第28弾 蘇る氷の狙撃手
キリトSide
洞窟の中にいるアスナとシノンに現在の状況を説明した。
「残り6,7人…」
シノンは短くそう呟いたが、彼女が言うには前回の大会は2時間と少しで決着がついたらしい。
既に本選開始から1時間45分が経過しているから、こんなものだということだ。
「だけど、問題は『闇風』ね。間違いなく、キリトとハジメを狙ってこっちに向かってるはず」
「……前回の準優勝者、だったな」
「そ。【ランガンの鬼】と呼ばれる、実質GGO日本サーバー最強のプレイヤーよ」
前回の優勝者である『ゼクシード』、彼はレア銃やレア防具の能力で勝った面が大きいらしいが、
闇風は実力で彼を上回っているとのこと。
ちなみに『ランガン』とは『
「ねぇ、闇風はターゲットの対象になっていると思う?」
「分からない。実行犯は2人の可能性が高いが、まだいる可能性もありえる。
なんせ生還したラフコフメンバーは20人以上いるからな」
アスナの問いかけに俺が答える。二度に亘る『ラフコフ討伐戦』、それによって捕縛した人数はかなりのものとなった。
それを考えると、かなり厄介な話だな…。
「そっか…ターゲットになってなかったら、囮になってもらうことも出来たと思うんだけど」
なるほど、確かにそれは良い手だったな。相手が何人か分かっていればの話しだが…。
「……私はシノンに、闇風の相手を任せたいと思っている」
「え、私が…?」
ハジメが口を開いてシノンを指名し、彼女は少し驚いた表情をした。
「俺が闇風を止め、ハジメが死銃を止め、その間にシノンがまずは闇風を狙撃、
次いで死銃に狙撃、アスナがシノンの
「……それが一番だと思う」
俺の作戦にハジメは頷いた。俺達3人の安全は保証されている、
ならばアスナもこの作戦に反対する理由はないらしく、俺を見てから頷いた。
そして、シノンが話しを始めた。
「アイツが、アイツらがやっているのは……PKじゃないのよね?」
「……ああ、ただの殺人だ」
「…このゲームは、PKをやる人は多いわ。でも、PKにはPKなりの矜持や覚悟があるの。
あんな…ただの人殺しに、私は負けない」
「……決まりだな」
シノンの言葉に答えていたハジメは、少し嬉しそうだった。
確かに、ついさっきまでの力のない瞳とは違い、いまの彼女の瞳には決意の炎が灯っている。
これなら、安心して狙撃を任せられる。
「俺はロボットホースで、ハジメはバギーで飛び出すから、シノンはその後で狙撃の位置についてくれ。
アスナ、彼女のガードを頼むぞ」
「……了解した」
「絶対に外さないわ」
「後ろのことは任せて」
正直、作戦とも言えないものだが…それでも信じて戦うしかない。
ハジメも、シノンも、アスナも、みんなの意思を確認した。あとは…、
「よし、行くぞ!」
戦うのみ。
所定の位置についた俺とハジメ。俺は闇風がいる方向に背を向ける形で立ち尽くして目を瞑る。
その100mほど先には俺と向かい合うように目を瞑って立ち尽くしているはずのハジメ。
観客からみれば一対一の決闘を控えているように見えるだろうが、実際はただの罠だ。
時が来るのを待っている俺が考えるのは…SAO時代から役に立ってきた『システム外スキル』のことだ。
剣の位置や重心から相手の出方を予測する《先読み》、視線から攻撃軌道を推測する《見切り》、
相手のSEだけを切り分け位置を探る《聴音》、AI学習を誘導して負荷を与えて隙を作る《ミスリード》、
複数人でそれをやってHP回復なども行う連携《スイッチ》、
それらステータスウインドウにも載っていないものが、
強靭な筋力と敏捷力で一時的に側面などを走る《
その頂点にあるのはオカルト扱いされたもので『気を感じる技』の《
これに関しては黒衣衆男性陣のみが習得していたと言っても過言ではない。
その《超感覚》を用いて気配を探る、おそらくは対面にいるハジメも探っているのだろう。
感じ取れるのは1つ、微妙な振動、かなりの速度での移動、方角は南西……闇風だと思う。
さらに神経を研ぎ澄まして気配を探る、嫌な感覚は……っ、
俺は、眼を開いて1つ目の気配の先をみた…サボテンの下で小さく瞬く光がある。
それを感じたハジメと視認した俺は、放たれた弾丸を全力で回避した。
「「っ!」」
弾丸は振り返ったハジメの顔の横、そして俺の真横を通過していった。
ハジメは放たれた銃口の先へと駆け抜け、俺はもう1つの気配に向けて駆け出した。
キリトSide Out
シノンSide
暗視モードに変更したヘカートⅡのスコープを覗き込みながら、周囲を警戒する。
ハジメとキリトは向かい合い形で約100mの距離を開けている。
私の役目は優勝候補筆頭である闇風を狙撃で排除、直後に死銃を攻撃すること…間違いなく至難の業と言える。
だけど、そんな私を信じて、ハジメもキリトもあの場に立ち、アスナは私の側で護衛に勤めてくれている。
そんな3人の期待に応えたい、何時しか私の中の迷いや恐れは薄れていっていた。
「私、凄く緊張してる。本当に、あの闇風と死銃を倒せるのか分からないから…」
「大丈夫だよ、シノン…私は、私達は貴方のことを信じてるから…」
それでも緊張するので思わず呟いてみたら、アスナはしっかりとそう答えてくれた。
そのお陰か、私は笑みを浮かべることが出来た。
「信じてくれてありがとう、アスナ」
「ふふ、どういたしまして…」
スコープを覗いたまま、ヘカートのトリガーに指を添える。
思えば、
この子には、感謝してもしきれないくらいだ。
「(ぼそっ)…お願い、私に力を貸して。もう一度、歩き始める為に…」
相棒に呟いた直後、私はスコープ越しに闇風の姿を捉えた。
速い、その姿はまさに夜闇を駆け抜ける一陣の風と言っても過言じゃない。
どうやらアスナも手に持っている双眼鏡で確認したらしい。
闇風の移動は砂丘を迂回したり、駆け登ったり、ランダムな動きをしているので、ダッシュ中を狙い撃つのはいけない。
3人の信頼で冷静になった私は、そのままの姿勢で狙いを定め続けた。
側にいるアスナも決して急かす事がない、彼女もあの2人も、それだけ御人好しなのかと少し苦笑。
それでも嫌な感じなどするはずもない。
スコープを覗き込んだまま待つこと十数秒後、その時はきた。
一筋の光、弾丸が駆け抜けた。
間違いなく死銃の持つL115から放たれた弾丸のはず。
アスナがなんのリアクションも示さないことから、ハジメもキリトも無事なのだろう。
闇風は狙っていたはずのキリト達の奥から突如として飛来した巨大な弾丸に対して、
思わず制動をかけ、僅かながらに動きが鈍くなった。
―――ダアァァァンッ!
ヘカートから放たれた弾丸は闇風に直撃し、一撃で全てのHPを削り取った。
一瞬、彼は私に向けて視線を送り、賛辞を送るかのように親指を立てて倒れた。
[Dead]の表示が現れ、大会優勝候補筆頭は脱落した。
「ハジメ!」
私は思わず声を出して狙撃体勢を変えた。
暗視モードを切り替えたスコープの倍率を最大まで上げ、奴の発射位置を捉える。
ぼろマントに身を覆った姿、フードの中に見える赤い眼、奴が何処かに持っているはずの『54式・
それらに僅かな恐怖を覚えたけれど、そんなものは関係ない。
「お前は、ただのプレイヤーよ!」
私の弾道予測線に気付いたと思われる奴は、同じくL115をこちらに向けてきた。
立場は対等、ならばあとは撃ちあうだけ!
「勝負!」
予測円の収束を待たずにその言葉と共に私はトリガーを引き、死銃もほぼ同時に引いた。
スコープから顔を離している私、奴の放った弾丸は真っ直ぐとヘカートの大型スコープを破壊しながら、
私の肩を掠めて上空へと消えていった。
一方、私とヘカートが放った弾丸の50BMG弾は死銃の持つL115の機関部に被弾、
『サイレント・アサシン』の名を持つ狙撃銃は完全に破壊された。
「ごめんね、サイレント・アサシン…」
非常に能力の高い名銃と呼ばれる銃の破壊を成して、少しだけ心に痛みが奔った。
私もヘカートのスコープを破壊されたのでこれ以上の遠距離狙撃は不可能である。
「お疲れ様、シノン」
「うん…あとは任せたわよ、ハジメ」
労いの言葉を掛けてくれたアスナに短く答え、私は互いに距離を詰めるように走り抜けるハジメと死銃に視線を向けた。
シノンSide Out
???Side
くっくっくっ、あの女中々やるじゃねぇか、アイツの狙撃銃を破壊するとはな…。
まさか
アイツはこのままハジメと戦うだろうが、俺は先に面倒な2人を片付けさせてもらうか。
折角の再会だ、俺も邪魔無しで
そういうわけだから、そこにいる2人も仕留めさせてもらうか…。
「It’s show time…!」
なぁ、キリト…。
???Side Out
To be continued……
後書きです。
ついにBoB本大会は最終局面へと移行しました。
シノンは闇風の隙をついて一撃で仕留め、死銃のL115を破壊しましたね。
最後の???は勿論、いままであった3回の『???』とは違う人物です、果たしてその正体とは・・・?
次回はついに因縁ある者達との再会です、今回の???の正体も次回で明らかになります。
それでは・・・。
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第28弾です。
ついに一度、心の折れたシノンが復活します。
どうぞ・・・。