捕まったのを見て降伏した。」
俺はここに至った事情を話したが、偽名を使い話の内容を一部変えておいた。
「!」
さすがに予想外の事態だったのか袁術軍の兵士達はざわつき始めた。
紀霊はそれを右手を挙げ落ち着かせる。
「何が望みだ…。」
わざわざ生け捕りにしている事を怪しく思ったのか、紀霊はストレートに質問してくる。
「袁術殿と話がしたい。報奨金ぐらいは出るんだろ?」
とりあえず『報奨金の交渉』という名目で袁術と面会してみる事にする。
以前聞いた『袁術が子ども』という話も確かめる必要がある。
「わかった、俺と共に来い…。他の物は洞窟内にいる他の賊を連行しろ…。」
紀霊の号令に『応!』と返事をして兵士達は洞窟内へ入っていく。
「行くぞ…。」
中にいた馬元義の仲間約100人と俺達は紀霊の案内に従って出発した。
賊軍としてこの場で処刑される可能性も考えたが問題は無かったようだ。
(まぁ、なるようになるか…。)
「着いたぞ、ここが襄陽だ…。」
西の地平に太陽が沈みかける頃俺達は襄陽の町に到着した。
紀霊の案内で夕方の街中を歩いて行く。
街を覆うように作られた城門を潜ると大きな通りに出た。
通りのずっと向こうに大きな城が見える。恐らくあれが襄陽城だろう。
大通りを歩きながら街中をざっと観察してみる事にした。
華やかな雰囲気の大通りを見ている限り立派な街に見えるが
路地のような道を横目で除くと暗く、淀んだ空気が流れているのがよくわかる。
時には浮浪者らしき人間が何人も屯っている姿も確認できる。
(立派に見えるのは表だけ。光と影がハッキリと見てとれる…。)
表通りで生きられる裕福な人間にとっては良い街だが、
それ以外の人間にとっては住みにくい街のようだ。
そうこう考えている内に城の大きな門の前に到着した。
「面会は明日になる、今日は城に泊れ…。」
確かに『旅人が賊を生け捕りにして、面会を求めている』
なんて事態すぐには処理できないのだろう。暗愚と噂される袁術の城なら直良だ。
「この部屋を使え…。」
紀霊は兵士に馬元義達を牢へ連れて行くように指示すると
俺を客室らしき部屋まで案内してくれた。
「見張りが付くが気を悪くするな…。」
「あぁ、問題無いさ。」
俺は運ばれてきた食事を食べ、赤ちゃんを寝かしつけた後
神から後で届けられたカバンの中身を確かめる事にした。
(筆記用具、ノート数冊、硬貨と紙幣の入った財布、腕時計…。)
前の世界ならありふれた物だが、この世界なら役に立つかもしれない…。
だがこんな小道具では明日迎える試練は乗り越えられない。
(必要なのは度胸と話術って感じかな…。)
失敗しても死ぬ事は無いかもしれないが、そうなったら俺は自分自身を許せない。
俺は横で寝息を立てる赤ちゃんの頭を撫でながら頷いた。
「守るって決めたからな…。絶対に上手くやってみせる!」
どうもこんにちはkenです。
兎にも角にもまずはお詫びを…。
①大幅に更新が遅れた事→今後は不定期になる可能性が高いです
②原作キャラが未だに登場していない事→次回から登場します
社会人になって忙しさが半端無いんです(ただの言い訳ですよね)。
本当に申し訳ございません…。でも途中で作品をやめるつもりは
全くありませんのでどうか長い目で見守って下さい!
今後ともよろしくお願いします!
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恋姫無双のオリジナル主人公&転生モノです。遅れてすいません!
事情はあとがきに書きます…。駄文だとは思いますが、誤字脱字・文脈のアドバイス・展開の要望などをぜひどうぞ!誹謗中傷は勘弁して下さい…。