ご都合主義というものに心底感謝しながら、俺は今焚火の前に座っている。
焚火を挟んで向かい側にいるのは、ウォーレスという爺さんだ。
爺さんとはいっても、ハゲてヨボヨボな感じの、賢者っぽい爺さんではない。どっちかというと大蒜凝縮とかすっぽん濃縮とか、そんな感じの健康食品の宣伝に出てきそうな、むっきむきで髪もふさふさな爺さんだったりする。
このウォーレス爺さん、なんでも“旅祭”という身分の坊さんらしい。
ともかく、俺がご都合主義の権化とも言うべき、この恩人に出会った経緯と、それに付随するこの世界“イシュ・ハーン”というものについて語るとしようか。
ま、なんだ…。
誰かに語るつもりになって、そういった事柄を俺の中で纏めてる、というのが正しいんだけどな…。
俺が爺さんと出会ったのは、草原を脱出しようと歩き始めて、体感時間で4~5時間も歩いた頃だった。
流石に甘く見ていたつもりはなかったんだが、それでも自分の認識が甘かったと、マジ泣きしそうになりながら必死で歩いていた訳なんだが、マジで洒落になってなかったぜ……。
まず、めっちゃ足の裏が痛い。
痛いなんでもんじゃない。
そもそも、健康サンダルなんて何時間も履いてるように考えて作られていない訳だ。
そして、俺は清く正しい現代の若者である。酒と煙草が大好きなそこらに転がってる青年な訳だ。
……あとは解るな?
俺は今日一日で健康サンダルが大嫌いになったともさ!
それに加えてサンダルというのがこれまた悪かった。
当たり前の事なんだが、サンダルなんか整備された芝生ならともかく生えっぱなしの草原を歩くようになんか出来ていない訳だ。
おかげさまで、足首から先はもうボロボロである。
次に、これが自分でも意外だったんだが、とにかくストレスが溜まる。
そりゃそうだろう。
帽子も傘もない状態で、炎天下という訳ではないが、日陰など一切ないような草原を、獣なんかに怯えながら歩き続ける。
自分では意識してなかったが、これは相当な負担だったようだ。
TVなんかで、肉食獣は草原の中でも木のある所に居を構える、みたいなのをサバンナ特集だかで見てたもんで、休みたくともおっかなくてそういう場所を避けるように歩いていたのも理由のひとつだろうな。
そんな状態なんで歩く事を止める訳にもいかず、最後の方ではなんというか、だらだらとだらしなく背中を曲げて顎を突き出すような、そんな状態で歩いていた訳だ。
ふたつある太陽も片方は沈みかけていて、結構いい感じに危険が増してくるような、そんな状態。
正直、その時の俺は絶望しか感じていなかった。
ぼやきを口にするのも面倒くさい、不安を口にしたらそれが現実になりそうで怖い、本当にそんな感じだった。
そんな時に、俺の向かう先から、人影が歩いてくるのが見えた。
この時の俺の感動は、言葉では言い尽くせない。
敢えて言葉にするならただ一言。
「助かった!」
これに尽きる。
ともかくも、このご都合主義とも言える状況に歓喜した俺は、足の痛みも疲れも忘れ、その人影に向けて走り寄っていったって訳だ。
ただし、これは爺さんに後で聞いた話を絡めて考えると、非常にやばい事だったと思う。
まあ、その辺りの事もおいおい話すとするよ。
「ほう………。此度の“落人”殿は、これまた珍妙な格好じゃのう」
これが疲労と歓喜でヒャッハー状態な俺に向けて放たれた、爺さんからの第一声だった。
しかし、俺から言わせてもらえれば、爺さんの格好の方が余程珍妙と言えた。
後で年齢を聞いて驚いたんだが、爺さんの見た目は俺の主観では50に届くかどうか。髪は白髪なんだが、ふさふさとしてて年齢を感じさせない。身長は170くらいだと思う。
なんというか、香港カンフー映画の旅の拳法家、としか言いようのない茶色でまとめた服装、年季を感じさせる皮製のリュックを背負い、手には1,4mくらいの棒の先に剣先スコップみたいなものがついた、西遊記の沙悟浄が持ってるような感じの武器を持っている。
汗だくで全身で喚起を表現しながら走り寄ってきた人間を前に、慌てるでもなく笑顔でそんな事をいう男に、俺が逆に戸惑ったのも当然だと思う。
そんな俺の戸惑いを察していたのか知っていたのか、爺さんはくるりと踵を返すと、ごく自然に俺についてくるように促した。
「まあ、気持ちは解らんでもないでな。じゃが、時間は有限じゃがそこまで急いてる訳でもなかろうて。まずは儂に付いてくるがよかろう」
その言葉に反論する理由は、当然ながら俺には存在しなかった。
「さて、落ち着いたところでまずは自己紹介からいくとしようかの」
気が急いて色々と話しかけようとする俺を背中で押しとどめていた爺さんが、ようやく俺の方に向き直ったのは、潅木が疎らに生える小川の縁に着いた時だった。
体感時間では10分かそこらだと思う。
ざっと見渡したところ、今までの草原とは違って人の手が入っているような、そんな印象を受ける。
爺さんは背嚢を下ろすと、手際よく川縁に石を組み上げ、背嚢からごろんとした赤い石を取り出すと、組み上げた石の竈の中央に据え付ける。
その上に適当に拾った枯れ草や枝を放り込むと、ばっと火が熾った。
「すげ……。これが魔法ってやつか…」
俺がなにもせずにぼーっとしながらそれらの作業をただ眺めていたところで、爺さんは人好きのする笑顔で、俺に向かってそう話しかけてきたって訳だ。
「あ、ああ……なんかすんませんでした。なんも手伝わなくて…」
そう返事をして手頃な場所に座り込むと、一気に疲労が押し寄せてくる。
俺はたまらず、ポケットボトルを取り出してその中身を一気に呷った訳だが、それを見ていた爺さんは頷きながらこんな事を呟いた。
「ほうほう…。此度の“落人”殿は、どうやら神器持ちのようじゃな」
「神器?」
そう聞き返す俺を表情で押しとどめ、爺さんはのんびりと俺に話しかけてくる。
「それも追々説明してやるで、そう急くでないわ。まずは自己紹介といこうかの。儂はウォーレスと言う、この世界“イシュ・ハーン”の双子の太陽神ミル・ハラム様にお仕えするただの坊主じゃ。お主の名前を聞いてもよいかの?」
「あ…、すんません、失礼しました。俺は渡辺和樹、苗字が渡辺で名前が和樹って言います。なんかこう、色々とてんぱってて、失礼かましたかも知れませんが…」
そう俺は口にしたが、色々と不満やら不安もあったのが顔に出ていたのだろう。爺さんは「うんうん」と頷きながら、まずは黙って聞けと前置きをして、俺に簡単な説明をはじめてくれた。
聞きたい事だらけな俺としては、かなり無理を言われてる感じはしたんだが、ここで見捨てられてはかなわない。不承不承頷いた俺を孫でも見るかのような表情で、爺さんは話しはじめた。
簡潔にして要点を踏まえた説明の内容はこんな感じだった。
まず、俺のような立場の人間を、この世界では“落人”と呼ぶという事。この逆に“昇人”という存在もいるんだそうだが、これは“必ず”海からやってくるのだそうだ。
で、この“落人”にはいくつかの共通項が存在するらしい。詳しい話は端折られたが、この“落人”というものは、爺さん達の認識でいう“落ちてきた”段階では、この世界の異物にあたるらしい。
故に、神様が神託を通して、落人を回収するように伝えてくるのだそうだ。
で、異物であるだけに探すのは非常に簡単なんだそうだ。
その理由は後で語るが、大抵の場合、この“回収”にあたるのは太陽神に仕える坊さんなんだとの事。
それで、俺が動物なんかに遭遇しなかった理由は、まさに“落人”だったかららしい。
異物であるが故に、神託に導かれたもの以外は、俺と接触“できない”らしいのだ。
なるほど、草原を歩いて虫の一匹にも食われていない理由はそういう事なのかと“頭”では納得する俺である。
それで、わざわざ“回収”なんてものを神様がやろうとする理由は、異物のままで居られては世界に悪影響しかないからなんだとか。
爺さんの口調から、この世界は多神教で、実際に神が存在するというか、地球世界とは比較にならないくらい身近に存在しているんだろう、というのは推察できた訳だが。
で、この回収作業になんで太陽神が関わるかというと、どうもこの世界、神様毎に守護したり保護したり贔屓をしたりする種族というのがあるらしく、その意味で完全に中立を保っているのが爺さん言うところの二柱の太陽神なんだそうだ。
まあ、このあたりの事は話すと一晩では終わらないという事で、とりあえず保留してもらった。
爺さんはめっちゃ語りたそうだったんだが、ひとまず勘弁してもらう事にする。
で、ここからが本番だ。
なんで俺がさくっと発見されたかなんだが、この世界というものは“オド”と呼ばれる生命エネルギーが万物を構成してる。まあ、マナとかオウルとか魔力とか魔素とか神気とかエーテルとか、色々言い方はあるんだろうが要はそういう根源物質とでもいうべき要素、これの存在が大前提なのだそうな。
この話を聞いた時に「魔法キター!」とか思った俺を責めないでくれ。
ま、何が言いたいかというと、俺のような“落人”はこの“オド”から“排斥”されている状態にあるのだそうで、見る人間が見れば真白なキャンパスに黒いインクを垂らしたような、そんな状態なので見つけるのは非常に簡単らしい。
この“オド”についても後程詳しく教えると言われ、今のところはそのようなものだと覚えておけ、と言われて非常に不満というかモヤモヤが残るのだが、それは完璧にスルーされた。
はっきりしてるのは、今の俺の状態では魔法を使うどころか、下手をするとそのまま“オド”が尽きて干からびてしまうだろうという事。
そして、慈悲深い太陽神様は、それを防ぐ為に、こうして坊さんを派遣してくれる、という事らしい。
それはどういう事なのか、と聞いたところ、この世界では生誕直後に“必ず”行われる儀式があると言われた。
これは何も難しい事ではなく、一言で言えば“洗礼”の儀式を受ける事だ。
基本的には太陽神の社と大地神の社で“禊”を受ける事で、この世界で生きていくために“オド”を受け入れ扱う能力が得られると言う事らしい。この他に、種族やらに応じた神様の祝福を受ける事で、社会に受け入れられる、そういう話のようだ。
ここで、どうして回収作業に大地神が動かないのかというと、地味にこの神様、好き嫌いは激しいらしい。ただ、生まれた以上は生きる権利くらいは認めてやる、という感じで、基本的な祝福はするんだが、それ以降はお察しください、という神様なんだそうな。
あるぇ~?
普通、神話では地母神とか言うんだから、大地の女神様とかのが慈悲深くて博愛精神に溢れてるんでね?
そう思って聞いてみたところ、なんとこの世界、大地の神様は男で、太陽神が双子の女神様なんだそうな。
とりあえず、俺にとってはっきりしたのは、爺さんが仕える太陽神殿だけが種族の垣根を超えて信仰されているものだという事。
それで、とにかく洗礼とやらを受けないと遠からず干からびるのは確定事項だという事だ。
それが嘘の可能性もなくはないんだが、まさか試してリアルに枯死とか、冗談でも試したくはない。
なので、爺さんの案内で社に向かう事を了承した俺は、そこまでの話を聞いた直後に色々な事を放棄して寝ることになった。
いや、実情は気絶したようなもんなんだが、急に変わった環境とそれに付随する疲労に心身共に限界だったんだと思う。
翌日、恐らく徹夜していただろうに妙に元気な顔でニヤニヤしながら挨拶された時には、思わず赤面してしまったんだけどな。
そして起きた翌日の俺は、色々な事にしょんぼりしながら、爺さんと一緒に一番近くの街に向けて歩いていた。
まず、赤面する俺は改めて自己紹介をしたんだが、ここでこの世界がやはり異世界なのだという事を実感した。
この世界には、正確には“普人”と呼ばれる一般に言う“人間”の社会にはだが、苗字という概念が存在しないとの事。
名前は“通名”“真名”“神名”の3つがあり、これに出身地等を加えて名乗るのだという。
通名とは、地球世界でいう渾名や略名のようなもので、通称と言い換えてもいいかも知れない。
真名は生まれた時に両親から与えられるもので、通常はこれを名乗る事はないそうだ。
神名は洗礼名と言っていいかと思う。これは神に関わる場で名乗るもので、扱いを聞いているとこれが苗字にあたるような感じに思える。
最後のはまあ、屋号だよな。
つまり、ウォーレン爺さんは坊主になった時点で“神名”である名前を名乗ってるのだ、という事だ。
この段取りでいくと、俺は通名を“カズ”とし真名を“カズキ”という事になる。苗字は概念がないため、組み込みようがないとの事。
で、爺さんの年齢が72歳という事が判明し、その若々しさに俺が驚いていると、その驚きを思い切り笑い飛ばされた。
どうもこれも“オド”の影響によるものらしい。
なんかすげえな、オドって…。
他には、四季は場所によっては存在するらしく、この地域は地球世界でいうところの南フランスあたりに近い気候を有してるっぽい。
一年は4季で336日。
太陽の一巡りを1日とし、80日をひとつの“季”とする。残り16日はそれぞれの季節の間に4日の“安息日”として存在している。
昼夜の概念はなく、天に月も存在しない。
これはどういう事かというと、太陽がふたつあり、その周期が異なる事からきている。
俺の目には同じ太陽に見えるのだが、実は全く性格の異なるものらしい。
せっかちで気性の激しい妹神が、俺がイメージする太陽。つまりは昼。
おっとりとして穏やかな姉神が、俺がイメージする月にあたる、という訳だ。
安息日は、このふたつの太陽が同時に天に登る四日間を指す期間のようで、なんというか物理法則など彼岸の彼方にある世界だと、改めて認識させられた。
実際、同時に太陽が登っていないときは、姉太陽は青緑、妹太陽は赤黄になるんだそうで…。
落人は“例外なく”この安息日にやってくるらしい。
詳しい理屈は爺さんも判らないどころか、爺さんより上の立場の坊さん達もわからないらしいのだが、安息日になると神託が降りて、だいたい一回の安息日にひとりふたりはやってくると言っている。
これが妙に“落人慣れ”している理由らしくて、なんかマニュアルっぽいものが口伝で継承されてるんだとか…。
この口伝も“旅祭”という身分になると必ず伝えられるんだそうな。
そして、俺がいた草原は“巨鳥の庭”と呼ばれるデンジャラスゾーンだったらしい。
大型草食獣やらが生息する、緑あふれる動物たちの楽園な場所なんだそうだが、神話なんかでいうところのロック鳥のような巨大な猛禽類が狩りに山から飛んで来る、一大危険地帯でもあるらしい。
やべーよ!
爺さん言うところの落人補正がなかったら、俺マジで死んでたじゃん!!
爺さんが笑顔でそう話すのに、今更ながらガクブル震えてた訳なんだが、ふと爺さんの表情が真剣なものとなった。
急に変わった空気に、自然と背筋を伸ばして俺も話を聞く体制を整える。
「さて…夕刻には街には着くんじゃが、お主に先に言うておく事がある」
「なんでしょうか? あまりいい話ではないと思うので、聞かずに済ませたいところではあるんですが…」
爺さんは表情を引き締めたまま、ぬるりと聞き捨てならない事を抜かしやがりました。
「例としては結構多いから、社で暴れられないように今のうちに伝えておくがの…」
「………嫌な予感しかしないんですが」
「まあ、そうじゃろう。なにせ“洗礼”に失敗したら、その場でお主には死んでもらう事になっとるからの」
………なん、だと…っ!?
あまりの理不尽に怒りと驚愕を貼り付けた俺の顔を見て、爺さんは溜息を零す。
「お主がそう思うのも無理はないんじゃがな…。儂らとても完全な善意でこんな事をやっておる訳ではないんじゃよ」
喚き散らしたくなるのを歯を食いしばって堪える俺に、爺さんは首を回してコキコキと鳴らすと、足を止めて背筋を伸ばし俺に向き直る。
「儂はお主の境遇に同情はしとる。なにせ口伝の中でも“落人”は望んでここに来たものはごく少数じゃったでな。どういう理由かはそれぞれ違ったじゃろうが、理不尽に唐突にこの世界に放り出された。これは十分同情に値するもんじゃと儂は思っとる」
だったらなんで…、そう口の中で呟き視線に険を強める俺を、爺さんは正面から見つめ返す。
「じゃがなあ…、こういうとなんじゃが、洗礼を受けられないものには、共通項があるようでの。もしそうなら、やはり生かしてはおけんのじゃよ……」
そうであってくれるな、と言いたげな爺さんの面差しと雰囲気。
思わず気圧された俺は、無礼を承知でシガーケースを取り出し、苛々を押さえる為に紙巻に火をつける。
深呼吸するように何度も煙を吸っては吐き出し。
そして、色々な感情で纏まらない頭で、それでもいくつかのラノベなんかの典型を思い浮かべて、それを言葉にした。
「………世界や神々にとって危険な能力や思考・思想を持つ場合は排除する、という事でいいんですか?」
爺さんは俺の言葉にゆっくりと頷く。
「こういうとなんじゃがの。この世界は決して穏やかでもなければ理想郷でもない。これを伝えるのはその時に落人を拾った旅祭の裁量に任されてはおるんじゃが、落人殿が居た世界とは色々と異なるじゃろうが、戦争もあれば病もある。思想や教育や文化も全く違う場合もあるじゃろう」
俺はそれにしっかりと頷く。
地球世界でも例外や特殊な事柄に溢れていると言われている、21世紀の日本だ。
同じ“世界”にいる様々な国や人々の思考や文化を理解するのも困難なのに、異世界でそれを最初から理解しろなどというのは、まさにご都合主義でしかないだろう。
主人公に全てが都合のいい世界など、それこそ物語の中にしか存在しないのだから。
先を促す俺に、爺さんは淡々と語る。
「そこで思想なら、こういうとなんじゃが、まだいいんじゃよ。お主は見た目は“普人”じゃから苦労はすると思うが、他の種族に受け入れられて生きていける可能性もまあ、ないではない。しかし…」
「…納得はできませんが理解はしました。俺の居た世界でも、そういう物語は、それこそ掃いて捨てる程ありましたしね」
ガキが妄想する俺TUEEEでergやラノベな、そういう社会や世界を否定し喧嘩を売るような展開はありえないと、そういう事だと理解はできた。
そして、割とこの世界は文明も文化も、俺が思うのとは全く異なる方向で高いのだろうと考える。
ともかくも、こうして爺さんと話していて思うのは、不自然ではない程度にではあるが故意に情報を与えないようにしているだろう、という事だ。
全ては洗礼を終えてから。
そういう感じがしてきている。
だから俺は、自分と爺さんの気持ちを和らげるため、努めて軽くこう口にした。
「まあ、そこは今俺と爺さんが悩んでも仕方ないんじゃない? こういうと不敬かもだけど、全ては神様の美心のままに、ってね」
流石と言うべきなのか、俺の軽口に爺さんはすぐに乗ってくれた。
「そうじゃなぁ……。せいぜい嫌われんよう、殊勝にしておいてくれると、儂としては助かるんじゃがな」
「言ってろよ! でもまあ、俺も死にたくはないからね、せいぜい嫌われる要素がない事を祈るとするさ」
顔に出ていない自信は全くないが、それでも俺と爺さんは笑いながら再び歩き始める。
(さて、いきなりエンディングだけは勘弁して欲しいんだけど、もう既に詰んでる状態だからなあ…。マジで俺泣きそうなんですが…)
審判の時は、もうすぐそこまで近づいていた。
夕暮れに染まる、街の入口と共に。
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当作品は所謂テンプレものの異世界ファンタジーものとなります。
最初に申し添えておきますが、世界観の構築や設定において、以下の作品に多大な影響を受けている点を明記しておきます。
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