それは、一人の忍の波乱に満ちた壮絶な生き様の物語
昼時の静かな木々が揺らすとある忍の里の一角にその一族たちは存在していた、彼らは戦うために優れた能力持ちそして、自分達のその能力を誇りとしている忍者のエリートと名が知れ渡っている一族、『うちは一族』
そんな、一族は同じ戦闘能力を持つ『千手一族』との数々の戦い、そして長年の歳月を掛けて火ノ葉隠の里を作りそして優秀な忍の輩出する一族として栄華を飾っていた
彼もまたその一族に生まれ、自分の一族に誇りを持つただの若者であった、一つだけ違うとすれば彼が一族の中でも優秀でありそして、なによりも忍であるにも関わらず忍に向いていない優しい心の持ち主であった事だろう
その彼には弟が一人いた、純粋でありそしていつも自分の背中をついて回る一人の弟が……
『兄さん!!今日は手裏剣術の修行見せてくれるんだよね!!』
『ふぅ…困った奴だ…父さん達には内緒だぞ?』
そう、彼には大切な弟が居た、親の目を盗んでは手裏剣術や遊び相手をせがまれ、優しい彼は無邪気な弟の頼みを断れずに毎回のようにそれに付き合っていた、うちはサスケ、血の繋がった唯一無二の兄弟
彼、うちはイタチがどんなことがあっても守ると決めた弟である
一族の中でも優れたイタチは次第に時間を重ね年月が過ぎる事に大きくなり様々な任務に駆り出され始める、優秀であろうが所詮は忍者、それも戦闘能力に優れた集団『うちは一族』の中でもずば抜けた能力を持つイタチが人を殺すのは十歳を過ぎたあたりだったろう
まだ、幼さがある風貌が返り血で濡れていた、忍とは割り切って行動しなければ死ぬ、そういう世界である、自然と人を殺した時にはイタチは一人の忍としての引き返すことのできない世界に足を踏み入れていた
この光景をイタチの眼を通して見ていた闇の書の意思、アインスはただ呆然とその彼の記憶であろうものに絶句していた、彼女はこの時初めて自分が先ほどまで戦っていた人物について察する事が出来た
そう、自分の中に居るであろう主の義理の兄として大切な存在になっていたうちはイタチと戦っていたという事実に
そして今、彼女は現在あの不思議な瞳術によって彼が今まで見てきただろう記憶を一部垣間見ているのだとそう状況を把握した
「……これは…記…憶…?」
「そうだ… お前にだけ…今、俺の記憶を見せている、もっともお前の中のはやて達には違うものを見せているがな」
ふと、記憶を垣間見ている闇の書に透き通ったイタチの声が聞こえてくる
彼女は理解できなかった、感情がないと戦う時に彼に言った筈であるのにも関わらずイタチがなぜ自分にこのような記憶を見せるのか、勿論、はやての義理の兄だとわかった今となっては争うつもりもない、はやてとリンクしている彼女には主の大切な者である彼を傷つける理由が存在しないからである
だが、イタチは違った彼にはまだ思惑があった、それは…
「…これから見る記憶…闇の書の最後の騎士として、お前にはやてを託す為に見てほしい…感情が無い…というならこれを無下にしてくれても構わないさ、ただ、家族の一人としてお前に気が付いてやれなかった俺が…これまで誰にも話さなかった事をお前に託したい」
「…あなた…は…」
闇の書の意思が声を掛けようと口を開くが瞬間、イタチの声が消えるとともに記憶の場面はあの悲劇の夜にへと変わる
暗部に入ったイタチはその心優しさ数々の悲惨な戦争目撃し、人殺しや情報を始末するといった過酷な暗部の任務の末、木ノ葉の里の人々を争いから遠ざける穏和な平和を望む者にしてしまった
戦争では大勢の人を殺し、そして自分の仲間も目の前で沢山死んでいった、その情景も鮮明に彼女の中に入ってくる、助けを乞う敵国の忍者の喉を掻っ捌きその身を赤く染め上げイタチの仲間が足を捥がれた後に敵の忍者に囲まれ苦無と呼ばれる忍具で目茶目茶に引き裂かれ果てる
ある者は巨大な手裏剣によって首が吹き飛んだり、また生きたまま燃えのた打ち回りながら生々しい臭いを放ち息絶える、望みもなければ希望もない、戦わなければ生き残れない地獄がそこにはあった
そして、彼は誇りと思っていた自分の一族が木ノ葉の里に対してクーデターを起こすことを知ってしまった、それが実現されれば、同時に争いの種と再び戦争の引き金となってしまう事実、平和を愛し家族や友人と平穏に暮らす木ノ葉の里の人々をあの悲惨な戦争の地獄に叩き落とすことになる、…里を思うイタチにはそれが見過ごせられる事の出来ない事実であった
彼は二重スパイとして里の暗部に一族の情報をリークした、クーデターの首謀者は自分の父であり、そして、クーデターを食い止める為に友人から片目を『里を守る為に使え』と託された、彼は己の存在を抹消するようにイタチに頼みそしてこの世を去った
イタチは決心した里を守る為に修羅になろうと、そうして、うちはマダラと名乗る協力者と共に決行した、それが正しいといえる行為かどうかわからない、だが、それしかイタチには方法が見つからなかったのだろう
そう…自分の一族を皆殺しにするという、一族殺しの汚名を被ることを彼は行った
この一族殺しを達成すれば弟だけは助けてやると木ノ葉の暗部の長であるダンゾウからイタチは告げられていた、長く苦しい葛藤の末、イタチは選んだ自分の大切な弟だけは見逃しそしていつか自分を倒しに来る道を…それは、悲しい決断であった
彼は父親と母、友人、上司、恋人、すべてをこの手に掛けた全身を血に染めてそして、命を奪う間際、イタチの父と母は彼の手に掛かり逝くであろうと悟った時にこう言い残した、まるで、全てを受け入れ尚も自分の息子を誇りであるかのように
『そうか…おまえは向こうに付いたか…』
『父さん…母さん…俺は…』
『分かっているわイタチ…』
優しく告げる母の声、イタチは胸を締め付けられるような痛みを堪えて両親の言葉に耳を傾ける、それはとても残酷な光景であった、闇の書の意思の眼からは静かに透明の滴が頬を伝い流れ落ちる、これは、当然、繋がっているはやてや騎士たちの感情ではない…彼女自身の感情から出たものであった
イタチの父は背中を向けたまま彼に告げだす、恐らく顔を向けると彼が自分を殺すことができないそう悟っての気遣いからだろう
『イタチ、最後に約束しろ…サスケの事は頼んだぞ』
『…わかっている』
イタチは震えた手で刀を掴みながら父の言葉に涙を流していた、どんなになっても自分の事を思う父の愛は母の愛は本物であったと悟ってしまったから、自分を愛してくれた二人の命を奪うという辛い感情はイタチといえど抑えることができなかった
『恐れるな…それがお前の決めた道だろ、お前にくらべれば我らの痛みは一瞬で終わる…考え方は違ってもお前を誇りに思う』
イタチは震える刃を胸に持って、震える両手でそれを制す、眼からは涙を流し歯を食いしばっていた、決意を揺るがさないように自分を律する
『お前は本当に優しい子だ…』
そして、涙を流すイタチはその刃を持って自分の両親の命を奪い取った、せめて痛みを知らずに安らかに逝けるように…
そうして、場面はこの惨劇を目撃した弟と対峙するところに変わる、イタチは自分に託されたこの最愛の弟に一族を皆殺しにしたのは自分だと告げる、それは、憎しみにより彼がいつか一族の仇を取りに自分の元に来るだろうとそう仕向けるようにした、それは一族を殺した罰と同時に弟を守ると決めたイタチが生き様を決めた結果であった
『愚かなる弟よ…恨め…憎め!』
『逃げて逃げて、生き延びて生にしがみつくがいい!』
そう唯一の弟であるうちはサスケに言い残して、イタチは里を抜けて犯罪組織、暁という組織に入った、もっともこれも暁の内情を探ると同時に里に対する脅威の一つであるこの組織を内部から見張るためのものである
里を抜け組織に入った後もイタチは弟の身を案じ、危険も承知で木ノ葉に戻ったことがある、己が汚名を被って守った筈の木ノ葉隠れの里
だが、木の葉を守った筈の彼を待っていたのは歓迎ではなく、それは犯罪者、大罪人に向けられる手荒い歓迎であった、決して誰にも知られることの無い苦悩した末に導き出した彼の功績、一人の人間として背負うには重すぎる業、彼は英雄としてではなく一族殺しの咎人として永遠に木の葉の里の者たちから記憶されていた…
そして、愛すべき弟は自分に一層の恨みを抱き、里を抜け自分を殺すための力を得るために里を抜けた、汚名を背負った自分を葬り去ることで彼を英雄にすることそれがイタチが描いた最後の絵図であり、一族を殺した自分を裁く唯一の手段であると心に決めていた
次第に病に侵される自身の身体、薬を飲み延命し自分の死期を先延ばしにして己を裁く弟が自分の前に立つ日を彼は待った、戦わなくても病によっていずれ死ぬことになっただろう、だが、彼は生きた…弟に殺されるためだけに…
そして時はやってくる、自分に恨み憎しみを抱き強くなった弟、うちはサスケは兄を殺す為にその殺意に満ち満ちた眼差しをイタチに向けて対峙した、兄弟同士の殺し合い、それはあまりにも残酷で熾烈を極めるものであった
『…強くなったな…サスケ…』
イタチは心の底から弟にその言葉を送った、もう彼は自分が守るほど弱くはない、
…父さん…サスケはこんなにも強くなって、うちはの誇りを抱く強くたくましい忍者になった…
彼は死に際にサスケを気にかけていた父親の顔を思い浮かべた、自分が進んだ修羅の道が実を結んでくれたと素直に病の身を推してサスケと対峙したイタチは心の底から嬉しかったのだ
やがて、終わりの時はやってくる…
イタチの瞳術はサスケのそれを上回り勝負は決したかに思われた、だがサスケは倒れなかった、最後の時を悟ったイタチは万華鏡写輪眼【須左之乎】を使い、結末を知った戦いに終止符を打つため満足に動かすことのできないその両足を動かし前に進む…
長い一人の忍の生き様それは…彼の愛する弟へのメッセージだった
汚名を着せられて、悲しみを背負って生き抜いた男の最後は笑顔であった、昔の様に弟の額に手を当てたイタチは別れの言葉をサスケに言い残し、その力を出し終えた…
『許せサスケ…これで最後だ…』
大きい咆哮と共にイタチが瞳術で出現させた【須左之乎】は消え去る、彼の命の灯と共に彼が死んだ後にサスケに残った物は虚無感とそしてやり場のない悲しみであった
イタチの背負った悲しみや真実はこの光景を見ていた闇の書の意思、アインスには衝撃的だった、彼は一人でこの業を背負い、逝った…
彼女の瞳からは次から次へとやむことの無い涙が零れ落ちている、彼女はイタチの優しさを知った、そして、そんな彼が自分にこれを見せた後、今から行う事を悟ってしまったのだ
「…あなたはッ!…これだけの事を成しておいてッ…まだ汚名を背負うつもりなんですか!!」
彼女は声を上げて、イタチに問いかけた、自分とは別にリンクしているはやて達の瞳術の内容を覗いたうえでの悲痛の問いかけであった、その声や感情はデータだからと感情がないと告げた彼女から発せられた、確かに感情が籠った信じられない言葉であった
だが、イタチはそんな彼女の頭に手を乗せ、静かに笑みを浮かべて彼女にこう告げる
「…俺にしかできない役割だ…、これで、はやて達の笑顔が守れるのなら…喜んで引き受けるさ…」
「でもッ!主は…貴方の事も!?」
「だから…俺はお前に託す、これを見せたのは…その為だ…」
イタチは自分の服を掴むアインスの涙を指で優しく拭い、そう言った、それは記憶の時のような優しい笑顔であった、儚げで崩れ去ってしまいそうなそんな笑顔、自分がいなくてもきっと自分に代わってアインスや騎士たちがはやてを守ってくれる存在であって欲しいと願いを込めた言葉
絶望したはやてを支えられるのも彼女達が一つになり成してくれる事だろう、自分は隣には必要ない、これまでの幸せだった家族であった時を再びはやてに与えてやりたいとイタチは心の中から願いであった
イタチは静かにアインスの肩に手を乗せて背を向ける、やがてその姿は足元から烏が飛び立ち消えてゆく、イタチのその後ろ姿を見たアインスは涙を浮かべて彼に行かないでほしいと願うかのように必死に手を伸ばす
「待って!ダメッ!」
「後は…頼んだぞ、はやてを幸せにしてやってくれ…」
そうして、彼女の前から完全にイタチの姿は消えてしまう、手が届く筈だったのにどこか遠くに去ってしまいそうな、儚げな背中がアインスには虚しさを抱かせるようなものが感じられたのだった…
イタチの言葉は響く様に幻術の中で広がる、彼女は唯一イタチの全てを知った
必要悪として、彼は散ることを選んだその道は険しくそして残酷なもの、引き返すことはできず、彼らしい優しい選択であった事であったとアインスは思う、幸せになるべきなのははやてもそうだが…イタチ、彼にもその権利はある筈だと…
うちはイタチの真実を知った闇の書の意思、アインス、
残酷な結末の時は静かに音を立てやってくるのであった…
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沢山の血を流し、同じ一族を手に掛けた一人の男
彼は唯一の弟と対峙して命を散らせた。
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