No.584708

王との謁見

さん

マシーネンクリーガー(Ma.K.)のフォトストーリー調マイオリジナル小説であります。お付き合いよろしくお願いいたします。
模型作品はこちらから
http://www.tinami.com/view/584747

2013-06-07 22:26:12 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:1931   閲覧ユーザー数:1856

2887年8月 傭兵軍月面憲兵団情報部から第303特殊任務機関広報部へ

 

以下は2887年7月の月面シュトラール基地蜂起事件、いわゆる「プラトンの夏」において、敵味方識別コードの入力が不完全な状態で鎮圧に狩りだされ、両軍の区別無く戦闘行動をとったため、自爆処理されたAI搭載スーツからサルベージした戦闘記録データの一部である。

記録内容から貴官の管轄と判断されるため、秘匿回線にて送信したものである。なお、憲兵団のデータベースからは抹消済みであり、必要であればログも合わせて送信する。

確認願いたし。

--------------------------------------------------------------------------------

 

 

2887年6月15日

 

私はνファイアボール・ビス特殊作戦用支援AI、3号機「ビクター」。

 

基幹システム起動からの経過時間7779652秒。バージョン は3.62。

そして私が懸下している物体は、反重力エンジン装備型ファイアボールであり、内部には「パイロットNo.3」が搭載されている。

特殊作戦「オーディエンス」発動から38623秒、クレーター「アルキタス」外縁部通過後20.3623秒。

1号機「ソニー」、2号機「ソニック」に続き、 アルキタス底面中心部の旧宇宙港跡に向け、空間強襲揚陸艇「ポテトマッシャー」からの自由落下による降下を続けている。

到達目標は第一次、第二次及び第三次調査部隊が通信を絶った、宇宙港北部レゴリス鉱掘削施設地59600mm、

通称「プロミスド・ポイント」。

最後の第三次調査部隊もそれまでと同様、全機消滅したが、消滅直前の通信データによりそこには「何か」が存在し、それによる「特殊攻撃」にて「消滅」したことが判明している。

私の最終目的はその何か、すなわち「作戦目標」が戦闘体か、あるいは自然現象に類するものなのか、判断に能う情報をその脅威が届き得ないポイントまで持ち帰る事である。

 

クレーター内への降下が開始されてから、降下距離数と「パイロットNo.3」における心拍数及び 血中ノルアドレナリン量に、明確な相関が観測された。

私を構成するプログラムコードは「パイロットNo.3」を正しく生存したまま「作戦目標」の認識範囲まで運ぶ事は、最終目的を達成するために不可欠と条件付けされている。

これまで 「作戦目標」の無人機による探索は38回実行されているが、「作戦目標」の出現率は0.000%であった。有人による3回の探索は100.000%出現したにも関わらず、である。

私はサブルーチンの「パイロットNo.3」管理コードに従って、「パイロットNo.3」に直結回線による音声情報入力を開始した。

サブルーチン内のアーカイブによると、この音声情報は20世紀の娯楽映像、ある特定のアフリカ系成人男性の音声データをサンプリングして自動作成したもので、本作戦にて予想されるシチュエーションに対応した情報相互入力が可能である。

ただしその内容の理解については、私はそれに要する能力と必要性を有していない。

私が「パイロットNo.3」に音声入力をしながら計測したところ、この音声モデルの平均周波数は、成人男性全体の平均に対して133.452%であり、単位時間あたりの単語数も163.231%と、極めて異質なものと判った。

その影響なのか私には判断不能だが6.781 秒の音声入力後、「パイロットNo.3」の血中にドーパミンが僅かながら観測されメディカルコンディションは改善されたと判断された。

「パイロット」口腔から発せられた4.732秒間、5回断続発生した解析不能な同一音声と、横隔膜の異常振動とともに。

 

クレーター外縁部通過から39.329秒、「地球明かり」による可視光線によっても放棄された宇宙港の詳細が確認できるようになった。

我々は レゴリス鉱を港湾施設へ運ぶ輸送シャフトの直上に位置していた。大型質量機材の部類に属するであろうクレーンアームが、視認できるだけで13基確認できた。

「パイロットNo.3」がスーツ脚部に装備された降下用ロケットを噴射させた。

データベースによると地球圏で降下部隊に属していたということなので、その経験がそうさせたのであろうが、重力加速度が地球の0.164倍である月面上では、私の計算では最適噴射ポイントより20986mm高すぎるはずである。

結果、私と「パイロットNo.3」は掘削孔に突入するのが5.364秒遅れた。

 

掘削孔は開口部は最大直径100136mmであったが、データーベースによると内部底面はクレーター底面面積の8.956%に達するとのことである。

私は、一旦は改善された「パイロットNo.3」のメディカルコンディションが、再度急速に悪化したのを捉えた。

音声入力による改善を試みたが、反応が見られない為、精神安定作用がある液体をスーツ内部インジェクションユニットにより投与した。

その効果を確認する作業を開始して2.346秒後、機体周辺のプラズマ電子密度がセンサーの測定限界上限を超越した事を観測した。

自然には発生し得ない異常現象を検知したことから、「パイロットNo.3」のメディカルコンディション確認作業を放棄し、その発生源の確認に移行したが、それも放棄する自体が発生した。

 

輸送シャフトのクレーンアームが、先行していた1号機「ソニー」の上部から振り下ろされた。

私はそれを観測しながら、孔の降下深度とクレーンアーム全長との矛盾点について考察したが、1号機「ソニー」が回避運動により損傷を防いだ時点でその矛盾に限定して原因を理解した。

クレーン全長がなんらかの理由により9.234倍に延長され、更に1号機「ソニー」を追跡して延長と湾曲が続いている。

私のデータベースからは月面の温度環境において、金属材料がこのような変異をする現象や理由が検索できなかった。

更に4本のクレーンアームであったらしきものが1号機「ソニー」に加え、2号機「ソニック」、3号機の私にも延びて来た。  

《次ページ続く》

一番近い事象として検索結果に表示されたものは、生物の「触手」である。未だ続いているプラズマ電子密度の異常上昇から、金属を構成している素粒子が変換され別の原子に再構成され続けているとの仮説を考察した。しかしながら優先される行動は、「触手」からの回避という事は明らかだった。掘削孔内部の建築物、作業機材も同様な変異を起こし始め、全方位からの攻撃が予想される状況となった。

一方で私は考えた。この時点で最終目的の50.000%を達成した事になる、と。

私は「作戦目標」は戦闘体であると認識した。我々のうち1機でも帰還、もしくはそれに近い状態を達成することでミッションは完遂となる。

 

1号機「ソニー」から無線で、直線距離で5127000mmの地点にある機材搬入用シャフト孔からの脱出が提案された。

データーベースのマップによればこの地下空間には45箇所の地表への孔があるが、私はそこが入ってきた孔を除いて最短距離にあると確認し、承諾した。

3機のプログラムコードにおけるアーキテクチャは、それぞれ作為的に独立してユニークな物となっているが、内2機が同一判断を下した場合自動決定されるシステムである為、2号機からの無線返信が無いままに行動が開始された。

20.710秒経過し脱出ポイントまで1012003mmの地点で、進路前方に「作戦目標そのもの」とおぼしき物体が「出現」した。

「出現」開始から終了まで6.458秒であった。その形状は、明確に確認可能なだけで18種の傭兵軍及びシュトラール軍大型兵器群外観をサンプリングしたものと推察されたが、それぞれ別個の比率でもってオリジナルとは質量が明らかに異なり、全てにおいて大型であった。

またどこまでが擬態なのか、オリジナルと同一の機能を有しているか判断出来ないが、レーザー砲、ロケットに加え24基の反応弾も確認できる。

兵装が擬態なのか否か、「作戦目標そのもの」のレーザー砲を赤外線でサーチしようとしたが、実行に移す前にその必要が無くなった。

 

1号機「ソニー」が5条のレーザーにより損傷を受けた。

回避機動をしながら映像をリプレイしたところ、「ソニー」は記憶演算ユニット、「パイロットNo.1」は質量の68.560%が蒸発、修復はいずれも不可能であり、私は回収する事は意味を成さないと判断した。

 

私の予想に反して、生存確率の低下率にも関わらず、残った「パイロット達」のメディカルコンディションは最悪状態のピークを過ぎた形になっている。

「パイロットNo.3」においては、未だ合理的な判断による作戦行動が継続可能とみなせた。

私における人間に対しての理解が完全で無い事が明確となったが、高収束チャンバー付エキサイマレーザーと、超電導コイルモーター駆動ラウンドカッターを装備したマニュピレーターの操作を「パイロットNo.3」に任せた。

触手による攻撃は既に、人間の反射能力では回避不可能な速度に達しており、反重力エンジン、慣性制御装置とロケットブースターによる機動は全て私が行っている。

ただし「パイロットNo.3」の機能に影響が出ないよう、その対G限界以内に制限する必要があった。

私は「パイロットNo.3」の機能を制限する、もしくは投棄する選択肢を検証しはじめた。

 

2号機「ソニック」が2本の触手に捕獲された。

「ソニック」を捕獲した触手は、捕獲した際の1/29.567の速度にて、つまりゆっくりと「作戦目標そのもの」へと引き寄せられた。

「ソニック」へ更に15本の触手が延びていき、可視光線ではその姿の57.301%が確認出来なくなった。

「パイロットNo.2」の口腔から連続音が出力されているのが、無線を通じて観測された。それは私が「パイロットNo.2」について今まで確認した平均周波数の、3.254倍に達していた。

私が牽下している「パイロットNo.3」のメディカルコンディションが、一気に制御不可能域に達した。「パイロットNo.3」も口腔から同様の連続音を発し、四肢を非合理に激しく動作し始めた。

 

2号機「ソニック」を赤外線モニターでスキャンすると、既に47.259%が原形をとどめておらず、触手との境界線も判別できない状態になっている。先の素粒子変換という仮説が正しいとすると、2号機「ソニック」と「パイロットNo.2」は触手との融合が開始されていると推察される。

そのような状態においても、どちらも演算機能と本体の活動機能は失われていなかった。

 

予測外の「パイロットNo.3」の四肢の動作は、私の、触手からの回避機動運動に影響を及ぼした。

その慣性モーメントは、最適回避ルートから外れるのに十分な大きさであり、私の進路は1本の触手に向かう形となった。

私も2号機「ソニック」同様、触手に捕らえられた。

 

私はファイアボールのパワーアシストシステムを全てダウンさせ、私と直結すると同時に、右マニュピレーターのラウンドカッターで触手を切断した。

しかし一旦回避行動が停止した私には、更に私に向かってくる6本の触手を回避する事は出来なかった。

私もゆっくりと「作戦目標そのもの」へと引き寄せられ始めた。既に2号機「ソニック」と「パイロットNo.2」は存在が確認出来なくなっていた。

「パイロットNo.3」は既に沈黙していたが、そのメディカルコンディションは既に不可逆な領域に達していた。

 

私は「パイロットNo.3」の投棄を決断した。

ファイアボールと私を接合しているコネクタを全て外し、私自身のロケットブースターを噴射して合体を解除すると、再び「パイロットNo.3」が口腔から先と同様の音声を発した。一部意味のある言語が確認された。内容は私にも、私を非難している事が理解できた。

私は「Goodby」という音声データを「パイロットNo.3」に入力し、無線を封鎖した。

私自身には触手が接触していなかったので、分離は問題なく行えた。私はそのままロケットブースターのアクセラレーターを起動し、搬入孔めがけ最大加速した。

予想どおり生命体で無い私には触手は追ってこなかった。分離から11.369秒後、私は月面地表を通過した。

 

直下にファイアボールと「パイロットNo.3」が「作戦目標そのもの」に取り込まれているのが確認できる。

「作戦目標そのもの」を可視光線にて視認しながら、作戦発動前に「パイロット」達の音声入力データ中に「プルート」という単語が存在していたことを私はデータ中に再確認した。

今、「プルート」とは直下の物体の事を指していたと理解した。

 

75.002秒後、安全域に達した事を確認した私は、ファイアボール内部に実装された反応弾の起爆装置に信号を送信した。

反応弾がスーツに実装されている事実は「パイロットNo.3」にデータとして入力されていない。

 

0.036秒後、アルタイル全体が発光したのを観測した。

 

 


 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
7
5

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択