No.590407

ユキノシタ(戦国BSR/佐幸ほぼ真田主従)

ようやくHPの拍手駄文を入れ替えたので、古い方を投下。捏造十勇士普通にいます。ユキノシタの花言葉は博愛・切実な愛情。他もあるでしょうが当方これで。夏コミは委託で新刊佐幸を目標にしつつ、マイブーム家幸も狙ってるという無茶ぶりなので、短文を合間に出せたら理想。

2013-06-23 14:51:31 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:2589   閲覧ユーザー数:2589

 躊躇いが生死を分ける。

 

 旦那と俺様。満身創痍で敵に囲まれては、もはや手段は1つしかない。運良く森からは抜け出せたから、旦那の異能を遠慮なく使える。

 

 真田忍隊の長を務め、真田幸村の背中を預かる身であるにも関わらず、俺様にここを脱出出来るだけの余力はほとんど無い。

 

 足でまといでしかないのを置き去りに出来ない人に、せめて、抱いている迷いを振り払ってやった。

 

「任せたぜ旦那、景気良く頼むよ」

 

「しかしっ」

 

 生死を分ける場面でも尚躊躇う声を背中で聞くが、お互い限界なのも、互いに痛感している。

 

 俺様にとっては、ここで真田幸村を死なせない事。それが絶対的理由であり、躊躇う必要のない事実。

ましてや旦那の異能は、旦那自身を傷つけない。

 

 だから、だ。

 

「生きて、お館様の所に戻るんだろ」

 

 できうる限りの力で口角を上げた。背中を付けたままでは見れる筈もないけど、それなりに通じたらしい。

 

 チャキッという、刃の溢れた槍を構え直す音が、主の決意を伝える。

 

「共にだぞっ」

 

 背後から上がる炎に身を委ねるのは、存外悪くなかった。

 

 

 

      □ □ □ □ 

 

 

 

 結論から言えば、2人で生きて帰れたのは重畳だ。後に鎌之助と才蔵とも合流できた。

 

 火傷以外の傷を負った旦那は、すぐに城に常駐している医師に預ける。

 

 俺様は怪我の上から火傷までしたけれど、動ける間は仕事をしなければいけない。俺様ってほんと働き者だよね。

自画自賛しようとしていた所に、旦那の「佐助!お前の方が酷い怪我をしておるのだぞ!お前こそすぐに!その怪我に薬でもなんでも良いから処置をしろ!」という主の命が響いた。

大怪我している人とは思えぬ元気さで安心したけど。

 

 すぐ傍にいた医師はといえば、普通なら鼓膜の一枚や二枚破れても可笑しくないのに平然と笑っていた。

 

 さすが先代城主である昌幸様の代から居るじーさんだ。鼓膜まで鍛えられるのか。

もれなく旦那の声を聞いた下忍たちの、全く隠さない、俺様に対して遠慮する気配は笑って流せた。しかし勇士連中は無理だった。

 

 嫌々ながら俺様の襟首捕まえた才蔵と、喜々として俺様の腕を掴む鎌之助に、忍び屋敷へと連行された。

 

 仕方なく、本当に仕方なく、旦那の言葉に甘えさせてもらう事になり、こうして手当をしている。とはいえ。忍び屋敷で先に部下からの報告をきっちり受けた後だけど。

 

 すると、こちらの様子をただ眺めていた鎌之助が、横槍を入れてきた。

 

「長、薬草使い過ぎちゃうか。俺らには普段からケチれって言うくせに」

 

「鎌、口調」

 

「まあまあ、そないな格好で睨まれても、迫力ありませんぜ」

 

 何が楽しいのか、いつもより態度があけすけない。いや、逆だな、これは。

 

「分かってるって、今回のは自業自得だって事は」

 

 溜め息混じりに先手を打てば、益々笑みが深くなった。口八丁手八丁で生き延びてきた鎌之助は、顔と腹の中が反比例するらしい。

 

「長にしては殊勝な事を言いやすねえ。いつもなら思ってても黙ってるってえのに」

 

「ま、生きて帰ってこれたからな」

 

 こいつは怒っている。俺様が旦那を守りきれなかった事を。その旦那が怪我を負っている事を。あと、まんまと旦那に助けられる形で、俺様が帰ってきている事を。

 

 そして何より、その場に居られなかった不甲斐ない自分に。

 

 もっとこうなる前に取るべき手段があった筈なのに。立てた戦略も、その場で下した判断も間違ってない。だが結果は間違いであると晒した。

 

 戦場は死場ではあるが、読むべき風は生きている。そこを見誤ったのだ。

 

 俺様のこれは、受けるべき痛み。

 

 黙々と治療をしていると、奥から小助がやってきた。

 

「我らは間に合いませんでした。結果論ではありますが、幸村様が無事にお戻りになられたのが何よりです」

 

 色んな感情を押し隠し、手に持つ湯のみをこちらに渡す。茶の臭いからして、滋養に効く薬草を煎じた物と分かる。

 

「長、背中は良いのですか?よろしければ手伝いますが」

 

「小助ちゃんは優しいなあ。でもこっちは大丈夫。旦那の背中にくっつけてたからかねえ」

 

 小助の気遣う素振りに既視感を覚え、思わず口元が緩んでしまった。ほんと小助って旦那より小柄で年も下なのに、似るの上手になったなあ。

 

「長、気持ち悪い」

 

「鎌、後で忍び屋敷の裏な」

 

 目で威嚇すると、分の悪さから鎌之助は逃げた。

 

「逃げ切れると思うなよ」と零しながら、小助が持ってきてくれた茶を飲み干す。

 

「でも思い出し笑いは本当に気持ち悪いので、止めて下さいね」

 

「小助……おまえ旦那の顔で容赦の無い事を」

 

 しかも笑顔という所が怖い。このままでは大いなる誤解を受けるので、仕方なく言い訳めいた説明をする。

 

「ちょっと弁丸様の頃とか、色々思い出しちゃって」

 

「それは尚更変態だぞ」

 

 弁丸様の名前が出た途端に表に出る才蔵も、十分変態だと思うが、そこは情けで黙っておく。

 

「あの、長、幸村様と以前、何かあったのですか」

 

 小助も気になるのか、素直に聞き返してきた。

 

「ああ、うん。弁丸様の頃なんだけど、力をうまく抑えられない時があったんだよ。それでまあ、火事になったり、ねえ」

 

「そうなのですか」

 

 火事と言えば大事に聞こえるが、ほとんどがボヤ騒ぎで済んでいる。そこは真田忍隊や、当時いた勇士の海野や望月、甚八の連携は見事だった。

 

 問題は、起こってしまった後なんだけど。

 

「当人には一切発火しないもんだから、かえって傷ついちゃって。大変だったなあ色々。俺様達は弁丸様が無事なら、それで良いのに」

 

 同意を促した訳でもないのに、才蔵が気配だけ頷いた。見た目は一切変わらないのが、らしいといえば、らしいが。

 

「で、弁丸様付だった俺様は、そん時に何度か弁丸様を守る為に火傷したんだけど。これまた、そんな俺様見て自分を責めちゃって」

 

「貴様が不甲斐ないだけだろ」

 

「うるさい」

 

「確かに不甲斐ないですね」

 

「小助ぇ」

 

 才蔵はともかく、普段は従順な小助は、本当に旦那が関わる事だけは容赦ない。

 

 駄目だ話が脱線する。別に始めたくはなかった話題だけど、脱線してしまうのは問題だ。

 

「あん時の火傷の痕は目立つ箇所には残ってないし、あっても上から付いた傷で分からないから良いの」

 

 論点がずれた解釈だが、軌道修正にはなったので良しとする。

 

「でまあ治療として、このユキノシタを主に使ってた訳よ」

 

 ユキノシタとは、5弁の花をつける植物で、細長い茎の下に、円形に近い葉を付けている。雪の上につもっても、その下に緑の葉があるから、雪の下と名付けられたと聞いた。嘘か本当かはどうでも良い。

 

 俺たちは、赤みを帯びているその葉を炙り、腫れものなどの消炎に使っている。凍傷や火傷といった生薬だけでなく、茹でて水に晒せば食用にもなる。

どんな理由でかは忘れたが、その葉の名前と用途を俺様は教えた。それを弁丸様は覚えていて、俺様に、いくつもの葉を抱えて差し出した日を思い出す。

 

―これがあれば、佐助はいたくなくなるのであろう?

 

 小さな手にぎゅっと大事そうに握られている物は、まごうことなきユキノシタの葉たち。

 

 余程夢中になっていたのか、弁丸様は髪を乱し、手だけでなく、足元から袖までも土で汚れていた。彼が自ら薬草を摘みに山へ行ったのは明白だった。

たかだか忍の他愛ない怪我1つの為に、この御人は、そんな事をしていたのか。しかもこんな場所にまで来ちゃって。

 

 俺は憂いの感情を弁丸様に、苛立ちは側に付いていた望月に向けた。

 

 どうして止めなかったと言ってやりたかったが、察した相手から微苦笑で返される。

 

 無言のやり取りをどう感じたのか、弁丸様は首を傾げて口を尖らせた。

―む、ちがうのか?それとも、たりぬのか?ならばまたとってくるぞっ。

 

 持っている葉を抱えたまま、すぐに忍屋敷を出ていこうとするのを2人で止めたのも、今や愛しい思い出となっている。

 

「受け取ろうとしたら、自分が手当する、手伝うからやり方を教えろって聞かなくってさ」

 

 むしろ治療の時の方が騒がしくて大変だったと、未だにため息をつかせる光景だ。

 

 しかし俺様の何が駄目だったのか、聞かせろと迫った2人の空気がすっかり冷えていた。

 

「佐助、今すぐ死ね」

 

「思い出し笑いはむっつりと言いますよね、才蔵さん」

 

 才蔵は相変わらずの無表情で、小助は穏やかな笑みをしている。対照的な態度なのに、纏う殺気は同じ。

 

 間違いない、この覚えのある2人の気配は、当時も味わった物。

 

「お前ら、過去の俺様に嫉妬するな」

 

 現在進行系だ、という無言の圧力を感じつつも無視をきめこむ。

 

 この忍ばなさ具合どうなのよ、と呆れている空気を切り裂くように、強すぎる気配がこちらに近づいてきた。

 

 勿論、2人も気配の正体に気付く。

 

「幸村様と……望月さんですね」

 

 走って向かってくる旦那の後ろから、望月が、ピタッと寄り添う形で付き従っている。

 

「旦那、元気だなあ」

 

 満身創痍で戻ったのは幻だったのだろうか。そうこうしてる間に、忍屋敷の戸板がスパンッと景気良い音を立てて開けられた。

 

「佐助!」

 

 戸は叫んだ旦那ではなく、望月の手によってだった。お前は何の合いの手をしているんだ。ここは草が居る所で、旦那みたいな身分のある人が来る所じゃないって知っているだろ。

ため息を隠さず、望月をひと睨みしてから旦那に視線を移す。どうしてお前は、旦那をここへ連れてこさせるんだと。

 

 その旦那の両手には、あの懐かしきユキノシタがいくつも握られていた。今、俺様の体にも使われているそれ。

 

「旦那、それ……」

 

「ああ」

 

 俺様が指摘すると、真田の旦那は笑顔で俺に全部差し出した。

 

「これを使うのだろう?遠慮なく使えっ」

 

 ああ、年月を重ねたというのに、その変わらぬ心よ。

 

 手も袴も汚れてはいない。今の主の体からは薬の臭いがし、真新しい包帯が僅かに見える肌を覆っている。

 

 ならばこれはどこからと思っていると、望月が既視感のある微苦笑をした。

 

 なるほど、今回は望月が取りに行ったらしい。大方、自分で行くと聞かなかったのを、妥協させたのだ。

 

 変わらぬ行動から、いつの間にかこの御仁は、己の異能で傷つけた者に対し、この草を探す癖が付いていたと気付く。

 

 旦那にはこれ以外の薬草も教えてある。間違えて毒草に触れたり食したりさせない為だ。つまりは他草の効能も知っているのだから、ユキノシタである必要はない。

 

 促されるまま、主の手から草を受け取る。

 

「ねえ、旦那はこれに、何かまじないでもかけてるの?」

 

「何だ、これはそんな面妖な物にも使うのか」

 

「いや、そうじゃなくって」

 

 手の中にある葉を見下ろし、これ使うの勿体無いと思いながら、どう言えば伝わるかを思案する。

 

 そういえば、あの時弁丸様が持ってきてくれた葉も、中々使えなかったなあ。結局枯れるよりはと、大事に使ったっけ。

 

「いくら火傷で使うって言ったけど、ユキノシタばっかりだから。これ限定で、何かあるのかなって」 

 

 真田の旦那は俺様の質問全体ではなく、ユキノシタという名前にだけ反応した。

 

「ユキノシタ?はて、そのような名であったか。俺は虎耳草(こじそう)と言うと、お前から聞いた筈だが。お館様の名がついた物だ、効果は抜群だぞっ」

 

 己の誉れのように、お館様の名を出す。

 

 いや、それは、民間薬として、補足で言った名前だわ。

 

 つまりは、あの頃から敬愛する甲斐の虎が、治してくれると思っていた訳ね。

 

「ほんと、あんたって人は……」

 

 思わず脱力してしまった。

 

「佐助?」

 

 むしろ俺様にとっては、あんた(ユキ)の手(シタ)から渡されるからこそ、癒されてきたってのに。

 

 ほんと、どれだけ変わらないんだよ、この主。

 

 それにさ、今やあんたは甲斐の若虎とも呼ばれてるじゃない。

 

 だったらやっぱり、これは旦那だからの効果だよ。

 

「うん、有難う」

 

 素直に礼を言えば、真田の旦那は嬉しそうに笑ってくれた。

 

 あんたは本当、忍である俺に、色んな物を与えてくれるね。

 

 ユキノシタの葉を握りしめ、この胸に実る言葉を教えられる。それはとても、人としては愛しく、草としては恐ろしい物。

 

 旦那でなきゃ、知りもしなかったよ。

 

 情愛、なんてさ。


 
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