--城内。玉座の間。
「劉表様。龐徳公、以下捕縛隊十名、帰還致しました」
「捕縛対象はどうなったかのう」
「さすがにこちらに連れてくる訳にもいきませぬゆえ、牢に入れております」
「ふむ、そうか。ご苦労であったの。下がってよいぞ」
労いも無ければ褒美も無い……か。最初から褒美を狙ったわけではないが、せめて兵を労って欲しいものだ。
「それと、捕縛対象なのですが、そこそこ武があるようでして、よろしければ私に預けさせて頂きたいのですが」
「わしは下がれと言うたのだ。そんなもの自由にしてよい。さっさと下がれ」
「はっ」
私もここには居たくないわ! さっさと下がるか。
--地下牢
「龐徳公様、彼に用ですか? 」
「あぁ。通してくれるか? 」
「龐徳公様なら問題ないとは思いますが、一応注意しておいてください。目が覚めてから少年も虎も近寄る者に襲い掛かっておりますので」
「やはりか……まぁなに問題はない」
牢の番をしていた兵は鍵を開け千寿を通す。
牢に入っているのは少年と虎だけだった。千寿は迷わず少年に近寄っていく。近くで虎がもがいたが一瞥するだけで歩みは止めない。そうして少年の目の前に到達する。
「昨日振りだな。元気にしていたか? 」
「……なんの用だ」
「いやなに、お前達の処遇をどうしてほしいか話し合おうと思ってな」
「……話し合うことなんて、何も無い」
このままだと平行線だなと千寿は感じていた。
「少し待っていろ。すぐに戻る」
そう言うと、千寿はどこかに去っていった。
しばらくして、何者かを連れた千寿が戻ってきた。二人は少年の目の前に来て何事かを喋っている。
「諳、こいつらをどう思う? 」
「少し待ちなさい……あなた、面白いものを見つけてきたわね。ふふふっ」
「お前、目が……やはりそう思うか。で、お前ならどう見る? 」
諳は興味を持ったらしく、眼を開いて少年を見ていた。さらに奥を探ろうとするかのように。
「文官……いえ、武官にも適正があるわね……っ!……これは、黒い……夜叉? 」
「黒い夜叉? なんだそれは」
「分からないわ……彼の奥深くに一瞬だけ見えたの。千寿、彼と戦ったとき何か異変はあった? 」
「異変か……あぁ、入り口の近くに虎がいただろう。あいつもこいつと一緒に連れてきたんだが、あの虎を殴ってしまった時こいつの目が変わったな」
「具体的にはどう変わったのかしら? 」
「黒い眼が一瞬で赤く染まった」
「そう……」
そう言って思案し始める諳。
しばらく何事かを考えていた諳だったが、何か思いついたのか千寿に話しかける。
「ねぇ千寿。確かあなた、この子達の処遇を任されたのよね? 」
「あぁ。あれに任せたらどうなるか分からないからな」
「たまにはいい働きをするのね……じゃあこの子達を私のところに引き取らせてもらいたいのだけれど構わないかしら? 」
「たまにはって……はあ!? 」
いきなり突拍子もない事を言う暗に、つい大声を上げる千寿。
「馬鹿言うな。お前にはこいつらを抑える力がないだろう! 」
「大丈夫。この子達は私に危害を加えることはないわ。私達から何もしなければね……」
「それはなんだ? 勘か? 」
「女の勘と……予測かしらね」
「私が許すとでも? 」
「許可を出させるわ。あらゆる手を使ってでもね……」
その言葉で千寿は言葉に詰まる。長年、友として過ごしてきたからこそ分かる、この女の本気の怖さを。そして武しか取り柄の無い自分では歯が立たないことを。
「はぁ……分かった。許可はしよう。でも私が安全と確認できるまでは、接触するのは私がいるときだけにしてくれよ? 」
「別にいらないのに。あなたも頑固ね」
「お前に言われたくないよ」
「でも許可をしてくれる千寿だから、私は好きよ」
「う、うるさい! じゃあ私は準備をしてくるから今日のところは帰ってろ! 明日には連れ出してやる」
「照れちゃって……あまり困らせても可哀想だから今日は大人しく帰ってるわ。明日、楽しみにしてるわね? 」
そう残して諳は帰っていった。
千寿は目の前の少年に向かって話しかけた。
「今の話は聞こえていただろう? というわけで、お前は明日からさっきいた女のところに引き取られることになった」
「……」
「はぁ……お前も可愛げが無いな。向こうにいる虎も一緒だ。少しは嬉しがったらどうだ? 」
少年は、虎も一緒、という言葉に僅かな反応を示したが言葉は発さなかった。
「明日また来る。それまで暴れるなよ」
そう言い残して千寿もまた去っていった。
--夜
僕は考えていた。昼間に来た女性達の話を。
空が狙われたの事実は消すことはできない。それに対して芽生えたこの街の人間への憎悪もだ。
悪いのは狙った人間だけで、街の人間を憎むのは筋が違うと頭では理解しているつもりだ。
でも……と。彼女達はそれらを踏まえた上で自分達に優しくしてくれている。そして一瞬とはいえ父の面影と被った千寿と呼ばれていた女性。
僕の心は……僅かに揺れていた……。
【あとがき】
こんばんわ!
一日で三話目の投稿です。九条です。
さすがに疲れました……。
龐徳公さんは押しに弱いお姉さん。
司馬徽さんは気分で豹変するタイプですね(笑)
いくつか視点が変わっていて、少し見づらかったかもしれません。
視点を意識してみると、話の書き方も変わってきて面白い反面、大変です(爆)
そんなこんなで次回もお楽しみに~
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今日だけで三話更新してあります。読む際には注意してください。
あの方の本性が垣間見れます。