~芽衣side~
「戻りました。資料こちらに置いておきます。」
「ありがとう、偉空ちゃん。それにしても随分早かったですね~。」
「はい。お部屋にご主人様がおりませんでしたので。」
えっ!? 部屋に………居ない……??
「きっと気分転換で外に出られたのでしょう。この調子なら、傷が癒えるのも時間の問題かもしれませんね…。」
にこやかに笑う偉空ちゃんに対して、私の表情はどんどんと曇っていく。
部屋に聖様が居ない……。
本当に気分転換に出かけただけだというなら、何も問題は無い…。
しかし、私の知っている聖様なら気分転換よりも先に私たちに声をかけに来る。
と言うことは………??
最悪の展開も考慮に入れながら情報の取捨選択を行う。
もし、罪の意識に押しつぶされてしまったとしたら…………。
彼は何処に行くと言うだろうか………。
「偉空ちゃん。天和ちゃんたちの病室に行ってみてくれますか~??」
「病室に……ですか??」
「はい~。もしかしたら、そこに聖様はいるかもしれないので……。」
「分かりました。見に行ってきます!!」
勢い良く扉を開いては、足早で廊下を歩いていく偉空ちゃん。
私の考えがあっているならおそらくは……。
すると、ばたばたと慌てたような足音が廊下に響き、その足音は私の部屋の前まで来ると大声で部屋に居る私に告げた。
「大変です!! 病室は空っぽでした!!!!」
「………やはり…そうですか。」
ならば、彼女達は聖様と一緒のはず。
そして……彼の居場所は……。
彼の目的は……。
「偉空ちゃん……。城壁の上に急いで行きましょう!!!!」
…………彼女達を道連れに自分も死ぬこと……。
~聖side~
「聖様!!!!」
城壁の上
柔らかな風が吹きぬけるこの場所は、城の中で一番高く、一番人目に付きにくい……。
だから、ここなら誰にもばれないと思っていたのだが………。
「………芽衣…。」
「聖様!!!! 馬鹿なことは止めてください……!!」
………馬鹿なことって……こっちはいたって真剣だ…。
俺は既にこの体を犠牲にする覚悟は出来てる。
「芽衣…。やらなくては駄目なことなんだ……。分かってくれ。」
「分かりません!!! そんなの分かろうとも思いません!!!!」
…………そりゃそうか…。君は僕ではないのだから…。
ならば確りと言った方が良いか……。
芽衣を見ると、彼女も何かを決心したようにこっちを見つめている。
そして同時に叫んだ。
「死ぬなんて馬鹿なことは言わないでください!!!!!」
「日光浴させることは人間が生きるために大事なことなんだ!!!!!!」
……………………へっ??
「誰が死ぬって?」
「えっ?? あの……聖様が……。」
「何で俺が?」
「いやっ……その…彼女達のことで心に深い傷を負って……そして……。」
「いやっ、流石にそんなことしないよ…。今回のことは確かに俺が全部悪い…。でも、こんなことになった以上俺が責任もって彼女達を介抱しないといけないと思ったんだ。」
「で……でしたら~、何故城壁の上なんか……。」
「風の気持ち良いこの場所に皆を連れてきて、少しでも外の空気を吸わせてあげたいと思っただけだよ…。」
と同時に俺の中で、今までの彼女達との別れをするためにな………。
「そ……そうだったんですか………あ……アハハッ………。」
「幾らなんでも発想が飛躍しすぎだろ?? 少しはおかしいと思わないと…。」
「はははっ………。すいません~………。」
「まったく…………。」
「いえ。ご主人様ならあり得ると思えたからこそです。以後気をつけてください!!」
「偉空!? 君も居たのか……。」
「はい。あのように何日も部屋から出てこず、篭りっきりの生活をしていたご主人様を城壁の上で見かけたら、もしかしたらそうかもしれないと思うのは当然のことです。」
「そうか………二人には心配をかけたようだね……ごめん。」
「謝るくらいなら初めからしなければいいんです。」
「おぉ~流石に偉空は厳しいね………。」
そこまで言うと、三人とも笑った。
芽衣のそそっかしさに……偉空の真面目さに……そして…いつもの聖らしさに……。
しばらく三人は、その心地の良い時間を過ごしていた。
日は山際にその身を少し隠し、辺りは赤橙色のライトで照らされたかのような色に染まる。
どこか夕焼けというのは人を懐かしい気持ちにさせるもので………彼女達との短いながらも濃い思い出を思い出させてくれる……。
彼女達の歌を路上で聞いたこと………。
彼女達が絡まれてるのを助けたこと………。
一緒に旅をしたこと………。
彼女達の歌の先生になったこと………。
俺たちの為に別々に離れたこと………。
そして………涙を浮かべて抱き合ったあの日のこと……。
彼女達の心に届けたいこの気持ち………。どうすれば彼女達に伝わるのだろうか……。
「………………彼女達の一番好きだったもの…………歌…か…。」
夕焼けを見つめ、過去を振り返りながら歌い出す。
俺の大好きな曲を彼女達に……目一杯の思いを馳せて……。
彼女達との平穏な今までへの別れの歌を………。
♪~~♪
忘れはしない。どれだけ時が流れようとも……。
♪~~♪
心を覆う言葉やしがらみのとげも、君たちの笑顔を見ていればそんなもの無いに等しかったんだ…。
♪~~♪
俺達や君達………。それぞれでは叶えることのできない夢もあるんだろうけどさ……。
♪~~♪
さよなら………。君達との思い出や君たちの声は確りと耳に、そして心に残しておく。そうしたら、僕は何処まで僕のままで生きて行けるのだろう……。
♪~~♪
探していたんだ、君達と会う日まで。今じゃ懐かしい言葉を……。
♪~~♪
風が吹いたら飛んでしまいそうなそんな軽い決意しかなかった俺に……覚悟の重さを与えてくれたのも君達だ…。でも俺は軽い気持ちのまま……幸せなんて願ってしまった。
♪~~♪
これから先、傷ついたり傷つけたり、そんなことがあっても俺は何時まで俺でいられるかな・・・…。
♪~~♪
瞬きするほど長い長い季節を過ごし、呼びかける言葉は……君達に木霊してるのかな?? ねぇ、聞こえる??
♪~~♪
さよなら………。君たちの声は何時までも僕と共にある。だから、僕が僕である以上それが離れることは無い。じゃあ、何時まで僕はそのままでいられるだろう………。
♪~~♪
ねぇ………君たちの声は………。
歌に思いを乗せて、一曲歌い終える。
歌った歌が問題だったのか……それとも案外俺が涙もろいのか……。
歌い終わった時には俺の両目から涙が溢れて止まらなかった……。
歌い出す前に覚悟を決めた過去の君達との別れ……。
どうやら、そんなことさえ俺には出来そうも無い。
それは、今現在頬を流れる涙が示してる。
芽衣と偉空も、両の目から滝の様に涙を流している。
心が壊れていても………歌はきっと彼女達に伝わる…。
何故なら、彼女達が歌を好きなように、歌も彼女達を好きになるから……。
歌に乗せて……君達への思いよ………君達の心へ届け……。
~三姉妹side~
……………ここは…………何処………??
見えない……………何も………見えない……。
辺りは真っ暗…………一筋の光さえ見えない…………。
………でも、三人でいることはわかる……。
何故なら、私たちはそれが自然で………それが当たり前であったから………。
手と手が触れ合っていなくても………声を掛け合わなくても………私以外の二人が何処にいるかは何となくだけどわかる……………。
それが姉妹であって………私たち三人の形………。
それにしても…………なんで何も見えないんだろう……。
なんで何も聞こえないんだろう……。
なんで何も匂わないんだろう……。
なんで何にも触らないんだろう……。
なんで何も味わわないんだろう……。
なんで………意識がはっきりとしないんだろう………。
確か…………聖が助けに来てくれて…………聖に一緒に行こうって言ってもらえて………凄い嬉しかったのを覚えてる………。
じゃあ、その後どうなったの…………??
………分からない。
気付いたら……………こんな状態になっていたっけ……………。
なんだろう…………考えるのも億劫になってきちゃった…………。
眠い……………。
酷く眠い……………。
寝てはいけないと誰かが言っているような気がするけど……………それでも今は…この眠気に身を預けたい……。
もしかしたらこれは夢なのかもしれない……。
この夢の中で眠れば………次に目を覚ました時には目の前に聖が居るかもしれない………。
聖は私たち三人の寝顔を見ていたのかもしれない……。
だから、目を覚ましたら言ってやるんだ………『私たちの寝顔をただで見れるなんて思わないで』って……。
そして、聖に甘いものでもご馳走してもらおう………。
大丈夫………きっと聖はそんなことをしても笑顔で私たちに微笑みかけてくれるから………。
だから…………今はゆっくりと目を閉じて…………夢から覚めないと………。
……………。
………………。
…………………。
なんだろう…………。
眠いはずなのに…………一向に眠れない…………。
なんで…………??
それは…………何かを感じているから………。
先ほどまでには感じなかった何かの感覚を感じる…………。
これは……………風………??
暖かで………そしてどこか悲しい風………。
その風は何処から吹いてきてるのだろう…………。
風の発生源は…………??
微かに感じるその風は…………段々とはっきりとした風となり………次第にその風に何かが含まれているのが分かる………。
そして………聞こえないはずの耳に聞こえてくる物は…………歌………??
この暖かな風は…………歌……??
私たちが好きな………歌……。
この曲が何かは分からない………。
聞いたこともない曲だから………。
でもその曲から感じるものがある………。
そう………。これは別れの歌………。
今までの自分へ………そして今までの君への別れの歌………。
でもその中に感じる次への確かな思い……。
前を向いて、一歩を踏み出す決意の歌………。
じゃあ………そんな歌なのに…………なんでこんなに悲壮感が漂っているの………??
歌い手の感情が前面に出てきている………そんな歌声………。
あれ………この声は何処かで聞いたことがある気がする………。
透き通るように繊細で……それで居て強い芯のあるこの歌声の主を私たちは知っている…………。
ねぇ…………あなたはなんでそんなに悲しいの………??
ねぇ…………何があなたをそんなに悲しくさせるの………??
ねぇ…………どうして……この歌が私たちに聞こえるの………??
ねぇ…………教えてよ…………。
その思いが通じたのか否か………今度は微かな光を感じる………。
その光を目で追うと……段々とその光は大きく大きくなっていって、私たちを包み込む……。
あまりの眩しさに一瞬目を閉じると………次に空けた瞬間には歌を歌っている彼の姿があった……。
思わず声をかけようと思ったが………自分の体は少しも動かない……。
意識は先程よりもはっきりとしている………。
彼の歌声も聞こえる………。
彼の悲しい表情も見える………。
なのに………体はピクリとも動かない………。
やめて………。
そんな悲しそうに歌わないで………。
あなたには笑っていて欲しい…………。
その笑顔で私たちの進む先への道標になってほしい……。
だからなんでそんなに悲しい顔をしているの………。
それは…………私たちの所為なの………??
私たちはまたあなたに負担を負わせているの……??
それをしないためにあなたから離れていったのに…………また背負わせてしまっているの……??
ならばやらなければならない………。
背負わせたものは責任を持って自分達で取り除かなければならない………。
だからお願い……動いて……!!
目の前の彼の頬を流れる涙を拭わせて………!!
そして一言……これから彼の傍に居るにあたって……彼が背負っていくだろう負担を私たちにも背負わせてもらえるように………声をかけさせて……!!
~聖side~
「「「…………ぁぇ………。」」」
「えっ…………??」
歌い終わった後、しばらく涙が流れるのを堪えきれずにいると、微かなうめき声のようなものが聞こえた…。
そして、その声は二度と聞こえないかもしれなかった…彼女達の声であった。
慌てて彼女たち三人の下に走り寄り、様子を見る。
すると、微かに目に色が戻っているように思えた。
「天和!!! 地和!!! 人和!!!」
声をかけ体を少し揺すると、僅かに彼女達の指が反応する。
「芽衣!! 偉空!! 直ぐに華佗を呼んできてくれ!!!」
「「はい。」」
芽衣と偉空も驚いたようであったが、俺の指示を受けると直ぐに華佗を呼びに駆けて行った。
その姿を目で追った後、彼女達に目を戻すと後一歩のところまで来ているように思えた。
何か後一つ………彼女達に届くものがあれば………。
「…………へっ………眠れるお姫様は王子様のキスで目を覚ますんだっけか…??」
彼女達三人を抱き寄せると、一人ずつキスしていく……。
勿論、可能性の一つとしてやったに過ぎないのだが……それは驚くべき効果を発揮する。
なんと、彼女達の目に今度はしっかりと光が宿ったのだ。
彼女達はキョロキョロと辺りを見回したところで、俺を目で捉えて言った。
「「「私たちの寝顔をただで見れるなんて思わないで。」」」
その予期しない言葉に、一瞬呆然となった後自然と笑みがこぼれてくる。
良かった……彼女達は元の彼女たちだ……。
「分かったよ………。でも今はゆっくり休んでおいて……。」
「うん…。」
「は~い。」
「はい。」
彼女たちも俺に笑顔で返事してくれる。たったこれだけなのに……こんなにも愛しいと思えたのは何故だろうか……。
もじもじ……。
ん?? なにやらもじもじと……どうしたんだ…??
「どうした?? 何かまだ体に違和感が残っているのか…??」
俺がそう聞くと、彼女達は一様に頬を赤く染めて答えた…。
「「「だって………聖(聖さん)が接吻したから………。( ///)」
その答えに俺も顔が赤くなる…。
緊急とは言え彼女達にキスしたのは確かだ…。そう思うと、やってしまったと言う恥ずかしさがこみ上げてくる。
すると、天和が笑顔を浮かべて言った。
「聖…。これから、私たちもあなたの重荷を背負っていくから……だから、よろしくね…。」
その言葉に、その決意に………彼女達の強い意思が汲み取れるので無碍には出来ない…。
それに、彼女達はこれから俺達の仲間だ…。一緒に背負っていってもらおう……。
「あぁ、よろしく……。」
三人と握手を交わす向こうから、華佗と芽衣と偉空が駆けてきているのが分かる。
「さぁ、病人は部屋へ戻ろうか……。」
「え~私、病人じゃないもん!!」
「さっきまで病人だったんだ…。大人しく今日は寝ておいて…。華佗に見てもらってから経過次第で自由にして良いようにするから…。」
「は~い……。」
三人を引っ張り起こすとその勢いのまま三人とも俺に抱き付いてくる。
その勢いが意外と強くて、何とか倒れないように支えることが出来たが、一歩間違えれば危険な状況である。
「おいおい……。三人一気に来るなよ…。危ないだろ?」
「えへへっ。ごめんなさい…。」
幸せそうに笑う彼女達に苦笑を漏らしつつ、そっと背中に手を回して彼女達を抱きしめ返すのだった。
こうして、長い長い黄巾の乱は幕を閉じ、聖たちに新たな仲間が加わったのであった。
弓史に一生 第七章最終話 第十八話 大切な思い出 END
後書きです。
いや~ようやく黄巾編終了しました!!!!
第七章が長くなりすぎたのはちょっと予定外でしたけど、それなりに書けたのではないでしょうか。
さて、今話の歌ですが………。
とある歌を、歌詞の意味を少し自分なりのテイストで翻訳して載せているんですが……これだとまずいですかね……??
見る人が見ればこの曲が何なのか分かってしまうんですが………まぁ、分かったらそんときはそんときで……。
ちなみに、その曲のタイトルが実は今話のタイトルにも関連してるんですが、それに気づいたあなたは裏の裏の読みすぎです。
正直、そこまで読まれたらこの物語のオチも読まれてそうで怖いです……。
皆さん。深読みせず、楽に読んでいただいて結構ですからね……。
次話ですが、一週間ちょっとお休みを頂きたいです。
このところ書く暇がなくて、書きだめの数が劇的に減ってます。そのため、少しばかりのお時間を……と言うところですね……。
そのため、次話の投稿は6月30日を予定してます!!
では、また次話で会いましょう!!!!
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どうも、作者のkikkomanです。
第七章もついに最終話です。
はたして、彼女たちは…??そして聖はどこに……??