夢を見た
暖かな、そしてとても優しい夢を
『久しぶりね・・・“全身精液男”』
胸の奥
未だに残る温もりが、その夢の、その“想い”の存在を
『アンタなら、きっと・・・大丈夫よ』
確かに、証明している
「■■・・・」
そんな中
思わず、零れ出た言葉
“大切な人の名前”
しかし、彼は呟くと同時に
その名前を、忘れてしまう
それでも・・・
「それでも、いい・・・」
“それでもいい”
そう言って、彼は微笑んでいた
「絶対に、俺は・・・」
“君を、思い出す・・・”
呟きと同時に、吹き抜ける風
その風が吹いてきた方向
広がるのは・・・“蒼天”
その蒼天に浮かぶのは
いつか見た、温かな太陽だった
≪遥か彼方、蒼天の向こうへ-真†魏伝-≫
二章 二十話【劉備と、彼と、そして国と】
ーーー†ーーー
「んぐ・・・」
目の前に並べられる、様々な料理
それを、一心不乱に掻き込んでいる青年の姿があった
鄧艾、またの名を一刀である
彼は黙々と、目の前の料理を片付けていく
「これは、いったいどういうことなのだ?」
そんな彼の向かい側
一人の、美しい女性が立っていた
長く艶のある、美しい黒髪がトレードマークの彼女
名を関羽、真名を愛紗である
その彼女の、この問いかけ
答えたのは、彼女の隣で同じように立っていた少女
詠である
「見ればわかるでしょ?
食事中よ」
「いや、そうじゃなくてだな・・・」
“いや、いやいやいや”と、愛紗は頭をおさえた
心なしか、疲れたような表情を浮かべている
「たった一日で、ここまで回復するものなのか?」
「知らないわよ」
“こっちが、聞きたいわ”と、詠
この言葉に、愛紗は深い溜息を吐き出した
「ほれ、一刀よ
此方の料理も、中々に美味じゃぞ?」
「ん・・・美味い」
「あ、一刀さん
口元にご飯粒がついてますよ~?」
「ん、ありがと」
「おい、一刀
肉ばかり食ってないで、野菜もちゃんと食べるんだぞ?」
「ん、わかった」
「一刀よ
食い物ばかりでなく、此処にある酒も・・・」
「・・・なんでやねん」
“スッパァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!!”
「アッーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!???」
そんな二人の悩みなど、どこ吹く風
一刀の周りでは、一刀に世話を焼く美羽達の姿があった
美羽はしきりに、一刀に食べ物をススメ
七乃はそんな一刀の口元を拭い
夕はバランスの良い食事を心がけ
・・・祭は、ハリセンで叩かれていた
「コイツ・・・本当に、毒にかかっていたのだろうか?」
「あの解毒薬がよっぽど効いたのか
コイツが異常なのか
どっちにしろ、凄い食欲ね」
“あぁ”と、愛紗はまた溜め息
その彼女の視線の先
彼はスープを実に美味そうに飲みほし、満足げに微笑むのだった
そんな彼の笑顔を見つめ、愛紗は“しかし”と不意に呟いた
「何故だろう・・・なんかこう、色々とお世話をしてやりたいような
そんな、妙な気分になってくるのだが」
「何でかしらね・・・なんか、雰囲気もどことなく誰かに似てるような気もするし」
謎の“既視感”
この正体に、2人が気づくのは・・・もう少し、先のことである
ーーー†ーーー
「ごち・・・」
数分後
“パン”と手を合わせ、彼はそう呟いた
幾つもあったハズの料理は、もう跡形も無くなっている
よほどお腹が空いていたのだろうか
「・・・満足したか?」
そんな彼の目の前
呆れたようにそう言い放つのは愛紗である
この言葉に対し、彼は満足げに頷いて見せた
「美味しかった」
「そうか、それはよかっ・・・」
「だけど、まだ食べれる」
「なん・・・だと?」
“はぁ”と、愛紗は溜め息をついた
それから気を取り直し、彼を見つめ口を開いた
「鄧艾、士載・・・といったな」
「ん・・・そう」
「私の名は、関羽・・・字は、雲長
劉備様の、蜀王の臣下だ」
「蜀の、王・・・」
“ピクリ”と、一刀が僅かに反応を示す
その様子に気付きながらも、愛紗は続けて口を開いた
「体調は、もういいのか?」
「ん・・・」
愛紗の言葉
彼は頷き、ゆっくりと立ち上がった
それから何度か手を握ったり開いたりを繰り返し、“ん・・・”とまた頷く
「大丈夫
もう、全然平気」
「そう、か」
“ふむ”と、愛紗
彼女はそれから、腕を組み言葉を吐き出した
「ならば、話は早い方がいいだろうな」
「・・・?」
首を傾げる一刀
そんな彼を見つめたまま、低く淡々とした口調のまま
愛紗は言う
「我が主である桃香様・・・劉備様が、お主と話をしたいと仰っている」
この、言葉
一刀は表情を僅かに変化させた
その視線は、先ほどよりもはるかに“鋭い”
「劉備、玄徳・・・蜀の王が、俺・・・と?」
“そうだ”と、愛紗はかえす
しばしの静寂
やがて一刀は、無言のまま・・・静かに、頷いた
「俺も、会いたい」
「ほう・・・お主も、桃香様に会いたいと?」
今度は、愛紗の視線が鋭くなった
向けられた先、一刀はフッと笑みを浮かべ頷いていた
「皆も、一緒」
「勿論じゃ」
そう言ったのは、美羽である
彼女の言葉に同意するよう、他の三人は頷いていた
そんな己の家族を見届けると、彼は再び鋭い視線を愛紗に向ける
「俺は、いつでも、いい」
「ならば、桃香様に伝えてこよう」
言って、愛紗は部屋から出て行った
その背を見届ける一刀の視線
「劉備、玄徳・・・蜀の、王、か」
その視線が・・・微かに、揺らいでいた
ーーー†ーーー
「鄧艾さんが、私に会ってくれるって・・・そう言ったの?」
白帝城
戦う為に造られた、最期の砦
その中にある、玉座の間
響いたのは、この城の主・・・いや、この国の主である劉備こと桃香の声である
「はい、確かにそう言っていました」
そんな、彼女の言葉
そう言って頭を垂れるのは、愛紗である
彼女は一刀の言葉を聞き、そのまますぐに玉座の間に待つ己の主のもとに向ったのだ
「むしろ、向こうの方も桃香様に会いたがっているようでした」
「鄧艾さんが、私に?」
“はい”と、愛紗
この言葉に、“おい”と声をあげたのは馬超こと翠だった
「大丈夫なのか?
まだそいつが敵か味方かも、わからないんだろ?」
「うむ・・・しかし」
言葉を止め、愛紗が見詰める先
其処には、星や紫苑をはじめ、彼と関わった者達が立っていた
「確かに、今はわからないことばかりだが
奴が星と雛里、そして桃香様を助けてくれたという事実は・・・揺るぐまい」
愛紗の言葉
皆は、言葉を失った
彼女の言うとおりだった
彼はその身を毒に犯されながらも、確かに救ったのだ
自分達の、大切な仲間を
「とにかく・・・まずは、会ってみるよ」
そんな中、そう言って笑うのは桃香だった
彼女はギュッと、拳を握り締め言う
「なんだかもう、さ
私には、わからないことだらけで・・・正直、混乱してる」
「桃香様・・・」
「予言のことも、劉璋さんのことも
何も、わからないよ
私には、なにもわからない」
“だけど”と、彼女は声をあげた
握られた拳が、微かに震えている
「だからって・・・何もしないままじゃ、何も変わらないよ」
吐き出し、彼女は立ち上がった
その瞳はまっすぐに、しかし弱弱しく震えながら
眼前に集まった皆の姿を映していた
「鄧艾さんに会う
私が今できることは、まずそこから始めることだと思う」
「桃香様・・・了解しました」
言ったのは、諸葛亮こと朱里である
彼女はそれから、愛紗にスッと目をやった
直後、愛紗は頷く
「向こうは、いつでも会えると言っていましたが」
「では、昼一番に・・・で、いかがでしゅか?」
「私は、大丈夫だよ」
桃香の言葉
朱里は、“では、そのように手はずを整えましょう”と頭を下げた
鄧艾に会う
話は、決まった
そんな中
彼女は、桃香は深く息を吐き出し・・・玉座に、座り込んだ
「これで・・・いいんだよね」
呟き、見あげた天井
答えは、もちろん返ってくることはなかった
ーーー†ーーー
“早い”と
いや、“早すぎる”と
彼女が、七乃がそう思うのも無理はなかった
“この後・・・午後一番に、貴殿と桃香様の会談の場を設けた”
退室した愛紗が戻ってくるなり言った言葉である
この言葉に、流石の七乃も驚きの声をあげた
何かの冗談かと、そう思ったほどである
しかし、それは事実であり、現実だった
昼食を済ませた後、彼女達を迎えにやって来た翠と愛紗がそれを物語っていた
そして、連れられて向かうのは玉座の間
蜀の王、劉備玄徳が待つ場所である
(向こうも、よほど一刀さんに会いたかったということでしょうかね~)
歩きながら、七乃は苦笑する
まず、間違いないだろう
問題は、“なぜ会いたいのか?”ということだ
幾つか推論はあるものの、決定的なものはない
故に、彼女はくしゃりと頭を掻いた
(まぁ流石に、いきなりバッサリなんてことはないでしょうから
大丈夫っちゃ、大丈夫なんでしょうけど)
自分達があった時に比べ、桃香は落ち着いているだろう
それに、一刀が救ったという蜀将の存在もある
まず、そのような扱いはされない
その証拠に、彼女達を取り巻く状況は確実に良くなっている
相変わらず、視線には“疑念”が込められているが
(それでも、やはり最初に比べたらだいぶマシです
あとは・・・)
「一刀さん次第ですね~」
「・・・?」
ふと、彼女の前を歩いていた一刀が振り返った
「何か、言った?」
「いえいえ~
“いつも通りの一刀さんでいてくださいね”って、そう言ったんですよ♪」
「・・・わかった」
言いながら首を傾げているあたり、わかっていないのだろう
それがわかり、七乃は思わず笑みを零してしまう
「着いたぞ」
そんな中、そう言って立ちどまるのは愛紗だ
彼女の眼の前には、玉座の間へと続く入口があった
一刀は、そこを真っ直ぐに見つめ呟く
「この先に・・・劉備が、いる」
「ああ、そうだ
この先に、“劉備様”がいる」
“様”を強調して言う辺り、彼の言葉づかいに対し注意したかったからだろう
しかし、そんな彼女の気持ちも知ってか知らずか
彼は一度頷くと、スッと足を進めた
「おかしな行動は、とるなよ」
と、翠
彼女は握り締める槍の切っ先を、僅かに一刀に向ける
同時に、隠しきれない殺気も向けるのだった
しかし、彼は動じなかった
そのまま、いつものまま、彼は足を進めていく
「そんなこと、しない」
呟き、見つめる先
遠くに見える玉座に座る少女の、いや王の姿を瞳に写し
彼は、“笑う”
「皆・・・行こう」
「うむっ!」
「はい~♪」
「応っ!」
「おうさっ!」
答える、家族に笑みを返し
彼は、歩みを進める
やがて、玉座の間
その、丁度中心の辺りまで進んでいた
集まっていく、幾つもの視線
中には、明らかに“敵意”の篭ったものもある
しかし、彼は表情を変えない
変えないまま、ジッと見据える先
玉座に座る少女が、ゆっくりと口を開いた
「こんにちわ、鄧艾さん
改めまして・・・私が、劉備玄徳です」
と、彼女は“ぎこちなく”笑う
そんな彼女に対し、彼は表情を変えることなく言葉を吐いた
「鄧艾、士載
俺の・・・家族がくれた、名前だ」
一歩、彼は距離をつめた
瞬間、蜀の将何人かに緊張が走る
が、それでも尚
彼はまた一歩、その距離をつめた
「ずっと、会いたかった」
「会いたかった、って
私に、ですか?」
“ん”と、彼
「“彼女”と同じ、“王”である、君に」
「彼女?」
彼の言葉
桃香は、震える声で言う
「彼女って、いったい誰なんです?」
「それは・・・わからない」
“わからない”
そう言って、彼は拳を握り締めた
その瞳は、大きく揺らいでいる
「俺は、彼女のことを“知らない”
“知っていたはずなのに”、“大切な人だったはずなのに”
俺は・・・何も、知らない」
“だから・・・”
少女が、王である桃香が見つめる先
一刀は、その瞳から一滴の涙を零し
「俺は、全てを・・・“取り戻さなくちゃ、いけないんだ”!」
その言葉を、想いを
全てを、吐き出したのだった・・・
ーーー†ーーー
“何を言っているのか、まったくわからない”と
愛紗は、いや愛紗だけではない
其の場にいる多くの者は、そう思っていた
しかし誰一人としてそれを、言葉にして発せる者はいなかったのだ
そう、ただの一人も・・・である
そんな中
「劉璋さんのこと、予言のこと・・・そのほかにも、いっぱい聞きたいことがあったんだけど
なんだか、ますますわからなくなってきちゃったな」
そう言ったのは桃香だった
彼女は、拳を握り締め
そして、一刀を見すえ・・・言う
「鄧艾さん
貴方は、私たちの“味方”ですか?
それとも、“敵”なんですか?」
“なっ・・・”と、愛紗は声をあげ自身の主君を慌てて見つめた
あまりにも“唐突”に
あまりにも“直球”に
彼女の口から飛び出した言葉は、目の前に立つ“青年”に向い飛び込んでいった
其の場は、一気に“緊張”に包まれる
先ほどとは違う“視線”が、彼に集まったのだ
「俺は、俺には・・・よく、わからない」
“けど”と、彼
彼は辺りを一度見渡し、それからまた桃香を見つめ
少しだけ、“笑う”
「君の、君たちの“想い”は・・・とても、“懐かしく思う”」
「・・・え?」
驚く桃香
そんな彼女もよそに、彼は再び彼女に歩み寄った
「俺は、劉璋に、会わなくちゃいけない
“取り戻さなくちゃ、いけないものがあるから”」
“だから”
やがて、二人の距離はあと僅かまでに縮まった
しかし、愛紗達は動けないでいた
言葉すら、発せられないでいた
何故か、わからない
考える余裕すら、彼女達にはなかった
ただ、2人
彼女達の視線の先
彼と、そして彼女の
この二人以外には、何も許されていないような
そんな錯覚さえ、起こしていた
「七乃から、少し、聞いた
俺は今、疑われているって
けど・・・“そんなこと、関係ない”」
やがて、そんな空間の中
止まってしまった時計が、ゆっくりと動くかのように
「俺は、君と、一緒に戦う」
彼は、唯一人
そう言って、何処までも無邪気に
微笑を浮かべるのだった・・・
ーーー†ーーー
“いったい、何が起こっているのだろう”
彼女はもうずっと続いているこの疑問に、頭を悩ませていた
あれから数日たったが、やはり彼女の周りは“異様”な空気に包まれている
「確かめてみたほうが、いいのでしょうか・・・」
“確かめる”
しかし、彼女にはその“術”がない
目が見えない彼女にしたら、この異様な空気の中城内を歩き回るなど
自殺行為もいいところだからだ
「せめて、桔梗か紫苑さえいてくれれば」
言って、彼女は溜め息をついた
この二人の訪問が無くなったのもまた、この異常な、異質な空気が原因なのだろうと
彼女は、そう考えている
「さて、どうしたものですか・・・」
頼るべき者のいないこの状況の中
彼女は、自分が出来ることを考えていた
“緑(リョク)・・・”
「ぇ・・・?」
不意に
唐突に
突然に
彼女の耳に、“声”が届いた
懐かしい声が
温かな声が
彼女が、“失ったはずの声”が
「ようやく、会えたな・・・緑」
「そ、んな・・・」
“ありえない”と、彼女
そんな彼女の言葉を遮る様、“裏切る様”
「私だ、緑
覚えて、いるだろう?」
声は、驚くほど近くで聞こえてくる
同時に、彼女を温かな感触が包み込んだ
「会いたかった・・・緑
ずっと、ずっと、ずっと・・・お前に、会いたかった」
響く、優しい声
彼女は、震える声のまま
やがて、その名を
失った筈の名を、呟くのだった・・・
“縁(エニシ)様”
・・・続く。
★あとがき★
さて、皆さま
ほんっとうに、お久しぶりです
月千一夜と申します
いや、本当にお久しぶりで御座います
様々な事情で、本当に長いお休みとなりましたこと
本当にお詫びいたします
メールの返信もろくに出来ず、申し訳ないことをいたしました
ジョージさん、メールありがとうございます
ご返信できず、もうしわけありませんでした
さて、さて
大変長らくお待たせしました
復帰第一作
≪遥か彼方、蒼天の向こうへ≫
二章二十話、いかがだったでしょうか?
二章も、二十話と長く続いておりまするが
そろそろ、蜀の命運をかけた戦いもクライマックスに向かっていきます
では、またお会いする日まで
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どうも、本当にお久しぶりです
月千一夜と申します
多くの事情から、長らくお休みしていました
まことに申し訳ありません
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