No.589523

詰め合わせ2

kouさん

つまあわせです。

2013-06-20 23:38:53 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:578   閲覧ユーザー数:578

目が覚めると、眼前には肉塊、かつて人であったモノが累々と横たわっていた。

 

僕を中心に放射線状に配置された死体は、地平線まで延びていた。

 

死体は全て肉細工。美しい女性だった。

 

金、黒、赤、青、白、色取り取りの髪が咲いていた。

 

ポーの言うように、美しい女性の死は人々の心を魅惑し、捕えて離さないのかな?

 

美は儚さ、整合性、有用性など様々な母から生まれ、千変万化し、偏在し、眼前に顕現する。

 

ポーは性と生を忌避している感じがあるから、女性が死ぬことで、生殖を不可能にする。

 

歪んだ再生産の帳尻を合わせる為に超自然的な存在を登場させる。

 

推理小説の嚆矢であるデュパンがゲイであるのもそのためだろう。

 

初恋が友人のかぁーさんって話だったから、それが影響して肉体的な繋がりを終生まで意識的か否かはともかく嫌悪してたんじゃないかな?

 

それがポーの作品や詩論に美女の死という形で登場したんじゃないかな?

 

早い話がツンデレだったんだよ。

 

 

死体を数えるのが飽きた。230まで数えたから230以上はあるんだろうな。

 

肉細工の服からいナイフ、包丁、ハサミ、カッターが生えている。

 

凶器の形に呼応する彼女たちの服のシミ。

 

禍福は主観、僕を核とした物語をいかに編集するかで決まる。

 

だから、ゴダールは死さえも映画のように編集できると断言していた。

ただ、自分の捉え方で人生がいくらでも変わるなんて話は大切な関係性を無視している。

 

モノの価値は、使用価値でなく、交換価値を参照して査定される。

 

価値や存在はただ「ある」だけで決まるんじゃなくて、ある大きな集合のなかでどう「ある」かが問題なんだ。

 

孤独な人間はどうやったって幸福は得られない。人々に囲まれて、幸せになれる可能性を持つんだよ。

 

人々の愛が自分に向かって与えられてると自覚した瞬間に幸福がやってくる。

 

愛されてる幸せな自分っていう物語を紡げるからね。

 

彼女たちは、誰かの死をきっかけにドミノ倒しみたいに死んでいったのかな?

 

ひとりの死が幸せは実在論的ではなく関係論的なものだと悟らせたのか?

 

誰かの為に死ねるって、最高の幸福なんだろうなぁ。

 

その人のという消失点に向かって一直線に伸びる自分。

 

愛おしい人という絵画をなお輝かせんとする額縁。

 

「あなた」という素描を彩る色彩。

 

自分と「あなた」が交わることで、幸福を初めて孕めるんだから。

 

走馬灯とかいう自身を俯瞰させる瞬間は「私」にドラスティックにあなたのための物語を創造させるから。

 

 

誰でもない「あなた」に思いを寄せつつ、一番身近な死体に生えてる刃物を抜き取り、僕の心臓へと挿し木した。

 

僕は久々に笑っていたのだろうか?顔の筋肉に言い知れないぎこちなさを感じた。

②Kという人間と私はどうやら少なからず縁があるようだ。Kと私の母、Mはどうやら付き合いがあったらしい。というのも、母の書斎を掃除していた時に、偶然、Kから母に宛てた手紙を発見したのだ。本文は以下の通りだ。

 

 

「メ ンドクサイ前置きはスキップさせていただきます。Mちゃん、結婚おめでとうございます。結婚式の招待状を複数枚ありがとうございます。精一杯、細切れに破 いて、丁寧に燃やしました。相変わらず、こういう事を天然じゃなくて、意図的にやることが好きなんですね。私のイジメの主導者が貴女と旦那さんだったのも なんだか今なら理解できます。私がいかに苦しむかを想像するのが大好きだって、そういえば言ってましたよね。敢えて言う事もないのですが、どんなことをさ れても私は貴女の味方ですよ。これだけは変わりません。

 

こういうことが嫌がらせができるようになったという事は、貴女が元気になった証拠 ですね。貴女の幸せが私の幸せですから、少し安心しました。もちろん、ご要望とあらば、貴女が好きそうなことは熟知しておりますので、貴女好みの道化をい つでも演じて見せますよ。貴女が死ねと言えば、いつだってこの命を捨て去る覚悟はありますからいつでも言って下さいね。むしろ、もっと早く言ってくれれば こんなに私は苦しまなくて済んだのに。残念です。ただ、あなたの声さえ聞ければ、犬みたいに尻尾を振って、その間だけは誰よりも幸せになれますから、それ はそれでいいんですけどね。

 

もちろん、貴女のそういう残酷なところや悪趣味な性格は今でも嫌いです。でも、私は貴女が死ぬほど好きなんで す。ほんとに困ってしまいますね。貴女に初めて会った、私たちが5才のあの頃から、私は貴女をずっと愛しています。貴女には、どうでもいいことでしょう が、A保育園に転園(でいいんでしょうか?)した初日、私がどうしたらいいか分からず右往左往している時に、最初に声を掛けて、教室まで引っ張ってくれた 時の貴女の溢れんばかりの笑顔や手の温もりは今でも忘れられません。中2の頃に、貴女と学校の代表として渡濠した時は、機内の席がビジネスクラスで、しか も私と貴女の席は隣でしたね。貴女が機内食に嬉々と悪態を吐くさまや機内で見た映画の感想を滔滔と述べる貴女の姿を、普段では決してお目にかかれない貴女 の寝顔、どうして、起こしてくれないの?とムスっと頬を膨らます仕草や寝起き特有の機嫌の悪さ(これは本当に治すことをおすすめします)を目をつぶる度に 思い出します。私は、秘かに、貴方と新婚旅行できた!とはしゃいでいました。あの時の私は、時間よと止まれと何度も何度も心中で叫びましたし、願わくば、 今でもあの時間に戻りたいです。今年の9月を覚えていますか?6年ぶりに貴女を駅で見掛けた時は、心臓の鼓動が貴方に聞こえるのではと肝を冷やしました。 再会の第一声が「一万でヤらない?」あれは、ヒドイですよ。ただ、私は貴女に甘いので、当分何も食べていないであろう貴女に料理を奢るは、寝る場所がない だろうから近くのホテルに、私用と貴女用の部屋を別々に借りるは、色々と貴女の面倒を見てしまいましたね。間違いなく、とんだ出費でした。ただ、私が以 前、プレゼントした財布を使って頂けたことには、些か驚きを隠せませんでした。あれから、両親から勘当の撤回を、T君からは縁りを戻してもらって良かった ですね。それは、少なからず、私が暗躍してるんですがね。貴女はだから?って鼻で私を笑うんでしょうね。でも、私はそんな貴女が好きで、好きで仕方ないん ですよ。あの時、貴女を監禁して、死なせて!って叫ぶくらい無様な雌豚になり果てるまで拷問すれば良かったです。

 

ただ、流石に15年間も 人を想い続けるのは、苦しくてたまりません。疲れました。そもそも貴女みたいな性悪な女性に心を奪われた私は相当女性を見る目がないですね。私の父を見る 限り、これはが遺伝のようだから仕方ないですね。それに、もう貴女が私のものにならないのだから、いっそのこと貴女を殺したいです。無論、その後、私も死 にます。もちろん、旦那さんは私の文字通り唯一の友人ですから、そんなことはできないですけどね。それに、私は貴女と同じくらいTが好きですから、私のこ の世で一番大好き貴女とTが一緒になって、幸せになってくれのるは嬉しい限りです。それに、Tは文武両道、眉目秀麗、家は貴族で、大金持ち。私とは比べ物 にならない優良物件ですから、間違いなく貴女を幸せにしてくれるでしょう。この喜びは、どう表現したらいいのか、私の貧しい語彙では、言い表せないのが悔 しいです。

もちろん、嘘です。私は手先が不器用なので、貴女を美しく殺せないから殺せないだけです。ただ、それだけの理由です。そもそも貴女を殺 めれば、殺人のイデアを断たれてしまう。殺さないとは、何万という殺人の可能性を葬ってしまうんですよ。これは許せないことです。だから、私は貴女を殺せ ないんです。私の倫理観や道徳とは関係ないんです。美的感覚の話です。ここで、注意して欲しいのは、私のセンスが変われば、殺しに来るかもしれないと肝に 銘じておいてくださいね。

 

ただ、貴女が困った時は、いつでも私に相談してくださいね。世界が貴女の敵になっても、私は常に貴女の味方ですから。

 

文章が長くなってしまいましたね。ごめんなさい。貴女の幸せを心よりお祈りしております。

 

                           貴女の信奉者より  」

 

 

す ごい手紙だ。母はどうしてこんな手紙を捨てなかったのだろう?父にDVされている自分を愛し続けてくれる人がいるんだと実感して、なんとか生きようとした のかな?こんなに人に愛してもらったことがないから、私は少し母が羨ましい。私はKに会えば、母のように愛してもらえるだろうか?

 

神さま、どうか僕を助けて下さい。

 目の前を通り過ぎる貴方や貴女、僕を救って下さい。

 私の魂をこの肉体から解放して下さい。

 私にへばり付くコドクを雪いで下さい

 

こんなの僕の手じゃない。

 

この手、僕の手?この足、僕の足? 誰かのじゃないよね?「誰か」って誰?

「誰」は誰かじゃないよ。誰かはボクだよ。ボクは僕以外。ボク以外はいない。 

 僕はボクしか見えない。ボクらもボクしかみえない。ボク以外は音や肉だ。

存在し、知覚されても、記憶から零れ落ち、消える。知覚されなければ、存在しない。 

知覚されても記憶されなければ、存在しない。

僕以外のボクは属性。世界はボクという属性で出来ている。

 

当 たり前だけど、ボクには四肢がある。でも、なぜか目の前の両腕に、今、机の脚を蹴っている両足に苛立ちを感じる。違和感がある。僕の四肢はどうも自分のモ ノのように感じられない。自分を壊したい。精神だけの安定な存在へと昇華したい。でも、死にたい訳じゃないんだ。だけど、自分を破壊したいんだ。

 

自分の右腕を切断してみよう!

腕はしっかりと切り落とせたかな?

血の赤はいつみても綺麗だね。

チューブに取っておいて、何か描きたいね。

お顔についたベトベトした熱は生きてる実感を与えてくれるね。

僕らは生きてるんだね。

言い忘れたけど、血で床が汚れちゃうから先にお掃除をしてね。

血は洗濯では落ちずらいからね。

あと、そうそう。シートも引いておこうね。

シート引き忘れて、この前、一階のお部屋に血が滴り落ちて、悲惨なことになっちゃたからね

謝りに行くのも大変だよ。

 

では、問題です。

目の前にある、肉塊は何?

正解は、元、僕の右腕です。

元が大切ですよ。

もう、あれは僕の右腕じゃなくて、ただの肉塊ですね。

因みに、元右腕と認識し、MOTOと発音した存在は、相変わらず私という存在です。

元、私とは使いませんので注意してください。

次に、残りの四肢をペアを組んでザクザクきっていきましょう。

え? 余った? むしゃむしゃしてください。

みんな、ダルマちゃんになれましたね。

床に散らばっているアレは、元、僕の四肢ですね?

もう、僕のではないですね。

ここからが、本題ですよ。

ついてきてください。

寧ろ、転がってきてくださいが正しいですね。

 

私ってどこからどこまでが私なんでしょうか?

昨日の四肢は、私たちものであり、私の一部でしたね。

肉にはモトがつき、僕にはモトがつかないのはどうしてでしょう?

私を中心にして、肉体は僕という存在を構成している。つまり、肉体は部品に僕を形作る部品に過ぎないのではないでしょうか?

肉体を部品とする根拠は、ダルマになった僕らが、僕と言ってる事実だけで十分でしょう。

肉体をいくら欠損しても、なお自己を私と認識し、僕と今、呼称しているというこの事実こそが、私という何か言い得ない核の存在を物語っているのでは無いでしょうか?

 

僕 がこんなにも自身の四肢を醜悪に感じてしまう原因は、僕が自身を醜いと思っているからだろう。人の感覚の大半は視覚が担っている。人の視界は常に目から 下。だから、自分の延長である四肢はいつも視野に存在し続ける。こういったことから、体を無意識に自分と錯覚し、手足を不浄なものと僕はいつのまにか考え るようになったのだろう。あるいは、この四肢は誰かの四肢がなんかの手違いで僕に取り付けれたと妄想するようになったのだろう。汚いものが自分のもので あって欲しくないという気持ちは分かって欲しい。または、僕という卑しい存在自体に対して嫌悪のベクトルを向けさせないために、自我の崩壊を逃れよと言う 防衛本能が、侮蔑の対象を体の一部に向けさせたのだろう。深層心理にとって、僕の四肢は、本当僕の意味でトカゲの尻尾なのだろう。そうだ良い事を思いつい た。僕を消さなくてもいい方法を思いついた。僕は嬉々と引き出しを引いた。何のためらいもなく、僕の両目をハサミでグチャリと貫いた。首筋を赤が流れ、口 には鉄の味が広がった。苦痛よりも快感の方が大きかった。もう、醜い僕を見なくても済む。初めて、自分の体が自分のものだと実感できた。自分の両手で自分 を抱いた。自分を殺さなくて良くなったのだから。自分はこの瞬間だけは幸せだった。

暗い。熱い。痛い。安心したせいか、激痛が全身を走った。床に 蹲り、悶え苦しんだ。叫んだ。言葉にすらなってない。死にたい。死にたくなった。この苦しみを終わらせたい。1秒でも早く終わって欲しい。黒で塗りたくら れたこの世界に潰されそうだ。どうして誰も僕を救ってくれないの?いつも僕一人。助けてよ。僕を終わらせてよ。

右手にある冷たい感触が僕を落ち着かせた。僕の首は噴水になった。あったかくて、ベトベトして、きれいな噴水、とってもきもちいいよ。

 

悲鳴が今日も鶏の代わりに朝の訪れを告げた。

 

道徳がいつものように人を屠り、肥大化を繰り返す。

 

倫理とは欲望を抑えつけるものであって、その名の下に全ての行動を正当化するものでは決してない。

 

ワインを片手にある者は、美しい人間を攫っては凍りずけにし、鑑賞を楽しんだ。その顔はいつも誇らしげだ。

 

ある者は、筋骨隆々な人間を購入しては、粉々に切り刻んだ。悲鳴は彼らの耳を大いに楽しませた。不屈の精神をもつ者には斬首で報いた。

 

またある者は生き埋めにして、死を見つめた。不自然に隆起する地面がまた一つ増えた。

 

またある者は、目抜き通りを行き交う人々を指名し、飛行機から一斉に落とす。被害者は明日の家族の命の為に、金の為に喜んで命を捧げた。数十人が空を舞い、何百、千何もの肉が世界を朱に彩る。何も知らない家族はその腹を遺族の肉で満たす。遺族の口がまた穢された。

 

自身の薄弱な意思のため、単独では決定をせない者もいる。5、6人の群れをなし、そのへっぴり腰で銃の引き金を一斉に引く。犠牲になるは決まって前途有望な人間なのはなぜだろう?嫉妬なのか、運命のいたずらかは分からない。ただとにかく醜い。

 

時間を遡り、無差別に過去の人を射殺する。これが流行となり、人々は挙って過去へ押し寄せた。最近の流行は赤ん坊の腕のキーホルダーらしい。

 

彼らは、みな決まってこう叫んだ。人のためだ。Kのいう人のためだと。

 

彼らに共通する目的は、自分よりも弱い者、迫害さえている者の尊厳を奪うことで自身のそれを回復しようとすることにあった。この暴力が彼らにとっては善意らしい。

Kはそんなことなど一言も言っていない。少なくとも、暴力を正当化する胡散臭い「道徳」など口にはしていない。

 

私は生きるのをやめたい。やめよう。

 

「どこで死のうかな♪」こんなに明るい声が出たのは不思議だった。私も笑えるのか。以前笑ったのはいつだったかな。お祭りは当日よりも準備している時の方が楽しいってこのことを言うのか。 

 

私 は以前自分が殺されるハズであった場所。母の書斎に向かった。玄関から子供なら直進20歩進んだところに階段がある。母の書斎は2階へとつづくその階段の 突き当たりに位置する。23畳もある。ここで両親はKの熱狂的な狂信者に拷問の末、殺害された。母は腹部を切開され、取り出された内臓で首を締められたせ いで死んだらしい。父は局部や四肢、耳目を含めた体のありとあらゆる箇所を切断された後、皮を一枚一枚、刃物で丁寧にヒン剥かれたらしい。父が遺体になっ た後は包丁が折れるまで、信者たちは繰り返し父だった物を刺し続けた。両親の抵抗の痕が壁や床、窓や天井に黒い染みや引っかき傷として今でも残っている。

 

部屋の奥に嵌め込まれたゲルニカ位の大きさの窓から差し込む光がまぶしい。私を照らしてくれるな。どんなに助けようとしても助ける事などできない人間がいるんだよ。神様。それを知って欲しい。死ぬ前に大嫌いな太陽がこんなに美しいと教えてくれてありがとう。

 

天井に縄を吊るし、後は首を預けるだけだ。

 

み んなありがとう。いや、みんなと言えるほど知り合いもいないか。結局、誰も私を愛してくれる人はいなかった。神様。死ぬ前にお願いがあります。私みたいな 人間をこれ以上増やさないでください。死ぬ寸前まで私にいくらでも苦痛を与えてもいいから、私みたいに哀れな人間を作らないで。あんな運命を人に背負わせ ないで。

 

腕時計に目をやると4:44分。正に死に時だ。西日の熱とあの独特な橙が私の体を駆け巡る。

 

床から椅子に右足を乗せようとしたとき、私はバランスを崩して椅子から転げ落ちてしまった。その際に紐を掴んでしまった。それなら良かった。だが、現実はそう甘くはない。

 

母 の書斎の真上には事件後に増改築した養母の水槽部屋がある。水槽の重さに耐えられなくなった天井が落ちてきた。アロワナ、金魚、ネオンテトラにグッピー。 何十もの雑多な魚が降ってきた。彼らと一緒に書き損じの手紙5,6通がどっと降りてきた。天井にかくしてあったのだろう。宛名はKだった。

 

そ うだ。Kに会いに過去へいこう。母に瓜二つな私ならKも私をきっと必要としてくれる。Kは私に母を見出し、私など最初は見もしてくれないだろう。でも、母 の偽物である私が母よりも劣っているとは限らない。母はKを拒み続けたが、私は違う。私はKを求める。同じようにKは私を求める。

 

K,待ってて。今、行くから。

 

 

ジリジリジリ。ケイタイの音。

ケイタイの明滅。暗がりの中でケイタイを探す。あった。

出なきゃ。いそげー。

出た。切れてない。それにしても眠い。

2:40。非通知。

「さようなら。」女性の声。

1、2、3、4

5,6,7,8

沈黙。風の音。

 

何かがぶつかった音。グチャリ。

耳に音がこびり付く。汗が頬を伝う。

ノイズ。ザーザーザーザーザー。

 

暗転。

 

屋上。

周りを眺める。外は電灯一つ点いてやしない。

足元は明るい。満月が照らしているからだろう。

トン、トン、トン、トン。リズミカルだ。

階段を誰かが上っている。カチャ。

ノブが回る。ギー。

扉が開いた。少女。

長髪。前髪を少し角のように纏めている。

両手首には傷跡。陶磁器のようにキメの細かい肌に何本もの直線が引かれている。

綺麗だ。スゴイ。

バックに月。手には赤いケイタイ。

止めなきゃ。足が動かない。

地面へ向かう。少女。

どうしよう。彼女はケイタイを掛ける。

靴を脱ぐ。屋上の淵に揃える。

「さようなら」 

彼女は闇に吸い込まれていった。地面は彼女色に染まっていった。

 

階段を2段とびに降りる。シンドイ。

3階。2階。1階。

辺りを見回す。右に玄関が見えた。

疲れた。帰りたい。

ここ、どこ?落ち付こう。

そうだ。救急車。

ケイタイ。圏外。

外へ出よう。パジャマは恥ずかしいな。

 

雲で月が隠れた。クライ。

イタイ。視界が反転。

何かを踏んだ。ヌメヌメする。

 

月が現れた。視界が良くなった。

見たくない。視線を上に。

屋上に誰かいる。少女だ。

ケイタイを耳に当てている。口をさの形にしているのだろう。

目が合う。笑顔を向けてくれた。

僕に。恥ずかしい。

つい、後ろに向ける。大失敗。

辺りは、少女、少女、少女、少女。遺体が見渡す限り地平線まで並ぶ。地面が見えない。

それらの少女は顔も制服も握ってるケイタイも全て同じ。

 

ドーン。肉が大地を震わせる。

 

1~2~3~か~い。ついたー。

心臓の音が外に聞こえてしまいそう。恥ずかしい。

ノブを捻る。冷たい。

パジャマからケイタイを出す。耳に当てる。

みんなのところへ。

靴を揃える。

「さようなら」

 

これを何度も何度も繰り返す。

ほんと悪趣味な夢だ。今日で何回目だ?

もう9時か。学校行かなきゃ。

ケイタイはどこかな?赤いヤツ。

角の彼女には幸せになって欲しいな。その為なら。

 

 零れた涙が頬を伝う。傷口に触れて少しヒリヒリする。無性に悲しくて、今日も目が覚めた。手首に涙が付かないよう、拳で涙を拭う。両側のポケットに手を入れる。右側のポケットから携帯を取り出すと時間はまた2時だった。またか。最近決まって2時に起きる。

 

発 作を起こしたみたいに突然目から涙があふれ出す。何度も何度も繰り返し拭っても徒労で、涙は瞼の奥から止めどもなく滲みだしてくる。日が昇るころには、気 が付くと僕は赤ん坊のように大きな声を上げて泣いている。いや、獣のようにメチャクチャに鳴いているのかもしれない。嵐のように荒れ狂う悲しみを少しでも 鎮める為にこんなことを僕の体がしているなら、奴は度を越した心配性なのかもしれない。これが毎日繰り返される。昨日も。今日も。そして明日も。

 

感 情とは、何か具体的な原因があり、その結果として僕らの心に湧きあがるはずだ。それなのに、僕の悲しみはこれといった原因が思い当たらない。強いて挙げる とするなら、原因は「孤独」だろうか。孤独と言っても、自分が世界からどんどん切り離されるにつれて、自身の色が薄れ、終いには、透明になってしまったこ の現状に僕がつけた渾名のことだ。こういった致命的なものは、原因だとは言えない。運命や必然と言った方が僕にはしっくりくる。

 

悲惨な事 故がなんの兆しを僕たちに与えないように、不意に悲しみが僕を襲う。悲しみは穴と言う穴から僕に侵入し、僕を内から食らい尽くす。痛くて、辛くて、苦しく て、僕は堪らなくなってパジャマを着たまま部屋を飛び出した。ゴールも目的地もないまま、僕は走った。言葉にならない言葉を叫びながら僕は手足を機械みた いにがむしゃらに動かし続けた。走っている途中に水が蒸発するように、僕はいつのまにか消えることはできないだろうか?

 

300メートル位 先だろうか?作ったばかりの歩道橋が目に入った。その歩道橋の側面には、高さ350メートル、幅70メートルと記されていた。その橋は、僕とは違って若さ 特有の生命力をあたりに発散していた。自分が自分であることに誇りを感じていた。僕はそんな歩道橋に嫉妬した。だから奴の顔に泥を塗ってやりたくなった。 今から、あいつの上から落ちよう。僕は、力を振り絞って四肢を振り回した。僕とあいつの距離が一気に縮まる。距離が近づくにつれて、辺りが明るくなる。先 客がいた。彼女は脱いだ靴を歩道橋に揃えて正に飛び降りようとしている。

 

僕は先を越されるのが我慢できなくて彼女に向かって、「待ってくれ」と叫んだ。

彼女は僕の声に驚いたのか、体を一瞬ピクリとさせた。どういう訳か彼女に愛おしさを覚えた。

僕の声に余程驚いたのか、彼女はゼイゼイと肩で息をしながら、「私は今から死ぬんだからほっといてよ」と怒られた。実は、彼女がこのセリフを言うまでに三回、噛んだのはナイショだ。

僕 は彼女を少しイジメてみたくなった。彼女がどんな反応をするのか気になって仕方なくなった。「ねぇ?君は本来ならもう死んでたんだよね?どの道死ぬんだか ら、何があっても問題ないでしょ?ナンパじゃなくて、死にたがり屋の一人として君と話したい。少しでもいいから、君の時間を僕に預けてくれないだろう か?」

彼女の顔は一瞬にトマトみたいに赤らんだ。自身の顔が紅潮したことに気付いたからか彼女は両手で自身の顔を両手で覆った。

僕はこの隙に階段を駆け上がり、歩道橋から・・・。

 

 


 
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