No.583155 魔法少女リリカルなのは☆まなさん 2013-06-03 17:20:15 投稿 / 全7ページ 総閲覧数:1649 閲覧ユーザー数:1636 |
退魔拳
銀髪の女性と対峙する少女は拳を構え、一瞥。
豊満な乳房が覗く、全裸の女。五指を開いて前を見据え深く腰を落とした。
一閃の煌きとともに大地を狩る少女の動きに女が微笑む。
銀月の如き髪の先から発射される赤い噴射口、本流のように空気を焼く光線の瞬きに男はバックステップで回避。硝煙の鼻につく匂いに鼻腔をひくつかせながら先ほどの攻撃を看破する。
(…自分の血液を髪の先端から高圧で噴射したのか…)
恐るべき相手。
敵に悟られぬように顔色を変えないでいるものの今の所、打つ手はない。
先端からの血刀攻撃、その全てを避けたのは鍛錬の賜物といえたが次が上手くいくとは到底思えない。
相手の瞳がこちらをじっと、一挙即動を見つめている。先ほどの攻撃はこちらのスピードに照準が誤差を起こした結果。
拳に力を溜め、体内の気を循環、それを励起させる。
渦を巻き始める気の本流。砲撃の体勢をとり、より深く大地に根を下ろすようにしっかりと足の指で地面を踏む。女が金きり声をあげたその一瞬、大爆発が巻き起こった。
肩で息をして背後を見つめる。
転がるように逃げた先に壊れた鳥居がある。
汗で張り付く白いTシャツ。黒いズボン。後ろ一つに束ねた長い髪。
幼いな顔立ちには不釣合いなほどの男らしい笑みを浮かべ、その少女は苦笑した。
「…これはやっかいな依頼をされたものね」
小高い森に立つ鎮守の社。そこの氏神を怒らせたという依頼。
同級生の泣き言に仕方がないと受けたのだがこれは厄介なことになりそうだ。
電車を二駅越えたとこにある海鳴市。その駅に降りた少女は出迎えてくれた青年に挨拶する。
初夏の新緑の香り、それと洋菓子の甘い匂いに微笑んだ。
「…愛。また、その格好なのかよ」
恭也が苦笑するのも無理はない。袖のないセーラー服のような格好。
その言葉にこちらも憤慨した顔をむける。
自分の趣味をとやかく言われる筋合いはないといった顔で御神流という古流武術の継承者である高町恭也に告げる
「動きやすいし、このノースリーブ大好きなんだけど?…おかしい?」
「いや、愛らしいというか、似合ってるよ♪」
ぶっきらぼうに言葉を濁す少女。恭也は親友に微笑む
「で…どうしたんだ、突然」
悪びれた相手に愛は手を振り、その謝罪を流す。
毎年、夏に遊びに来ていたが、中学に入った頃から疎遠になっていた。
高町恭也の実家は、喫茶「翠屋」という洋菓子店を経営していて、海鳴市では「美味しい」と評判のお店である。
…甘いもの、特にケーキが大好きな愛はよくお手伝いと称してお店の手伝いをしたものだ。
「…私が退魔師をしていることは知っているよね?」
恭也はコクンと頷く。
「ある依頼でね。ある鎮守の社で肝試しをしてその社のお札を剥がしたらしいの。
そしたらその子が後日、「首が痛い」って喚き散らしその霊障をみて私に依頼がきたってわけ」
「それで、俺に力を貸して欲しいと?」
それに快活に微笑む。
「わかった。俺も修行中の身だが、力になるよ」
親友の了承にありがとうと礼をいい、ところでと切り出した。
「恭也は忍さんとエッチしたの?」
ブハァ…あ、噴き出して絶句してる。
「なっ…なんで、俺が忍と付き合っていることを知っているんだー!」
もう、そんなに狼狽しないでよ。おと。紹介がまだだったね♪忍さんは月村すずかちゃんのお姉さん。
無口で人見知りのきらいがあるけど、恭也にだけ、可愛い笑顔を見せてくれる恭也の彼女さん。
「で、なんで知ってるんだ。」
「んーと翠屋でバイトしていたときになんとなーくかな♪」
…あらあら、まだ絶句してる。
「頼むから、口外はしないでくれよ?、…忍が傷つく」
そうだね。あの子繊細だし、一歩引いたとこがあるから「自分なんて」って思っている節があるし。
「でも、どうしてだ?」
恭也のいぶかしむ声に気がついて
「うん。その霊体、というか「障り神」なんだけど、全裸なんだよね。」
なぁにぃ。…うん、その反応だけでわかるかな。
恭也がさらに絶句しているのを見て楽しそうに微笑む。
…まあ、浮気させちゃまずいよね。男子大学生、朴念仁でも女性の裸の面識がないんじゃ不覚をとるよ
「…ありがとう。恭也。でも、いいよ。ひとりで頑張る」
赤面している恭也を見て助勢をやんわりと断る愛に第三者が申し出た。
「私が、同行してもいいでしょうか?」
そこにサイドポニーの茶色の髪の強い光彩のある少女が立っていた。
「…なのは。聞いていたのか。」
恭也の末妹のなのは。最後にあったのは二年前、交通事故で入院していた頃のお見舞いで。
…どうみても交通事故ではなかったけど。背後から刺されたような傷。交通事故じゃあんな風にはならない。
「お兄ちゃん、愛さんは困っているんですよね?」
…困っている。だけど。素人には危険すぎる。
「あのね、えーと、アニメの話、そう…あのキャラクターと闘ったらどうかなーって、ほら、私がアマチュアで女子プロレスしているって、話したことあったよね。…格闘家、いいえ、女子レスラーとしては対戦したいなって」
…って何、苦笑してんの。妹さんは一般人なんだから闇の世界の話とかしちゃダメでしょ。
「…なのは。話を聞くのは勝手だ。だが、それに首を突っ込むならその覚悟があるってことだな」
って何いってんの、この兄。
「…だそうだ。このお節介な妹の申し出をどうする? 愛。」
断るに…断れず、勝負することで納得させることにした。
彼女も恭也と同じように御神流の剣士なのだろうか?、姉の美由希もまた御神流の小太刀の使い手。
彼女もまた相当な使い手なのだろうか?立会人は兄の高町恭也。場所は海鳴海浜公園。
愛は腰まである長い黒髪にワンピース水着にブーツといったアマチュア女子プロレスのリングにあがるときの格好。指にはオープンフィンガーグローブを嵌めて臨戦体制。五指を開いてなのはを見て、腰をゆっくりと落とす。
対するなのはは…赤い宝石のようなものを突き出した。
『レイジングハートッ…!、セッート、アップ』
…な、何ィィィ…。
なのはちゃんの身体が桃色の光の帯に包まれると衣服が弾け飛ぶ。
弾け飛んだ残滓は光の羽に変わり、舞いりなのはの幼い身体に纏わり武装に変えていく。
インナーからアンダーウェア。魔術師がもつ、でも機械的なフォルムの杖が形成され光が爆発するように収束すると、そこには白の基調に蒼の意匠を纏ったひとりの魔法少女が立っていた。
…なのはちゃんよね?
「はい。時空管理局、武装教導隊所属、高町なのはです」
彼女が変身を完了させると世界はモノトーン調に変化していく。
まるで結界。これは…月函?赤い月から表れる怪異。異世界「裏界」からの侵略者。侵魔が使う遮断結界と同じ?愛はなのはを一瞥しそう分析した。退魔師として様々な怪異譚と遭遇した愛もウィザードクラス。気を操る龍使いとして覚醒している
「…魔法少女ね。」
目の前で起こった出来事を納得する。
そして、身構えてた。相手の目をみればわかる。その強い意志を放つ光彩は自分より弱輩ではない。
むしろ兵としてはこちらよりあちらの方が上。桜庭愛に笑顔が表れる。リングでのみ見られる表情は強い相手にめぐり合った喜び。
「恭也、ゴング…ゴングを鳴らしてよ、はじめようよ」
…まったく、これはプロレスじゃないんだぞ。「はじめぇー」
苦笑しつつ親友の、なのはにとっては兄の掛け声に両者の視線が交錯する。
愛は体内の気を循環、脚力を爆発的に高め、一気に間合いをつめる。風をきって繰り出された拳が土ぼこりを舞い散らす。一足跳びでなのはに襲い掛かった愛の動きを見てなのはは空中もハンディにはならないと判断。
魔力を練成し、周囲に球体を無数に作り出し発射する
『アクセル…シューター!』
魔力発射コードにデバイスは魔力弾を射出。相手の回避行動を軌道計算しつつ幾何学の動きで牽制をかけ殺到する弾丸の雨をバックステップと瞳による視認で回避、もしくは腕を奮って打ち落とす愛は気合の掛け声とともに腕を突き出した。その掌から空気が振動し拳圧がなのはに襲い掛かる。防御魔法が展開されダメージはないがなのはは改めて愛をみつめた。
(…陸戦魔導師相当…しかも、中距離の砲撃魔法を心得ている)
ならば…ディバインバスターで…その動きをとめ、バインドで拘束する)
…中距離砲撃魔法での行動抑制を行い、回避した桜庭愛を拘束魔法で捕らえる。
そのために、カートリッジに魔力を再装填。大技を放つ準備に入った。
空中の高町なのはの動きをみて、愛は防御の構えを取る。
何かくるな。と身構える愛。空中という間合いは愛にとっては不利。しかし、決定打にかけると判断した。
身体能力を向上させる気の巡りには高町なのはのどんな砲撃も通用しない。
どんなに威力があろうとも、『当たらなければどうということもない』だ。
魔力が高まり、奔流となる。全てを貫通する破壊の鉄槌。
なのはの発射声紋の認識しレイジングハートは出力をあげ、回避行動を予測、演算しバインドの準備を行う。この砲撃を敵は必ず避ける。その動きをもってこの戦闘を勝利するなのはに強い決意
の意志が宿る。兄の代わりに自分が行くことを了解してもらうために。桜庭愛に認めて貰うために。
レイジングハートの砲口から巨大な魔力砲撃。
ピンク色の空気を震撼させるほどの熱線が桜庭愛に突き刺さった。
それは爆心地のように一気に周囲を粉砕し大地に穴を穿つ。爆発に吹き飛ぶ愛を見て、
なのはは用意したバインドで縫いとめた。
「…これでわかってくれましたか?」
なのはは蹲っている愛に微笑み自分の強さを誇示した。
「お兄ちゃん、私の勝ちだよね?」
そう兄を一瞥しようとして愛の身体が崩れていくのにはっとした。
愛を形作っていた呪符がはらはらと消えていく。そのときぐぃっと誰かに背中を押さえつけられた。
「…おまえの負けだよ、なのは」
驚愕しているなのはに兄は微笑みながら負けを告げた。
…しかし、すごいな。さすが、桜庭愛だ。
むすっとしているなのはをあやしながら恭也は愛に感歎した。
砲撃魔法をあえて食らい呪符の防御で相殺しつつ爆破させ威力を拡散。上空のなのははその様子を上からでしか視認できない
ため、自分の砲撃が成功したと思い込む。そして、自分の人形を作り、飛ばされたように見せつけ、自分は隠行印で消え、油断したののはの背後を取る。
「でも、背後をとられたから負けなんておかしいよ。お兄ちゃん」
納得がいかないなのはは兄に詰め寄るが、
「なのは。そこのお姉ちゃんは可愛い子大好きの真性の百合だ。そのお姉ちゃんが背後をとったら何をするか聞きたいのか?」
…その意味、最近、はやてちゃんにいっぱいされているからわかる。
「えと、よくわかりました。お兄ちゃん」
「まったくだ。兄の前で傷物にされてはたまらないからな」
冗談だか本気だかわからない言葉で恭也は愛を見る。
「さすがだな、無差別級王者は伊達じゃない。で、やっぱりひとりでいくのか?」
その問いかけに愛は頷く。
なのはの申し出はうれしいがなのはの魔法では相手の戦意を挫くことは難しいだろう。
「ん、じゃあね。」
そう黒髪を靡かせる後姿を高町なのはは見つめていた。
自分を打ち負かした相手。でも、心に灯ったのは悔しさだけじゃない。
この熱い想いは…。
「お兄ちゃん。私にプロレスを教えてくれないかな?」
…わたし、愛さんと闘いたい。同じ場所で、同じ力で愛さんに認めてもらいたい。
それが、私が目指す『強さ』だと思うから。
「…とまあ、こんなトコかな。」
苦笑しながらなのははスバルたちに微笑む。
模擬戦の後の質問。陸戦魔導師では空戦魔導師には勝てないのではないかという疑問に対し、
高町なのはは自分の決定的な敗北を語った。あれから接近戦の修練も積み、エースオブエースとまで呼ばれるようになった。
はにかんだ笑顔でスバルたちを見ながらなのはは思う。いつか再び、桜庭愛と闘いたいと。
「…その人はどうなったんでしょうか?」
ティアナの問いになのはは一枚の隊舎の壁に貼ったポスターを見つめる。
そこには女子プロレスの試合。
あの日から随分大人になった少女の雄姿が紙面を飾っていた。
いつまでも私に勇気をくれるその勇姿。観戦するすべての人間を魅了する人間性。
悪く言う人もいるけど善悪混ぜ合わせてここまで人気のある女子プロレスラーを私は知らない。
『ベビーフェイス』美少女レスラー桜庭愛の戦いはつづく。
《終わり》
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その少女の名は桜庭愛。
見るものすべてに勇気をあたえた女子プロレスラー。
この物語は、桜庭愛とまたエースオブエースと呼ばれる前の高町なのはの邂逅の物語である。
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