「おかあさん・・・みんな・・・いやぁぁあああ」
雨が降っていた。それは天がこの少女のために泣いているのか、それとも、この憤る気持ちをせめて冷ますことができるようにと、天が恵んでくれているのか・・・俺には答えはわからない。俺はただ目の前でそう叫ぶ少女をただ力なく眺めていた。
また・・・だ。
俺はそんな思いとともに天を仰ぐ。
###それはこの世界に来る前、に遡る。
「ねぇ、一刀おにいちゃん。一緒に遊んでー。」
そんな言葉とともに俺に衝突してきたのは俺の従妹、愛里。その黒髪は風にたなびき彼女の美をさらに強調していた。新高校一年の彼女は元気いっぱいである。というか、従兄に遊んでーともいう年じゃないだろお前・・・
「はいはい、修行が終わってからねー。」
俺はそんな衝突してきた愛里を片手で押しやりながら軽く流す。
「えー、おにいちゃんいっつも修行してばかり。つまんないよー。」
愛里はそうはいいつつも、俺が修行をしているのを楽しそうに見ている。俺の名前は北郷一刀。一応、北郷流の当主らしい。じいちゃんが3年前、その武があればと、俺を当主へと推薦してくれた。俺はそのときは、断ったが、2年前じいちゃんに当主というものはどういうものであるかを話され、その座を引き継ぐことにしたのだ。
##
「一刀、お前には力がある。しかしじゃな、その力をいつまでもそうやってとどまらせていては、意味がない。」
「でも、じいちゃん。俺にはじいちゃんが思っているほどの力はないよ。」
「このわしを、圧倒しておきながら、そういうとは。わしが貧弱とでもいいたいのか?」
「いや、じいちゃんは強いさ。」
そういいながら自分が言ったことに対する矛盾に気づく。
「一刀、力あるものがその力を認めないのは罪だ。」
「罪・・。でも、じいちゃん、俺は当主になっても何をしたらいいのかわかんないよ。」
「お前は北郷という名に縛られすぎじゃ。お前は、お前の剣を磨けばいい。」
「俺の剣・・・」
「ああ。型にはまることはない。もっと自由に、もっと心から剣を振るえ、一刀よ。そして、その武に責任と誇りを持つ。それが当主じゃ。」
「もっと自由に心から・・・。」
確かに、じいちゃんから教わったことは楽しく、俺を成長させてくれた。でも、その感情の中で、俺はずっともっと遠くへ、という感情が消えなかった。でも、北郷流はこうであるべきという自分の概念がそれを縛っていた。
「俺は・・・」
もっと遠くへ、もっと先へ俺はいきたい。自分の限界を超えて。
「じいちゃん、俺、遅くなっちゃったけど、当主の座引き受けるよ。」
「そうか、やっとか。その心をきいてもいいか。」
「俺は、もっと遠くへ行きたい。高みを目指したい。いつかこの手で大切な人を、いや大切な人たちを、守れるように。」
「そうか、しかしな一刀よ。守りたいという思いを持つのであれば、おぬしは鬼にならなければいけないときもある。そのことをしっかりと覚えておけ、一刀よ。」
「どういうことだよ。守るために鬼って、普通逆じゃないのかよ。」
「まあ、一刀。お前にもいつかわかる日が来るさ。」
##
鬼・・・か、あれから二年がたつ。けれど、その答えはいまだわからずにいる。でも、あれから俺は、一日たりとも、修行をさぼったことはない。高みを目指して、いつもそんな思いが心にはあった。
「ねえ、おにいちゃん。遊んでくれないなら愛里も修行一緒にしていいかな?」
そういいながら、木刀をもってこっちにやってくる。
「えー、やだよ。お前負けたらすぐなくし。わざと負けても文句言うし。」
「ぶー。そんなこといわないでよ。一応私だって、北郷流の一人だよ?それに、この前戦ったのは数ヶ月前でしょ?愛里、修行したんだから。」
確かに、愛里も北郷流をついで、毎日修行している。その武は速さに長け、おそらくは俺、じいちゃんについで強いだろう。
「しょうがないなー。一度だけだぞ。」
「わーい。やったー。」
そういいながらも、愛里はその竹刀を俺のほうに構えている。その表情は先ほどのふざけた様子とは一変し、真剣だった。だから、俺も竹刀を構える。
「二本、使ってもいいのに。」
俺が一本の竹刀を構えているのを見、愛里がそういった。剣道は一本の刀で戦う。しかし、俺は一年前から、自分に足りないものを求め、二本の刀を修行中に使うことにした。その結果、俺の中にあった型に縛られたわだかまりというものが、だいぶ薄らいだのだ。
「まー、それは愛里がちゃんと成長してからね、」
「ぶーぶー。おにいちゃんっていつもそう愛里を子ども扱いするんだから。愛里、もう高校生だよ?んで、お兄ちゃんも高校生。おんなじじゃん。」
「馬鹿、二歳も年上だ。」
「関係ないもん。まあ、いいよ。愛里がお兄ちゃんを倒せば、いいんだよね?」
「ああ、そういうことだ。」
そういいながら、俺は竹刀を構える。すると、愛里がその速さをいかして、俺に向かってきた。
ガキッ
竹刀がきしむ音がする。確かにな。俺は心の中でそう思う。前までは、軽く受け流して終わりだったのだが、愛里はその速さをますます磨いてきた。
「さすが、おにいちゃん。ちゃんと受け止めたね。」
そう愛里はいいながら、すばやく俺から離れる。力では勝てないことは彼女にもわかっているのであろう。
「そういう愛里もなかなかどうして。けっこう修行しているみたいじゃないか。」
「いったでしょー。愛里もちゃんとやってるのっ!」
「そうか、そうか。」
俺はその言葉をきき、少しうれしくなる。それは、愛里が自分と同じ高みを目指す思いをもって、成長しているからであった。
「愛里の腕なら全国制覇も簡単だろ、なんで大会とかにでないんだよ」
俺はそういいながら、愛里と再び剣を交わす。愛里もそれを受け止める。
「愛里の目的はそんなもんじゃないもん。おにいちゃんにいつか勝つことだもん」
「じゃあ、一生かなわないな。」
俺は冗談交じりに笑みを浮かべながらさらに攻撃を続ける。だんだんと力を加えるにつれて、愛里の表情が変わっていく。額からは汗が流れ出ていた。
「馬鹿。そんなことないもん。」
そういいながら、愛里は俺の攻撃をタイミングを見計らって受け流してそのまま俺にその攻撃をむける。
「もらった!」
愛里はそういいながらその攻撃を俺の顔へとむけてふりきろうとする。俺は、剣先で愛里の手元をずらし、愛里の剣先は俺の顔の横にそれる。
「いやー、危なかった。危なかった。」
愛里は再び俺から距離をとった。さすがに激しい攻撃を続けたのか愛里の呼吸は乱れている。
「もう、危なかったーじゃないでしょ。余裕だったくせにーー。」
そういって、愛里はばたんと地面にたおれる。
「愛里?」
「はぁーーー。つかれたーー。」
愛里はそういいながら地面に大の字になりながら寝転がっている。その表情は暗くはなく、すがすがしいものであった。
「そっか。」
俺はそういいながら愛里の隣に座る。
「隙あり!」
俺が竹刀を地面においた瞬間愛里が右手に持っていた竹刀を振るった。
ポコっ 「いたっ」
でも、その竹刀は届くことなく俺のミニ竹刀が愛里の頭をたたいた。
「反則は禁止。」
「おにーちゃん、愛里が攻撃するってしってたくせにー。」
そういいながらぽこぽこ俺の肩をはたいてくる。
「まあ、そりゃ、竹刀を握ってる右手に力が入っていたしなー。そりゃ、わかっちゃうよ。」
「ぶー。おにいちゃんは意地悪なんだから。」
「卑怯なコにはお仕置きが必要なのです。」
「あっ、でもおにいちゃん、二本つかったよね?竹刀。だから、愛里の勝ちー。」
「お前なぁ・・・はぁ。」
そう俺はいいながらも、そう無邪気にはしゃぐ愛里をみて俺も、笑っていた。
「おい、金目のものをだせ!」
だから、そんないつもどおりの日常だったからこそ俺たちはそんな言葉にびくっと体を振るわせる。何かが間違っているそう思いながら俺と愛里はその体を起こした。
「早くしろ!」
俺たちの前には包丁を手に持った男が立っていた。言葉から考えると、この男は強盗なのだろう。
「おにいちゃん。」
愛里もそんな非日常的なできことにその足を震わせ、俺の腕にしがみついている。俺はというと、何が起こっているのかわからなかった。目の前に包丁を構えた強盗が立っている。そんなことくらいわかっている。でも、これは現実なのか・・・そんな疑問がいや、望みが幾度となく頭を駆け巡る。ニュースや新聞などではよくみる、事件。けれど、実際俺たちの身に起こるなんて考えてもいなかった。
「早くしろっていっているんだよ!」
男は黙っている俺たちにイラついているのかその刃物を前に出しながらこちらに近づいてきた。なんだよ・・・これ。 見るからに相手はただの素人だ。俺や、愛里の相手にすらならないであろう。けれど、これは竹刀同士の稽古ではない。命がかかっているのだ。男が手に持つ包丁はその一振りで人の命を奪えるのだ。そう考えると、俺は動けなくなってしまう。
なにやってるんだよ。俺は・・・愛里が震えているじゃないか。俺が震えてどうすんだよ。俺がなんとかしなきゃいけないんだよ。動けよ俺の手、動けよ、俺の脚。そう強く俺は思うが俺はまったく動けないでいた。
「てめーらいい加減にしろ!」
目の前の強盗は何も言わずに固まっている俺たちに苛立ちが増し、その包丁を上から俺のほうに振りかざす。
なんだよ・・・これ。 その男のしぐさがスローモーションで見ているかのようにゆっくりと動いて見える。俺はここで死ぬのかよ。高みを目指すって何だよ。こんな何も知らない奴に命を奪われて何なんだよ。俺の高みっていうのは、ただのお遊びだったのかよ・・・俺はそんな自分に憤りを感じながらもまったく動けないでいた。
「おにいちゃん、危ない!」
そんなときだ。愛里が、動けいでいる俺を横に突き飛ばしたのは。
ドンッ
硬直していた俺は、そのまま体勢を変えることもできずに倒れ、その頭を打ち付ける。とたん、伝わってくる痛みに俺の硬直していた体が動くようになる。地面は砂利だったのか、俺の頭から血が流れていた。愛里が押してくれなければ俺は・・・そんな風に思いながら愛里のほうをみる。
「おにいちゃん・・・・だいじょうぶ?」
「あい・・・り・・・・」
そう愛里はつらそうにいいながら、愛里は左目をつぶっている。そこには、額から頬にかけて大きな傷が入っていた。
「あい・・り、お前、それ・・・」
「ごめんね、おにいちゃん。頭、いたかった、でしょ?」
そういいながら、愛里は無理しながら、その左目をおさえて、俺に心配をかけないようにとにこっとこちらを向いて笑う。
「あ、いり・・・・愛里ぃーーーーーーー!!!!!!!!!!」
なんだよ・・・これ、なんなんだよ・・・これ。くそっ、くそっ、俺は何度も何度もそう自分に言い続ける。体は動くものの、俺には竹刀をもって、強盗に立ち向かうことができないでいた。
「なにがあったのじゃ!」
俺の叫びに気づいたのかじいちゃんがすぐにこちらに駆けつけてくる。その祖父が見たものは、頭から血を出している孫と顔が血まみれになっている愛里、そしてその祖父のほうをみてにやっと不気味な笑みをもらす、強盗。
「きさまぁああああ!」
じいちゃんは強盗のもつ包丁に恐れを抱えることもなく、地面にころがっていた竹刀を拾うと強盗をめがけ走り、頭にその鋭い一撃を食らわせた。強盗はそんなじいちゃんの動きについていけるはずもなく、頭にその一撃をくらい、後ろに倒れていった。
「一刀!愛里!」
じいちゃんは、すぐに俺たちのほうに駆けつけてきた。
「じいちゃん・・・」
俺の目からは涙があふれていた。それは、じいちゃんが来て、強盗から助かったことに対する安心感と、自分が何もできなかった無力さからだった。そして、なにより、俺の大切な人が俺のせいで、傷ついてしまったことだった。
「何も言うな」
じいちゃんは、俺のその涙ですべてを把握したのか、俺を軽蔑のまなざしで見るどころか、ぎゅっと俺を抱きしめてくれた。
「うっ・・うわぁぁぁぁぁあああああ!」
俺はそう叫んだ。泣きながらそう叫んだ。言葉にならないほど、俺は無力だった。
「一刀、救急車と警察を呼べ、愛里。気をしっかりせい。」
じいちゃんは、俺にそういった後、かすかながら意識を保っている愛里を横に静かに寝かせ、そう俺に告げる。
「わかった。」
俺は、ただ、じいちゃんのいうことを聞くことしかできなかった。
その後のことはよく覚えていない。あとから聞いた話によると、救急車、警察ともに時間もたつことなく到着し、犯人は警察に連れられ、その場に呆然としていた俺はじいちゃんとともに、救急車にのせられ、病院へと運ばれた。
俺のけがは、たいしたことはなく、俺は一日で退院となった。愛里のほうは、命に別状はないにしても重症だった。病院には最低でも1ヶ月いなければいけないとじいちゃんはいっていた。俺は、毎日病院に訪れるが面会は許可が下りなかった。じいちゃんは2週間後に病室に入ることができたが、俺だけは面会が許されなかった。そう、だよな。俺は心の中でそう思う。あんなえらそうなことをいつもいっといて、何もできないどころか、命を助けてもらい、それゆえ、あんなけがまでさせて・・・憎んでるんだろうな・・・俺はそう思うとこぶしに力が入る。愛里に嫌われたからではない、愛里に怪我をさせてしまった自分が許せなかった。
俺は、ただ、修行に打ち込んだ。自分のその思いを紛らわすかのように。
「いいかげんにせんかい!お前は自分を殺すきか!」
俺が、夜遅くに帰ってくると、玄関で待っていたじいちゃんはそういいながら俺の頬を殴った。俺の手は皮膚がはがれおち、竹刀は血まみれだった。森を駆けていたのか俺の体中にはあちこちきり傷が入っていた。
「放っておいてくれよ、じいちゃん。」
俺はつかみかかるじいちゃんの手を静かに離し、そういう。
「放っておけるかこのばか者めが!お前の気持ちはわからんでもない、じゃがな!」
「俺の気持ち?じいちゃんにわかるわけがないだろう!」
そう俺が叫ぶと、じいちゃんがもう一発俺を殴る。
「そうやって、いつまで逃げるつもりか一刀!お前は、当主じゃろうが!」
「当主はいま関係ないだろ!それに、もう当主なんてこりごりだよ。 当主なんかやめ」
そういおうとした俺に今までより強いこぶしが俺の頬にぶつかる。
「いうな、一刀よ」
そうゆっくり言うじいちゃんの目には涙があふれていた。
「じい、ちゃん・・・」
「わしはお前を当主と認めた。確かにそれはお前の才能、力ともに優れていたこともあったじゃろう。じゃがな、何より大切なのはお前の覚悟じゃった。」
そうじいちゃんに言われ、俺は2年前のことを思い出す。
「俺は、もっと遠くへ行きたい。高みを目指したい。いつかこの手で大切な人を、いや大切な人 たちを、守れるように。」
そんな自分でいった言葉が頭によみがえる。それとともに、再び悔しさがこみ上げてくる。自分が大切な人を守れなかったこと。そして今、自分はそんな弱い自分を隠すためににげていること。
「じいちゃん・・俺・・・」
「人間だれにだって、失敗はある。じゃがな、一刀よ。失敗は乗り越えるためにあるものじゃ。現実から目をそらすな一刀。ちゃんと現実をみるのじゃ。自分にできなかったこと、自分の無力さをみとめるのじゃ。 それに一刀、わしらは家族じゃ。まごの気持ちくらいわかっているつもりじゃよ」
じいちゃんはその声をからさせながらも俺をぎゅっと抱きしめる。それは、あのとき、俺が何も動けなかった日とおんなじだった。じいちゃんのその温かさにに俺はいつまでも、泣き止むことはなかった。
そして、愛里が入院をしてから、6週間が経過した。俺は、毎日愛里のところへいっているが、相変わらず、俺には面会拒絶である。それでも、俺は毎日彼女の元へ通っている。いつか、会ってちゃんと、謝るために。
シュッシュッ
庭には剣を振るう音が聞こえる。俺は、いつものように鍛錬に励んでいた。もう、自分に負けたりはしない、そんな覚悟を持ちながら。
「うん!やっぱりおにいちゃんは二本の刀が似合ってるよ。舞をみているみたいで、きれいだしね!」
そんな突然かけられる言葉に俺はその剣を振るう手を止める。
「あ・・いり・・?」
「おっ、どうしたの?そんなみつめないでよおにいちゃん。はずかしいじゃん。」
そういいながら手を顔の前で振って笑っているのはいつもの愛里だった。でも、前とはひとつ違うところがある。
「あいり・・その目」
「おー、よく気づいたね!かっこいいでしょーー!」
愛里は俺のそんな質問にもなにも気にすることなく、えっへんと左目のところを俺にみせてくる。彼女の左目は黒い眼帯で覆われていた。額から頬にかけての傷もいえてはいるが、そこには痛々しい傷が残っている。もう、彼女の目は・・・じいちゃんからは告げられていたことではあったが、目の前にすると何も言うことができない。
「さすがのお兄ちゃんも、このかっこよさには驚いてなにもいえなくなっちゃたかーー!」
そういう愛里に俺は近づきぎゅっと抱きしめる。
「えっーー!ちょっ、お兄ちゃん?何してるのーー」
愛里は恥ずかしそうにそうばたばたしている。
「愛里。ごめん、ごめんな。」
俺はそうかすかに言葉をつむぎながら愛里に言った。愛里も、俺が言いたいことを理解したのか、俺の頭にぽんとその手をのっける。
「俺がいやじゃ、ないのか?」
「もう、こんなことしておきながら何をいっているの。 いきなり甘えん坊さんになって。もう、愛里もこまっちゃうんだよ」
「だって、俺はずっと、面会拒絶されてたし。」
「あれは、そのっ、みっともないとこおにいちゃんには見せたくなかったし・・・だって、字の練習とかもしてたんだよ。最初のころはよく壁にぶつかったし。」
「愛里・・・」
「だから、ね。いやだったの、そんな弱い私を見せるのが。 時間はかかっちゃったけど今、ここにいるんだから、許してね。」
「ごめん、ごめん、愛里。」
「いいんだよ。お兄ちゃん。これはね、愛里の誇り。一生の宝物。お兄ちゃんをこの手で守れたっていう証。だから、謝ったりなんかしないで、お兄ちゃん」
そういう愛里の言葉に同情などはなかった。ただ、彼女の本当の気持きたのだった。
「愛里・・・、ありがとう」
だから、俺はそう言葉を変える。 謝罪ではなく感謝の一言に。
「うん、どういたしまして。」
そう、愛里は優しく俺にいった。
「はい、これ。」
それからしばらくたって愛里から渡されたのは手製の青い、リストバンドだった。
「これは愛里が?」
「まーね。入院中は特にやることなかったし。うん、お土産!」
「お土産って・・・とにかく、ありがとう愛里。使わせてもらうよ。」
「そーだよー。せっかく愛里がつくったんだから使わなくちゃね!」
「はいはい。」
そういいながら、俺は笑った。あれ以来、はじめて心から笑えた気がした。日常がもどってきた。俺は、そんな日常という普通があるうれしさを強く感じた。
「愛里がきたのじいちゃんに知らせてくるよ」
「うん!」
俺はそういってじいちゃんをさがしにいった。確か、じいちゃんは今日、倉庫整理をするっていってたっけ・・・俺はそう思い出し、倉庫へといった。
「じいちゃーーん、愛里がきたよ!」
俺は元気にそういいながら扉を開けると、そこにはひとつの銅鏡が落ちていて、その光は俺を包み込んだ。
#####
「おかあさん・・・みんな、いやぁああああ!」
光のまぶしさから俺は目を開けると、そこにはとんでもない光景が広がっていた。
「なんだよ・・・これ」
確か俺は、じいちゃんを探しに蔵にむかって、それで・・・そこからの記憶があいまいだった。でも・・・俺は目の前に広がる光景をただ力なく見ていた。これは・・・映画かなんかなんかよ。俺は一歩一歩前へ進む。周りをみると、死体が数え切れないほど散らばっていた。その光景に俺ははきそうになる。
「現実から目をそらすな。一刀よ。」
そうふいに思い出される、祖父の言葉。また、俺はあの時と同じなのかよ。目の前に広がる光景に俺は混乱する。そして、足も震えている。
「愛里はね、この傷を誇りに思うよ。だって、お兄ちゃんをこの手で守れた証なんだから」
そう頭に響く彼女の言葉。そうじゃないか・・・なにをやっているんだよ、俺は。あの時決めたじゃないか。もう、自分から、現実から逃げないって。大切な人を守るために・・・・・俺は鬼になる。
そうだ、やっと、俺はじいちゃんのいったことがわかったような気がした。
「黙ってろ、すぐぶっ殺してやるから」
村を襲っていた賊どもは、そういいながら、目の前で叫ぶ女の子の髪をつかむ。
「やめ・・て。」
その女の子の表情は痛さのあまり、ゆがんでいた。許さない・・・許さない。俺の心にそんな言葉が響く。もう、俺の周りで、だれかが傷つくなんて絶対に許さない・・・
俺はそう思いながら地面に落ちている剣をとり、一歩一歩その賊の下へ歩み寄る。
「おい、貴様ら、その汚い手を彼女からどけろ。」
俺は殺気をこめて、その賊どもをにらみつける。何人かの賊たちは俺の殺気に怖気づけ動けないでいる。
「何だ。貴様は、おれは」
そう言葉を続けようとした賊の首は空へと舞い上がっていた。そして、その瞬間その賊の手から離される少女。それを俺はきちんと抱きとめる。
「大丈夫か」
「う・・うん。だいじょうぶ。」
彼女も俺の殺気におびえているのか俺を怖いものでも見るような目で見ている。
「ごめんな・・・すぐ、終わるから。だから、ここはすこし眠っててくれ。」
俺はそういうと、彼女の首に軽く手刀をいれる。彼女はそれによって意識を失った。 これから、広がる惨劇を彼女は見る必要はない。もう、十分すぎるほど彼女の心は傷ついたのだ。もう、これ以上彼女はつらい思いをする必要はない。俺はそう思うと再び剣をその手に立ち上がる。
「てっ、てめぇ、なにやってんだよ。」
そう叫びながら突っ込んでくる賊を俺は一撃の下切り捨てる。
「お前ら、覚悟はできているよな。」
俺は、俺のことをおびえる目で見ている賊にそうつぶやく。
時もたつことなく、200近くいた賊は地面に死体として転がっていた。
「愛里・・・」
俺はそう、大切な人の名前をつぶやく。
「もう、俺はお前の元に、戻れないよ。」
俺は、その血で汚れた手を見る。そして、手につけてある彼女からもらったリストバンドもその返り血を浴びていた。俺にもう、彼女に会う資格はない・・・・でも・・・・俺は、そう空をみる俺の顔には冷たい雨が打ちつける。もう、涙は流してはいけない、そう俺は決めた。もう、笑顔を失わないって決めた。もう、大切な人を目の前で傷つけさせないってそう心に決めた。だから、俺はもう・・・
道を振り返ったりはしない。
新たな外史、始まりました。なんか書いているうちに愛里が好きになりつつある自分・・・
~貴方の笑顔のために~の拠点エピローグもおいおい投稿していきたいと思います。
ではではー、
またーー。
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新しい外史です。 最初の女の子まだ、名前がでてきていないけど・・だれ?