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真・恋姫無双 刀蜀・三国統一伝 第七節:西楚覇王と覇龍と漢女大乱舞 戦場を染めるは桜屍と鮮血と桜吹雪

syukaさん

何でもござれの一刀が蜀√から桃香たちと共に大陸の平和に向けて頑張っていく笑いあり涙あり、恋もバトルもあるよSSです。

2013-05-25 04:51:23 投稿 / 全10ページ    総閲覧数:6686   閲覧ユーザー数:5101

まえがき コメントありがとうございます。先日、熱にうなされ頭の中がお花畑になっていたsyukaです。ん?頭の中がお花畑なのはいつものことじゃないかって?そこはお気になさらず。さて、5月も終盤に差し掛かりました。皆様は体調は大丈夫でしょうか?5月病とかいうただの思い込みにはなっていませんか?かくいう私も調子が悪い時は5月病ということで誤魔化していますが・・・。今回はタイトルでも分かる通り、覇王軍出撃です。久しぶりに現代人を書けるので楽しみでwktkです!それではごゆっくりしていってください。

 

 

一刀と薔薇が劉弁を探すため、市を奔走していた頃。現代の鹿児島、北郷宅では美桜と影刀。それに加え管轤が居間にてお茶をしていた。

 

「ふぅ、美桜様のお茶はいつ飲んでも落ち着きますね。」

「ありがと。それで、今日はどういう要件で訪ねてきたの?ただお茶をしに来たということではないのでしょう?」

「そうでした。一刀様がいらっしゃる外史にて、祝融を発見しました。」

「っ!生きていたのか!・・・そうか、良かった。」

「良かったの。これでお前の心残りが解消された。」

「えぇ、本当に。」

 

美桜様の声色から安堵感が分かる。憑きものが落ちたような、晴れ晴れとした表情をされている。私も純粋に嬉しい。

 

「それに加えて朗報がもう一つ。祝融は一刀様に力を貸しているようです。貂蝉と卑弥呼のことは相変わらず毛嫌いしていますが、一刀様のことを気に入ったようです。」

「まるで昔の私たちの軍の再現のようだな。貂蝉、卑弥呼、祝融。三人の漢女が力添えしているとは・・・一刀も苦労するだろうに。」

「儂らの孫にはもっと苦労してもらわんとな。それと、祝融は既に漢女から足を洗っておるのじゃ。本人の前で言ってやるでないぞ?」

「からかう材料にはちょうどいいわね♪」

「はぁ・・・お前が悪戯を思いついた子供のような顔をしておるときは、たいていがまともなことにならん。」

 

ヴリトラと邂逅する前もこんな顔をしておった。じゃが、美桜の行動力には目を見張るものがある。大人しくついて行くのが吉じゃな。儂としても刺激のある生活は嫌いでない。

 

「そこで一つ提案なのですが、祝融をからかい・・・もとい、様子を見に三人で一刀様のいる外史へ行ってみませんか?これは私の個人的な提案なので、深くは考えられなくて良いです。」

「外史へはそんなに簡単に行けるものなのか?先日のように、時間制限があったりはせぬのか?」

「私独自で調査したところ、一刀様の部屋にある鏡が外史との繋がりを大きく持つ触媒のようで、そこに私が介入すれば三日ほどは余裕があります。」

「それは現代人の儂が行っても支障はないのか?」

「影刀様は一度、外史との繋がりをお持ちですので耐性がついています。それにより支障はありません。」

「ほう、それは安心じゃな。では、久しぶりに旧友と孫の顔でも拝みに行くかの。」

 

ということで、美桜たち御一行は一刀たちのいる外史へと旅立った。

 

・・・

 

美桜たちが外史へと旅立った翌日、一刀たちはいつも通り庭に集まり朝食を楽しんでいた。

 

「へぇ、かずくんって料理も出来るのね。とても美味しいわ。」

「婆ちゃんと母さんに叩き込まれたからね。そのお陰で今は趣味の一つになってるんだ。」

 

今日は珍しく全員集まって食事を楽しんでいる。今日の警邏組、流琉と鈴々も仕事を終え今は食事をしながら談笑へと洒落込んでいる。

 

「こっちの飯は美味いにゃ!これならいくらでも食べられるにゃ!」

「ほう、では恋や鈴々並に食べれるということだな。」

「・・・あれは流石に無理にゃ。ご主人様、星が苛めるにゃ。」

「あんまり美以をからかっちゃ駄目だよ。」

「ついついからかいたくなるのです。この愛らしい容姿を見ていると沸々と。」

 

うん、星の気持ちも分からないじゃない。ん?恵たちがこちらに駆け寄ってきた。

 

「お食事中に失礼します。隊長にお客様が来ているのですが、どうしますか?」

「この時期に?誰だろ?とりあえず通していいよ。」

「了解しました。」

 

 

恵たちは市へと戻っていった。それから待つこと数分・・・。

 

「ヤッホー!一刀、久しぶりね♪」

「ぶふっ!!」

「一刀、食事中に吹くとは汚いぞ。」

 

は?何で?頭の片隅にも候補に出てこなかった人たちが目の前にいる・・・。皆もノリについてこれず唖然としている。桃香が俺の脇腹をちょんちょんと突いてきた。

 

「ご主人様の知り合い?」

「・・・俺の爺ちゃんと婆ちゃん。」

「えーーーーー!!?」

 

皆の驚きの声が庭に響き渡る。その中で、祝融さんだけが固まっていた。

 

「祝融、本当に生きていたのね。」

「美桜様・・・それに、影刀様まで。」

「元気にしておったか?」

「は、はい。それはもう。しかし、何故お二人がここに?」

「管轤のお陰じゃよ。」

「祝融、久しぶりです。」

「管轤・・・あなたには命を救われた。礼をどれだけ言い尽くしても言い足りないくらいよ。」

「私とあなたの仲です。いいっこなしですよ。」

 

婆ちゃんたちと知り合いっていうのは本当だったのか。

 

「皆、うちの孫が世話になっているな。一刀の祖母、美桜だ。」

「一刀の祖父、影刀じゃ。」

「は、はじめまして。ご主人様と一緒にこの成都の太守をやらせていただいている劉玄徳です。ご主人様にはいつもお世話になりっぱなしで・・・。」

「ん?共に太守をしていてご主人様?」

「そうです、ご主人様です。」

「・・・一刀、説明をお願いできるかしら?」

「うーん、流れでそうなったとしか言えないなぁ。」

「そう、そこは気にしないことにするわ。けど一刀、あんた少し気が多すぎやしない?」

「?」

「ぱっと見れば女の子ばっかり。ねぇ、誰が本命なのよ?」

「本命・・・ねぇ。皆のこと好きだから、皆大切な子達なんだ。」

「一刀・・・。」

 

爺ちゃんが俺に近寄ってくる。

 

「お前・・・面食いだったんじゃな。」

「ち、違う!皆が可愛いだけであって俺が面食いってわけじゃない!!」

「(ボッ)」

「ご、ご主人様//」

「ハッハッハ!お館様は相変わらず大胆なお人だ。」

「・・・誰に似たんじゃろうか?」

「あら、自分の胸に手を当てて聞いてみたらすぐに分かるわよ?」

「儂に似ていると言いたいのか?」

「勿論♪」

「かげっちも来るもの拒まずだったものねん♪」

「儂は一刀のように何十人も侍らせてなかったぞ。」

「数の問題じゃないのよ。私があなたに選んでもらえるようにどれだけ苦労したことか・・・。」

「爺ちゃん、人のこと言えないじゃん。婆ちゃんも相当美人な方だし。」

「かずくん、影刀様は女ったらしで有名だったのよ♪」

「祝融!余計なことを言うでない!!」

 

婆ちゃんたちがやんややんや言ってる間も、桃香たちは一部を除いてカチーンと固まっている。

 

「ほ、ほら!皆固まっちゃってるから!身内の話はそこらへんにして!!」

「そうじゃな。すぐにでも向こうに戻るわけでもなし、ゆっくり話すとするかの。」

 

婆ちゃんたちも混じえ、朝食を再開した。その間に各々自己紹介も済ませ、穏便に食事の時間を終える。はずだった・・・。

 

 

「ほう、お主がヴリトラを手懐けようとした愚か者か。」

「なに、ヴリトラを知っているのか。何者だ?」

「私は黄竜。四竜の頂点に君臨する長であり、今は嫁候補だ。」

「黄竜、ねぇ。この西楚覇王、項羽に対して愚か者と言うとは竜様々と言ったところか。」

 

・・・?今、婆ちゃんは何と言った?西楚覇王?項羽?

 

「爺ちゃん、婆ちゃんが項羽って・・・。」

「本当じゃ。儂が一刀と同じ体験をし、出会ったのが美桜じゃ。」

「只者ではないと思ってたけど、武人だったとは・・・。」

「ご主人様のおばあ様、以前お会いした時にも並々ならぬ方だとは思いましたが、まさか西楚の項羽だったとは・・・。・・・?しかし、年齢だけ考えても生きておられぬのでは・・・。」

「愛紗ちゃん、そこは深く考えちゃだめよん♪」

「そ、そうか。」

 

俺としては大体の把握は出来てるつもり。

 

「ヴリトラを使役は出来なかったが、ではお前は何故一刀に力添えをしようと考えたのだ?」

「一刀は王の上に立てる者だ。私は数千年に渡り人の世を見てきたが、このような者には会ったことがなかった。それに加え、こいつは愛らしいからな。見ていて飽きない。」

「それは共感できるな。小さい頃はもっと可愛らしかったぞ。ぷにっとしていて、ついつい抱きしめたくなったものだ。」

「ほう、そこらへん詳しく聞かせていただこう。」

「いいだろう。」

 

あ、あれ?鈴と婆ちゃんが俺について語りだしたぞ?・・・//

 

「は、恥ずかしい!!爺ちゃん、ちょっと止めてきてよ。」

「儂には無理じゃ。まぁ、あそこに菊璃さんがいないのが不幸中の幸いじゃな。」

「・・・。」

 

桃香、清羅、月、蒲公英も婆ちゃんの演説に聞き入っている。俺の小さい頃の何にあんなに興味を惹かれるんだろう・・・。

 

「一刀のお爺さま、はじめまして。」

「はじめまして。一刀の祖父、影刀じゃ。いつも一刀がお世話になっとるの。」

「い、いえ!一刀にはこちらがいつもお世話になっていて。私が朝廷から来たときも良くしてくれました。」

「そうかそうか。それにしても、一刀には勿体無いくらい可愛いのぉ。」

「いや、その・・・//」

「婆ちゃんー!!爺ちゃんが女の子をナンパしてるよーーー!!」

「とりあえず、一刀の上目遣いはなのよ!」

「分かります!ご主人様に上目遣いでお願いされると、ついつい聞いてあげたくなっちゃいますもん!!」

「き、聞いてねぇ・・・。」

「影刀様、そのくらいにしておいた方がよろしいかと。美桜様にばれると、またハリセンで叩かれますよ?」

「そうじゃな。美桜のハリセンはたんこぶだけじゃ済まんからの。」

 

は、ハリセン?

 

「劉協様、すみません。影刀様は女性に話しかけられると口説きに行くという残念なお方ですので。」

「いや、その・・・。」

「儂が女たらしのように言うでない。」

「おや、違いましたか?初対面で私も口説かれたように覚えていますが。」

「あれはお主の緊張を解そうとじゃな。」

「一刀様、どうか影刀様のようにはならないようにお願いしますね。ご寵愛は平等に、ですよ。」

「あ、あなたは?」

「そうでした。自己紹介がまだでしたね。私は管轤、今は情報通達に徹していますが、美桜様のもとで武官をしておりました。」

「管轤さん・・・もしや、あなたが俺をこの世界に?」

「えぇ。一刀様にはこの世界を救っていただきたくこちらに召喚しました。勝手をして申し訳ありませんでした。事前に伝えておければよろしかったのですが。」

 

管轤さんが深々と頭を下げた。黒いフードを被っているので顔を見えないが、声色で大体どのような表情をしているかは分かった。

 

 

「管轤さん、頭を上げてください。確かにこの世界に飛ばされたときは驚きましたが、こんなにたくさんの仲間に出会うことができました。それに関しては感謝こそすれど、管轤さんが謝ることではないですよ。管轤さん、ありがとうございます。」

「一刀様・・・一刀さんはお優しいですね。あなたのもとに何故このように英傑が集まり、一刀様をお慕いするのか、ようやく分かった気がします。」

「儂の孫、よう人間が出来とるじゃろ?」

「えぇ。影刀様とは大違いです。細かい気遣い、言葉選び。このあたりは霧刀様からの賜物のようですね。」

「爺ちゃん、管轤さんに何したのさ?」

「いや、儂はただ管轤と初対面の際に緊張せぬよう手を繋いでじゃな。」

「そりゃ管轤さんも驚くって。女の子はデリケートなんだから、もっと優しくしてあげないと。」

「一刀もいきなり手を握ってきたじゃない・・・。」

「ん?薔薇、何か言った?」

「な、何でもないわよ!」

「薔薇ちゃ~ん、こっちの点心も美味しいですよ~♪」

 

劉弁様がこちらにてくてくと点心片手に歩いてきた。

 

「劉弁様のお口に合いましたか?」

「はい♪一刀さんのご飯はどれも美味しくて、ついつい食べ過ぎてしまいそうです~♪」

「それは良かった。食べたいものがあったらいつでも言ってくださいね。」

「はい♪」

「あぁ姉様、頬に餡が付いてます。取りますからじっとしていてください。」

「あはは、擽ったいよ~♪」

「おや、そちらの方は姉妹なのかね?」

「はい♪薔薇ちゃんの姉の劉弁です。一刀さんのお爺様、いつも一刀さんにはお世話になっています。」

「一刀の祖父の影刀じゃ。劉弁ちゃんも一刀のこと、これからもよろしく頼むぞい。こやつは基本寂しがり屋じゃからの。誰かが支えてやらんとすぐにポキッと心が折れるんじゃ。」

「そこは大丈夫ですよ~。先日も薔薇ちゃんと一緒に一刀さんのお部屋で三人で眠らせていただきましたし、一昨日も。」

「一刀・・・避妊はせにゃならんぞ?」

「なっ!?手は出してないよ!!ただ添い寝しただけだから!!//」

「(ぼっ!)」

「薔薇ちゃん、お顔が真っ赤だよ?」

「な、なんでもありません!!////」

 

そんな他愛ないことを話しながら、のんびりした時間を過ごした。

 

・・・

 

私は霞ちゃんと清羅ちゃん、それに翠ちゃんと一緒に警邏も兼ねてお出かけ中。

 

「ご主人様のお婆ちゃん、綺麗だったね~。」

「そうですね。それにしても、パッと見だとおばあ様には見えませんでした。」

「おかんか姉御かっちゅう感じやったな。」

「あたしの母様より年上なんだよな・・・絶対見えないって。」

 

私のお母さんよりたぶん年上だもん。けど、綺麗だったなぁ。

 

「見た目は優しそうなおばぁやったけど、武人としては半端なかったわぁ。たぶん鈴と同じくらいやろか?」

「絶対に対峙したくはないよなぁ。ご主人様が一回も勝ったことないって言ってたし、どれだけだよ・・・。」

「へぇ~。そういうの全然分かんなかったよ~?」

「桃香様は武官ではないので分からなくても当然でしょう。しかし、武をかじった程度の私でも分かるほどのもの。鈴さん、または貂蝉さんや卑弥呼さんと同等のものと考えてもおかしくはないですね。」

「しかも項羽と来たもんや。一刀の婆ちゃんがあの西楚覇王っちゅうんやから驚きや。」

「ご主人様の強さって、あの人からの遺伝もあるんじゃねぇ?」

「おばぁもやけど、おそらくおじぃも相当の英傑やであれは。流石のうちも模擬戦してくださいーとは頼めんもん。実力の差が明らかに離れすぎとる。」

「ほへー。そんなに凄いんだ、ご主人様のお婆ちゃんって。今夜、宴を開くって言ってたからその時に色々聞いてみよーっと。」

 

それから警邏を終え、城に戻った。

 

・・・

 

 

「美桜はん、結構いける口やったんか。」

「まだまだ、この程度じゃ酔わないわよ~♪」

 

・・・婆ちゃんが紫苑や星たちと晩酌に洒落こんでる。空瓶がかれこれ20本を超えてきたけど、留まることを知らない。

 

「婆ちゃんってあんなに飲んでたっけ?」

「美桜様は家ではあまり飲みませんが、影刀様と婚約を結ぶ前は毎日晩酌をしていましたよ。」

「へぇ。そういうイメージは無かったなぁ。」

「かずくんも飲んでる~?♪」

「おわ!?祝融さん!?」

 

祝融さんが抱きついてきた。って、酔ってる!?

 

「かずくん!!」

「は、はい?」

「私のことも構ってよ~。」

「へ?」

「祝融に酒を渡してしまったか。」

「え?爺ちゃん、どういうこと?」

「祝融は人一倍酒に弱いんじゃよ。おちょこ一杯で酔ってしまうんじゃ。」

「えへへ~♪」

「しかも絡み酒というな。一刀、頑張るんじゃぞ。」

 

爺ちゃんはお茶を片手に貂蝉たちのとこに行ってしまった。俺は管轤さんと共に祝融さんの相手をしながら宴はお開きとなった。

 

・・・

 

翌日、早朝から衝撃の情報が俺たちのもとに届いた。

 

「五胡の軍勢が成都に向けて進軍してきました!目測、兵数三十万とのことです!」

「さ、三十万!?今どのあたりまで来てるか分かる?」

「成都から五里のところに砂塵が確認されました。」

「五里か。今から兵を纏めて間に合うか?朱里、雛里、明里は策を考えていてくれ。」

「は、はい!」

「あら、緊急事態?」

 

俺たちの緊張感を他所に、爺ちゃんと婆ちゃん。それに管轤さんが謁見の間に入ってきた。

 

「五胡の軍勢がここに向けて進軍してきてるんだ!!」

「兵数は?」

「三十万・・・。」

「ふぅん・・・。影刀さん、いける?」

「儂と美桜だけでも十分じゃろ。」

「あらん、美桜ちゃんたちが行くなら私も行くわよん♪」

「貂蝉、抜けがけは無しじゃぞ。儂も行くぞい。」

「私も行きます。たまに剣を振るわなければ感覚が鈍りそうなので。」

「え?貂蝉や卑弥呼はどうでも良いとして、美桜様たちが行くんですか?」

「私だって久しぶりに本気を出したいもの♪」

 

婆ちゃんが無邪気な子供のような笑みを見せる。こんな婆ちゃん、初めて見た。

 

「美桜が本気を出すなら、儂も久しぶりにあれを使おうかの。」

「お二人が本気を・・・五胡の軍勢、跡形が残れば良いほうね。」

「一刀たちはここでお留守番よ。五胡は私たちで殲滅してくるから♪」

「兵は何人出したほうがいい?」

「別にいいわ。むやみに兵を減らすのは、一刀たちにとってもしたくないでしょ?」

「それはそうだけどさ・・・。」

「なら後は私たちに任せなさい。五胡以外にも相手にしないといけない国はあるんでしょ?」

「う、うん。」

「そんな心配そうな顔しないの。あなたは私たちの帰りを笑顔で待ってること。ね?」

「・・・分かった。ちゃんと戻ってきてよ?」

「勿論♪」

 

婆ちゃんはそう言うと、視線を爺ちゃんたちの方に向けた。

 

 

「私たちがやることはただ一つ。一刀たちの障害となる者の殲滅。一人として生きて返すな。殺し方は各々に任せる。以上。」

「・・・。」

 

俺は今まで生きてきた中で一番の戦慄を覚えた。俺が知ってる優しい婆ちゃんじゃない。ここにいるのは真の意味での覇王、項羽。

 

「一刀、聖桜を借りても良いかの?本気を出すならあれが無いと締まらんのじゃ。」

「う、うん。」

 

 爺ちゃんに聖桜を手渡した。爺ちゃんがあれを持つと人が変わって見えるのは気のせいだろうか?

 

「うむ、やはり手に馴染むの。久しぶりじゃが、よろしく頼むぞい相棒。」

 

爺ちゃんはまるで旧友に話しかけるように穏やかな表情で聖桜に語りかける。それに呼応するように、刀身が光に反射し輝いた。

 

「行くぞ。」

 

婆ちゃんの後を爺ちゃんたちがついていった。俺が知る中では最強の少数精鋭ではなかろうか。個々の武のみ一個大隊を殲滅出来るほどの英傑が集まっている。

しかし、それでも不安は払拭出来なかった。身内が戦場に身を置くなど、誰が予想するだろうか?

 

「ご主人様、大丈夫?」

「正直、気が気でないよ。いざとなったら飛び出していきそうなくらいに。」

「心配せずともあやつらは戻ってくるさ。あの者たち相手なら、この私でも勝てるかと聞かれると三割も無いだろうからな。雑兵がどれだけ集まろうと、傷一つ負わずに相手を完膚無きまでに叩き潰し戻ってくるだろう。」

「・・・帰りを待つことがどれだけ不安に駆られるか、ようやく分かった気がするよ。桃香や月はいつもこんな気持ちだったんだね。」

「ご主人様・・・。」

「これなら戦場で戦った方がマシだよ。・・・けど、今は大人しく婆ちゃんたちの帰りを待とう。」

 

皆、無事に帰ってきてくれよ。

 

・・・

 

「このあたりねん、砂塵が目視出来るわ。」

「儂も久方ぶりに本気を出せるわい。」

 

影刀殿が目を閉じ、深呼吸する。体内の気を高め、外部の気をも取り込み力に変換する。そしてその気の高まりは自身の肉体にも変化を見せる。肉体年齢が全盛期にまで遡り、ご主人様と似た風貌の青年になった。

 

「ふぅ、やはりこっちの方が体が軽いわい。」

 

これが影刀殿の覇王現界。以前、覇龍。又は覇王と謳われた頃の体になり相手を圧倒する。その武は今のご主人様の比ではない。

 

「話し言葉は年食ってるけどね。」

「細かいことは気にするでない。」

 

並び立つ二人の覇王。その視線は眼前の軍隊へと向けられる。さて、儂も影刀殿に負けてはおれんわい。

 

「お二人の闘気は昔と遜色無しね。これほど頼りがいのある方はいないわ。」

「もし敵に回られたらと考えると恐ろしいですけどね。」

「命懸けになるのは必至でしょうね。」

「皆、準備は良いか?」

「いつでもいいわよん♪」

「右に同じじゃ。」

「いつでもどうぞ。」

「準備完了です。」

「よし。では、行こうか。この地を敵の鮮血で染め上げよう。」

 

 この美桜ちゃんの狂気の笑み、いつ見てもぞくぞくするわん。私も張り切っちゃうわよん!!

 

 

 敵軍との距離が徐々に縮められていき、五胡の大軍と衝突する。

 

「あ?たったの六人じゃねぇか。舐めやがって。おい、とっとと殺して成都を潰すぞ!」

「おう!!」

「あらん、活きのいい男がいっぱいじゃな~い。ぐふっ♪私が皆まとめて相手してあげるわん♪ぶるああああああ!!!!!」

 

貂蝉の凄まじい蹴りが繰り出される。その一撃で数十人が宙に舞い、隊が乱れる。その凄まじさは貂蝉の足場が抉れているところを見るに想像も容易いだろう。

 

「な、なんだこいつは!?顔も相当ヤバイが色々とヤバイ!一旦引くぞ!」

「それは問屋が許さんぞい!!はあああぁぁぁ!!」

 

 後退しようと踵を返す軍に、殴打の連続を繰り出しながら突撃していく卑弥呼。不意を突かれ、数十人単位で直線上に吹き飛ばされていく。

 

「後退!!後退しろーーー!!後ろを振り返るな!振り返れば死・・・。」

 

その者が次の言葉を発することはなかった。その首がごとっという音と共に地に落ち、首のあった箇所からは鮮血が吹き出している。

 

「まだまだ私も現役でいけそうですね。これが終わったら一刀様に兵として志願してみましょうかしら。」

 

 相手の首を絶ったにも関わらず涼しい表情を見せる管轤。夜月の如き銀の髪をたなびかせ、剣を振るう様は舞踊を楽しむ妖精を彷彿させるものがある。しかし、五胡の軍人の目から見れば冥府の門へと誘う死神が、鎌を持って襲いかかってくるように映っているだろう。

 

「後方の弓隊に通達!!強襲作戦を取り消し、国に戻ると伝えろ!!」

「そんな面倒くさそうなこと、させるわけないでしょう?」

「な、なんだ貴様は・・・っ。」

 

少数の通達部隊を一人で殲滅してみせた祝融。今の者が最後の一人だったようだ。

 

「まったく、手間を掛けさせるんじゃないわよ。」

 

全身が血まみれになっているのも、気にも止めず物言わなくなった死体に視線を向ける。

 

「あ、あらあら・・・ついやり過ぎちゃったわ。まぁ、美桜様に殺し方は任せるって言われたし、良いわよね?」

 

祝融は元漢女と言うだけあり、桁違いの怪力の持ち主。握力のみで鉄球を粉砕できるほどの。そのため、彼女の戦闘スタイルは単純明快。相手の体を部分欠損させること。蹴りで相手に首や足を折り、自慢の握力で腕を握りつぶす。ちなみに、最後の一人は鳩尾を殴られ、肺に空気が通らなくなったところで首を折られたようだ。

 

「なぁ、前線から射撃通達が来ないがどうしたんだろうな?」

「敵に手応えがなさ過ぎて俺たちまで仕事が回ってきてねぇのかもな!!」

「ハハッ!ちげぇねえ!!」

 

その頃の影刀は敵陣のど真ん中まで駆け抜けていた。影刀が進んできた道のりは五胡兵の死体が山積みになっている。

 

「おらー!止まりやがれーーー!!」

 

前方、左右から何十人もの兵が儂目掛けて走ってきよる。引き寄せるのはこのくらいで良いじゃろ。

影刀はその場にぴたっと立ち止まり、聖桜を構えた。

 

「四連、天剣滅臥衝!!」

 

 影刀の奥義、四連天剣滅臥衝が放たれる。極大の光の刃が影刀の左右、前方、後方へと駆け巡った。影刀を追っていた者たち、弓隊として待機していた者たちは何が起きたのかすら理解せぬまま消し炭に変わった。

 

「残りは任せるぞ、美桜。」

 

 

後方で待機していた美桜は機を見て自身の気を高め、圧縮された気を一気に解放した。美桜の足場から気で形成された一本の桜の大樹が咲き誇る。それを目の当たりにした者は、その美しさに視線を釘付けにされていた。

 

「美桜様、お見事です。」

「素晴らしい・・・。思わず溜息が出てしまうわ。」

 

前線を離れた管轤、祝融らは美桜のさらに後方で待機している。あれに巻き込まれたら自身も無事であるという保証がないからだ。

 舞台は整ったと言わんばかりに、美桜が穏やかな声色で口ずさんだ。

 

「咲き誇れ。百花繚乱、桜吹雪。」

 

 その途端に桜の花弁は散り宙を舞った。五胡兵は何が起きているか理解出来ず固まってしまう。その花弁が自身の命を奪っていくとは露ほどにも思わずに。宙に舞った数千、数万の花弁の一つ一つが鋭利な細やかな槍へと変化し戦場を舞い踊る。

 それに襲われた者たちは抗うことすら出来ずに、体を切り刻まれていく。数分後、大樹が役目を終え完全に消えた頃には戦場に立っていた五胡兵はいなかった。残されたのは細切れにされた五胡兵の死体のみ。それを死体と例えるべきかは分からぬが。

地は死体より流れた鮮血と覇王により放たれた桜の花弁に埋め尽くされ、桃と紅の鮮やかなグラデーションが施された舞台になっていた。その舞台に君臨するは絶対強者、項羽。

 

「あっけない戦だったわね・・・。皆、成都へと帰還するわよ。一刀が心配して倒れでもしたら、それこそ私は五胡を完全に滅亡させなくてはいけないから。」

 

 覇王を踵を返し、仲間を引き連れ愛する孫の待つ都へ向かった。開戦し、美桜たちが成都に戻るまで。その間わずか二刻ほどの事だった。

 

 

あとがき 読んでいただきありがとうございます。さて、覇王軍に頑張ってもらいました。一つ言えること、婆ちゃん・・・いえ、美桜様最強!これをチートと言うのでしょうね。それにしても祝融はん、ちょっと殺し方惨すぎましたかね。まぁ、気にはしません! それでは次回 第七節:覇王の帰還、動く三国 でお会いしましょう。

 


 
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