No.58984

帝記・北郷:五~彼方の面影:前之弐~


前之壱の続き。

引き続きオリキャラ注意。

2009-02-19 05:59:21 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:9888   閲覧ユーザー数:7819

『帝記・北郷:五~彼方の面影:前之弐~』

 

 

「あの…どちら様?」

オズオズと尋ねる一刀に、筋肉達磨はニコリと(文字通り)息も止まるような笑みを浮かべ。

「あたしの名前は~貂~っ蝉。しがない踊り子をしている軍師よ」

「ま、まさか君が蒼亀さんが言っていた最後の軍師?っていうか踊り子で軍師ってなんだよ!!」

思わず現状を忘れて叫ぶ一刀。それに対し貂蝉は。

「いや~ん。もう。『君』だなんてよそよそしいわ!貂蝉って呼んで」

一刀の突っ込みを全く聞いていなかった。

何なのだろう目の前の存在はと、一刀は混乱する頭で必死に理解しようとしていた。

こういうしゃべり方をするというだけなら紅燕もそうだが、彼女はなんというか髪を上げた時の容貌も声も華麗という言葉が似合う美女だ。

対して目の前の筋肉の塊は……。

前述のヒモパン。スキンヘッド。三つ編みのもみあげに顎鬚。

どこからどう見ても不審人物だ。というか、よく龍志が軍師に任命したものだと心の底から一刀は思う。

まあ、こうみえてかなりのキレ者なのかもしれないが。

「お兄さんお兄さん」

そんな事を考えていると、トコトコと風がよって来てハンカチを渡した。

「ほっぺたが凄いことになってますよ~」

言われて触ってみると、確かに紅い血がべっとりと頬を濡らしていた。

どうやら、先程の孫策の一撃は思いの他に深く頬を斬っていたようだった。

「ああ、ありがとうな風……っていうか、気にならないんだコレ」

目の前の怪人物を指さしながら一刀は言う。

「気にしたら負けだと思いましたので~」

「なるほど…」

流石は風だと、妙な関心を一刀はした。

「も~う。あたしの前で見せつけちゃって…でもいいの、本当の愛はあらゆる逆境に耐えてこそ輝くもの…これもあたしに課された試練だというのなら、乗り越えてみせるわぁ!!」

と同時に、とりあえずコレは気にしない方向で。

「あ~~なんだかなぁ」

ふと声のした方を見れば、孫策が何とも言えない顔で立っていた。

「な~んか興が冷めちゃったなぁ……今日はもう帰ろっかな」

「帰るって…まだ戦いは続いているじゃないか」

「そんなもの、どう見たって貴方達の勝ちでしょう。見てごらんなさいな」

孫策が指し示す方向を見る。ここは他より地面が高くなっているので結構よく見えた。

戦場の西部では、飛龍隊と風騎兵隊が林騎兵隊と連携して蜀魏の連合軍を突き崩している。蜀の新手が魏蜀軍を援護しに向かっているようだが、田豫隊に牽制されて足止めを食らっている。

中央では、蒼亀が自ら陣頭に立ち山騎兵や一刀が残して来た孫礼と郭淮率いる近衛兵を指揮して猛攻を加えている。どうやら防戦が精一杯で押し返す事が出来ないようだ

そうしてこの辺り、戦場の東側では火騎兵と司馬懿隊によって魏の兵は押されまくり、呉の兵は張遼隊と法正隊ががっちりと食い止めている。

どうやら蜀呉の兵によって戦場は一変するかと思われたが、龍志達別動隊の到着によって結局は蜀呉の兵が来る前の状態に戻り、士気に劣る魏軍が本格的に崩れ始めたようだ。

「おまけに、あなたを討ちとっておしまいってこともできなくなっちゃたみたいだしね」

肩をすくめ貂蝉を見る孫策。

「そんなわけで、これ以上ここで戦ってもどうしようもないわ。今無駄に兵士を失うより、再戦に賭けるべきでしょ?……っていうわけで北郷。今度は命はないからね」

本気なのか冗談なのか(たぶん両方だと一刀は直観で思った)笑いながらそう言う孫策に、一刀も苦笑を浮かべて。

「ああ、その時は俺も今よりも腕を上げとくよ」

「ふふ…楽しみにしているわ。あ、それから祭にもよろしく言っておいて。なんでそっちにいるかは知らないけど……事情があるんだろうし」

最後に祭のことを言う時だけ、孫策の顔に嬉しいような悲しいようなもっと色々あるような複雑な表情が浮かんだ。

もっともそれは一瞬のことだったが。

「じゃ、またね」

そう言って、孫策が踵を返したまさにその時。

「あら、帰ってもらっては困るわ」

「え?」

戦場に似つかわしくない妖艶かつ淫靡な声と共にチクリと首筋に痛みを感じたかと思うや、孫策は全身の力が抜けたかのようにその場に崩れ落ちた。

「え…?あれ?」

どうして自分がそうなったのか解らず?引き攣った笑みを浮かべる孫策の耳に、再びあの声が響く。

「ごめんなさいね…不意打ちと騙し討ちは私の特技なの」

そして再びチクリと首筋に痛みを感じた直後、孫策の意識は急激に暗くなる……。

「つ、躑躅!!どういうことだ!?」

戸惑う一刀の声に、なぜか安堵を覚えながら。

 

 

丘の上の蜀軍本陣。

ここで、蜀の王・劉備は落ち着きなく戦場を見ている。

始めに出陣した関羽隊、趙雲隊。さらに次に出陣した張飛隊、魏延隊は敵中に孤立し、かろうじて関羽と趙雲は脱出したが関羽は深手を負っていた。

聞くと、反乱軍の将・龍志と刃を交えるも太刀打ちできずに張飛隊の援護のもとに何とか戻って来たとのこと。

関羽を治療のために下がらせた後、戦い続ける張飛隊と魏延隊を救出すべく馬岱隊を出したが田豫隊に阻まれそれも叶わず、再編した趙雲隊を迂回させるも、今度は何時の間にか呉との戦線から戻って来ていた法正の伏兵に阻まれあげく、趙雲が矢傷を負わされる有様。

最終的に劉備が出ようとするのを諸葛亮が何とかなだめて本来なら劉備隊の隣にいるはずの呂布隊と陳宮隊を出陣させた。

武神・呂布の出撃にさしもの敵も包囲を崩し、張飛隊と魏延隊は帰還に成功するも二人とも手傷を負っていた。

聞くと、張飛は龍志と十数合渡り合うも最終的に腕を負傷し、魏延は華雄に自慢の金棒を弾き飛ばされ同じく腕に深手を負ったとのこと。

そして現在、今度は殿を務めていた呂布が龍志の追撃に捕まり、二人は熾烈な一騎討ちを演じているという。

武神と軍神の一騎討ちは熾烈を極め、両軍ともに固唾を飲んで成り行きを見つめている。

誰かを助けに出したいのだが、連れてきた武将は馬岱を除いて龍志とその配下に少なからぬ手傷を負わされ、黄忠や厳顔といった弓達者達や馬超、公孫賛は本国の守備を任せており戦場にいない(袁家の皆さんは言わずもがな)。

「恋ちゃん…大丈夫かな?」

劉備は不安げに呟く。

呂布の強さは知っているが、相手は関羽と張飛を退け今まで天下無双の名を欲しいままにしてきた(別に本人は望んでいないが)呂布と対等に渡り合っているのだ。

言わば、三国鼎立前の戦乱の中でもいなかった未知数の武将なのである。

「………」

劉備は視線を、傍らにある木箱に移した。

先程、李斯と名乗る魏の武将が現れ置いて行った者だ。

中には、弓と矢が一つずつ収められている。

曰く、この矢に撃ち手の名を刻み、強い思いと共に対象を狙えば必ず当たるという呪具らしい。

どうしてそのようなものを自分に持って来たのかと劉備が訊こうとすると、すでに彼は消えていた。

そのままこうしてここに置いていたのだが……。

再び劉備は戦場を見る。

呂布と龍志の一騎討ちは苛烈さを増し、いつ終わるともしれない。

その向こうでは、青息吐息の曹操軍が撤退を始めている。

「………」

しばらく劉備は目を伏せていたが、やがて決意を固めたような表情で顔を上げると、足もとの箱を開けた。

黒く塗られた弓と矢が入っている。

そのまがまがしい雰囲気に劉備は一瞬怯んだが、迷いを振り払うように頭を振ると矢を手に取り小刀で劉備と名を刻んだ。

そうして弓に名をつがえると、呂布と戦う龍志を狙う。

本来ならば彼女でなくとも当てることはおろか、飛ばすこともできないような距離。

しかし、一縷の望みをかけて彼女は渾身の力で弓を引く。

(お願い…あなただけが頼りなの……この戦を終わらせるために力を貸して!!)

そして彼女が矢を放たんとしたまさにその時。

バキャ!!

「きゃあ!!」

突如、頑丈そうに見えた弓が音をたてて折れた。

それと同時に、矢はあらぬ方向へ飛んで行く。

だがそれは事故により放たれた矢の速度ではない。

矢は、鈍い青光を発しながら飛んで行く。

その気配に、呂布と対峙していた龍志はふと空を見た。

そして矢を見つけ、表情を凍らせる。

そんな龍志のことなど知らぬかのように、矢は龍志を越えて行った。

「……ふっ!!」

突然隙を見せた龍志を怪訝に思いながらも、呂布は彼めがけて方天画戟を振り下ろす。

「くっ!!」

反射的に龍志は身を引いてそれを避けたが、完全には避け切れず左の二の腕から先が斬り飛ばされた。

「ええい!!」

その宙を舞う左手を龍志は右手の槍で刺すや、そのまま呂布に投げつける。

「!?」

思いがけない攻撃に戸惑う呂布を尻目に、龍志は渾身の声で叫んだ。

「誰か、その矢を止めろおおおおおおおおおぉぉぉぉぉ!!!!!」

しかし、高速で宙を行く矢を誰が止められようか。

矢は戦場の真っ只中に向かい進んでいく。

ちょうどそれを、魏の本陣に肉薄していた蒼亀も見つけた。そして、義兄と同じように顔を凍らせる。

咄嗟に気で撃ちおとそうとするが、気を練るだけの時間がない。

だから彼は叫んだ。

普段の冷静さをかなぐり捨てて。

「曹操殿ぉ!!逃げなさぁい!!」

その絶叫は奇跡的に華琳にも届く。

だが、それが何を意味するのか彼女は解らなかった。

そして……。

 

 

トス

 

 

 

「あ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

矢は華琳の胸を貫いた。

 

 

                      ~後篇に続く~

 

 

 

中書き

どうも、タタリ大佐です。

今回も長くなりました。どうしてこうも長くなるのか……。

 

全体的な話は後編の後にしかできないので、まずは今できる話を。

 

お詫び

龍志が強すぎると言う方。すみません。

ご意見は多々あると思いますが、数百年も武を磨いて来て愛紗や鈴々と互角というのではやはり物足りないと感じましたので。龍志という元人間が数百年で得たものを才能だけで二十才程の彼女達が持っているのではやはりしっくりとこなかったもので(恋は別格ですから話は別です)

その代わり、蒼亀のように巧みに氣を使ったりはできません。

 

それから、今回は結構龍志が出ています。冒頭でもあったようにアンケート前に構想を固めたので修正が間に合いませんでした。すみません。またそのせいで、前回の次回予告がかなりの嘘予告になりました……本当にすみません。

 

また、「よくも哀れな華琳を殺したな!!」という方々。大丈夫です。死んでません。今はこれだけしか言えませんが、生きています。

 

華雄について

えーと、龍志と華雄の関係ですが、簡単に言うと現在二人とも明確な恋愛意識はありません。前回の番外を読んだら解るかと思いますが、龍志は華龍のことを引きずり続けている上にその自覚もあるので、恋ができなくなっています。また、華雄も龍志は忠誠の対象であって色恋の対象とは見ていません。今後どうするかはまだ決めかねていますが、関係が深まるとしたら二人がどうやって恋をするのかという所から始まると思います。まあ、可能性はあまり高くないですが。

 

 

では、今回はこの辺で

後編でまたお会いしましょう。

 


 
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