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【小説】しあわせの魔法使いシイナ 『音楽の妖精がやってきた』

YO2さん

普通の女の子・綾と、魔法使いの女の子・シイナは仲良し同士。
何事もマイペースなシイナを心配して、綾はいつもやきもき。
でも、シイナは綾に笑顔をくれる素敵な魔法使いなんです。

2013-06-15 22:34:03 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:468   閲覧ユーザー数:468

 

綾の住む「央野区」は、普通の街と少し違っています。

 

街の中央には「魔法学園」があり、街には魔法使いが住んでいます。

綾の家にホームステイしているシイナも、そんな魔法使いの一人です。

 

今日は土曜日。

綾はお昼ごはんを作るため、キッチンに立ちました。

 

『今日のお昼はチャーハンにしようかしら』

と、綾は思いました。

 

道具と材料をそろえて、いざ料理に取り掛かろうとしたときです。

 

窓の方から、チリンチリン、と鈴の音がしました。

 

『何かしら?』

綾はそう思って、窓へ視線をやりました。

 

窓の外には、誰もいません。

 

『あれれ? 変ね』

綾は不思議に思いました。

 

チリンチリン。

また鈴の音がしました。

 

綾がよく目をこらして見ると、窓の外に小さな妖精が立っていました。

 

緑色の帽子とチョッキを着た、金髪の可愛らしい妖精でした。

 

妖精が窓ガラスをノックすると、チリンチリン、と鈴の音がします。

 

「あら、こんにちは」

綾は妖精に挨拶して、窓を開けてあげました。

 

妖精はぺこりと芝居がかった調子で一礼すると、食卓のテーブルへぴょんと飛び乗りました。

 

妖精はそこで軽く足踏みをすると、軽やかにタップダンスを始めました。

 

妖精の靴がテーブルを踏むたびに、ポロン、ポロロンとピアノの音色が鳴り響きました。

 

「あら、とってもすてきな音色ね」

綾がそう言うと、妖精は嬉しそうに一礼しました。

 

「なんだかピアノの音がするけど、どうかしたの?」

シイナがキッチンにやってきました。

 

「シイナ、妖精が遊びに来たみたい」

綾はシイナにそう言いました。

 

シイナは、妖精の姿を見て言いました。

「これはこれは、音楽の妖精さん。 いらっしゃい」

 

妖精はシイナに向かって挨拶を述べましたが、その挨拶は言葉ではなく、

「ラララララ」

というメロディでした。

 

「音楽の妖精?」

綾はシイナに聞きました。

 

「そうだよ。 音楽が大好きで、この妖精にかかると何でも音楽になっちゃうの」

シイナが言いました。

 

「こんな風にね。 見てて!」

シイナが綾に言いました。

 

シイナは食卓のテーブルの縁に手をかけて、テーブルをピアノの鍵盤のように叩きました。

 

すると、シイナの指がテーブルを叩くたびにテーブルから、ポロン、ポロポロポロンとピアノの音がしました。

 

「まあ、すてき!」

綾は顔を輝かせて喜びました。

 

「音楽の妖精が触れたものは、みんな楽器になっちゃうの」

シイナが言いました。

 

「面白いわね」

綾は興味津々で言いました。

 

妖精は綾の期待に応えるように、部屋の中を飛び回り、いろいろな物に触って回りました。

 

妖精が物に触れるたびに、チリリン、とか、ポォーン、とか、キンコン、とかいろいろな音色が奏でられました。

 

妖精が綾の胸についているブローチに触りました。

綾はためしにブローチを叩いてみました。

 

すると、タンタン、タンタカタン! とカスタネットの音が響きました。

 

妖精がシイナの金色の髪の毛に触れました。

 

シイナが自分の髪の毛をひっぱって指で弾くと、ポロポロポロン、とハープの音色が奏でられました。

 

綾とシイナはすっかり楽しくなって、部屋中のいろいろなものを触ったり叩いたりしました。

 

綾は料理に使う菜箸を両手に持って、ボウルを叩いてみました。

 

ボウルはダンダン、ダダン! と小太鼓の音を奏でました。

 

シイナは日曜大工セットのノコギリを使って、木材を切ってみました。

 

ノコギリはギイ〜 、キュラララとバイオリンの音を奏でました。

 

風でカーテンが揺れると、シャラララと心地よい音が鳴りました。

 

綾がフライパンでチャーハンを作ると、フライパンを返して材料を放り上げるたびにジャーン! ジャーン! と豪華な和音が響きました。

 

シイナが椅子を揺さぶると、タンタン、タラランと軽快なリズムが鳴りました。

 

シイナと綾が軽やかにステップを踏むと、ポンポンポン、ポコポコポン! と明るいリズムが響きました。

 

シイナと綾が手拍子を打つと、ジャラーン、ジャラーン! とシンバルの音が鳴り響きました。

 

シイナと綾はすっかり楽しくなって、夢中でいろいろな音色を奏でました。

 

綾の家はさながら一つの交響楽団のように、美しい音楽を奏でました。

 

「シイナ、ちょっと耳をすませて」

綾が言いました。

 

シイナが手を止めて耳をすますと、窓の外から、たくさんの音楽が聞こえてきました。

 

他の家でも、音楽を奏でているようです。

 

「今日は、音楽の妖精たちがみんなで街に遊びに来たみたいだね」

シイナが言いました。

 

シイナと綾は、隣の家の音楽に合わせて、アンサンブルを奏でてみました。

 

すると、反対側の隣の家が、それに合わせて新しい音楽を奏で始めました。

 

そうやって次々に、音楽の輪が街に広がっていきました。

 

ついに、街全体が一つの大交響楽団になって、素晴らしい音楽を奏でました。

 

音楽の妖精は、大喜びで家の中を飛び回りました。

 

シイナと綾は、すてきな音楽の時間を堪能しました。

 

音楽は夕方になるまで鳴り止みませんでした。

 

夕方になって空が赤く染まると、音楽の妖精たちは帰っていきました。

 

「さよなら! また遊びにきてね!」

綾とシイナは音楽の妖精にむかって手を振りました。

 

音楽の妖精が手を振り返すと、シャララララ、ときれいな音が響きました。

 

綾とシイナが晩ごはんを食べる頃には、外はすっかり暗くなり、静まりかえっていました。

 

「おや?」

シイナが何かに気がつきました。

 

「綾ちゃん、耳をすませて」

シイナが言いました。

 

綾が耳をすますと、窓の外から虫たちの鳴き声が聴こえてきました。

 

「ふふふ、とてもきれいな音色ね」

綾が言いました。

 

「うん!」

シイナが言いました。

 

シイナはリビングに行って、戸棚からハーモニカを取り出しました。

 

食卓に戻ってきて椅子に座ると、シイナはハーモニカを吹き始めました。

 

ハーモニカの音と虫たちの鳴き声が美しいハーモニーを奏でました。

 

「なんだかとっても気持ちが安らぐわ…」

綾は柔らかな毛布に包まれたような、暖かい気持ちになりました。

 

シイナはそんな綾の様子を見て、嬉しそうにハーモニカを吹き続けました。

 

静かな夜に、小さな合奏が穏やかに周りの空気を震わせました。

 

綾とシイナは、その音色に包まれながら楽しい夜を過ごしました。

 

―END―

 


 
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