No.590214

ガールズ&パンツァー ガール・ミーツ・パンツァー 前編

tkさん

武部沙織さんの誕生日記念話。続きは近いうちにでも。………もちろんアンチョビさんも好きですよ?

2013-06-22 23:34:58 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:1123   閲覧ユーザー数:1099

 私の名前は武部沙織。

 大洗女史学園戦車道、あんこうチームの通信手だよっ!

 ちなみに彼氏も募集中! 私、結構尽くすタイプなんだから!

 

「………うん。大丈夫、だよね」

 そんな私なんだけど、今はちょっと困ってるの。

 とりあえず自分の事はちゃんと分かるんだけど。

「…ここ、どこ?」

 目の前に広がるのはとんでもなく大きな川。

 最初は海かもしれないと思ったけど、泳ぐ事すら難しそうなくらいに流れが速いの。

 しかも辺りは深い霧が出てるから、少し先の景色すら分かんない。

「っていうか、なんでここに?」

 そう。本当に困ってるのは、自分がなんでこんな所にいるのか憶えてないって事なんだよね。

「えーっと。今日は朝の占いでウルトララッキーだっていうから気合入れて化粧して…」

 そうそう、それでいつもより登校が遅れて麻子を担いでくハメになって。

「お昼を皆で食べて…」

 相変わらず華の食べっぷりがとんでもない事に軽くため息をついて。

 まったく、年頃の女の子が摂るべきカロリーをさらりと無視してるのよね華は。

「…で、どうなったっけ?」

 放課後に戦車道の練習を始めた所までは憶えてるけど、その先が思い出せない。

 おかしいなぁ。なんでそれがこんな所に繋がるんだろ。

「ほんっとうに大きいよね…」

 この学園艦にこんな大きな川原があったなんて知らなかったけど、会長が趣味で作ったのかな。あの人、いつもは怠けてるけどやる時は徹底してやる人だし。

「いつまでもこんな所に居ても仕方ないよね」

 用もないし、さっさと帰らないと。

 もしかしたらみぽりん達が探してるかもしれないし。

 

「ひとーつ積んでは母校のため、ふたーつ積んでは部下のため…」

 

「ん?」

 ふと気がついたら、近くで川原の石を積んでいる人がいたよ。

 あれ? あの特徴的なツインテール、どこかで見たことあるような…

「もしかして、アンチョビさん!?」

「………む。ああ、お前は大洗の」

 振り向いたアンチョビさんはなんか元気がないし、目も虚ろだけど大丈夫かな?

 前に会ったときはもっとしゃんとしてたと思うんだけど。

「あのー、ここってどこだか分かります?」

「なんだ、知らずに来たのか?」

 やれやれ、と力なくため息をついたアンチョビさんに少しむっとしたけど、我慢我慢。

 ここがどこだか分かれば帰る方法も見つかるよね。

 

「ここは本編で出番を貰えず忘れ去られたキャラの墓場、いわゆる三途の川だな」

「………ええええぇぇぇぇぇっ!?」

 

 どうしよ。

 なんだかとんでもない所に来ちゃったみたいなんだけど。 

 

 

「そんなのおかしいよ! 私、本編でちゃんと出番あったもん!」

 自分でも本編ってなんだろって思うけど、なんとなくここで負けちゃいけないと思ったから反論するよっ!

「ふっ。だが他のメンバーの影に隠れてしまったという事はなかったか?」

「うっ」

 そりゃ私はみぽりんみたいなすっごい作戦を考えたり、ゆかりんみたいに戦車に詳しいわけじゃないし、華や麻子みたいに実際に戦車の操縦をしたわけじゃないけど。

「通信手だって立派な役目でしょ? これでもアマチュア無線の資格とったんだからね!」

 私の役割だってとても重要なものだって皆言ってくれてる。誰にも文句なんて言わせないんだから!

「ほう、それはなかなか大したものだな。ではお前はしっかり活躍していたんだな?」

「もちろんよっ!」

「…妬ましい。登場してから数秒で出番が終わった我々の身の上からすれば貴様は憎悪の対象だな」

 目がこわっ!

 というかアンチョビさんの出番ってそんなに少なかったっけ?

 今回の大会で楽な試合なんて一つもなかったし、アンツィオとも結構いい試合したと思ったんだけど。

「まあいい。この前ドラマCDで出番を得た裏切り者のアッサム程憎いわけではないしな」

「は、はあ…」

 ドラマCDって何?

 アッサムさんて確か聖グロの人だけどなんで裏切り者扱いなの?

 気になるけど、多分聞いちゃいけない事なんだと思うから黙っておくよ。

「ふむ。それでも貴様がここにいるという事は…」

「事は?」

 

「本当に死んだんじゃないのか?」

「う、嘘よーーーーーーっ!?」

 一番聞きたくない言葉だよそれっ!

 つまり何!? 私は『臨死体験なう』って事なのっ!?

 

 私が唖然としていると、霧の向こうから誰かが駆け寄ってきたよ。

「総帥(ドゥーチェ)! ここに居ましたか!」

「カルパッチョ!? 貴様が何故ここ居る?」

 アンツィオの副隊長、カルパッチョさん。しっかり者の頼れるお姉さんだよ。

 汗だくだけどずっと走ってきたのかな? アンチョビさんを見つけて心底ほっとしてるみたい。

「ここからお連れしに来たのです。帰りましょう、皆が待っています」

「何を言う。今さら帰ったところで我々の出番など…」

「OVAです。我々が主役としてOVAの出演が決まったのです!」

 完全に拗ねちゃってるアンチョビさんをカルパッチョさんは肩をつかんで訴える。

 OVAって何って聞くのも…しちゃいけないのかな。

「そ、そんな訳があるか! きっといつものネタだろう!?」

「いいえ、これは公式発表なんです。我々に陽の当たる時が来たんです…!」

「ほ、本当、なのか…?」

「はい。ですから帰りましょう、ドゥーチェ。そして今からでも準備に取り掛かりましょう」

「…ああ、そうだなっ!」

 おおー、アンチョビさんが前みたいなしゃんとした雰囲気に戻ったよ。いい話だよね。

 …私はすっかり置いてけぼりだけど。

「では私は帰る。きっと貴様にも迎えが来るだろうから、それまでのんびり休むといい」

「…ええっと。はい」

 意気揚々と帰っていくアンチョビさんと、それについてくカルパッチョさんの二人を私は見送る事しかできなかったよ。だって、せっかく元気になったアンチョビさんに迷惑をかける事なんて出来ないよね。

 

 

「はぁ。どーしよ」

 それからどれくらい経ったんだろ。

 いくら待っても迎えなんて来ないんだけど。

「まさかこのままって事はないよね…?」

 流石にちょっと怖くなってきたと思ったら、なんだか霧の向こうから地響きが聞こえてきたよ。

 しかもどこかで聞いたような…

「この音って戦車じゃない!?」

 聞き始めたのは最近なのに、すっかり慣れちゃった音。

 しかもこの音って―

 

「私達のⅣ号!?」

 ぎゃりぎゃりと川原の石を蹴散らして、見知ったフォルムが私の目の前に姿を現したよ。

 

 

 後編に続く


 
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