第三章
吸血鬼ウルの目指すもの
シャルルと山城は気を失っているクレハとウルという吸血鬼がかけた暗示によって意識を失っているゼドリックを運び、村長の家へと向かった。
「一ついいかしら」
シャルルは自分たちの後方からついてきているウルに向けて尋ねた。
「どうぞ」
「さっきから気になっていたのだけど・・・今日はこの闇を明るく照らしてくれる月が昇っていない・・・というか何か強力な力によって月が隠されたのかもしれない…その犯人はあなたかしら?」
シャルルは満月の日だというのに月が出ていないことに不自然に思えた。もしウルが隠していたとしたら、やめさせるように言うつもりだったが・・・
「残念だけど僕じゃない」
「そう」
「そもそも僕の身内にはね月が消えると困る奴がいるんだ。そんなことしたら泣いて癇癪(かんしゃく)を起して暴れて、僕の屋敷を破壊するかもしれない。そんなことになったら僕が困る。だから僕はそんなバカなことはしない」
山城はウルの言葉に反応した。
「まさか・・・フリエールと一緒に住んでいるのか?」
「フリエール?」
シャルルは初めて聞く名前を聞いたので話についていけない。
「ええ、山城君。フリエールは僕の大事な友人だ。彼女の故郷を滅ぼした『聖天使騎士団』が彼女を殺しに来るのを防ぐために僕が彼女の身元引受人になった。今は僕の執事の手伝いをしていると思うよ」
「なっ、聖天使騎士団だと・・・」
「うん。僕たち闇に生きる全ての生き物を地上…いいや、世界から消し去るために結成された騎士団だ」
「…」
山城は黙ってしまった。シャルルはいつもと様子が違う山城を心配して一声かけた。
「大丈夫、山城?」
「…」
だが返事を返さなかった。そこでシャルルはウルに尋ねる。
「ウル、聖天使騎士団って何」
「ふふ、その好奇心は山城君譲りかな。聖天使騎士団は初めて結成されたときは僕の父伯爵を討伐するのが目的とされたのだ。しかし、父がこの世から消えた後は他の目的が出来たのさ」
「それが魔を滅ぼすこと・・・」
「そう、正解だよ。彼らが活発に動けば動くほど魔はこの世から確実に消されていく」
「あなたは良くやられなかったわね」
「一応伯爵の血が流れているしね。それに、昔からの知り合いと、僕の友人たちが力を合わせて彼らの目を欺いていたからね」
山城はウルに聞いた。
「ウル、お前は…私を憎んでいるか?」
「え?」
シャルルは山城の疑問が理解できずについ声を発してしまった。
「…ふふふ、正直なことを言うと、憎いね。僕の仲間や友達、そして・・」
ウルは言葉を最後まで言い切らずに山城の喉元に、鋭利な爪を刺す寸前で止めていた。
「山城!!」
シャルルはウルの思いがけない行動のため出遅れた。
「君たちが正義を掲げて僕を傷つけるのは構わない。僕たち一族は君たち人間に散々酷いことをしてきたのは知っているし、そのようなことが起きないために僕が居なくなった伯爵の後をついで他の吸血鬼たちが人間を襲わせないように配慮している。だが他の闇に生きている者たちまで巻き込んで良いということではないだろうが。フリエールの…両親や他の仲間たちを駆逐しやがって」
ウルの目に涙がたまっているのを見たシャルルはサクリファイスを抜く事が出来なかった。
「あいつな、毎晩泣いているんだよ。あの年で両親を亡くし、友も知り合いも一族のみんながいなくなったらそりゃ泣くさ。殺した奴らが憎くて憎くて頭がおかしくなるくらい相手を憎んだ…その結果・・・あいつの精神は一度崩壊してしまった・・・」
山城とシャルルは黙ってウルの言葉を聞いた。ウルは山本の喉元から手を引き背を向けた。
「だけど、あいつは自分で立ち直った。その時僕は仲間を集結して聖天使騎士団・・・人間への攻撃を仕掛けるところだったんだ。そして指揮官の僕に言ったんだ『ウル・・どうか聖天使騎士団への攻撃を止めて・・・彼らにだって家族はいるし、こんな悲しい思いをするのは私だけで良いから』と僕に泣きながら言ってきたんだ。・・・」
ウルは背を向けたまま大きな声をだして言った。
「だから、僕は君たち人間への攻撃を止めてこうして君たちを助けに来たんだ!!」
山城はウルに向かって頭を深く下げた。
「すまんウル。そうなってしまったのは私の教えが間違っていたからだ。本当にすまん」
「えっ?」
いきなり吸血鬼に頭を下げた山城を見て困惑するシャルル、一方その姿を見たウルは山城の肩に手を乗せこう言った。
「頭を下げるのは止めてくれ気色が悪い。それに、君たちのためではない。フリエールのためだ。だから謝る必要はない」
ウルはそれだけを言って話すのを止めた。
頭を下げていた山城はクレハとセドリックの二人を抱えもち歩き始めた。
村長の家に続く道中では会話は無かった。
ウルから言い告げられた事実が衝撃的だった事もさることながら、あの残忍でプライドの高い吸血鬼が人前で涙を流した事実の方が衝撃は上だった。
シャルルはウルが言った聖天使騎士団のことが気になった。
聖天使騎士団という団体がいたこと事態初耳だからだ。
そして、山城が頭を下げて詫びを言ったことも驚きだ。
(いったい、私の知らないところで何が起きようとしているのよ・・・)
唯一分かっていることは山城やウルは隠し事をしていることだ。
そして自分だけがのけ者になっているという事実だけだ。
そうこうしているうちに、村の入り口が見えた。今日シャルルは色々なことを経験した。
新しい経験を積むことで人は成長する事が出来る。
この言葉はシャルルが剣士として修行していた時、ちょうど師匠である山城が読んでいた本に載っていた言葉だ。
(…私は成長しているのかしら・・・ウルと今日初めて会ったとき、私は彼の気迫に負けていた。そして先ほど、山城の喉元を握りしめた時私は剣を抜けなかった。涙を見た瞬間剣を抜けなかった。このままで、本当に村の事件解決や、今後警護団としてやっていけるのかどうか・・)
そう考え込んでいた時、ウルは私の手を強く握ってきて後ろに飛んだ。それと同時にものすごい衝撃が周囲に響いた。
「な・・何が起きたのよ」
シャルルは衝撃時に発生した砂煙によって視界が利かなくなっていた。
「けほっ、けほっ。砂が口の中に入った」
などと言っているシャルルにウルは助言した。
「シャルルさん、今すぐにサクリファイスを鞘から出してください」
シャルルは言われるままにサクリファイスを鞘から抜いた。
ウルもまた羽織っていた黒いマントを脱ぎ棄てた。
「視界に気を取られないようにしてください。敵さんが僕たちを殲滅しに来たらしいですよ」
ウルが言い終わると同時にウルのいた方に何者かが急接近したことを感覚を研ぎ澄ませていたシャルルは瞬時に感知した。
そして、自分の方にも何かが来ていることも感知したのでその物体の方にサクリファイスを横に振り峰打ちを狙う。それが何かに当たったらしくその物体は跳ね飛ばされた。
「くそ、なんて力だ・・・」
聞いたことのない男の声だったのでシャルルは山賊にでも襲われたのかと思った。
「ウル、大丈夫?」
しかし、返事はなかったが、周辺に突風が吹き荒れた。砂煙はあっという間に拭き去った。
「やっと視界が回復…なによ、この穴は」
シャルルは目を疑った。
先程までに三人で歩いていた場所にピンポイントに開けられている穴があった。
(もしウルが私の手を握り後方に下がらなかったら体を何か[鋭利な物?]に貫かれていた)そうシャルルは考えぞったした。
「はっ!!そういえば、山城とウルは」
シャルルはあたりを見渡そうとして後ろを振り返るとウルが何かと戦っている。
「ははは、君には恨みは無いが死んでもらうよ、吸血鬼少年」
ウルとたいじしている者がそのようなことを言っている。
頭に三日月の飾りをつけた帽子を被っていて、灰色のマントを纏っている。
これだけだと人間と同じように思えるが、違うものを今からあげていく。
まず耳がエルフのように長く背にはカラスのような漆黒の翼が生えていた。
腰辺りには地上に無い形のものを備えていた。
ウルは相手を凝視していて、一言発する。
「悪いね、ここで死ぬ予定はないよ」
するとウルはものすごい速さで相手の懐に潜り込んだ。
「悪いな、一撃で終わらせる」
そういうと片手をお調子者の溝内に渾身の一撃をおみまいした。
シャルルは「やったか?」と声を発してしまった。
「ちっ!!」
だがウルは舌打ちをした。
何と灰色マントはウルの一撃を片手で防いでいた。
「ざんね~~ん。その程度では僕に勝てませ~~~ん」
すると今度は灰色マントは両手を上空に掲げた。
「今から地上では見られない手品をご覧に入れましょうお立合い」
すると掲げた両手が紫色に変色した。
シャルルは灰色マントが何をしているのか分からずにいた。
ウルは灰色マントが何をしようとしているのか初めは分からなかったが、記憶の奥底に埋まっていた知識から相手が次に何をしようとしたのか理解する事が出来たが少し遅かった。
『出でよ、次元氷龍・・・フロストドラゴン』
そう灰色のマントが言い終えると上空に亀裂が生じた。そこから強力な魔力が流れてきた。
シャルルは「今すぐにここから逃げ出さないと」と頭では理解しているのだが体が動かない。
その亀裂の向こうに赤い眼球がこちらを睨みつけてきているからだ。
『さあ、フロストドラゴン、僕の上司に怒られないうちにここにいる吸血鬼と騎士の御嬢さんを喰らえ』
それに反応するかのように切れ目の中にいるフロストドラゴンは咆哮を放った。
[ガァァァ―――!!]
ものすごい衝撃で切れ目がガラスのように砕けフロストドラゴンの全長が明らかになった。
体には氷が針山みたいに無数にあり、口はワニ以上の牙が生えている。
尻尾は先が氷の鉄球みたいな形になっていて、あれで叩かれたらひとたまりもないだろう。
その巨体を支える足がシャルル目がけて迫ってきている。
「シャルルさん逃げて」
ウルが逃げるように言ったがシャルルはフロストドラゴンの気迫に負け足が震えている。
頭では動け、動けと念を込めているのに、足は一歩も動かない。
ズーーン
辺りに音が鳴り響く。
それと同時に強風が吹いた。
フロストドラゴンが地面を踏んだだけなのに地震のように地面が揺れ、強風が吹いた。
シャルルがいた部分はフロストドラゴンの足の形になっている。
灰色マントはフロストドラゴンの体に飛び乗って、高笑いをしている。
「ははは、あっけない。あれで、警護団の隊長だって、笑わせる」
ウルは俯いたままシャルルがいた所を凝視している。
「おや、フロストドラゴンの残虐な攻撃にビビってしまったのかな?安心してくれ、一撃で仕留めてやるからさ」
[ガ―――――――ア]
フロストドラゴンはシャルルと同様の攻撃をウルにした。
「ははは、これで心置きなく、地上の人間から血を採取する事が出来る。さすがは僕、これなら近いうち上層部に昇進するかもね。はははははは~~~~っ」
灰色マントは勝利を確信したかのように先ほど以上の高笑いをした。
しかし、フロストドラゴンは灰色マントとは違い森の方に向きを変え、口を大きく開けた。
灰色マントは勝手に動くフロストドラゴンを止めようとした。
「何しているフロストドラゴン。勝手なことはするな」
だが、聞く耳を持たずに口の中央部分に魔方陣を展開させた。
「おいフロストドラゴン、任務は完遂した。今からサイハテ村の住人全員の血液を頂きに行かなくてはいけないのだぞ」
だが口を開いたまま魔方陣の最終準備が終わったらしく、魔方陣が神々しく輝いたと同時に高エネルギーの冷凍ビームを森に放出した。
「くっ」
灰色マントはものすごい光に耐えられず目を塞いでしまった。
光が収まり目を開くと、先ほどまであった樹木が一瞬にしてかちこちになっている。
ほんの力を加えるだけで粉々になり跡形も残さない。それがフロストドラゴンの技の一つだ。
「フロストドラゴン、何故僕の言うことを聞かない」
しかし、黙り込んだまま周囲を見渡していたが、なにもいないと判断したフロストドラゴンは自分で空間に穴をあけて帰って行った。
「くそ、全然なつかない・・・やはり僕には力がないのか・・・」
などと落ち込んでいた灰色マント。
その時、アラームが鳴りだした。
灰色のマントは小型の通信機を取り出し何者かと話し始め、血相を変えて急いで、懐から駒のようなものを取り出し手の上でまわし始めると空に放り出す。
すると駒は円を描くようにして回る。
それが五回繰り返していたら、空に綺麗な穴が開いた。
すると、何やら植物の根っこのようなものがたくさん落ちてきた。
「…僕としたことが少し遊びすぎたな。まったく、良い時に連絡をくれるよ、あの子は・・・さてと、博士と上司に叱られるのは嫌だから早く仕事を終わらせるか・・・この品種改良した『吸血草』でね」
第三章完
吸血鬼ウルの目指すもの
次回 月の使者による吸血作業
「地上の者すべてミイラにしてくれる」
前回のあらすじ作者が読者に挨拶を述べていた時に謎の女性が姿を現した。
サ「ですあら、あなたが今ここに出てくるとストーリーの設定がおかしくなるから出てこないでほし・・・」
すると女性は傘の先端をこちらに向けてきた。
???「あなたごときが私の出番を決められると思っているの、このノロマ。貴方が早くストーリを進めればいいだけでしょうが」
サ「だけどですね???さん。あなたは今後重要なキャラになるので今は抑えて欲しいのです」
すると、女性の持っていた傘の先端が光りはじめた。
???「ここで粉々に吹き飛ばしてもいいのよ」
女性は優しく笑顔を向けているがそこには殺意が込められている。
サ「いやいや、落ち着いてください。じゃあ、あなたが出てこれるようにストーリの視点を増やしますからそれで勘弁してください」
???「視点?それで私が暴れられるのならいいわよ」
サ「はい。それはもちろん」
???「わかったわよ。今日は帰るわよ。でも、もしさっきの話が嘘だったら、あなたの存在を消してあげる。そしてこれを読んだ読者の皆さんには証人になってもらうわよ」
サ「な・・・なにを勝手なことを」
???「あら、私に意見するのかしら」
サ「いいえ、すみませんでした」
???「ふふふ、それでいいわ」
女性は作者の安息の地である個室から出て行こうとしたが、何かを忘れたらしく戻ってきた。
サ「ど・・・どうしました?」
???「私の名前を知らなければ読者のみなさんが困ると思ったから、名乗っておこうと思ったの」
サ「それもそうですね。どうぞ、名乗って下さい」
???「私の名前はサーシャ。みなさんよろしくね」
サ「以上、作者のサブノックとサーシャさんでした。次回には誰もこれないように、別次元から挨拶したいと思います。それでは次回作もよろしくお願いします」
サーシャ「まあ、貴方が隠れた場所に魔法をぶち込まれないようにせいぜい強力な結界でも張ることだね」
サーシャは満足そうに帰って行った。
先程の殺意が嘘のようだ。
サ「あの人を怒らせてはいけない・・・」
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なんだかんだで、第三章
吸血鬼ウルがなぜ犯人捜しを手伝うのかが明らかになる。
新たな敵が出現!!