No.58744

ダ・カーポⅡ 美夏SS 約束

かなり昔(発売当初)にかいたSSを手直ししてみました。

2009-02-17 23:50:16 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:3266   閲覧ユーザー数:3083

美夏が風見学園に帰ってきてからは賑やかな学園生活が続き、義之達は卒業式シーズンを迎えていた。

「よっしゆき~!帰りにゲーセンいかね?新作入ったってよ!」

鞄を手に席を立った矢先に渉に呼び止められた。

「悪い、先約があるんだ」

義之はすまんと手で軽く挨拶をして教室を出ようとした。

「何?長い付き合いの俺を差し置いて?どこの女よ~!」

渉は大振りなアクションをして杉並に泣きついた。

「ふむ、俺達の知ってる桜内なら・・・、はっ!まさか宇宙人に脳改造を!」

「お前ら」

渉はけたけたと笑い飛ばして、口を開いた。

「冗談だよ~、そんな怒んなって」

「いや~、あいつが言うと冗談に聞こえないんだよな」

義之が杉並を見やると杉並はまだ1人でぶつぶつ言っていた。

「急いでるからもう行くぞ、人を待たしてるんでな」

そう言って教室のドアに手をかけた瞬間に勢いよくドアが開いた。

「義之~~~!!!!」

美夏が開けるなり絶叫、教室に残っていた他のクラスメイトの視線を集めた。

「お、おい美夏、校門でって・・・」

「いつまで待っても来ないから、美夏がこうして迎えに来てやった。ありがたく思え」

美夏はえっへんと言わんばかりに胸を張った。

「ったく、ほら行くぞ」

義之は美夏の手を引いて走り出した。

そこに残された渉は呟いた。

「ありゃぁ、尻に敷かれるな」

 

商店街を並んで歩く2人。

「もうすぐ卒業だな」

「そうだな、美夏は随分楽しかったぞ」

皆が作ってくれた美夏の学園生活、美夏はそれをかみ締めていた。

「卒業するのが、少し怖いな。皆ともう会えない・・・」

「会えなくなる訳じゃないさ、会おうと思えばいつでも会える」

美夏の顔がぱぁっと明るくなった。

「そうか!そうだな!そう思うと今度は卒業式が楽しみになってきたぞ」

美夏はぴょんぴょんとはしゃぎまわった。

そんな美夏の視界が古ぼけた店のショーウィンドウに止まった。

「わぁ・・・」

義之はその視線の先にあったものを美夏の頭越しに確認してみた。

「へぇ」

そこには鍵の形をした古ぼけたネックレスがあった。

「欲しいのか?」

聞こえていないらしく、美夏はキラキラした目でネックレスを見つめていた。

(これくらいしてもいいよな・・・)

「よし!美夏の卒業祝いに買ってやるかな!」

「本当か!」

美夏が心底嬉しそうに見つめてくる。

(やべ・・・、かわいいかも)

にやけそうになる顔を抑えつつ、義之は言葉を続けた。

「但し!卒業式当日に一緒に卒業するんだぞ」

「うん!うん!ありがとう、義之!約束だぞ!」

「あぁ、約束だ」

そして2人は終始満面の笑みのまま帰路についた。

 

次の日

美夏は学校を休んだ・・・。

無遅刻、無欠席の美夏が休むなんて珍しいこともあるもんだと義之はぼんやりと考えていた。

「お~い、義之!昨日あれからどうしたんだよ~、天枷が休むなんてさ、何かやらかしたか~?」

「俺は、別になにも」

ちょうどその時に校内放送が鳴り響いた。

『3年3組桜内君、至急保健室まで来て下さい』

義之の顔が曇った。

保健室に呼ばれる理由、言いようもない不安が義之を襲った。

 

そして、その予感は的中した。

 

「どういう事ですか!」

「今、説明しただろう」

「納得できません!」

「私だって、納得はしていない!」

舞佳は悲痛の表情で訴える。

「研究所は美夏から十分過ぎるデータを取った、その結果これ以上はないと判断したんだ」

「だから・・、美夏が、とま・・・る?」

義之は全身から力が抜け、膝をついた。

「なんでだよ!」

拳を床に叩きつける

「美夏は、今どこに?」

「今朝、通学中に姿を消した。君なら何か知ってるかと思ったが」

美夏との思い出が、笑顔が義之の脳裏に過ぎっていた。

 

教室に戻ってからも義之はずっと俯いていた。

「義之」

「・・・何だよ」

小恋が心配そうに声をかけてくるが、義之は顔を上げることができなかった。

「義之、話なさい」

杏が義之の前に立つ。

「何をだよ」

「あなたが保健室に呼ばれる、そしてその顔、加えて美夏の欠席。馬鹿でも分かるわ」

杏は机を強く叩いた。

「何があったの?」

義之は今までのいきさつを話した。

「そう・・・、探すわよ」

杏は義之の手を引いた。

しかし、義之の手は力なく伸びただけだった。

「いい加減にしろ!」

そこまで静観を決め込んでいた渉が声をあげ、義之の胸倉を掴んだ。

「義之、お前のするべき事はなんだ!?美夏と心を通わせたのはお前なんだ!悔しいけど、俺らじゃお前の代わりにはなれねぇんだよ!」

「・・・そうだな、悪い」

義之の目に生気が戻った。

「よし、手分けして探すぞ!」

言うなり義之は教室を飛び出した。

「単純ね」

「そこがあいつのいいところだよ」

続いて杏達も教室を後にした。

 

(どこだ、どこにいる?)

公園、チョコバナナの屋台、2人で通った道をしらみつぶしに走り回り、日も傾きかけた頃に義之は商店街へとたどり着いた。

「そうだ!あの店」

2人が約束したあの店に足を向けた。

店の中に入ってみると外観とは異なり、おしゃれな内装が義之を出迎えた。

「すいません、牛柄の帽子をかぶった女の子が来ませんでしたか?」

「・・・?いや、見てないな」

「・・・そうですか」

振り出し、店を出た義之はひどい絶望感に襲われていた。

「お困りのようだな」

「杉並・・・」

黒い手帳を片手に杉並が立っていた。

「一応、美夏嬢の親しい友人は洗った、調べてないのは一箇所だけだ」

「どこだ!?」

「お前ならわかるだろう?」

杉並は余裕そうに義之の目を見据える。

(そうか!!)

義之は一目散に駆け出した。

(俺と美夏の始まりの場所)

 

洞窟の前につく頃には日はとっぷりと暮れていた。

「美夏ー!いるかー!」

返事があるはずもなく、義之の声だけが洞窟に響いた。

意を決して、義之は奥に進んだ。

洞窟の最深部、美夏の眠っていた大掛かりな機械の隅に美夏はいた。

「探したぞ」

「・・・帰ってくれ」

「なんで?」

悪魔で拒絶の姿勢を崩さない美夏に義之は優しく問いかける。

「義之の顔を見たら、決意が鈍る・・・、美夏は思い残しとか、嫌だ」

「安心しろ、お前の事は俺らがなんとかしてやる」

美夏は肩を震わせながら、嗚咽のまじった声で言い返した。

「義之・・は、優し過ぎるんだ・・・、そんな事・・・言わないでくれ」

ぽろぽろと涙がこぼれる。

「ほら、ゼンマイ巻いてやるから、一緒に帰るぞ」

美夏からゼンマイを受け取り、義之はゆっくりとゼンマイを回した。

義之は涙を流してることを美夏に悟られないように、声を殺した。

「義之・・・」

「ん?」

「約束守れなくてごめん」

その言葉は義之の胸に突き刺さった。

「・・・終わったぞ、・・・美夏?おい!」

ゼンマイを回し終わる頃には・・・

美夏の機能は停止していた。

義之はポケットから『あの』ネックレスを取り出し、美夏の首にかけた。

「卒業式前だからな・・・、お互い様だ、馬鹿やろう・・・」

(何が、何とかしてやるだ!畜生!俺はどんな顔してあんな事を言った!)

美夏を抱きしめ、義之は泣いた。

 

義之が美夏を背負って帰る頃には時計の針は2時を指していた。

 

どんな辛いことがあっても時間は進む、義之は抜け殻の美夏と卒業式を迎えていた。

粛々とした雰囲気のなか、美夏の卒業証書が授与された。

義之が代理で受け取り、美夏にそれを握らせた。

「卒業おめでとう・・・」

「よ・・しゆ・・き?」

美夏の口が微かに動いた。

「美夏?美夏!?」

 

「信じられない、停止プログラムが書き換えられてる」

舞佳はディスプレイを見て声をあげた。

「いったい、どうして?」

「もしかしたら、研究所に桜内みたいのがいたのかもね・・・」

じゃなけりゃ、奇跡か魔法よと呟く。

「それで、美夏はこれからどうなるんですか?」

「メンテは可能な限りあたしが引き継ぐけど、研究所が美夏を放棄しちゃったからね・・・」

美夏はそわそわしながら義之の方をチラ見した。

「俺んとこに来るか?」

「いいのか!?」

美夏は嬉しそうに義之の腕に飛びついた。

「但し、条件があるぞ」

「なんだ?」

義之は美夏の目を見つめ、言葉をつないだ。

「もう、約束破るなよ?」

「ああ、約束だ!」

嬉しそうな美夏の首にはアンティークのネックレスが輝いていた。

 


 
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