「澪ちゃーん」
「あ、幸」
大学生活も一年経てば色々慣れてくるわけで。
受けるのが違う教科の授業が終わった後、偶然にも幸とばったり会ったのだ。
「ほんと幸って背高くてかっこいいよなぁ」
「もう、身長のこと気にしてるのにぃ…」
おっとりしていて幸と一緒にいるとほんわりとした気分でいられる。
彼女の傍に居ると心地良い。律とも頼もしくて心地良かったけどそれとはまた
別の意味でよかった。
「今日どこか寄ってく?」
誘ったのは私の方から。私は基本消極的だから、私からの誘いに少し幸は驚いた表情を
見せたけど少し考えてから微笑みを浮かべながら軽く頷いた。
「カラオケでもいく?」
歩きながら何をしようか考えていたらその提案が幸の方から来て。
「少し恥ずかしいかも・・・」
「この間、演奏して何言ってるの」
当然のように幸からも突っ込まれた。唯や律に加えて今回で3人目である。
「だよな…」
頬を人差し指で軽く掻くと、何かが浮かんだのか幸は一瞬見上げてから
私の方へ視線を向けてきた。
「じゃあ、映画とかどう?」
幸のことを信頼してついていった先はホラー映画だった…。
「な、何でホラー何かにするんだよぉ…」
「え…何か面白そうだったし…」
「面白くないって…」
上映前から手や足がブルブルしている私に、優しい声で緊張を解そうとしてくる幸。
ありがたいけど、それはあまり効果がなかったようだ。
「ひいいいいい!」
案の定、終始ものすごい悲鳴を上げながら私は映画を見ることになってしまったの
だった。
ふらふらしながら幸に支えてもらいながら私達は映画館を後にした。
休憩がてらに近くのベンチに座って、幸が飲み物を買いにいったのを見届けてから
ほどなくして冷えたのを持ってきてくれた。
ホラーのせいか、最初はさほど暑く感じなかったけど、休んで落ち着く内に
少しずつ暑さを感じるようになった。そういえば今は夏だったな。
「ごめんね」
「幸も得意じゃないのに何でああいうの見るかなぁ…」
渡されたジュース缶を額に当てながら私は幸にぼやくように呟いた。
何だか断るには幸に悪いなって思う気持ちが強くて見てしまったが
やはり私にはとことん向いてないジャンルであった。
幸が得意じゃないってわかったのはその表情を見たからだ。
笑顔は変わらないがどこか無理している気がした。
「だってみんなが澪ちゃんにホラー見せると可愛いって言うから」
「は?」
「みんなの言う通り、澪ちゃんすごく可愛かった」
これまでに見たことないくらい幸は可愛らしい笑顔を浮かべていた。
そんな顔を見せられたら文句の一つも出やしない。
「むぅ…」
「ごめんね、機嫌直して」
私の隣に座っていた幸は腕を伸ばしてきて私の体を引き寄せると
幸の体を密着して、頭をゆっくり撫でられた。
暖かくて幸の匂いがして何だか落ち着いてきた。
「こ、こんなことしても許さないんだから」
ほんとはとっくに許してるんだけど、幸の思い通りになるのが何だか悔しくて
私は思ってもいないことを口に出して少し罪悪感を覚える。
「ご、ごめんね。お詫びに何か奢るから~」
でも、何で彼女は出会って長くない私にこんなに良くしてくれるのか不思議で
仕方なかった。そういえば唯もムギも、出会った時からこんな感じだった。
「いいよ、嘘だよ」
「え?」
「別に怒ってないから…」
勢いで言った言葉とはいえ訂正するのは少し気まずい気持ちと気恥ずかしさが
残る。視線が合わせられずに逸らしながら熱くなった顔を見せないようにしていたが。
「照れてる澪ちゃんかわいい」
ふふって柔らかく笑うのを見てると胸が高鳴って暖かい気持ちになっていくのを
感じる。顔が熱くなるのが治まらないまま、私は立ち上がって幸を引っ張りながら
歩き出す。
「み、澪ちゃん?」
慌てたように私の名前を呼ぶ幸。それ自体がどこかくすぐったくて。
私は進める歩を早くしていく。
そうして今度は私が幸と過ごしたい場所を選んで遊んだ。
幸も最初は私が無言で連れていくから戸惑っていたけれど、私の気持ちを汲んでからは
楽しそうにして私に付き合ってくれた。
色々な気持ちに振り回されたけど、すごく充実した日だった。
【幸視点】
ホラー映画に誘ったとき、私は純粋にどんな澪ちゃんが見れるのかが気になっていた。
だけど、その中でどこか澪ちゃんを見て淡い別な気持ちが芽生えてしまったのを
感じていた。
すごい怖がって無意識なのか、隣にいる私の手を握って叫んでいた澪ちゃんを
見ていて、少し怖かった私はその姿を見て和んでしまった。
その後で休憩を挟んだ後に澪ちゃんが拗ねていたのを見て困惑する気持ちと
にゃんことかわんこが拗ねた時のような可愛らしさがあって正直困った。
私が澪ちゃんのその姿に癒されていたら、彼女はまた怒ってしまうだろうから。
なんで私は澪ちゃんにこういう気持ちを抱いてしまったのだろう。
みんな等しく私には優しくしてくれるのに。一番心に来たのは澪ちゃんの言葉だった。
嫌いな身長高い話も、澪ちゃんから出る言葉は嫌な気持ちがあまりしなかった。
それよりもっと褒めて欲しいとさえ思えた。
もしかしたらこれが好きという気持ちなのかもしれない。
でも、私がこんな気持ちを抱いてるのを知ったら澪ちゃんは困ってしまうかもしれない。
だから察せられないように私はがんばったのだけど。
その努力も今では想像できない先に…。
そう遠くない未来で私達はこの話を照れ笑いしながらお喋りしながら
同じ道を歩いていくのだ。互いの手を繋ぎながら…彼女の温もりを感じながら。
私は親友とは違う幸せを見つけたのだった。
愛してるよ、澪ちゃん。
お終い
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この組み合わせは初めてなので無理が多数あるかもしれませんがぜひ見ていってくれると嬉しいです。似たとこがある二人はけっこう相性がいいのかもしれません。