No.591081

英雄伝説~光と闇の軌跡~ 511

soranoさん

第511話

2013-06-25 16:13:21 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:873   閲覧ユーザー数:825

~ウルスラ病院・2階病室~

 

「ふむ………経過は良好のようだね。うん、これなら明日にでも退院できるだろう。」

「ホ、ホントですか!?」

「ああ、嘘は言わないよ。ふふ………退院したら覚悟するといい。君にやってもらう仕事を山ほど用意してあるからね。」

「ちょ、ヨハヒム先生!?病み上がりの人間にそんな殺生な………」

「裂傷と打撲と捻挫くらいで情けないことを言いなさんな。逆にしこたま休んで体力が有り余ってるだろう?うんうん、今まで以上にバリバリと働けるだろうさ。」

「………先生ってよくSって言われませんか?」

「うーん、僕としてはMの方だと思うんだけどねぇ。」

「もう……何の話をしてるんですか?」

眼鏡の医師と患者が会話をしていると呆れた様子のセシルがロイド達を連れて病室に入って来た。

「おや……」

「あ………セシルさん!」

「お二人とも……他の患者さんもいるんですからあまり変な話をしたら駄目ですよ?子供が聞いたらどうするんですか?」

「す、すみません。」

「はは、参ったな。おや、そちらの方々は?」

セシルに注意された患者は謝罪し、医師は苦笑した後ロイド達に視線を向けた。

「クロスベル警察の方です。その、例の事件についてリットンさんから直接お話を聞きたいそうです。」

「あ………」

「なるほど、そういう事か。となると僕はここで退散した方がよさそうだね。他の病室を回診してくるよ。」

「お疲れ様です。………サボったら駄目ですよ?水辺の方で釣りとか。」

「ギクッ……いやいや、滅相もない。―――それじゃあ、失礼。」

セシルとの会話を終えた医師は病室を出た。

「えっと、今の人は?」

「ヨアヒム先生といって准教授をされている方よ。とても優秀な先生なんだけど少し趣味人すぎるというか……」

ロイドの疑問にセシルは答えた溜息を吐いたが、事情を聞きに来た事を思いだして患者に尋ねた。

「……それで、リットンさん。お時間を頂いても大丈夫ですか?」

「え、ええ。それは構わないですけど……でも、どうしてクロスベル警察の人が?警備隊が調べていたんじゃなかったのかい?」

「それが、警備隊の方でも手詰まりになったらしくて…………自分達も捜査協力することになったんです。」

「そうなのか…………うーん、やっぱり僕が夢を見たとか思われてるのかなぁ。それとも夢遊病?いやいや、そんなわけが………」

ロイドの説明を聞いた患者は頷いた後、考え込んだ。

「その、できれば改めて聞かせていただけませんか?1週間前の夜、起きた事について?」

「あ、ああ…………」

エリィの話を聞いた患者は頷いた後、再び考え込み、当時の事を思いだして話し始めた。

 

「――――そうだな。あれは研修レポートを書き上げた深夜のことだった。その研修レポートというのが気難しいことで有名なラゴー教授の指導研修のものでさ。もう全神経を集中する勢いで徹夜で書き上げたもんだから正直、意識は朦朧としてたんだ。意識は朦朧としてるんだけどなんかハイになってるっていうか……そんな状態で夜風に当たっていると………その声が聞こえてきたんだ。…………記憶があるのは実際、そこまでなんだ。翌朝、用務員さんがズタボロになって気絶した僕のことを発見してくれて………それで緊急入院して今現在に至るというわけさ。」

「………なるほど。状況は一通り把握しました。」

「襲って来た魔獣どもの姿ははっきりとは見えてないのか?」

「いや、恥ずかしながらショックで気絶したらしくてね。真っ赤に光る目と白い牙、それと黒っぽい毛並みくらいしか覚えていないんだよ………ただ、警備隊も確認してたけど、狼っぽいと言われたらそうだと思う。」

(………毛皮が黒?)

患者の話を聞いていたルファディエルは眉を顰め

「なるほど…………」

「その………傷の方はどうだったんですか?」

ティオは頷き、エリィは質問した。

「うん、右肩のところに牙で噛まれたような跡はあった。逆にそれ以外の怪我は打撲と捻挫とかくらいでね。たぶん噛み付かれたあと、そのまま床に引き倒されたと思うんだけど…………」

「………なぜか魔獣はそれ以上あなたを襲わなかった。つまり、そういう事ですね?」

「そうそう、そうなんだ!本当なら食い千切られてもおかしくないところなのに…………おまけに場所が屋上だろ?もう警備隊の人にも胡散臭い目で見られちゃってさぁ。しまいには、夜中フラフラ街道に出て魔獣に襲われたんじゃないかって疑われる始末だったよ。」

「でも、あなたが発見されたのはこの建物の屋上ですよね………?」

「うーん、襲われたパニックで屋上まで逃げてから気絶した………その可能性はゼロじゃないかもなぁ。」

「そ、それはさすがに無理があるんじゃ………」

患者が呟いた言葉を聞いたロイドは脱力し

「もう、リットンさん。襲われたあなたがそんな自信のないことでどうするんですか?」

セシルは呆れた後、患者を軽く睨んで言った。

「いや、その…………すみません。でもねぇ、説明が付かない事をそのままにするのも嫌じゃない?だったら自分の記憶が曖昧になってるって考えた方が気が楽っていうか………というか、もし本当に魔獣が屋上なんかに現れたんだとしたら………ちょっと恐すぎない?」

「「「「「……………………」」」」」

そして患者に言われたロイド達は黙って考え込んでいた。

「ふう………気持ちはわからなくもないですけど。でも、本当にそうだとしたらちゃんと対策を考えないと………」

「……………………ご協力、ありがとうございました。自分達の方でも襲われた現場を調べてみます。」

「あ、ああ、よろしく頼むよ。ちゃんとした説明がついて対策できるんだったらそれに越した事はないからね。」

その後病室を出たロイド達はセシルによって、襲われた現場を案内され、セシルは仕事に戻り、ロイド達が現場を調べた結果、魔獣は侵入可能な場所の2階の屋上に飛び移り、そして屋上にある木箱に飛び乗って3階の屋上に上がって、患者を襲ったという結果がわかったので、その結果と対策を報告する為にセシルを探して、ある病室に入った。

 

~ウルスラ病院・3階病室~

 

病室に入るとそこにはベッドに座っている少女とその近くにはセシルがいた。

「あ、セシル姉。」

「あら、ロイド。」

ロイドに話しかけられたセシルは気付き

「あ………」

少女は声を上げた。

「師長さんからここにいるって聞いてさ。その、お邪魔だったかな?」

「ふふ、大丈夫よ。―――シズクちゃん。いま話してたお兄さんたちよ。クロスベル警察に勤めてる正義のお巡りさんなの。」

「せ、正義のって………」

「さすがにそれは過大評価だと思いますけど………」

「………クスクス。」

セシル達の会話を聞いていた少女は微笑んだ後、自己紹介をした。

「えっと、その………お仕事、お疲れ様です。わたしはシズク………シズク・マクレインっていいます。」

「はは………ありがとう。って、あれ………」

「マクレインって………」

少女―――シズクの言葉を聞いたロイドは苦笑した後、エリィと共に少女の名前に気付き

「んー、どこかで聞いたような。」

ランディは考え込んでいた。

「ふふ、ひょっとしたら面識があるかもしれないわね。シズクちゃんのお父さんはアリオスさんっていうんだけど。」

「ええっ!?」

「”風の剣聖”………」

「あのオッサン、娘がいたのかよ!?」

「それは初耳ね………」

そしてセシルの説明を聞いたロイドとティオは驚き、ランディは信じられない表情で呟き、ルファディエルは意外そうな表情で呟いた。

「えっと………皆さんはお父さんのお知り合いなんですか?」

「い、いやぁ、知り合いというか………前に危ないところを助けてもらったんだけど………」

「ふふ、そうだったんですか。うちのお父さん、無愛想だからお気を悪くされませんでしたか?」

「そ、そんな、とんでもない。こんな偉い人がいるんだなって身が引き締まったっていうか………」

「厳しいけど思いやりがあって、頼りになりそうな方だったわ。ふふ、素敵なお父様ね。」

「え、えへへ………ありがとうございます。」

「うふふ、シズクちゃんはお父さんっ子だものねぇ。そのくせ、お父さんが訪ねても遠慮してあんまり甘えないし……『お父さん大好き!』とか言って抱きついちゃえばいいのに。」

ロイド達の話を聞き恥ずかしがっているシズクを見たセシルは微笑んだ後からかった。

「セ、セシルさんったらぁ………」

「はは…………」

セシルのからかいに顔を赤らめているシズクを見たロイドは微笑ましそうに見つめ

(あの凄腕のオッサンが娘に甘えられてる構図か………)

(少し想像しにくいですね………)

ランディとティオは小声で会話をしていた。

 

「そういえば、例の件なんだけど。実は、ここにいるシズクちゃんが気付いたことがあるらしくって。」

「気付いた事………?」

「えっと、その………リットンさんが襲われた晩のことなんですけど。わたし、眠れなかったから点字の本を読んでいて………その時、悲鳴みたいなのが聞こえてきたんです。」

「本当かい………?」

「それで………どうしたの?」

シズクの話を聞いたロイドは真剣な表情にし、エリィは尋ねた。

「その、気になったのでそこの窓を開けて耳を澄ませたんですけど………それ以上、悲鳴は聞こえなくてかわりにハッハッハッて息づかいみたいな音が聞こえて………しばらくしたらタンタンって何かはねるような音が聞こえて……えっと………それで終わりです。」

「そっか…………その事は警備隊の人には?」

「その、わたしずっと夢でも見たのかと思ってて………さっきセシルさんから話を聞いて初めてその事だって気づいて……ご、ごめんなさい…………もっと早く言ってれば………」

ロイドに質問されたシズクは答えた後申し訳なさそうな表情をした。

「いや、いいんだよ。」

「ありがとう、教えてくれて。」

「しかし………屋上での調査を完全に裏付ける証言ですね。」

「ああ、最初の悲鳴ってのがあの研修医が気絶した時…………そして、狼型魔獣の息遣いとあの木箱やらに飛び乗って逃げていった時の音みたいだな。」

シズクの話を聞いたティオとランディはそれぞれ頷いた。

「そ、それと………その、わたしの空耳かもしれないですけど……」

「………いいよ。気になった事は何でも言ってみて。」

「その………さっき話した音が聞こえてくる最中なんですけど……なにか………キーンってかすれた音が聞こえたような気がしたんです。

「キーンとかすれた音……」

「ふむ、特定の魔獣が発する、独自の鳴き声かなんかか…………」

「気になる話ね。」

シズクの話を聞いたティオは話の内容を繰り返し、ランディとルファディエルは考え込んでいた。

「その音は、普段は聞こえないのね?」

「はい…………あの晩だけだと思います。その……やっぱりわたしの空耳の可能性もあるかも…………」

「いや………貴重な証言、ありがとう。―――セシル姉。色々とわかったことがあるから一通り報告させてもらうよ。」

「うん、わかったわ。それじゃあシズクちゃん。また夕食の時に来るわね。」

「はい。お仕事頑張って下さい。ロイドさんたちも…………調査、頑張ってくださいね。」

「うん、ありがとう。」

「また、来るわね。」

そしてロイド達はセシルと共に病室を出た。

 

「セシル姉。その、彼女は……」

「うん…………数年前の事故で目の光をね。でも、まったく回復の見込みがないわけじゃないの。少しずつ回復治療を受けながら療養生活をしているのよ。」

「そうだったのか…………」

セシルの説明を聞いたロイドは重々しく頷き

「その……………他にも治療法はないのですか?」

ティオはセシルから視線を外して尋ねた。

「他の治療法………?」

ティオの話を聞いたエリィは首を傾げ

「はい。…………例えば治癒魔術とかです。治癒が専門の異世界の宗教ならシズクさんの目の光を治すことも可能なのでは?」

「あ………!」

「なるほど………癒しが専門のイーリュン教ならありえそうだな。」

ティオの説明を聞き、ロイドは声を上げ、ランディは納得した表情で頷いた。

「う~ん……実はその案も出て、イーリュン教に依頼して治癒魔術ができる方にお願いした事もあったんだけど…………相当の力を持つ術者でなければ、治す事は難しいって言われてね………」

一方セシルは考え込んだ後、複雑そうな表情で答えた。

「そんなに難しいのか………」

セシルの答えを聞いたロイドは驚き

「………セシル。確か貴女、イーリュン教の信者で治癒魔術が使えたはずよね?貴女でも無理だったのかしら?」

「え…………」

「セシルさん、イーリュン教の信者だったんですか?」

一方考え込んでいたルファディエルは尋ね、それを聞いたティオは驚き、エリィは意外そうな表情で尋ねた。

「ええ。………最も、治癒魔術を使えるようになったのは最近だけどね………それと私も試してみたけど無理だったわ。病院が呼んだイーリュン教の方も言っていたけど………他の種族と比べて魔術師としての才能がよほど恵まれている人以外、魔力が低い”人間”では失明した眼に光を宿す事は難しいと言っていたわ。」

「そうか………あ。じゃあ、”天使”のルファ姉なら可能なんじゃ………!?」

セシルの話を聞いたロイドはある事に気付いてルファディエルに視線を向けたが

「それは止めておいた方がいいわ、ロイド。私は失明した眼の治療方法はわからない上第一、治癒魔術は専門ではないわ。………確かに毒や混乱を治癒する治癒魔術を扱えるけど、それとはまた話が別になるわ。それに専門でもない者が手を出す事は危険よ。」

「そっか…………」

ルファディエルの答えを聞き、残念そうな表情で答えた。

「しかし”人間”以外となるとやっぱりあれッスか?”闇夜の眷属”でないと駄目なんッスかね?”闇夜の眷属”かつイーリュン教のシスターなんて条件の人、いないような気がするんッスけど………」

「――――いえ、一人いるわ。ゼムリア大陸のイーリュン教の神官長を務めておられるティア様ならその条件に当てはまるわ。」

そしてランディが呟いた言葉を聞いたセシルは真剣な表情で答えた。

「そういえば………”癒しの聖女”―――ティア様は”闇夜の眷属”であり、眷属の中でも”最強”を誇る”魔神”の血を引くリウイ陛下のご息女でしたね…………あの方にも”魔神”の血が流れているのですから、術者として相当の力をお持ちなのでしょうね。」

「へ~………そうだったのか。それにしてもまさか”ゼムリア二大聖女”の両方がメンフィル帝国の皇室関係者だったなんてな。確か”闇の聖女”も皇室関係者だったろ?」

セシルの話を補足したエリィの説明を聞いたランディは意外そうな表情をした後、ロイド達に確認した。

「ああ。”闇の聖女”は”英雄王”の側室の一人のはずだ。それで話を戻すけど、その話を聞いて”癒しの聖女”は呼べなかったの?」

「ええ、残念ながら。あの方は世界中を周って傷ついた人達を癒している上、メンフィル皇女でもあるから祖国の大切な行事に参加する義務もある人でね………スケジュールが埋まっていて、こちらに来る余裕は今の所、ないそうなのよ………」

「そっか…………」

「まあ、宗教のトップなんだから忙しいのは当たり前だよな。」

「………………………」

「………………………」

複雑そうな表情で語るセシルの話を聞いたロイドは残念そうな表情で溜息を吐き、ランディは納得した様子で頷き、エリィは複雑そうな表情で考え込み、ティオは黙ってセシルを見つめていた。

「ふふ………シズクちゃんはとっても健気な子でね。お父さんが忙しい人だから滅多に会えずに寂しいでしょうにわざと明るく振る舞って…………貴方達も良かったら今後とも仲良くしてあげてね?」

「ああ………喜んで。」

「そうですね。とっても良い子みたいですし。」

「……ですね。」

「俺の素敵トークであの子を笑顔にしてやりますよ。」

「ふふ、ありがとう。さてと………何かわかったんでしょう?改めて聞かせてもらえるかしら?」

ロイド達の答えを聞いたセシルは微笑んだ後、ロイド達に尋ね、ロイド達は自分達の推理をセシルに説明し、魔獣達が入り込んだと思われる場所にセシルと共に向かった。

 

「なるほど………ここから魔獣が入り込んだのね。」

「魔獣が何故入り込んだかそこまではわかっていないけど……何らかの対応策はとった方がいいとは思う。」

「そうね、急ごしらえにはなってしまうと思うけど…………魔獣除けのフェンスくらいなら増設できるかもしれないわ。」

ロイドの助言を聞いたセシルは考え込みながら答えた。

「ああ、それだけでもかなり違いがあるッスよ。」

「それなりの強度で可動式のものが必要ですが………この病院にそんな設備が?」

「ええ、確か野外治療用の設備でそういったものがあったはずよ。事務長さんに相談して設置してもらいましょう。」

 

その後魔獣が入り込んだと思われる場所にはフェンスが設備され始め、ロイド達はセシルに見送られようとしていた…………

 

 

 

今回もメンフィル陣営の話がチラリと出てきました♪それとセシルはイーリュン信者というオリジナル設定です♪しかも治癒魔術が使用可能!(まあ、あのキャラの生まれ変わりですし。)………感想お待ちしております。


 
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