EP15 事件発生
雫Side
私、朝霧雫は現在、少々厄介な事に巻き込まれています。
今日から通うことになった高校の入学式を終え、親友の井藤奏の2人で帰宅の路に着こうとしたところ、
4人の男子生徒からしつこいナンパを受けてしまいました。
「朝霧さん、井藤さん。良かったら俺達とお茶していこうよ」
「僕達が奢るからさ」
この学校は少しばかり偏差値が高いのですが、頭が良くてもこういう方々はいるのですね。
入学したてと思われる真新しいブレザーの制服、私達の名字を知っているところを見ると同じ新入生のようです。
「遠慮するわ。あたしも雫も忙しいの、余計なことはしないでくれるかしら?」
「余計なことって……一回だけでいいから、ね?」
奏が厳しい口調で断りの言葉を放つけれど、それを苦笑して受け流すので性質が悪い。
同じ人数の2人であればなんとか振り払えるのですが、さすがに相手が4人では押し負けそうになる。
そんな時でした…トゲトゲとした黒髪を持った1人の男子生徒が私と奏を庇うかのように前に立ちました。
「はいはい、そこら辺で終わりにしとけよ……
軽めの口調とは裏腹に、一瞬だけ……殺気というものを始めて、本当に感じ取った気がしました。
私の家は大きな会社を経営しているので私自身にも女性と男性のSPが付いたことはあります。
ですが、これほど警戒心を高められるものは今まで感じたことがありません。
「な、なんだよ、お前…!」
「ん、見て分かるだろ? 同じ新入生だよ……ま、ただのお節介とも言えるけど」
飄々としつつ余裕を見せる態度、軽い口調とは裏腹に少しばかり含まれる真剣味のある声、
果たして同じ年の男の子にこんな雰囲気を醸し出す事が可能なのかと思いました。
正直、SPの方々よりも恐ろしい殺気を感じ取りましたから…。
「興味本位とか下心で彼女達、いや……正確には朝霧さんには手を出さない方がいいぜ。家族のことが惜しかったら、特にな…」
「「っ!?」」
この人は、間違いなく私の家の事を知っている……奏もそれに気付いたのか警戒している。
「お、脅しか、そんなもんに…」
「お生憎と脅しじゃないさ。
お前らだって朝霧財閥の御令嬢に手を出して、何もかも潰されました……なぁんてことにはなりたくないだろ?」
「「「「!?」」」」
そう言われた4人の男子は初めて私が朝霧財閥の娘であることを知ったようで、顔を青くさせている。
やっぱり、彼は私の事に気が付いていたのですね…。
「学校の外に警護らしき奴が何人かいる、それ考えたらお前らもどうした方がいいかくらいは分かるだろ?」
「「「「……す、すいませんでした…」」」」
「い、いえ…」
「もういいわよ…」
彼の言葉に4人は私達に謝罪し、私はさすがに気まずくなったので短く返し、奏も一言放っただけでした。
「じゃ、これで解決だな! ほら、教師が来る前に帰った方がいいぞ」
「お、おう……その、悪かった…」
彼の促しに1の男子生徒が応え、4人はそそくさと校門から出ていきました。
直後、先生がやってきたのですが彼が状況を説明し、事なきを得たことを伝えると先生も安心したようでした。
少し集まっていたギャラリーの生徒達を帰らせると先生は戻っていきました。
「あの、ありがとうございました」
「ああ、いいよいいよ。面倒事の解決は慣れてるから」
巻き込まれるのも慣れてるけど、と笑いながらさらに紡いで言った彼。
どこか人懐っこいその表情は警戒しかなかった私の心を温かくしてくれました。
「それじゃ、俺も帰るわ。またな」
踵を返して右手を挙げた彼は校門から去っていきました。
「彼は一体、誰なのでしょうか?」
「名前、聞いてなかったわよね…」
そういえばそうでした……名前を聞いて、改めてお礼を言いましょうか。
昨日の一悶着から一夜明けた翌日。
昨日の彼にお礼を言う為に奏と一緒に早めに登校して校門の前で待っていると、偶然にも彼がやってきました。
私達は彼の前に歩みでて言葉を掛ける。
「おはようございます。改めまして、昨日はありがとうございました」
「あたしからも、ありがとう」
「え、あぁ…おう」
少し戸惑った様子でしたけど、すぐに笑顔を見せてくれましたので問題無いようです。
「お名前を、お聞きしてもいいですか?」
「あ、そっか、名乗ってなかったっけ? 俺は未縞公輝だ」
これが私、朝霧雫と未縞公輝君との出会いです。
雫Side Out
公輝Side
朝霧と井藤(呼び捨てで構わないとのこと)の2人はクラスが別だが、他の女子生徒の中では一番仲が良いといえる。
それでも基本は同じクラスの男子と過ごすし、部活には入らないで家に帰れば鍛練や和人達と簡単な組手を行う。
そんな日常が続いていた……しかしあの日、事件が起きた…。
5月の末頃。それは偶然、本当に偶然の出来事だったのだろう。
いつも通り学校が終わり、趣味の菓子作りの為に材料の買い出しに行った時のことだ……俺はそれを目撃してしまった。
―――……!………っ!?
―――……!!
朝霧と井藤が6人の男によって黒塗りの大型車に乗せられている姿を。
最初は彼女のSPかと思ったが、あの剣呑な雰囲気は違うものだ。
しかも距離があるうえに彼女達は車に乗せられてしまった後なので追いつく術はない。
「それなら…!」
すぐさま携帯端末を取り出して車を撮影し、ナンバープレートと車の細かな詳細を記録する。
それから警察に連絡し、メールを送りつける……問題はこれを唯の悪戯と思われるかもしれないってことだな。
これで警察が動かなかった時のことを考えると、かなり不味いよな。
「仕方が無い、
俺は端末を操作して、仲間の1人にメールを送った。
30秒が経過して連絡が入った、和人である。
「もしもし、和人か?」
『ああ、状況は大体理解した。車の現在地の特定と行先の予測、警察が信用するかは不明だが情報の提供、
念のため師匠にも連絡して警察に信用させてもらおうか。
監視カメラにハッキングして車を見つけてナビゲートするから、指示通りにルートを辿ってくれ』
「よし、頼む!」
俺は耳に端末を当てたまま走り抜けた。
『さぁて、狩りの始まりだ…(黒笑)』
和人がそんなことを言ったが何もツッコまない……だって怖ぇもん…。
和人のナビゲートに従って辿り着いたのは寂びれた工場、如何にも誘拐で隠れそうな場所だな。
しかも他のメンバーと合流したのか10人になってるし。
一応警察は向かっているとのことだが、果たして間に合うか否か……というわけだから突撃するか。
―――ドガァァァンッ!
「「「「「「「「「「っ!?」」」」」」」」」」
「おっじゃましま~す」
挨拶って大事だよな(黒笑)
公輝Side Out
雫Side
本当に突然のことでした、いきなり黒スーツに身を包んだ男性達に囲まれたかと思えば、
そのまま車に乗せられてこのような場所に連れられるだなんて…。
そのうえ、奏まで巻き込んでしまって…。
前にも誘拐はありました……正確には未遂で終わりましたが、今回は訳が違います。
みたところいますぐ私達をどうにかするつもりはないようですが何処かに連絡を入れているようです、身代金の要求でしょうか…?
とにかく、早くなんとかしてここから逃げ出さないと……そう思った、その時でした。
―――ドガァァァンッ!
たった1枚、されど鉄製のドアが吹き飛んで男達の前に落ちました。
呆然と驚くしかない、こんな事を人が出来るのでしょうか?
そしてそれをやってのけたのは、彼でした…。
「おっじゃましま~す」
軽快な口調と足取りで中へと入ってきた1人の少年、未縞公輝君。
何故、どうして、彼がここにいて、なんで姿を現したのか?
疑問ばかりが出てきて、だから早く逃げてほしいと心の中で叫びたくなる……なのに、
あの時のように「助けて」と、私の本心が叫ぼうとする。
けれどそんな私と隣で同じく動揺している奏を無視してことは進んでいく。
「誘拐するんならもうちょっとバレないようにしろよな。写メ取ってハッキングしたらあっさりと見つけちまったぞ」
「なっ、バカな…!」
笑いながら述べる彼に対して驚くばかりの男達、ハッキングも立派な犯罪だと思いますが…。
さらに未縞君は歩みを進めてこちらに近づいてくる、男達はナイフを取り出したり、中には拳銃を取り出した人もいます。
「誘拐の現行犯、略取監禁、銃刀法違反……一般人でも現行犯なら逮捕可能だし、
武器も持ってるから多少は本気出しても問題ねぇよな…」
淡々と言葉を放った未縞君はさらに近づいてくる。
彼自身は武器も持っていないのに唯々歩いてくるその姿が不気味に見えたのか…、
「く、くるなっ!」
―――パァンッ!
ついに1人の男が拳銃を発砲しました……しかし弾丸は命中しなかった。
未縞君は無傷のまま近づいてくる、それに恐怖心を駆り立てられたのか男達は全員が一斉に発砲する。
「神霆流歩法術《
しかし彼はその姿を消した…え?
気付けば未縞君は最も近くに居た男の目の前でしゃがみ込んでおり、
立ち上がる勢いで男が手に持っている拳銃を蹴り上げました。
「ぎゃあぁぁぁ!?」
拳銃を蹴り上げられた男は絶叫しました。絶句する私と奏、いまの一瞬で一体何が…。
雫Side Out
To be continued……
後書きです。
ナンパしてきた男子生徒達は脅s・・・ゲフン、説教でお帰りいただきましたw
しかし再び厄介事が発生、しかも誘拐ですよ!
ただ和人さんが相変わらずの
先に言っておきますけど、男子生徒と誘拐犯達が関係無いですからね・・・いや本当に。
まぁ次回は公輝無双があるのでお楽しみに♪
それでは・・・。
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EP15です。
前回の続きで男子生徒達からのナンパの続き、雫視点で始まります。
どうぞ・・・。