「えー…という事でこの2体が俺のユニゾンデバイスになったレスティアとサウザーです」
神様からユニゾンデバイスを貰った翌日。
俺は皆をアースラに集め、レスティアとサウザーを紹介しました。
昨日、家に帰った時にはモンスターボールに戻していたのでシュテル達に紹介するのも今日が初めてだったりする。
「レスティアよ。これからよろしくね」
レスティアはドレスの裾を摘まみ、頭を下げて挨拶する。
上流階級のお嬢様が『ごきげんよう』ってな感じでする様な優雅な挨拶の姿勢だ。
で、もう1人…サウザーなんだが……
「……………………」(ズーーーン)
何処から出したのか分からないが玉座とも呼べる椅子を勝手にアースラのブリーフィングルームに設置し、半端無い威圧感…聖帝の威光っぽいのをさらけ出しながら足を組んで座っている。
その姿を見て呆気に取られているシュテル達。この様子だとレスティアの挨拶をちゃんと聞いていたのかどうか怪しいもんだ。
まあ、今はそれよりも
「…おい、サウザー」
コイツにも挨拶させんと。
「何でしょうか?お師さん」
サウザーは俺の事を『お師さん』と呼ぶ。
俺はオウガイじゃないのに。
「皆に自己紹介しろって」
「分かりました」
俺の言葉に頷くとシュテル達の方を見て
「俺はサウザー。お師さんを守護するユニゾンデバイスにして『聖帝』!!この身体に帝王の血を宿す者よ」
すっげー上から目線で言葉にするサウザー。
俺は頭が痛くなってきた。
「ゆ、勇紀。彼と彼女が君のユニゾンデバイス…なのか?」
遠慮がちに聞いてくるクロノ。
「…まあ、そういう事だ」
「何というか…随分と偉そうな奴だな」
「昔のディアーチェもあんな感じでしたよ?」
「おいシュテル!!我はあそこまで酷くはなかったぞ!?」
ディアーチェとシュテルの会話が耳に入る。
「あれが勇紀のユニゾンデバイス…だと?」
「お姉様…リイン、何だか怖いですぅ」
リンスにしがみつきプルプル震えているリイン。
「ていうか艦長。良いのでしょうか?あの椅子…」
「ちゅ、注意した方が良いわよね…」
エイミィさんの言葉にリンディさんも頷きサウザーに近寄る。
「…何だ?女」
「さ、サウザーさんでよろしかったかしら?その椅子を片付けて貰いたいのだけど?」
「失せろ…。貴様の指図など受けん」
サウザーのその言葉にリンディさんは引き攣った笑みを浮かべる。必死に怒りを我慢しているなアレは。
「おい!艦長に対して何だその言葉遣いは!?」
そこへクロノが突っ掛かる。
「デカい口を利くな小僧」
「なっ!?お前!!」
その言葉でカッとなるクロノ。
「ちょ!?サウザー謝れって!いくら何でも言葉遣い荒すぎだ!!」
「この様なドブネズミ共に頭を下げる必要なんてありませんよお師さん」
い、言うに事欠いてドブネズミって…。
そしてワイングラスにワインを注ぎ、飲み始める。
だから何処から出したそのワインとワイングラス!?
実は
「ね、ねえ…何であの人、あんなに偉そうなのかな?」(ヒソヒソ)
「『聖帝』って言ってたよね?どういう意味だろ?」(ヒソヒソ)
「り、リンスやリインに比べたらえらいこ、個性的なユニゾンデバイスやなぁ…」(ヒソヒソ)
「れ、レスティアって子の方がユニゾンデバイスってのは理解出来るんだけど…ねぇ?」(ヒソヒソ)
なのは、フェイト、はやて、アリシアもヒソヒソ言ってないで俺を助けてほしい。
「フッ…中々質の良いワインだ。悪くない」
一旦ワイングラスから口を離し、片手で頬杖をつきながらグラスの中に残ったワインを見て言うサウザー。
偉そうな態度が様になってるのが何とも…。
流石聖帝といったところか。
「何つーか…あんまり関わりたくないぞアタシは」
「だがあの威光…中々のモノだ。それに奴はかなりデキるな」
「し、シグナム?まさか模擬戦を申し込んだりしないわよね?」
「……………………」
ヴィータ、シグナムさん、シャマルさんもそれぞれ口を開く中、ザフィーラは完全に沈黙している。
…どうしよう?
「いい加減にしなさいな」
そんな中、レスティアがサウザーの態度を見て口を開く。
「何だ小娘?」
「貴方の態度が勇紀に迷惑を掛けているのに気付かないの?気付かない様なら貴方が言う『聖帝』の器なんてたかが知れてるわね」
ガシャーン!!
「「「「「「「「「「っ!!?」」」」」」」」」」(ビクッ!)
サウザーが手に持っていたワイングラスを握り潰し、突然の事に皆がビックリする。
「フフフ…どうやら命が惜しくない様だな小娘」
「やるの?貴方1人を屠るぐらい私にとっては造作も無い事なのよ?」
ゆっくりと立ち上がるサウザーに対し、目を逸らさず余裕そうな表情を浮かべ魔力を軽く放出し始めるレスティア。
…って
「止め止め止めい!!2人共争う事は俺が許さん!!」
サウザーとレスティアの間に割って入る。
何でユニゾンデバイス貰って昨日の今日でいきなり殺し合おうとしてんの!?
「とにかく!!今日は皆に紹介するために連れて来たんだ!!大人しくしろって」
「…そうね、ゴメンなさい勇紀。私とした事が」
「お師さんの言葉とあっては従わない訳にはいきませんな。…命拾いしたな小娘」
少しばかり放出していた魔力を収めるレスティアと再び玉座に『ドサッ』と音を立てて座るサウザー。
そしてエイミィさんの方を見る。
エイミィさんは『ビクッ』として直立不動になる。
「娘、代わりのグラスを持て」
「えっ!?私が!?」
自分の顔を指で指して喋るエイミィさん。
『何で私が?』って表情を浮かべているが
ギロッ
「二度は言わぬぞ。…それとも、ここで死にたいか?」
「すぐにお持ちします!!」
逃げる様にブリーフィングルームを出て行くエイミィさん。
ほ…本当にコイツは。
「(エイミィさん。マジすんません)」
心の中で俺はエイミィさんに平謝りするのだった………。
次の日…。
再び鳴海少将の執務室にお邪魔し、神様との対談を望む俺。話の内容は勿論…
「サウザー何とか出来ません?」
聖帝様についてだ。
昨日、家に帰る前にモンスターボールに戻し、メガーヌさんとルーテシアには紹介せずに一日を終えた。
てかレスティアはともかくサウザーは紹介出来ねえってマジで。
出来ればこれ返品してサイザー…もしくは別のユニゾンデバイスにして貰いたいのだが
『…済まないがクーリングオフは受け付けていないんだよ』
無理でした。
何ていう悪徳商売だ。神様のミスなんだから責任とってくれよ!
『…仕方ない。何らかの形でお詫びするよ』
だからサウザーを何とかしてくれたら万事解決だってば!
けど俺の願いは聞き入れて貰えず、いつか別の形で謝罪して貰う事にした。
『まあ、レスティアもサウザーもユニゾンせずに単体で無双出来るぐらいの強さはあるから、管理局にとっては主戦力も同然だよ。何せ神である私が作ったユニゾンデバイスだからね。原作オリジナルよりも強いよ』
そこまでやりますか。
あ、そういえば…
「神様、ひょっとしてサウザーの身体って原作みたいに心臓とか秘孔の位置が逆だったりします?」
『当然だよ。サウザーの身体は原作を徹底的に再現しているからね』
やっぱり。でもユニゾンデバイスに秘孔とかいるのか?
むしろ無い方が余計に強いんじゃ?
『私はこだわるんだよ!!そういう細かい事にも!!』
…さいでっか。
『それで?他に何か聞きたい事や用はあるかい?』
「……いえ、サウザーをどうにも出来ないならもう無いです」
とっとと帰ろう。
踵を返し、部屋を出て俺は本局を後にしようとしたら…
「ユウ君、通信が入ってるよ?」
ダイダロスが俺に言う。
「通信?誰から?」
「レジアス中将」
「…マジで?」
レジアス中将から直接連絡?一体何だろうか?
「とりあえず繋いでくれるか?」
「了解だよ」
ダイダロスが通信を繋げると空中にディスプレイが現れ、レジアス中将の顔が映る。
『長谷川陸曹。済まないが今、ミッドに来ておるか?』
「ミッドというより本局内部ですけど」
『本局に?何故かね?』
あ、ちょっと不機嫌そうだ。
無理も無いか。レジアス中将、本局嫌いですからなぁ。
「少し知り合いに会いに来てただけです。それよりも何かあったんですか?」
『実は違法魔導師の集団がとあるビルに立て籠もっていてな。そこそこのランクがある連中共で、現地で犯人を囲んでおる局員達では手に負え無さそうなんでな。陸曹に現場へ向かって貰いたいのだが…』
「防衛隊からは誰か現地へ急行出来ないのですか?」
『陸曹の家族や友達は今日はミッドに来ておらんのだ』
「成る程…」
そういや、防衛隊のシュテル達に亮太、椿姫は今日はミッドに来ていないんだったっけ。
「ていうか俺が来てるってよく知ってましたね?」
『いや、陸曹が来ておるだなんて知らなんだよ。最初に連絡したのが陸曹であっただけだ』
「そうですか…。まあ、いいですよ。現地にすぐ向かいます」
『済まんな。現場の指揮官へは儂から連絡しておこう。現地の場所は儂の部下がデバイスにデータを転送するのでそちらで確認してくれ』
「了解です」
敬礼して答えるとディスプレイが消える。
と、同時に現地の場所を記したデータが飛んできたので確認する。
じゃあ、転移してさっさと犯人逮捕といきますか。
しかし『救助隊』に所属してからの初仕事が違法魔導師の逮捕って……。
俺ってホント、初任務がコレ系ばっかりで嫌になっちゃうよ………。
…で、現場に到着した。
さっそく現場の指揮官さんの元へ向かい、現状を確認してみた。
違法魔導師の集団は目の前にあるビルの中に立て籠もっており女性を1人、人質に取っているらしく迂闊に手を出せない様子。結界を張って閉じ込めようモノなら『人質を殺す』と言われたため、こうやって現場を局員で囲む事しか出来ていないのが現状だ。
「(うーん…
自分がどう動くか考えていたら
「《お師さん》」
念話が飛んできた。声の主はモンスターボールの中にいるサウザー。
モンスターボールの中にいても念話は出来るのか。まあ外での会話は中にも聞こえるみたいだし。
…てか、ユニゾンデバイスだから当然なんだけどサウザーが念話を使うってのは違和感バリバリだ。
「《何だサウザー?》」
「《ここは俺に任せて貰えないでしょうか?》」
「《任せて……って、大丈夫なのか?》」
「《心配ご無用です》」
やけに自信たっぷりだな。
けど、神様が『ユニゾンせずとも無双出来る実力がある』って言ってたから中にいる連中相手に遅れは取らないって事か。
あ、でもユニゾンを試してもおきたいな。どうしたもんか?
「(……今回はサウザーに任せるか)」
万が一、逃走されるのを防ぐために俺とレスティアは待機しておこう。
方針が決まったので早速モンスターボールを投げ、サウザーを出現させる。
周りの局員さん達は突然現れたサウザーを見て驚いているが
「じゃあサウザー、任せた」
「はっ」
頭を軽く下げて返事をした後、ビルの中に入って行くサウザー。
そしてレスティアも出現させ、俺達は待機する旨を伝える。
「私が立て籠もっている魔導師達を逮捕してもよかったんだけど?」
「今回はサウザーに任せるさ。レスティアはまた次回かな」
「貴方がそう言うなら私は従うだけだけどね。けど大丈夫かしら?」
「サウザーがか?」
「まさか。私が言ってるのは違法魔導師達の方よ。南斗鳳凰拳で肉塊が量産されるんじゃないかと思って」
「あはは、まっさかぁ~。サウザー本人は非殺傷設定になってるんだぜ」
と笑ってはみるものの、レスティアに言われて気付いた。
……大丈夫だよね?俺自身が設定変えないと殺傷設定になる事はないし。
…………大丈夫だと思いたい。
2人してビルを見上げる。
聖帝サウザーのデビュー戦…どうか死体の山が築かれません様に………。
~~第三者視点~~
ビルの上階にある一室。
そこにはこのビルを占拠し、金銭や宝石の類を強奪している最中の違法魔導師の集団が女性の人質を取って立て籠もっていたのだが…
「毎回毎回ちょろいモンだねぇ。こうも簡単に行くんだからさぁ」
人質であった筈の女性は手荒な扱いを受けているどころか悪どい笑みを浮かべて違法魔導師達と会話をしている。
「全くだ。お前の迫真の演技のおかげで管理局の犬共は迂闊に手を出せず、踏み込めず俺達が金や宝石を奪うのを、指をくわえて黙って見る事しか出来ないんだからな」
「そして局員の魔導師共にも気付かれない程強力な認識阻害と変身魔法で毎回人質の容姿を変えているんだろ?大したモンだぜ」
「ホントホント」
『ギャハハハ』と上機嫌に笑う違法魔導師達。人質の女性も連中同様に上機嫌になっている。
そう…じつはこの女性と違法魔導師達はグルで、いつも同じ手口で強盗を悠然と行っているのだ。
連中が目をつけた場所に女性が認識阻害、変身魔法を使って容姿を変え潜入。人質役を行って管理局の局員を足止めしている間に盗む物をとっとと盗み、最後に多重転移で女性もろとも現場から逃げていた。
今回もこのビル内で営業している宝石店の事務員として入社し、ある程度会社で働いてから仲間にここを襲う様に連絡したのだ。
そして計画通りに宝石店を襲い、現在に至る。
このままいつも通りに逃げられると思っていた違法魔導師の集団。しかし…
「おい!!局員が1人入りやがったぞ!!」
窓から下にいる局員達を見ていた違法魔導師の1人が部屋の中にいる仲間に声を掛ける。
「1人だと?交渉にでもくるつもりか?」
「どうします?ボス」
「答えるまでもないだろう。コイツを人質として扱っている所を見せ、無抵抗にさせた後で殺しちまえばいいんだからな」
ボスと呼ばれた違法魔導師のリーダー格の男は自分達の行動方針を言う。
このボスが言う様に過去には何度か交渉に赴いて来たり強行突入をしてきた局員達もいたが、人質役の女の迫真の演技で手が出せず、無抵抗のままその命を散らせてしまったのだ。
「じゃあ、姉御はコッチへ」
「はいよ」
違法魔導師達は準備をする。どうせいつも通りの結果になるんだろうと思いながら。
そして遂に
ドゴーン!!
「「ぎゃばっ!!?」」
扉を蹴破り1人の男が室内に入って来た。突然飛んできた扉に2人の違法魔導師が巻き込まれ、そのまま扉と共に吹き飛んで壁に叩きつけられ気絶する。
突然の乱入の仕方に人質役の女性、ボス含め全員が言葉を失って唖然とする。
入って来た男は何事も無かったかのように室内を見渡し…
「ひぃ…ふぅ…みぃ…………31人か」
人質役の女性を無視して違法魔導師の人数を数える。最初に吹き飛ばされた2人、人質役の女性を入れると違法魔導師は合計で34人。
「テメエ!!いきなり何しやがる!!」
「局員の分際で手荒な真似が許されると思ってんのか!!」
仲間をやられ、感情を怒りで染める違法魔導師達。
この場で怒っていないのは違法魔導師のボスと、演技で怯えた表情を浮かべている女性の2人だけ。
ボスは乱入してきた男…サウザーを見ながら口を開く。
「ふっ、コイツはまた随分と野蛮な局員がきたものだ。だが現状をちゃんと把握しているか?コチラには
「そうだぜ。コイツが見えないのか?」
銃型のデバイスを人質役の女性の頭に突きつける。
「……………………」
その様子をただ静かに見るサウザー。
「抵抗すればこの女の頭を撃ち抜く。当然ながら殺傷設定だ。つまり頭を撃ち抜けば人質は死ぬ。コイツを助けてほしければ無駄な抵抗はするな」
「お…お願い…殺さないで…」
ボスの言葉に迫真の演技で助けを請う人質役。
「見た所、デバイスは持ってない様だな。管理局員にしては何故持ってないのか疑問だが…まあいい、その場を動くなよ」
更に人質役の女性に銃型のデバイスを深く突きつける。
普通の管理局員ならここで連中の言う事を聞き、迂闊に動けなくなるだろう。
そう…今まで違法魔導師達が相対してきた
だが、彼等の目の前にいるのは普通の管理局員ではない。
原作においても自らを『帝王』『聖帝』と名乗る男。
「ふ…フハハハハハハ。この俺に対して『動くな』だと?まさかこの聖帝に命令してくる様な輩がいようとは」
ザッ
高らかに笑いながらサウザーは
「テメエ!!ボスの言った言葉が聞こえなかったのか!!?動くなっつってんだよ!!」
1人の男が叫び、魔力弾を作ると他の魔導師達も魔力弾…何人かは砲撃魔法の準備もし始める。当然ながら全員殺傷設定だ。
「ほう?俺に攻撃するつもりか?面白い、やってみろ。俺が3秒数えている間に好きなだけ攻撃してくるがよい」
そうしてサウザーは立ち止まり、カウントし始める。
「ひとーーーーーつ……ふたーーーーーつ……」
「~~~~~っ!!じゃあ望み通りぶち殺してやるぜ」
挑発じみた言い方を聞いた違法魔導師の1人が魔力弾を放つと同時に残りの違法魔導師達も一斉に攻撃し始める。
「みーーーーーっつ!!」
サウザーのその言葉と同時に魔力弾、砲撃が直撃する。
砲撃に呑み込まれた様子を見てニヤニヤと笑みを浮かべる魔導師達だが砲撃の光の中から出てきたのは
「ふ、フハハハハ。この身体に貴様等程度の魔法なぞ効かぬ」
「「「「「「「「「「なあっ!!?」」」」」」」」」」
笑いながら無傷で出てきたサウザーだった。
「馬鹿な!?無傷だと!!?」
「有り得ねえ!!直撃だった筈だ!!」
動揺する違法魔導師達。
「俺は帝王。貴様等とは全てが違う。神はこの俺に不死身の肉体までも与えたのだ!!」
まあ、神が作ったユニゾンデバイスなんだから、確かに普通の人間やデバイスなんかと比べたら『全てが違う』という言葉に嘘偽りは無い。
だけど強靭な肉体を得ているだけで不死身ではないのだよ?サウザー君。
「さて…今度はこちらから行くか」
サウザーは再び前進し始める。
「来るぞ!!」
「けっ!!こんな隙だらけな奴に俺達が負ける訳ねえ!!」
「そうだ!!さっき無傷だったのも何らかのトリックに決まってるぜ!!」
ただ歩くサウザーを見て口々に言う違法魔導師達だがボスだけは冷静にサウザーを見据え
「(違うな。隙が有る様で奴には隙が全くない)」
そう思っていた。
ボスが言う通り、何の構えも無く隙だらけに見えるが隙は無い。
何故なら『構えが無い』というその姿勢そのものが既に『構え』であり、南斗聖拳最強の拳法 南斗鳳凰拳を身につけたサウザーの帝王としての基本的な戦闘スタイルなのだ。
彼の拳にあるのはただ制圧前進するのみ!
ある程度魔力弾や砲撃を放っても歩み寄ってくるサウザーを止める事が出来ず、一旦距離を取ろうと下がる違法魔導師達だが
「遅いわ」
一気に距離を詰めたサウザーは指先を揃え、違法魔導師の1人の心臓目掛けて突き入れる。
「わびゃあっ!!」
そのまま手刀による一撃を受けた違法魔導師はプロテクションを張る前に吹き飛ばされ壁に叩きつけられるが、とてつもない勢いで叩きつけられたため、後ろの壁が保たず、壁を突き破ってそのまま空中に放り出される。
飛行魔法を習得していない違法魔導師はそのまま重力に引かれ落下していった。
「むぅ…これが非殺傷設定というものか。俺にとっては邪魔以外の何物でもないな」
自分の手を見てサウザーは呟く。
サウザーは何の躊躇いも無く殺すつもりで違法魔導師の心臓を狙った。
しかし非殺傷設定のせいで身体を貫くには至らず、吹き飛ばす結果になってしまったのだ。
もしこれが殺傷設定ならば今頃吹き飛ばされた魔導師は心臓を貫かれ、一瞬で絶命していただろう。
もっとも非殺傷のせいで、直撃した際に身体を通り抜けた衝撃も相当なモノで攻撃を受け、外に放り出された時点で違法魔導師は意識を手放していた。
「なっ!!?て、テメエ!!人質が…」
「極星十字拳!」
「あわびゅっ!!」
その言葉は最後まで続かなかった。
再び神速とも言える速さで間合いに踏み込み、手刀で斬撃(勿論非殺傷設定)を加えると違法魔導師のバリアジャケットは一瞬で十字型に引き裂かれ、また吹き飛んだ後に地面を何度かバウンドして壁に激突。
今度は壁を突き破って空中に放り出される様な事は無かった。
「おい!!コッチには人質がいるんだぞ!!コイツがどうなっても本当にいいのか!!?」
狂った様に叫びながら違法魔導師が言うが…
「フハハハハ。そんな女の事などどうでも良いわ。俺がお師さんから承った使命は貴様等ドブネズミ共を残さず片付ける事だ」
悲しいかな。聖帝様に人質など通用しないのだ。
彼にとって唯一絶対の存在は自分の主である長谷川勇紀ただ1人であり、それ以外の存在は等しく虫ケラなのだ。
そこに女子供はおろか老人、赤ん坊も関係無く…。
「う、嘘だ!!俺達を動揺させるためにそんな事を言ってやがるんだ!!」
「ふっ、嘘などではないわ!」
ズドン!!
「「たぶりゃあっ!!」」
言い終えると同時にサウザーは人質の眼前に寄り、
その衝撃は人質役の女の身体を突き抜け、背後の違法魔導師にもダメージを与えていた。
(非殺傷設定だけど)断末魔の悲鳴を2人仲良く声を揃えて発した後、壁を突き破って外に(強制的に)放り出された。
これで落ちていったのは人質役を含めて3人目。聖帝様の辞書に『手加減』や『情け』などという言葉は存在しないのだ。
そしてこれがまたサウザーに任せた勇紀のミスとも言える。
勇紀はサウザーに指示を出した際に、『サウザーもモンスターボールの中から会話を聞いていたんだから人質を無傷で救出して犯人達を制圧するだろう』と思い込んでいたのだ。
だが彼、聖帝サウザーは勇紀からの指示を『中にいる連中を1人残さず殲滅せよ』と言われたモノだと理解したのだ。
故に彼は人質などどうでも良く、ただ違法魔導師達を駆逐するためだけにその拳を振るう。
結果論として人質もグルなので叩きのめした事は間違いではないのだが……。
「「「「「「「「「「あ…あぁ……」」」」」」」」」」
殺傷設定であるにも関わらず、傷一つ付けられない現実と、その手加減の無さに加え、人質ごと攻撃する非情っぷりに顔を青ざめ、胸中を恐怖で支配されていく違法魔導師達。
冷静に務めていた筈のボスも身体を震わせ、目の前の聖帝様に怯え始めている。
「(こ、ここまで非情な奴が管理局にいたのか!?マズい!!このままでは全滅だ。コイツ等を囮にし、俺だけでも逃げねば…)」
既にボスは逃げる算段を考えるので一杯一杯だった。
だからこそ目の前に聖帝が来た事に気付かず、そのまま首筋に強烈な一撃を感じると同時に意識を手放し、地に沈んでいた。
「さて…次はどいつにしようか…」
品定めを行う様にじっくりと見渡すサウザー。
目が合うだけで金縛りにあった様に動けなくなる違法魔導師達。
完全に『蛇に睨まれた蛙』状態だ。
「決めた…お前だ!!」
瞬時に距離を詰め、1人の違法魔導師に蹴りをかます。
「ぷびゃらばっ!!」
これが殺傷設定なら言うまでも無く上半身と下半身がお別れしているのだが非殺傷設定のおかげでその様な事はない。
「「「「「「「「「「う…うわあああぁぁぁっっっ!!!!」」」」」」」」」」
バシュバシュバシュッ!!
恐怖に駆られた違法魔導師達は無駄だと分かっていても魔力弾をサウザーに向けて放ちまくる。
サウザーは獰猛な笑みを浮かべながら魔力弾の雨の中を突き進み、1人…また1人と手刀や蹴りの一撃で屠っていく。
30人以上いた違法魔導師達で今この場に立っているのは5人だけ。
その内転移魔法を使える4人が足元に魔法陣を展開し転移で逃げようとするが
「フハハハハ。帝王を前にして逃げられると思っているのか?」
サウザーは転移魔法を展開し始める違法魔導師に狙いを定める。
「食らえい!!極星十字衝破風!!」
手刀から放たれる十字の衝撃波が4人の違法魔導師を襲う。
「「「「ぴぎょへっ!!」」」」
瞬く間に悲鳴を上げて地に伏した4人。
「ひ…ひいいぃっっ!!!」
そして違法魔導師は最後の1人になる。
「貴様で終わりか。この俺の拳で屠られる事を光栄に思うがいい」
「た…たた……助けて!!助けて下さい!!」
最早目の前の男からは逃げられない事を悟った違法魔導師はその場で膝を地に着け土下座をして命乞いをする。
「お…俺に出来る事は何でもする!!『自首しろ』というなら素直に従う!!だからい、命だけは……」
(サウザー本人は不本意だが)非殺傷設定で攻撃しているので別に誰も死んでいる訳ではない。
だがそんな事を気にする程違法魔導師は精神に余裕が無い。もうこの場から無事に出られる様、必死に命乞いをする事しか出来ない程追い詰められているのだ。
そんな違法魔導師に近付くサウザーは地に頭を擦りつけている違法魔導師の前に立ち
「ぬん!」
グシャッ!
「ぼげばっ!?」
後頭部を強く踏みつける。
「だ…だんで?」(な…なんで?)
「フハハハハ。降伏だと?この聖帝サウザーに逆らった者、牙を向いた者には降伏すら許さん!!」
「ぞ…ぞんだばぁっ!?」(そ…そんなあぁっ!?)
より強く踏まれ、地面に顔がめり込んだところで違法魔導師は意識を手放した。
こうしてたった1体のユニゾンデバイスの手により、違法魔導師の集団は全滅し、事件は解決される事となった………。
~~第三者視点終了~~
「…以上が先日起きた事件の顛末だ」
「「「「「「「「「「……………………」」」」」」」」」」
数日後、俺はアースラの食堂にて集まっていた魔導師組の面々に先日起きた事件の詳細について話していた。
いきなり上から違法魔導師が降って来た時はマジ驚いた。
すぐさま浮遊魔法と衝撃緩和魔法で受け止めたから地面に叩きつけられる事は無かったけど。
違法魔導師達は全員、かつて撃墜事故を起こしたなのはの時と同様かそれ以上にリンカーコアを完全破損していた。
どうやら原作で『外部から突き入れ全てを破壊する』事を真髄としている南斗聖拳の一派は非殺傷にしている限り、魔導師のリンカーコアを容易く破壊出来る様だ。
しかしサウザーの南斗鳳凰拳でやられた違法魔導師達はそれだけでは収まらず、何らかの障害、後遺症を患ってしまっていた。ある者は一生車椅子生活を余儀なくされたり、またある者は左半身の感覚が無くなっていたりと症状は様々だが。
この事について神様に聞いてみた所、神様曰くでは『『非殺傷』という許容を超えた分のオーバーキルダメージのせいで後遺症が出たんだろう』との事。
最早、魔導師としてどころか五体満足で生活出来ないのだ。俺が
南斗鳳凰拳、マジパねえ…。
全員は何とも言えない顔で事件解決に貢献した…というよりも一方的な暴力を振るい、自首すら許す事の無かったユニゾンデバイス…食堂に玉座を持ち込んで設置し、偉そうに座りながら食事を摂っている
当の本人は
「……口に合わんな」
ドガッ……ガシャーーン!!
「「「「「「「「「「っ!!?」」」」」」」」」」(ビクウッ!)
テーブルを蹴り飛ばす。
蹴り飛ばされたテーブルの上に乗っていた料理の数々はフロアに落ち、皿は全て割れる。
そしてなのは達はビクッと身体を震わせ、今度は視線を俺の方に向けてくる。
「ていうかその料理、私が勇紀君に味を見て貰おうと思って作ったのに!!」
エイミィさんが大声で叫ぶ。
「こんな物をお師さんに食わせるだと?」
ギロリッ
「ひうっ!?」(ビクウッ!!)
「女…貴様は余程俺の手に掛かって殺されたいと見える」
「あわわわわ……」(ガタガタガタ…)
「止めんかいっ!!」(スパーン!!)
ガチ泣き寸前で震えているエイミィさん。
俺は容赦なくサウザーの頭を宝物庫から取り出したハリセンで叩く。
ホント…誰かこのユニゾンデバイス貰ってくれないかなぁ?
頭痛の種が増え、今後の苦労が確実に半端無くなると嫌でも理解せざるを得なくなってしまった俺だった………。
~~あとがき~~
…まあ『リリカルなのは』の世界ですし、殺傷設定で殺っちゃうと勇紀が立場的に悪くなるので今回の話は非殺傷設定で済ませました。
いつか殺傷設定で悪人を『あべし!!』出来る日は来るのだろうか?
Tweet |
|
|
32
|
11
|
追加するフォルダを選択
神様の手違いで死んでしまい、リリカルなのはの世界に転生した主人公。原作介入をする気は無く、平穏な毎日を過ごしていたがある日、家の前で倒れているマテリアル&ユーリを発見する。彼女達を助けた主人公は家族として四人を迎え入れ一緒に過ごすようになった。それから一年以上が過ぎ小学五年生になった主人公。マテリアル&ユーリも学校に通い始め「これからも家族全員で平和に過ごせますように」と願っていた矢先に原作キャラ達と関わり始め、主人公も望まないのに原作に関わっていく…。