私の一族は、いわゆる“黄泉の国の隣人”と呼ばれている。なんというか、ものすごく香ばしい二つ名ではあるが、実際“そうなのだから”仕方がない。
本家の裏手にある洞窟の奥が、黄泉の国に繋がっている。黄泉の国・・・いわゆる、まぁ、あの世?みたいなところである。
無悪家が葬儀会社を営んでいるのも、このあたりに起因するというか・・・まぁ、餅は餅屋という言葉があるくらいだから仕方ない。
「・・・」
書類とずっと向き合っていると目が疲れる。この後は会社規模での葬儀などの打ち合わせにも行かないといけないし、そろそろ人事部から面接に来てほしいという仕事もあったし・・・
「・・・郁子ちゃん、忙しくて死にそうだよ」
「下の名前で呼ばないでください、社長」
「だ、だって郁子ちゃんも私も苗字一緒じゃない!“無悪”じゃない!」
「それはそうですが、さすがにそれはセクハラですよ」
「下の名前呼んだだけで!?」
「ゲスの勘繰りというのも、世の中にありますからね」
「で、でも・・・郁子ちゃんのほうが呼びやすいんだもん・・・」
「良い中年が“だもん”と使っても可愛くありませんよ」
「ううっ・・・」
「社長、そろそろ打ち合わせのお時間です」
郁子ちゃんに言われて視線を時計にずらすと、すでに午後1時・・・そろそろ出発しないといけない時間だ。適当に書類を纏めて、郁子ちゃんと共に車に乗った。
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春闇さん視点で、ちょっとだけワンシーン