第8弾 ギャンブル
シノンSide
3人が青ローブの男と会っている間、適当に露店をぶらぶらしながら見ていると、
少ししてから3人が戻ってきたようなので近づいて声を掛ける。
「終わったの?」
「はい。それなりの物を譲ってもらいました」
「女の子達だからちょっと心配したんだけど…って、どうかしたの?」
聞いてみてから少し心配だったのでそう言うと、黒髪の子と銀髪の子が引き攣った笑顔を浮かべてから顔を俯かせた。
あれ、私なにかしちゃった?
「あ、あはは…実はこの2人、男の子なんです」
「え?………えぇぇぇ!? う、うそ…お、男? ホ、ホントに…?」
紅髪の子のカミングアウトに私は驚愕するしかなかった。
何処からどう見ても女の子の2人が、まさか男だったなんて…。
「そういえば、案内までしてもらったのに自己紹介していませんでしたね……俺はキリト、歴とした『男』です…」
「……ハジメ、同じく『男』だ…」
「ホ、ホントだ…」
2人がメインメニューを開いてネームカードを実体化させ、
渡してきたので受け取るとそこにはキャラクターネームと『male(男)』という性別が表記されていた…。
「わたしはアスナ、ちゃんとした『女』ですよ」
紅髪の子も苦笑しながらネームカードを渡してきたので受け取り、
ちゃんと『female(女)』と表記されているのを確認した。
アスナと言う名前に一瞬だけど明日奈の顔が浮かび上がったけど、
アスナという名前のキャラネームならつける人はいるだろうし、
本名と同じにはしないと思い、その考えを振り切った。
「2人とも、M9000番系っていうタイプのアバターらしくて…」
「あ、あぁ、なるほど。それならおかしくないわね…」
M9000番系については私も知っている、男の身体でありながら俗にいう『男の娘』というアバターになるんだっけ。
落ち込んでいる2人の様子を見るに、私と会う前にも女扱いされたみたい。
「なんか、ごめんなさい…」
「いえ、元々こっちが自己紹介していなかったのが悪いんですから…」
落ち込み方を見たので思わず謝ったけど、黒髪の男子…キリトは申し訳なさそうに返答した。
「えっと、じゃあこのことはナシにしておきましょ。折角知り合えたんだし…あ、私はシノン。よろしく」
「よろしくお願いします、シノンさん」
自分も名乗っていなかったのを思い出したので名乗り、紅髪の女子…アスナが礼儀正しく返してくれた。
「敬語じゃなくていいよ、アスナ。ゲームの中なんだし、年も同じくらいかもしれないし。キリトとハジメも…」
「正直、そっちの方がありがたい。改めてよろしく、シノン」
「……よろしく頼む」
キリトと銀髪の男子…ハジメにも声を掛けて、2人も口調を崩して気さくに話してくれる。
いまの私はシノン、現実の詩乃とは違う…だから、こっちでのいつも通りで接すればいい。
とりあえず立ち話も難なので、私達は移動することにした。
シノンSide Out
キリトSide
俺とハジメは少し前を並んで歩いているアスナとシノンを眺めながら歩いていた。
シノンとしても同年代くらいの女子がこのゲームにあまり居なかったと思われ、アスナにレクチャーしているようだ。
さすがに俺とハジメは男なので少し関わり難いらしいが、むしろそれが普通かもしれない。
なんせこれから大きな大会に出て戦い合うのだから。
「でも、あまり剣呑な空気にならなくてホッとしたよ」
「……そうだな。悪気がなかったとはいえ、今回は私達に非がある」
だよな~、勘違いとはいえ親しく丁寧に接してくれたし。そこは反省しておこう、うん。
「ねぇ、シノン。アレはなんなの?」
「あ~アレね。ちょっとしたギャンブルゲームよ」
アスナとシノンの会話が聞こえたのでそちらに視線を向けてみると、大型のマーケットの壁際を使った装置が見えた。
ギャンブルゲームというが、一体どんなものなのだろうか?
「手前のゲートから入って、奥のNPCガンマンの銃撃を躱しながらどこまで近づけるか、ってゲームだよ。
プレイ料金が500クレジットで、10mで1000、15mで2000クレジットの賞金。
ガンマンに触ればいままでプレイヤーがつぎ込んだお金が全額バック」
「その額は…?」
「30万ちょいみたい。だけどこのギャンブル、クリア出来ないし」
30万超えって、かなりの額がつぎ込まれてるみたいだな。
しかし、クリア出来ないというのは一体…?
俺達の表情を見たシノンは続きを話した、なんでも8mラインを超えるとインチキな早撃ちになり、
無茶苦茶な速さでリロードをして射撃する為、予測線というのが捉えきれないらしい。
「ほら、やってみる奴がいるみたいだから、見てみるといいよ」
シノンの言葉通り、3人連れの男の内の1人がゲート前に立ち、10人程のギャラリーが集まってきた。
カウントが行われ、数字が0になった瞬間に男はダッシュした。
しかし制動掛けて止まったかと思うと、妙な
すると男がポーズを取る前に頭や手、足があった場所にガンマンが放った弾丸が通った。
「もしかして、いまのが弾道?」
「そう、『弾道予測線』による攻撃回避ね」
アスナの問いかけにシノンが答えた。つまり銃の標的にされると弾道予測線というのが見えるのか。
それを認識することで銃撃を回避し、敵と戦うのがこの世界の主な戦い方か…。
そして男が7m地点に辿り着き、もう少しでプレイ料金の倍額を手に入れられる……というところで、
ガンマンの動きが変化した。
銃撃に時差をつけるようになり、男はジャンプで回避したがバランスを崩したあと、
立ち上がったところで撃たれて失敗となった。
その際に、ガンマンが嘲るかのように勝利の言葉を喚いた、うぜぇ…。
「こういうこと。左右に大きく動けないから、ほとんど一直線に突っ込まないといけない。
どうしたところであそこら辺が限界なのよ」
「予測線が見えた時にはもう遅い、か……OK…」
シノンの言葉を軽く流して俺はゲートに向かった。後ろからシノンが何か言っているが、無視。
多分アスナとハジメは苦笑しているのだろう。
ゲートに立ってクレジットを支払い、カウントが始まり……0になった。
「GO!」
全力ダッシュで前方に飛び出る、ガンマンの銃の先端から赤いラインが伸びている。
これが弾道予測線か、狙いは……頭、右胸、左足、そう感じた俺は直後に右前方に飛び出す。
弾丸を全て回避し、右足でパネルを蹴り飛ばして中央に戻る。
VRMMOにおける飛び道具の回避方法は1つ、敵の『眼』から射線を読むこと。
カーディナル・システムの特性上、NPCもモンスターも照準箇所に寸分違わず視線を向けるからだ。
プレイヤーだろうがNPCだろうが関係無い、そこには一種の意思が宿る。
「この程度か?」
ガンマンの眼を見ながら僅かに呟けば、その瞳がピクリと動いた気がした。
ガンマンの狙いをその眼から読み取り、一切の無駄を省いた僅かな回避行動で全ての弾丸、いや弾道予測線を回避する。
気が付けば10mラインを超えたらしい…が、どうでもいい。唯々、前進あるのみ。
「雑魚」
明らかにガンマンの眼が変動した気がするがもう1度無視。
確かにインチキっていうのも納得だな、僅かに苦笑してから自身の直感と予感を全開にし、ガンマンの眼を見据える。
変則的なリズムでの銃撃、頭、右手、右足と来たので僅かに左側に寄りながら回避。
左胸、首、眉間とくれば倒れるのではという程前かがみになり、低姿勢になってから直進。
残るは5mほどか…いいねぇ、ガンマンの顔が憎々しげに歪んでやがる。
「Junk(笑)」
そう言ってみれば伝わったのか、怒り心頭のような感じだ。
俺の上半身である頭部、右胸、左胸、腹部、右腕、左腕に弾道予測がされるのを感じ取り、
一気にヘッドスライディング。
身体が止まる場所に空中で辿り着いた瞬間、いつもの感覚を感じ取り、両手で地面を突き、空中に飛び上がる。
俺の着地地点であったであろう場所に……6発のレーザーが直射され、穴だらけになった。
「Fuck!」
マジかよ、と思いながらさらに呆れつつ言葉を放つ。
まったく、ここまでイカレタようなギャンブルならクリアできないはずだ。
空中で回転しつつ姿勢を直し、着地前にガンマンの頭を鷲掴みにして…、
「果てろ…」
―――ドシャンッ!
「オ、オゥ…マ、イ……ガァ…!」
鷲掴みにした頭を床に叩きつけたのでガンマンは苦しげにそう言った。
そしてガンマンの背後のレンガ壁が壊れると中から大量の金貨が流れだし、俺のクレジットは膨大に増えた。
インチキガンマンに向けて最後にもう一度言い放つ。
「ざまぁみろ」
ふぅ、すっきりした。
キリトSide Out
To be continued……
後書きです。
はっはっはっ、残念でしたね! ビンタは無しなんですよ!
アスナが予めカミングアウトすることで、シノンビンタフラグをへし折りましたw
まぁキリトとハジメもこの辺りで救ってあげなければということで・・・w
そしてインチキガンマンによるギャンブル、キリトは見事にクリアしました。
その代わり、色々とキリトさんが呟いていましたけどw
次回はバギーに乗って総督府へ、という話になります。
それでは・・・。
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第8弾です。
今回は皆さん注目のガンマンギャンブルです。
どうぞ・・・。