No.579402

IS〈インフィニット・ストラトス〉 〜G-soul〜

女傑の策?

2013-05-23 19:20:39 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:946   閲覧ユーザー数:878

一流の調度品が並ぶ執務室。

 

広い空間に紙にペンを走らせる音が吸い込まれていく。

 

「…ふぅ」

 

全ての書類に目を通し終え、一息つく。

 

「ようやく終わりましたわ」

 

わたくし、セシリア・オルコットは両親が遺したこのオルコット家の全てを守っている。

 

IS学園が夏休みということもあって、溜まった仕事をこなすのには丁度いい。

 

「デュノア社の売り上げは着実に伸びているようですわね…」

 

シャルロットさんの義理のお兄様とお父上が共同で経営を始めて新しくなったデュノア社は、今やトップ企業のエレクリット・カンパニーに引けを取らない大企業に上り詰めている。

 

「そのおかげでわたくしの仕事も増えましたけどね……」

 

少し複雑な心境ですわ。

 

ふと、学園を出発する前にしたシャルロットさんとの会話を思い出す。

 

『瑛斗が来てくれて、僕本当に嬉しかった。もう会えないと思ってたからね。けど、ちょっと怖かったな』

 

『怖かった、ですの?』

 

『うん。サイコフレームを発動させたセフィロトで僕を押さえつけて、俺は死なない! 一緒に帰るぞ! って、目の前で』

 

『荒っぽいんですのね、瑛斗さん』

 

『興奮してたみたいだしね。だけど、その…やっぱり嬉しかったんだ』

 

幸せそうに語るシャルロットさんが、ちょっぴり羨ましかったですわ。

 

「鈴さんじゃありませんが、なんだか不安になってしまいますわね…」

 

林間学校での戦いの途中、鈴さんと太平洋のどこかでした話。

 

鈴さんがいる手前、ああ言いましたけど、一夏さんがわたくしのことをどう思っていらっしゃるのか知りたいような気もするけど、知りたくないような気もする。

 

「それにしても………」

 

鈴さんの会話の後のことを自然と思い出してしまう。

 

「あれは一体なんだったんですの…」

 

海の中から現れてわたくしと鈴さんを助けた謎の人物。

 

「助けてくれたのはいいとしても家系を侮辱するのは許せませんわ」

 

今でもあの言葉を思い出すと怒りが込み上げてくる。

 

けれど手がかりが少な過ぎてどうすることもできないのが現状。

 

「何かを知っているような口ぶりでしたが……」

 

そこでその思考を止めた。時計がすでに予定の時間に迫っていたからですわ。

 

「っと…もうこんな時間ですのね」

 

椅子から立ち上がって執務室を出る。

 

これから両親の墓参り。イギリスに戻ってきたら必ず行くと決めている。

 

いつもは専属メイドのチェルシーがいるけど、わたくしを気遣ってかこの時だけは一人にしてくれる。

 

「本当に、良いメイドですこと」

 

専用運転手が運転するロールスロイスで外に出て、まっすぐに墓地へ向かう。

 

目的地に着くと花束を持って車を降り、一人で墓石に向かう。

 

「…お母様、お父様。ごきげんよう。セシリアですわ」

 

墓石からはなにも返事はない。そんなことわかっているのに、なぜか語りかけてしまう。

 

二人の名が刻まれた墓石。

 

生前はそうでもなかったのに、死んでからずっと二人一緒にいる。

 

皮肉というのはきっとこういうことを言うのですのね。

 

だけど、自分はそこには混ざれない。ただ見ていることしかできない。

 

「…………」

 

なんだか居心地が悪くなって、足早に墓地を立ち去ってしまいました。

 

道は分かるから、と運転手に告げて、街を歩くことに。

 

学園に戻るのは2日後。まだやることがあるけど、少しくらいなら問題ありませんわ。

 

街へ出たのはいいものの、親子連れにばかり目が行ってしまう。

 

両親と手を繋ぎ、笑顔で歩く子供たち。

 

それを羨ましく思う自分がなんだか哀しくなった。

 

(セシリア・オルコットとともあろうこのわたくしが、情けないですわ…)

 

自嘲気味な気分を変えようとカフェにでも行こうとしたところで、気になるものを発見した。

 

「あれは…?」

 

 

 

「んぅ〜…着いたぁ」

 

始めての土地の空気を思いっきり吸い込む。

 

「イギリスかぁ…」

 

日本風に言えば英国。

 

正式名称は、グレートブリテンおよび北アイルランド連合王国。

 

これ豆知識な。

 

ま、それはさて置き、そんなわけで俺は今イギリスにいる。

 

なんでかっていうと、理由はこの前の夜に山田先生から渡された手紙だ。

 

封筒の中身はイギリス行き飛行機のチケット。それとメッセージカード。

 

メッセージカードって言ってもそんな立派なものじゃなくて、ただよれた紙にペンで殴り書きされたものだ。

 

でも、その書かれた内容が問題だった。

 

『ツクヨミ爆破事件の真実を話す。このチケットを使ってイギリスに1人で来い』

 

それと、山田先生からって言ったけど本当は違う。

 

次の日の朝になってから山田先生は数日前から帰省しているという事実を知った。

 

しかも二年生寮の近くには砂の山が出来ていて、調べた結果その砂山は機能を停止させたナノマシンだということが分かった。

 

楯無さんのミステリアス・レイディのようにナノマシンで山田先生を形作り、何者かが俺たちに接近したっていうのが俺の見解だ。

 

イギリスに向かう前にラウラが罠かもしれないと言ってたけど、『ツクヨミ爆破の真実』と言われて、行かないわけにはいかない。

 

楯無さんには話をつけてはおいたが、みんなに迷惑をかけるわけにはいかないから言いつけ通り俺1人でこのイギリスに来た。

 

「一体何者なんだ…」

 

「わあぁぁ! どいてどいて!!」

 

「ん? どわっ!」

 

 

ドンッ! バサバサバサバサ!

 

 

突然男の人が俺にぶつかって鞄の中身の書類を盛大にぶちまけた。

 

「あああごごごごめんなさい! お怪我は!?」

 

「だ、大丈夫です大丈夫です」

 

足元の書類を集めながら答える。

 

「どうぞ」

 

「ありがとうごさいます! で、では急いでるので!」

 

男の人は俺に礼を言ってからまた走って行った。

 

「慌ただしい人だったな…あれ?」

 

こういう時、映画とかではだいたいポケットの中がスられていることが多い。

 

けど、俺の場合は逆だった。

 

上着のポケットに何か紙切れが入っていた。

 

「なんだこりゃ…」

 

四つ折りのそれを広げてみると、この空港付近の地図だった。

 

ご丁寧に俺の名前まで書いてありやがる。

 

そして地図のある地点が赤い円が記されていた。

 

「ここに行けってか?」

 

ますます怪しくなってきたが、このままでいるわけにもいかない。

 

仕方ないからこの円の地点に向かうことにした。

 

到着したのはなんの変哲もないただの公園だった。

 

小さな子供達が駆け回っている。

 

「特に変わった様子はねぇな…………」

 

ちょっと休憩がてらにベンチに座る。

 

「もしかして違う場所だったかな…」

 

もう一度地図を見ようとした時、俺の前に誰かが来た。

 

「やっほーじゃ」

 

俺はその語尾に反射的に顔をあげた。

 

俺の知り合いにそんな語尾を使うのは1人しかいないからだ。

 

「…っ!?」

 

「こんなところで会うとは、奇遇じゃのぉ」

 

「チヨリちゃん!?」

 

目の前にいたのはサイコフレームの発明者で、元絶世の美女(笑)の自称64歳の女の子。

 

まさかとは思ったが本当にそうだった。

 

「久方ぶりじゃのぉ。セフィロトの調子はどうじゃ?」

 

「えっ、ちょ、なんで? 神掌島にいるんじゃあ?」

 

「お前がいなくなってからの、やっぱり外に出てみようと思うてな。こうして身分を隠してあちこちを回っているのじゃ」

 

そう言ってくるくると回るチヨリちゃんは以前とは違ってだいぶ今風な女の子の服装だった。

 

「どうじゃ? かわいいじゃろ?」

 

「あ、あぁ」

 

「じゃろうじゃろう?」

 

よっこらせ、と俺の隣に座ったチヨリちゃんは足をぶらぶらさせながら俺に顔を向けてきた。

 

「どうした? 今度はイギリスで修行か?」

 

「違うよ。呼ばれたんだ。ツクヨミ爆破事件の真実を話すって」

 

「ツクヨミ…お前がいた宇宙ステーションか」

 

「あぁ」

 

どうやらチヨリちゃんもニュースくらいは見てるっぽいな。

 

「…アオイ・アールマイン」

 

「え…?」

 

久しぶりに聞いたその名前にハッとする。

 

「良いやつじゃった。あいつとはまだ語り合いたいことがあったぞ」

 

「所長を知ってるのか?」

 

「まぁの。あいつの墓参りも最近済ませた」

 

「エレクリットにも行ったのか!? って、いやいやそうじゃなくて、チヨリちゃん、楯無さんのことを昔から知ってて、おまけに所長とまで知り合い? いよいよ何者だよ」

 

チヨリちゃんは薄く笑ってからベンチから降りた。

 

「どれ、それじゃあお前に同行しようかの」

 

「同行ってそんな…遠足じゃないんだぞ?」

 

「わかっとるわい。じゃが1人で不用意に慣れない土地をフラフラ歩き回るのは感心せん。じゃから保護者としての同行じゃ」

 

なぜかえっへんと胸を張りながら言われた。

 

「安心せい。ワシも丸腰というわけではない。いざとなったらお前のサポートもできるぞ」

 

確かに、神掌島で俺の首に鋸を当ててきた時のチヨリちゃんは只者じゃない気がした。

 

(それに、こんな女の子を1人でいさせるのもアレだしな…)

 

「わかったよ。でも俺のそばから離れんなよ?」

 

「言われなくとも分かっとるわい。子供じゃあるまいて」

 

若干の不安もあるけど。こうしてチヨリちゃんの同行が決定した。

 

「まずはどこへ行こうかのー」

 

「だから遠足じゃないって言ってるだ…!?」

 

チヨリちゃんの背中を見て驚いた。チヨリちゃんの小さな背中に二つ折りの紙が張り付いてたんだ。

 

「ん? なんじゃ?」

 

「チヨリちゃん………そのまま……」

 

紙は簡単に取ることが出来た。

 

「なんじゃその紙切れは」

 

「や、チヨリちゃんの背中に張り付いてた」

 

「ワシの背にじゃと? いつの間に?」

 

「とにかく見てみよう」

 

二つ折りの紙を開くと、また地図が描いてあった。

 

「この円は、この公園じゃな」

 

「円から線が伸びてて、そこは……」

 

・・・

 

・・・・・

 

・・・・・・・

 

 

「そこはなんでもないただの通りだったぜ」

 

「言われなくとも分かっとるわ」

 

地図が示したのは公園から二十分くらい行ったところで、今言ったとおり目立った建物は無い。そりゃ店は色々あったが、俺が関係ありそうなところは微塵も無い。

 

「今度はちゃんと受け取りたいもんだ。どこだ? どこから来る?」

 

周囲を警戒してみるけど、全然それっぽい人は見受けられない。

 

「のう、瑛斗」

 

「なに? チヨリちゃん」

 

「ワシ、お腹が減ったぞ」

 

「緊張感無しかっ!」

 

思わずツッコミを入れちまった。

 

「じゃって、もうお昼時じゃもん。ペコペコじゃもん」

 

「だから遠足じゃないって…」

 

「あそこの喫茶店で何か食べるぞ!」

 

「聞く気無しかっ!」

 

たたーっと軽い足取りでオープンカフェの空いてる席に座った。

 

「ほら、お前もはよう来い!」

 

「やれやれ…本当に64歳なのかよ」

 

チヨリちゃんの座るテーブルに向けて歩き出す。

 

ドンッ

 

「っと、ごめんなさい」

 

「いえ、こちらこそすみません」

 

肩がぶつかった人に謝ると、見覚えのある顔だった。

 

「あら? あなたは…」

 

整った顔立ちの女の人だ。

 

「確か、セシリアのメイドさんの…」

 

「チェルシー・ブランケットでございます。ごきげんよう、桐野瑛斗さま」

 

「ど、どうも。チェルシーさん」

 

「まさかイギリスにいらしていたとは。ご旅行でございますか?」

 

「あ、ま、まぁ、そんなところです」

 

「お一人ですか?」

 

「いや、連れが一応…そこにいるんで。時間ありますか? 立ち話もなんですから」

 

チェルシーさんは少し考えるように腕時計で時間を確認してから頷いた。

 

「では、ご一緒させていただきます」

 

チェルシーさんと一緒にチヨリちゃんのいる席に行く。

 

「桐野さま、もしかして、お連れ様というのは…?」

 

「…はい。このいつの間に注文したのかわかんないけどジュース飲んでる女の子です」

 

「…………」

 

「チェルシーさん、その、安心してください。どっかから誘拐してきたとか、そんな物騒な話じゃないんで」

 

「大丈夫、わかっていますよ」

 

チェルシーさんは少し屈んでチヨリちゃんと目線を合わせた。

 

「こんにちは。あなたのお名前は?」

 

チヨリちゃんはストローから口を離してチェルシーさんと目を合わせた。

 

「チヨ」

 

「「え?」」

 

さっきとは全く違う、マジで身相応な女の子みたいな喋り方に、チェルシーさんはともかく俺まで声をあげてしまった。

 

「わたし、チヨ。瑛斗お兄ちゃんのお友達」

 

おいおい、小一時間前に保護者としてどーたら言ってた奴は誰ですか?

 

「お友達…ですか?」

 

チェルシーさんが確認を取るように俺に顔を向けてきた。

 

「……」

 

チヨリちゃん、その親指をグッと立ててるのは『話を合わせろ』という事なんですか? なんですね!

 

「そ、そうなんです! 俺の友達のチヨちゃん! 俺のめちゃくちゃ世話になってるエレクリットに勤めてる人の知り合いの子なんですけど、なんやかんやでお守頼まれちゃって!」

 

遥か遠くアメリカのエリナさん、ごめん! 今だけ巻き込まれて!

 

「お守…ですか? それでなんでイギリスへ?」

 

「えっと、あの……」

 

「あのねー、わたしがお願いしたのー」

 

チヨリちゃんナイスアシストォーッ!

 

「わたしのパパがね、イギリスにいるから瑛斗と一緒に来たの」

 

「そ、そぉーなんですよぉ! 泣きつかれちゃっていやぁまいったまいった!」

 

「そ、そうなんですか」

 

よしっ! こんだけ言えばもう疑われないだろ。あとは話題をそらすだけ!

 

「ところでチェルシーさんはなんで? メイドさんのお仕事は?」

 

「少々言いにくいのですが…」

 

チェルシーさんはなにか考えるようにしてから答えようとした。

 

「瑛斗さん?」

 

「ん?」

 

と、俺を呼ぶ声が。

 

「あれ? セシリア?」

 

すると後ろにいたのはセシリアだった。

 

「見覚えのある背中でしたので声をかけてみたら、本当にそうでしたわ。ごきげんよう」

 

「あ、そっか。お前仕事でイギリスに帰ってたんだっけ」

 

まさか会えるとは思わなかった。世間は狭いぜ。

 

「チェルシー」

 

「は、はい。お嬢様」

 

「まさかあなたまでいるとは思いませんでしたわ」

 

「は、はぁ」

 

言うセシリアの表情はどこか浮かない。

 

「瑛斗さん、その子はどなたですの?」

 

「あ、あぁ。チヨちゃんつってエリナさんの知り合いの子なんだ。イギリスにいる親父さんに会いたいって言うから連れて来たんだよ」

 

「こんにちはー」

 

チヨリちゃんは役に徹してセシリアに挨拶した。

 

「そう、お父様に…」

 

セシリアはチヨリちゃんの顔を見てポツリとつぶやいた。

 

「?」

 

チヨリちゃん、小首をかしげる迫真の演技。

 

「なんでもありませんわ。チェルシー、仕事に戻りなさい。まだまだやることは多くてよ?」

 

「はい、かしこまりました」

 

セシリアに言われてチェルシーさんは椅子から立ち上がった。

 

「それでは瑛斗さん、仕事があるので、また」

 

「お、おぉ。頑張って」

 

「失礼します」

 

セシリアは俺たちに一礼したチェルシーさんを連れて通りの人ごみに消えて行った。

 

「のう、瑛斗」

 

そして演技の必要がなくなったのかチヨちゃんから戻ったチヨリちゃんが俺に話しかけて来た。

 

「今のお嬢ちゃんは?」

 

「セシリア。イギリスの代表候補生で俺のクラスメイト。オルコット家の当主さんとかだったな。すっげー金持ちらしい」

 

料理の腕については何も言及しないでおいた。

 

「あの若さで家の当主か。若いのに大変じゃの」

 

「でも、それをやってのけてるあいつはすごいよ」

 

「そうじゃの…」

 

遠い目をするチヨリちゃんに、店員さんがパスタの盛られた皿を持って来た。

 

「だからいつの間に注文したんだよ…」

 

 

 

「…………」

 

「…………」

 

屋敷へ戻る道を、セシリアは歩いていた。 その後ろをチェルシーが続く。

 

「…セシリア」

 

チェルシーは遠慮がちにセシリアに声をかけた。

 

「なんですの」

 

「…よろしかったのですか?」

 

セシリアは足を止め、チェルシーを見た。

 

「だから、なにがですの?」

 

「奥様と旦那様のお墓参りのお時間が以前より短くなっておいでですが」

 

聞き終えたセシリアは息を短く吐いて再び歩き始める。

 

「…それで、心配になって様子を見に来た。というところかしら?」

 

「申し訳ございません。少し気になったので…」

 

チェルシーは謝罪をしてからさっきと同じ間隔でセシリアの後ろを歩く。

 

「それと…」

 

「まだなにかありますの?」

 

「先ほど、仕事と言って桐野さまとお別れましたが…嘘ではございませんか?」

 

チェルシーは知っている。セシリアが両親の墓参りに行く時、セシリアはオルコット家当主の仕事を全て終わらせているのだ。

 

「だったらなんですのよ。はっきり言いなさいな」

 

「…私に、なにか話したいことがあるのではありませんか?」

 

そしてチェルシーはもう一つ知っている。

 

セシリアは自分と二人きりになると、決まって何か相談事があることを。

 

「………ねぇ、チェルシー」

 

セシリアはまた立ち止まり、チェルシーに話しかけた。

 

「なんでしょうか?」

 

「お父様とお母様は事故でこの世を去った……そうですわね?」

 

「…はい。列車の脱線事故で」

 

どうして自分も知ってるであろうことを聞かれたのかわからなかったがチェルシーは素直に答えた。

 

「…『どうして、わたくしは生きてるのかしら』」

 

「え…?」

 

「憶えてるでしょう? 葬儀で泣かなかったわたくしが、その日の夜に部屋にあなたを呼んで言ったことですわ」

 

何を言いたいのか分からなかったが、チェルシーは今セシリアが主とメイドとしてではなく、幼馴染として話しているということは理解できた。

 

「『わたくしも連れて行ってくれれば良かったのに』とも言いましたわ」

 

「セシリア…それは……」

 

「そしたら、あなたはわたくしに何をしたんでしたっけ?」

 

「…………思いきり、セシリアの頬を張りました」

 

答えるとセシリアはいたずらっぽく笑って話を続けた。

 

「あのビンタは効きましたわ。でも、そのあとチェルシーがわたくしを抱きしめて………涙が止まらなかったですわ」

 

「………」

 

チェルシーは、自分も今だけは幼馴染として話そうと考えた。

 

「セシリア」

 

「?」

 

「なにか悩みがあったら、私に言ってください。力になります」

 

「…えぇ。心に留めておきますわ」

 

セシリアは笑ってみせて、また歩き出す。

 

「なんだか少し気分が晴れましたわ。チェルシー、屋敷に戻ったらIS学園に戻る準備を始めますわよ」

 

「はい。わかりました」

 

チェルシーもその後を追い、自分の仕事に戻るのだった。

 

 

 

「…なぁ、チヨリちゃん」

 

「なんじゃ」

 

「俺たち、あとどんくらいこうしてりゃいいの?」

 

セシリアがチェルシーさんを連れて行ってからはや数時間。俺とチヨリちゃんは全く動かなかった。

 

いや、動かなかったんじゃなくて動けなかったと言うべきだな。なんの指示も来なかったんだから。

 

「結局誰も来ないじゃねぇか」

 

さっきまでいた店は夜は閉店らしく、仕方なく近くのベンチに腰を下ろすことになった。

 

「イタズラかぁ? ここに来てその可能性が濃厚になってきやがったぜ」

 

「…………」

 

「チヨリちゃん。無理に付き合う必要ないぜ? 俺だけでも十分なんだからよ」

 

「昼間も言ったじゃろ。知らない土地に一人は危険じゃとな」

 

「そんな保護者っぽいこと言っておいて、店の勘定は丸々俺に押し付けたのはどこの誰だよ…」

 

飲み物だけでよく粘れた方だったか。チヨリちゃんが大食いキャラだったら詰んでたわ。

 

「んー……」

 

チヨリちゃんは時計を見て時刻を確認してから、立ち上がって俺の前に立った。

 

「そろそろかの」

 

「え?」

 

「瑛斗。ワシの言うことをよく聞け」

 

「お、おぉ」

 

「今から三つ数える。そしたらワシは走るからお前もついて来い」

 

「は……は?」

 

いきなり何を言い出すんだ。この保護者(笑)は。

 

「いくぞ。三…」

 

「おいどういうことなんだ?」

 

「二…」

 

「話を聞けって」

 

「一……走れ!!」

 

「ちょ、ちょっと待てって!!」

 

俺はよくわからないまま駆け出したチヨリちゃんの後を追う。

「一体どうしたんだよ!」

 

「嗅ぎつけられたんじゃよ! やつらに!」

 

「やつらって誰!」

 

 

ブロロロォッ!!

 

 

「なっ、なんじゃありゃ!?」

 

突然のエンジン音に振り返る。俺たちを追いかけてきたのは二台の車。どっちも黒塗りだ。

 

歩道を走る俺たちを車道から猛スピードで追いかけてくる。

 

「何! 何がどうなってる!?」

 

「こっちじゃ!」

 

チヨリちゃんが人一人分の広さしかない路地に入るから俺もそこに飛び込む。

 

「なぁチヨリちゃん、説明してくれよ!」

 

「説明は後じゃ!今はとにかく走るんじゃよ!」

 

もうてんやわんやになっていると路地の出口に道を阻むように車が止まった。

 

「くっ!」

 

チヨリちゃんは減速なしに左に曲がる。着いて行くこっちの身にもなってほしい。

 

別の通りに出た俺たちをまた車が追いかけてきた。

 

さっきとは違う種類の車だけど確実に俺たちを狙ってる。

 

前を走るチヨリちゃんを見てから俺はハッとした。

 

「チヨリちゃん! そっち川! 行き止まり!」

 

「知っとるわ!」

 

しかしチヨリちゃんは減速することなく飛び降りた。

 

「うわわっ!!」

 

減速のタイミングを見誤って俺はつんのめるように落下。

 

「だっ!?」

 

背中を諸に打っちまった。

 

「て、あ、あれ? ボート?」

 

身体が濡れていない。ボートの上に落ちたみたいだ。

 

「この! このっ!」

 

「ちょ、チヨリちゃん何してんの!?」

 

見ればチヨリちゃんが運転席に立って何やらガチャガチャ弄っている。

 

「動け! 動かんかこのポンコツが!! 誰が残骸から修理したと思っとる!」

 

とどめに一発蹴りを入れると、ボートが小刻みに揺れ始めた。

 

「よーしいい子じゃ。瑛斗」

 

「な、なに?」

 

「腰を落とせ。怪我するぞ」

 

言われたとおり中腰になると、ボートの縁から板が飛び出して上半分を完全に覆った。

 

一瞬真っ暗になってから外の景色が見える。

 

「発進するぞ」

 

「うわっ」

 

一度大きく揺れたと思ったら視界から夜景が消えて川の中になった。

 

「奴らもここまでは追って来まい。やれやれ…」

 

「いやいやいや、俺完全に置いてかれてるんですけど。状況に着いて来れてないんですけど!」

 

「そう喚くな。すぐに分かる」

 

「あのさ、話がさっきから飛躍しすぎてんだけどーーーーー」

 

また視界が真っ暗になった。

 

「着いたぞ」

 

パシュッと音を立てて天井が開くとそこはどこかの地下室だった。

 

一つだけ天井にぶらさがった裸電球がこの空間を照らしている。

 

「ここは…?」

 

「さ、お前も来い」

 

チヨリちゃんは軽い足取りでボートから降りて扉に手をかけた。

 

重い扉の開く音がすると、螺旋階段が上に続いていた。

 

「なんだよこの建物は…」

 

足元では電球が足元を照らしている。

 

「お前を連れて来れて一安心じゃ」

 

カン、カン、と階段を上る音が響く。

 

「いつになったら説明してくれるんだよ」

 

「もうすぐじゃ」

 

螺旋階段を登り終えると、梯子があった。しかしその梯子はすぐそばの天井で途切れている。

 

「お?」

 

天井に赤いスイッチがあった。手を伸ばせば簡単に届く位置だ。

 

「ちょうどいい。そこのスイッチ押してくれ」

 

「? ほらよ」

 

スイッチがカチッと小気味いい音を鳴らすと、天井がスライドして光がさした。

 

「ありがとうじゃ」

 

チヨリちゃんは梯子を登って上に出た。俺もそれに続く。

 

「これは…」

 

広がっていたのは、少し散らかっていたがどこにでもあるような普通の部屋だった。

 

「なんだここ?」

 

チヨリちゃんは一人掛けの小さなソファに腰をおろした。

 

「ようこそ。ワシの秘密基地へ」

 

「秘密基地…?」

 

秘密基地と聞くとどうも面倒な記憶が呼び起こされてたまらない。

 

「おっと、客人には飲み物を出さなくてはな」

 

思い出したように奥の方へとはけていったチヨリちゃん。

 

周囲を観察すると、もう一枚扉があった。近くには空き瓶が転がっている。

 

空き瓶を拾って匂いを嗅ぐ。酒だった。

 

 

ガチャ

 

 

「ん?」

 

「あ?」

 

扉が開いて、内側から出てきた人と目があった。

 

「……………」

 

「……………」

 

シャツにパンツっていう生活感丸出しな服装だったからその人が女の人だとすぐにわかった。

 

「…………」

 

「…………」

 

普通なら慌てて目を逸らすところだが、俺はそれができなかった。

 

なぜなら、その人が、

 

 

亡国機業の構成メンバー、オータムだったからだ。

 

 

「「あぁ!?」」

 

お互い驚いてから、最初に動いたのはオータムだった。

 

一歩で俺に近づいて俺の首を掴んで扉に押し付けた。

 

「がっ…!」

 

「三つの中から選びな。このまま首を締められて殺されるか、酒瓶で殴られて殺されるか、割った空き瓶で刺されて殺されるか」

 

「殺される選択肢しかねぇじゃねぇか…!」

 

「お、二人とももう顔を合わせたのか」

 

暢気な感じで飲み物を持ってきたチヨリちゃんはコップを置いてから近づいてきた。

 

「てめぇかババァ! こいつ連れてきたのは!」

 

「オータム。瑛斗を放せ。死んでしまうじゃろうが」

 

「あぁ? 私の下着姿見たんだぞこのエロガキは。三回は殺さねぇと気が済まない」

 

「下着姿のお前が悪い。いいから放すんじゃ」

 

「…チッ」

 

オータムは俺の首から手をはなした。

 

「うぇっほごっほ! おぇっ!」

 

咳き込んでから、呼吸を整える。

マジで死ぬかと思った…。

 

「…どっか行ったと思ったら何考えてやがんだババァてめー」

 

「仕方ないじゃろが。事前に話したら絶対反対したじゃろ?」

 

「当たり前だっ!」

 

「ちょ、ちょっといいか?」

 

やっと呼吸が整った俺は二人の会話に割り込んだ。

 

「なんじゃ?」

 

「んだよ?」

 

「え? てことはなに? チヨリちゃん、え? まさか…!?」

 

オータムが嘲笑してきた。

 

「マジかよ。なんにも知らねーのか」

 

「黙れオータム。…あぁ、そのまさかじゃよ」

 

チヨリちゃんはソファに腰掛けて足を組んだ。

 

「こうして名乗るのは初めてじゃな。改めて、ワシはチヨリ。亡国機業技術開発長じゃ」

 

 

瑛「インフィニット・ストラトス〜G-soul〜ラジオ!」

 

一「略して!」

 

瑛&一「「ラジオISG!」」

 

瑛「読者のみなさん! こんばどやぁー!」

 

一「こんばどやぁ」

 

瑛「さぁさぁ今回俺はイギリスに行ってきましたよ」

 

一「なんだか大変なことに巻き込まれてるじゃんかよ」

 

瑛「あぁ。まさかチヨリちゃんが亡国機業のメンバーだったなんてな。おまけにオータムまでいやがった」

 

一「それはそうとお前本当にあっちゃこっちゃ行くよな。オランダやらフランスやら」

 

瑛「それは気にしちゃあダメなんだなこれが。さて今日の質問いってみよう!」

 

一「カイザムさんから瑛斗に質問。暑い真夏の昼間。自販機で買うなら冷たいジュースですか? それとも冷えたお茶ですか? だって」

 

瑛「ほぉ。季節的な質問か」

 

一「カイザムさんはジュース派だって」

 

瑛「うーん…やっぱ俺もどっちかって言われたらジュースかな」

 

一「あ、自販機で思い出したけど、お前地球に降りたばっかのころに自販機に興味津々だったよな」

 

瑛「あーそんなこともあったな。ツクヨミじゃ自販機とか見たことなかったからよ」

 

一「喋るタイプの自販機にビクッてしてたよな」

 

瑛「やめろよその地味に恥ずかしい暴露。てか普通驚かない? 小銭入れたらいきなり『いらっしゃいませ』って」

 

一「ルーレットで当たったらもう一本タダのやつで当たって大はしゃぎしてテンパって結局同じのまた選んだり」

 

瑛「だってはしゃくでしょ!? 当たったらはしゃぐのが当たり前じゃないの!?」

 

一「なに慌ててんだよ。昔のことじゃないか」

 

瑛「いきなり妙なことお前が思い出すからだろが…そう言うお前はどうなんだよ。お茶ですかジュースですか?」

 

一「気分によるな。でも大体はジュースだけど」

 

瑛「なんだよ、俺と変わんねぇじゃねぇか」

 

一「でも俺はビクッとかなんないから」

 

瑛「ちくしょー! バカにしやがって! バカにしやがって!」

 

一「ははは。おっと、もう時間みたいだ。瑛斗」

 

瑛「ケッ。それじゃあエンディング!」

 

流れ始める本家ISのエンディング

 

瑛「なんか今日は俺のちょい恥ずな話暴露回だったぜ」

 

一「悪かったって。で、今日は誰が歌ってんだ?」

 

瑛「そこで妙な機械の上に乗ったメイド服な女の子に歌ってもらってるぞ」

 

一「なんだ? あの白い筒みたいな機械は」

 

瑛「それよかメイド服って暑くないのかね」

 

一「まぁ、メイドさんならいいんじゃないか?」

 

瑛「それもそうか。それじゃあ!」

 

一「みなさん!」

 

瑛&一「「さようならー!!」」


 
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