episode183 表れ出した症状
秘密ドックから出発して数日後――――
「やっぱり、結構精神的に彼女追い詰められているんだ」
「あぁ」
隼人とユニコーンは休憩室で紙コップに入れたコーヒーを飲みながら話していた。
「私個人の意見だと、このまま彼女を戦わせるのは賛成しかねないね」
「・・・・」
「どう抗っても、彼女が感情的になってしまうのは避けられないかもしれない。
そんな状態で戦うのは相手側の思うつぼ。自殺行為に等しいよ」
「・・・かもな」
隼人はコーヒーを一口飲む。
「別に嫌味の意味で言うわけじゃ無いけど、そういう所じゃ人間って脆弱だよね」
「脆弱、か」
「それで、彼女の機体はどうするの?」
「問題はそこなんだ。
あの状態では修復に時間が掛かる。一層の事改装した方が早いんだろうが・・・改装しても今の楯無さんに渡せないな」
「・・・・」
「もし仮に楯無さんの気持ちに整理がついても、ゴールドフレーム天が楯無さんと適合率が低いって言うのが前回の戦いで判明したからな」
「適合率ねぇ」
「最初は良かったんだが、今になって元ミステリアス・レイディのコアとゴールドフレーム天の相性が悪くなっている」
「・・・・」
「できるのなら、楯無さんの力になってやりたいけど・・・」
と、表情に少し影が差す。
「まぁ、複雑だよね」
ユニコーンは隼人の気持ちを察した。
「彼女の気持ちを尊重するか、それとも否定するか」
「・・・・」
「尊重して、またあんな状態になって戦い、それで死ぬ事になってしまったら」
「・・・・」
「逆に否定しても、彼女の気持ちを歪ませる事になりうる。最も、止めても無理かもしれないけどね」
「・・・・」
「どっちにしても、結果は悪い方向に行くかもしれない」
「・・・そうだな――――」
すると一瞬表情が歪む。
「どうしたの、隼人君?」
僅かな変化もユニコーンは見逃さなかった。
「い、いや、何でもない」
何とか平然を装うと、空になった紙コップをゴミ箱に捨てて部屋を出る。
「・・・・」
その後ろ姿にユニコーンは目を細める。
(・・・まさか――――)
「・・・・」
隼人は少しふらつきながら通路を歩いていた。
「・・・うっ!」
突然何かが遡ってきてとっさに右手を口に当てると、直後に咳き込む。
「・・・・」
少しして右手を退かして当てていた面を見ると、掌に血が付着していた。
(くそ・・・こんな時に・・・)
舌打ちをするとポケットよりハンカチを取り出し、掌に付いている血を拭き取り、口元に付着している血も吹き取る。
(・・・やっぱり・・・来てしまったか)
この症状に思い当たる節はある。
バンシィ・ノルンのデストロイモードやエクセリオン・ゼロの各フォームのチェンジと使用、更にアルティメット・ゼロ等の酷使によって生じた負担はいつまでも表に出て影響を出さないわけが無い。
(いつかは来る。分かっていた事だが・・・こうも早く来るとは・・・)
細かくハンカチを折り畳んでポケットに戻す。
『隼人』
と、後ろよりリインフォースが近付いてきた。
「っ!」
隼人は少しビクッとするが、平然を装って振り返る。
「な、何か用か?」
『あ、いえ。こんな所で立ち止まって何をしているのか気になって』
「そ、そうか。別に何も無い。ただ考え事をしていただけだ」
『そう・・・ですか?なら、いいんですが・・・』
リインフォースは特に深く聞こうとはしなかった。
「まぁ、そういう事だ」
隼人は少し早くその場より立ち去る。
『・・・・』
隼人の姿が見えなくなってから、リインフォースは少し表情を暗くする。
あの時は隼人の事を想って何も言わなかったが、ある事に気付いていた。
(やはり・・・今までの戦いで溜まった負担が・・・)
それは隼人の口元に僅かに残った血であり、一瞬だったが右手にも血が付着していたのも目撃していた。
『・・・隼人』
場所は変わって艦長
室。
「魔の三角海域、か」
アーロンは深く息をゆっくりと吐くと、イスの背もたれにもたれかかる。
「あの辺りの海域をどっかの国の人工衛星をハッキングして見てみたけど、あの辺りに嵐が起きているみたい」
「嵐か」
「まぁこのネェル・アーガマに問題は無いけど・・・」
「・・・・」
「やっぱり、少し怖い?」
と、束は少し不安そうな表情を浮かべ、アーロンに聞く。
「あぁ。あんな化け物と戦って瀕死の重傷を受けたのなら、尚更だ」
「・・・・」
「だが、またやつと戦う事になれば、今度こそ勝つ」
「アーロン」
「それに、今回は仲間が居る。以前の様にはいかんさ」
「そうだと、いいんだけど・・・」
「しかし、連中も恐らくやつの妨害を受けている所だろうな」
「かもしれないね。でも、分からない事もあるよね」
「・・・そうだな。なぜあそこに連中が拘っているのか、それが分からんな」
「確かに。南極のGシステム78の様に、あそこにバインドに関する遺跡があるのかな?」
「もしくはあそこに何かが隠されているか、そのどちらかだな」
「・・・・」
「そういえば、最近ヴィヴィオの様子はどうだ?」
「うん。最近は笑顔が増えているみたい。それにはっくんの事を最近『お父さん』って呼んでいるし」
「父親、か」
「最初は少し面倒くさそうにしていたけど、やっぱりはっくんは与えられた事をちゃんとこなしているみたい」
「そうか」
「でも、同時に少し気になる事もあるんだ」
「・・・・?」
と、束の表情に影が差す。
「以前ヴィヴィオちゃんより妙なエネルギーが検知されていたって言ったよね」
「あぁ。それがどうしたんだ?」
「・・・そのエネルギーが・・・最近になって増えていっているの」
「なに?」
アーロンは眉を顰める。
「エネルギーが増えていても、ヴィヴィオちゃんの身体に特にこれといった変化は無いんだけど・・・」
「・・・・」
「ただ、大西洋に近付くにつれて増えている気がする」
「・・・大西洋に近付いていると、エネルギーが上昇している」
アーロンは顎に手を当てる。
「この事は隼人に伝えているのか?」
「エネルギーが検知されている事は伝えているけど、まだ上昇している事はまだ伝えてない。
近い内に伝えようと思ってる」
「そうか・・・」
『マスター!』
と、ブリッジに居るフィアより通信が入る。
その声には緊張味があった。
「どうした?」
『すぐにブリッジに来てください!』
その慌てた様子から、アーロンはただならぬ事態であると感じ取る。
「分かった。すぐに行く」
そうしてアーロンと束はすぐに艦長室を出てブリッジに向かう。
少しして二人はブリッジに入る。
「一体何が起きている?」
「あれをご覧ください」
と、フェイがブリッジの窓の上にあるスクリーンを表示させる。
「あれは・・・」
「・・・・」
スクリーンには、一体の機体が映っていた。
「あの時・・・ちーちゃんときーくんに戦いを挑んだ・・・」
「・・・・」
「十二時の方向。推測で数百メートル先の上空で静止しています」
「確認してからずっと止まったままです」
「・・・どういう事だ」
「襲撃が目的・・・じゃない?」
「・・・・」
「先ほどあの機体より、光通信を受けています」
「内容は?」
「・・・『織斑一夏を出せ。下手な行動を起こすのなら容赦なく落とす』との事です」
「いっくんを?」
「なぜ一夏を・・・」
二人は怪訝な表情を浮かべる。
「十分経っても要求が呑まなければ攻撃を開始するとも言っていました。後五分です」
「・・・・」
「ちーちゃんときーくんの次はいっくんを・・・」
警戒した目でスクリーンに映るフリーダムを見る。
「・・・・」
「どうする、アーロン?」
「・・・・」
アーロンは静かに唸る。
「ここで時間をロストするのは避けたいが、攻撃を受けると大西洋での戦いに支障をきたすな」
「・・・・」
「やも得ない。一夏に出撃させろ」
「本気なの?」
少し驚いた様子で束が聞き返してくる。
「もしもの事がある。千冬と輝春、それと隼人にもいつでも出撃が出来るように伝達しろ」
「了解しました」
フェイはすぐに艦内放送を掛ける。
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トラックに轢かれそうになった女の子を助けて俺はお陀仏になった・・・。・・・って!それが本来の死じゃなくて、神様のミスで!?呆れている俺に、その神様がお詫びとして他の世界に転生させてくれると言うことらしい・・・。そして俺は『インフィニットストラトス』の世界に転生し、黒獅子と呼ばれるISと共にその世界で戦うぜ!