その日、一刀は一人で雪蓮の墓を訪れていた。
月は高く、虫の声が辺りに響いている。
「蓮華、よくやってくれてるよ」
無骨な墓石の前に腰を下ろし、誰と無くつぶやいた。
「この国も少しずつ、雪蓮の理想に近づいてると思う」
墓石に向かって頭を下げる。
「だから・・・」
「安らかに眠ってくれ・・・か?」
背後からの突然の声に一刀はゆっくりと振り向く。
「冥琳か、脅かさないでくれ」
「それはこちらの言い分だろう、夜中にこっそり出て行くものだから、てっきり内通でもしてるのかと思ったぞ」
冥琳はくすりと笑うと一刀の隣に腰を下ろす。
「北郷はあぁ言ってるが、まだまだ休むには早いぞ、雪蓮」
冥琳は遠くを見つめ、呟く様に口を開いた。
「これから、この国は間違いなく激動の刻を迎える、望むと望まざるとに関わらずな。我が国の王は才覚はあれどまだ未熟だ、お前の名と加護を今しばらく借りることになる」
「冥琳・・・」
「すまないな、変な空気にしてしまった」
普段は大きく見えるその背中が今日はやけに小さく見えた。
結局、何も言えぬままに一刀は自室に戻った。
「眠れないな・・・」
雪蓮の死、冥琳の背中、この国の行く末、それら全てが一刀に重く圧し掛かっていた。
「結局、俺にできることなんて何も無いじゃないか・・・」
窓の外を見上げれば、綺麗な三日月が雲の間から光を放っている。
しばらく眺めていると、月の光が何かに反射した。
「なんだ?」
目を凝らしてみれば、人の影にも見える。
「あれって・・・、剣!?」
一刀は一目散に部屋を飛び出し、その人影の方へと走った。
「おい!何してんだ!」
人影の背後から声を上げる。
「一刀?」
「へっ?蓮華?」
一刀は間の抜けた声を上げた。
「私を賊と?面白い事を言うわね」
蓮華は穏やかな笑顔で一刀の隣に腰を下ろす。
「夜中に隠れて特訓なんてアナクロだなぁ」
「あなくろ?」
「いや、なんでもない」
「でも、本当に賊だったらどうするつもりだったの?」
「いや、実は何も考えてなかった」
無我夢中とはこういう事を言うのだろうな、と一刀は考えた。
「あまり無茶はしないで欲しい、一刀に何かあれば士気に関わる」
「ごめん、でも俺も何かの役に立ちたかったのかも知れないな」
「どういうこと?」
一刀は先程の自分の考えを蓮華に話した。
「そうか・・・、私が未熟なばかりに不安な思いをさせたようだな」
蓮華の口調が王としてのものに変わっていた。
「そうじゃないんだけどさ、蓮華は不安てないの?」
「呉国の王としてない、我が国は磐石になりつつある」
「蓮華個人としては?」
「・・・あるな、すごく」
戦の中で近しいものが死んでいくかもしれない恐怖、王としてこの国を支えていけるかの不安。
「でもね、泣き言は言えないの、それが王の義務」
「そうか、大変なんだな」
「大変なのは皆同じ、一刀だってそうでしょ?」
「そうだな・・・」
気がつけば蓮華の肩が震えている。
頬を伝うものに月の光が反射していた。
(蓮華はいつだってプレッシャーや恐怖と戦ってたんだ、それを誰にも言わずに抱え込んでたんだな)
一刀は自分の上着を蓮華の頭にかけてやった。
「泣きたい時は泣いた方がいい、辛い時は辛いって言えばいい、俺にできるのは蓮華を支えることくらいだからな」
蓮華は一刀の胸に顔を埋めた。
「すこし・・・、甘えさせてくれ・・・」
自身の胸で泣いてる小さな王様を見つめ一刀は胸中で雪連に語りかけていた。
(やっぱり、雪連の助けは要らないよ。蓮華は俺や皆が支えていけるからさ)
まるで雪蓮にその言葉が届いたかの様に月が夜空に大きく輝いていた。
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恋姫 蓮華メイン?なSS
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