No.577612

【小説】しあわせの魔法使いシイナ 『ユニコーンに乗って』

YO2さん

普通の女の子・綾と、魔法使いの女の子・シイナは仲良し同士。
何事もマイペースなシイナを心配して、綾はいつもやきもき。
でも、シイナは綾に笑顔をくれる素敵な魔法使いなんです。

今回は綾とシイナが、ユニコーンに出会います。

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2013-05-18 20:32:27 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:460   閲覧ユーザー数:458

 

綾の住む「央野区」は、普通の街と少し違っています。

 

街の中央には「魔法学園」があり、街には魔法使いが住んでいます。

綾の家にホームステイしているシイナも、そんな魔法使いの一人です。

 

土曜日の昼下がり。

綾とシイナは、『妖精の丘』を散歩しています。

妖精の丘は、央野区の中でも不思議なことがたくさん起こる場所です。

 

「今日は天気がよくて気持ちがいいね、綾ちゃん」

シイナが綾に言いました。

 

「そうね、絶好の散歩日和だわ」

綾が言いました。

 

爽やかな風に誘われるように、二人はいつもと違う散歩コースを歩いて行きました。

 

坂になっている丘陵を登ると、草原が広がっています。

 

「おや?」

シイナが何かに気づきました。

 

草原のずっと向こう、はるかかなたに、小さな白い点が見えます。

 

「何かしら」

綾も気がついて見つめます。

 

白い点はみるみる大きくなってゆきます。

 

「あれは、馬だわ。 白い馬よ。 こっちへ来るわ」

綾は白い点の正体がわかりました。

 

白い馬は、はるかかなたからぐんぐんと二人に近づいてきます。

 

じっと見つめているうちに綾は、その馬の白い毛並みが、輝くように美しく、体つきもとても立派なことに気がつきました。

 

近くまできた白馬の姿を見て一番驚いたのは、白馬の額に一本の白い角が生えていたことでした。

 

「綾ちゃん、ユニコーンだ」

シイナが綾にそっとささやきました。

 

ユニコーンは一角獣とも呼ばれる、額から角を生やした不思議な馬のことです。

 

ユニコーンは綾の側まで来ると、甘えるように鼻先をすりすりと擦りつけました。

 

綾はどうしていいかとまどいましたが、ユニコーンの金色のたてがみをそっと撫でてあげました。

 

ユニコーンは嬉しそうにブルルと鼻を鳴らしました。

 

「綾ちゃんになついてるみたいだね」

シイナが言いました。

 

綾はそもそも本物の馬を見るのが初めてでしたので、ユニコーンが自分になついているのかどうかよくわかりませんでしたが、言われてみるとそんな気がしました。

 

「ユニコーンは、清らかなけがれなき乙女にだけ心を許すんだって。綾ちゃんはユニコーンに気に入られたんだね」

シイナが言いました。

 

綾は、自分が「清らかなけがれなき乙女」だなんて言われて、なんだか照れくさいような、恥ずかしいような気持ちになりました。

 

ユニコーンが、すっと身をかがめました。

つぶらな瞳で綾を見つめます。

 

「背中に乗っていい、って言ってるんじゃない?」

シイナが言いました。

 

「そうなのかしら?」

綾はユニコーンの背中にさわってみました。

 

ユニコーンはいやがる様子もなく、背中を傾けて、綾を見つめます。

綾に乗ってほしいとうながしているようです。

 

「乗っていいのかしら」

綾が言いました。

 

「乗ってみなよ!」

シイナが言いました。

 

綾はユニコーンがいやがったらすぐにやめられるように、おそるおそるユニコーンの背中に乗ってみました。

 

綾が背に乗ると、ユニコーンは嬉しそうにブルル、と鼻を鳴らしました。

そして、シイナの方を見てまた背中を傾けました。

 

「私も乗っていいの!?」

シイナが言いました。

 

ユニコーンは返事をするようにブルル、と鼻を鳴らしました。

 

シイナも背中に乗ると、ユニコーンはすっと立ち上がり、

「ヒヒィィーーーン」

と一声、大きくいななきました。

 

ユニコーンは、草原を駆け出しました。

 

「ひゃっ」「わっ」

綾とシイナが驚きます。

 

力強くひづめの音を鳴らして、ユニコーンは草原を駆け抜けます。

 

ユニコーンの背の上は思った以上に高かったので、綾とシイナは最初は少し怖く感じましたが、風を切って進む感覚が肌に心地よくて、だんだん楽しくなってきました。

 

「気持ちいいね、綾ちゃん!」

「そうね、すごく楽しいわ」

綾はユニコーンの首につかまり、シイナは綾の腰につかまって、ユニコーンの背の上で揺られながら、草原を進んでいきます。

 

二人はぐんぐん後ろに流れていく風景を見て楽しみます。

 

しばらくの間、そうやって草原を進んでいました。

 

気がつくと、綾とシイナは、今まで来たことのない場所に着いていました。

 

あたりは一面、見たこともないような美しい花が色とりどりに咲き乱れています。

 

遠くには大きくて深い森があります。

 

花々の間を、羽根を持った小さな妖精たちが飛び交っています。

 

「ここは、妖精の里だ!」

シイナが言いました。

 

「妖精の里?」

綾が聞きました。

 

「妖精の丘の中でも、本物の妖精がたくさん住んでる、一番不思議な場所の一つだよ!」

シイナが言いました。

 

「妖精の里…」

綾はまわりを見回しました。

 

キラキラと羽根を七色に輝かせながら、妖精が飛び交う花畑。

見ていると吸い込まれてしまいそうな、幻想的な光景です。

 

綾とシイナは妖精の里の美しさに見入っていました。

 

ユニコーンは、二人のそばで気持ちよさそうに風に吹かれています。

 

いつの間にか、綾とシイナの近くにはたくさんのユニコーンが集まってきました。

 

「このユニコーンの友達かな?」

シイナが言いました。

 

「あっ、そういえば、これ、食べるかしら」

綾は、ポケットに何枚かクッキーが入っているのを思い出しました。

 

クッキーを取り出すと、ユニコーンたちは綾の手に群がってクッキーを食べました。

 

ユニコーンたちは満足そうにいななきました。

 

気がつくと、綾とシイナの後ろから白馬が近づいてきていました。

 

後ろを振り向いた二人が見たのは、背中から真っ白な翼を生やした白馬でした。

 

『ペガサスだわ』

綾はそう思いました。

 

ペガサスは、天馬ともいう、背中に翼を生やした不思議な馬のことです。

 

ペガサスは、綾の側に近づいて、鼻をすり寄せてきました。

 

「ペガサスも綾ちゃんのことが好きみたい」

シイナが言いました。

 

ペガサスは、体をかがめて、綾たちの方を見つめました。

 

「乗っていいって言ってるよ、綾ちゃん」

シイナが言いました。

 

綾はそっと、ペガサスの背中に乗りました。

 

ペガサスはあごをくいっ、と動かして、シイナをうながしました。

 

「私も乗せてくれるの? ありがとう!」

シイナもペガサスの背中に乗りました。

 

ペガサスは、すっと立ち上がると、ゆっくり歩き始めました。

 

ひづめを鳴らしながら、ペガサスの体が揺れます。

 

だんだん走るスピードが速くなります。

 

草原を蹴って、力強くペガサスが走ります。

 

ひづめが地面から離れ、ペガサスの体が大空へ舞い上がります。

 

翼を大きく羽ばたかせ、風を切り裂いて、ペガサスは飛び回ります。

 

「わあ、すごい!」

空の上から、花畑の全体が見渡せます。

綾とシイナは喜んで歓声を上げます。

 

ペガサスは、大空を滑るように飛びます。

 

「とっても気持ちいいわ」

綾が言います。

 

「すごく楽しいね!」

シイナが言います。

 

綾とシイナの髪が風になびきます。

 

そうして、しばらくの間、大空の遊泳を楽しみました。

 

「おや?」

シイナが何かに気付きました。

 

遠くの方から、何か茶色い点がやって来ます。

 

「何だろう、あれ」

シイナが言いました。

 

茶色い点はぐんぐん大きくなって、茶色いかたまりになります。

 

よく見ると、それは大きな鳥でした。

 

鳥はこっちに近づくにつれて、どんどん大きくなります。

 

どんどんどんどん、ぐんぐんぐんぐん大きくなって、鳥はとうとう空を覆い尽くすほどの大きさになりました。

 

鳥の翼は何十メートルもあり、近くにいると翼の影になって、夜になったように暗いです。

 

「ロック鳥だ!」

シイナが言いました。

 

ロック鳥は翼の大きさが六十メートル以上ある巨大な体を持ち、象をエサにすると言われている不思議な鳥です。

 

ロック鳥が羽ばたくとすごい風が起こります。

 

「ひゃあ〜〜」

二人が乗ったペガサスは、ロック鳥が起こした風にあおられて、空中でくるくると回転します。

 

天と地がわからなくなるほど回って、二人と一匹は、気が付いたら花畑の上に投げ出されていました。

 

ロック鳥は、台風のような風を巻き起こして、行ってしまいました。

 

花びらまみれになった綾とシイナは、その姿をぽかんと見つめていました。

 

「わー、すごかったねえ」

シイナが言いました。

 

「うん。 でも、何だか楽しかったわ」

綾が言いました。

 

「そうだね!」

シイナが笑って言いました。

 

それから、綾とシイナは、ユニコーンやペガサスと一緒に、妖精の里を散歩して歩きました。

 

夕方になると、ユニコーンは二人を乗せて、もと来た場所まで送ってくれました。

 

別れぎわに、ユニコーンは口に咥えていた妖精の里の花を一輪、綾にくれました。

 

見る角度によって虹色に輝きを変える、とてもきれいな花でした。

 

「ありがとう。 さよなら、ユニコーン!」

綾はユニコーンにそう言って手を振りました。

 

綾はシイナと家に帰ると、その花を花瓶に差して飾っておきました。

 

二人はその花を見るたび、ユニコーンやペガサスや妖精の里のことを思い出して、幸せな気分になるのでした。

 

―END―

 


 
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