試験も終わり、夏休み開始から約10日経った。夏休みが始まってすぐに帰省する生徒が大勢いた
ただ俺は家に用事があるわけではないため、寮に残ることにした
夏休みの宿題も大変だがそれよりも俺には大きな問題がある
先日、ミュウという小動物から聞かされた世界樹大戦、第1回戦の課題
ギガントモンスターを5体以上討伐すること
これが予想以上にきついことが分かった。恐らく俺だけでなく他の参戦者たちも同じことを考えているだろう
ギガントモンスター、それは通常の魔物とは比較にならないほど体が大きく、凶暴であったり、知能が高かったりとかなり手強い魔物だ
ジュディスさんと共にギガントモンスターを一体討伐した。まあ、ほとんどジュディスが一人で倒している状態だったけど……その後、彼女から
「……やっぱりこれからのことを考えると一人で倒せるように特訓した方がいいわね」
というかなり無茶な要求されてしまった。しかも今回協力して倒したギガントモンスターはそんなに強くないらしい
そのため、しばらくはトレーニングの日々になるだろう。幸い一回戦の期間がまだあるため、鍛える時間がある
それにしても他の参加者たちはどうしているだろう
少し考えてみようと思ったが、自分のことで精一杯でそんな余裕はない
今日も特訓を終え、異世界から自分の部屋に戻ってきた
時計を見てみるとそろそろ夕飯時、とりあえず食堂に行くことにする
「ヤッホー、一夏君、元気かな?」
その途中、楯無さんに会った
「お久しぶりです。まあ、それなりに元気ですよ」
「……何か悩んでいる顔ね、そんなのだと楽しいはずの夏休みが台無しよ。お姉さんとお話ししましょう。というわけで食堂にゴー」
俺の意見を聞かずに彼女は俺の手を引っ張っていた。そんな光景をジュディスさんとローエンさんが微笑ましそうに見ている
食堂に到着して、周りを見渡してみると人がほとんどいない
(ほとんどの方が帰省してしまっているようですね)
ローエンさんの呟きに頷ながら夕食を何にするか考えることにした
よし、今日は魚にするか
すぐに食堂の人に頼んで、料理を受け取る。楯無さんは……冷やし中華みたいだ
二人で向かい合いながら、食事を始める
「さて、一夏君。どうしたのかしら?」
「世界樹大戦、第一回戦のことです。まだまだ鍛えないといけないと思っていた所ですね」
成程ね、私も。という感じで頷く
やっぱりみんな苦労しているのかな?
「まあ、もう何匹か……ごめん、電話」
何匹か? まさかと思い、ローエンさんの方を見ると何だか微笑んでいる
ジュディスさんも気が付いたのが目の色が変わっている
電話が終わったのか、楯無さんが戻ってきた。座ると同時にため息をついた
一体何があったのかな? 気になったから聞こう
「どうしたんですか?」
「ああ、ごめんね。ちょっとお仕事を頼まれたの。明日のお昼頃、書類整理をしないといけなくなって……でもその書類が多いのよ。しかも職員室から生徒会室まで運ばないといけないの。さらに虚ちゃんと本音ちゃんは今実家にいるから……一人だとちょっと大変ね」
楯無さんは生徒会長、夏休みでも仕事が入ることもあるのだろう
俺達の見えない所で頑張っているんだろうな……よし
「楯無さん、良かったら手伝いますよ」
「え? でも……」
「一学期の初めに指導してもらったお礼です。それに……困っている人を放っておけないですから。ああ、でももし俺が見てはまずい資料とかあったら……」
「ありがとう、じゃあお願いしようかしら。明日の正午に職員室の前で待っているわね。それじゃあ、ご馳走様。先に部屋に戻っているわね」
言い終わる前に楯無さんが手伝うことを許してくれた。さらにローエンさんがお辞儀をして、彼女についていった
(良かったの?)
(ええ、楯無さんにはお世話になっていますし、何より一人では大変そうだったので)
ジュディスさんの言いたいこともわかる。でも、やっぱりお世話になった人が大変なのを見て見ぬふりを俺はしたくない
(偉いわね。さて、私たちもそろそろ部屋に戻りましょうか、特訓を再開させるわよ)
彼女の言葉に同意すると同時に食事を終えた。すぐに部屋に戻り、特訓の続きを始める
特訓はいつもよりも厳しかったけど、それだけ俺のことを期待してくれている
ジュディスさんは俺のことを信頼してくれている。もちろん、俺もジュディスさんの事を信頼している
初めて会った時から今日まで、お互いのことを話している。少なくとも、俺は自分のことをほとんど話しているつもりだ
そして分かった事がある。彼女は人に物事を教えるのは苦手らしい
誰かに教わったわけでもなく、生きていくために戦い、その中で経験を積んだだけと言われたことがある。だからこそ、教えるのは自分の考えについていける人だけと
俺は彼女の教えを信じてずっと戦ってきた。だからこそ……彼女の想いに答えたい
「一夏、少し力みすぎよ。リラックスしなさい。まだ時間はあるのだから少しずつ……ね」
「はい」
ジュディスさんのアドバイスを聞きながらモンスターを討伐していく
フェイタルストライクやオーバーリミッツ、バースト・アーツ等、世界樹大戦で習った技術を練習する
これらの技をしっかりと得て、ギガントモンスターの討伐に挑む
次の日、特訓していて少し遅くなってしまったため、遅めの朝食を食べに行こうと食堂へ向かおうとした時、セシリアとメイドに会った
彼女は夏休みが始まってすぐにイギリスに帰国していたはず
こちらに帰ってきたのだろうか?
「あら? 一夏さん、お久しぶりですわ」
「おう、セシリア。今帰ってきたのか?」
「ええ、あちらでやらなくてはいけないことはひと段落したため……ああ、そうそう、こちらは私のメイド、チェルシーですわ」
「織斑さま、お話は聞いております。チェルシー・ブランケットと申します……今後ともよろしくお願いします……」
彼女は俺の右肩を見てそう言った……なるほど、彼女の右わき腹に果実の模様がある
そして彼女の隣にはしっかりした体つきの男性がいる。ただ、彼は囚人服を着て、手枷をつけている
「お嬢様、申し訳ありませんが少し織斑様とお話をしてもよろしいでしょうか? 込み入った話なため、できれば二人きりで話したいのですが……」
チェルシーさんは多分、世界樹大戦について話すと考えているけど……
セシリアが慌てている……あれ? 急に了承している?
一体どういうことだろう?
「お待たせしました、織斑様。異世界で少しお話をしましょう」
チェルシーさんがそう言うや否やブローチをつけて異世界に行った。後を追うように俺もブローチをつけて異世界に向かった
「さて、改めて自己紹介をいたしますわ。私はオルコット家に仕えるメイド、チェルシー・ブランケットと申します。お嬢様とは幼馴染でもありますわ。そして」
「私の名前はリーガル、チェルシーのパートナーで君たちと同じように世界樹大戦の参加者だ。無論、今ここで戦うという無粋なマネをするつもりはない」
「織斑一夏です。俺もここで戦うつもりはありません」
「ジュディスよ」
お互いに自己紹介を始める。どうやら彼女はしばらくIS学園の作業をお手伝いという形でここに来たらしい
普段はイギリスにあるセシリアの実家にいるらしい。今は彼女の部下に仕事を任せているらしい
世界樹大戦について話した後、いつかゆっくり話すことを約束し、元の世界に戻った
チェルシーさんはすぐにセシリアの所に戻っていった。やっぱり彼女のメイドということだろう
さて、俺も朝食を食べて楯無さんの仕事を手伝いに行くか
「一夏君、お待たせ。早速だけど、お願いね」
職員室に到着すると同時に楯無さんがやってきた。職員室の前には八つのダンボールが置いてあった
確かにこれを一人で運ぶのはつらいよな……
すぐにダンボールを重ねて二ついっぺんに運ぶことにする。三ついっぺんに運ぼうとも考えたが、前が見えなくなってしまうと思い、やめた
楯無さんも同じことを考えていたのか同じように二つ運んでいる
「ありがとうね、一夏君。助かったわ」
運んでいる途中、楯無さんからお礼の言葉を受け取る
「気にしないでください、それにあれだけの量を女の子に持たせるなんて、黙っていられませんよ」
俺も運びながら、笑顔で答えた
「……そっか、女の子……か」
? 何を言っているのかは聞こえなかったけど、楯無さん、何だかご機嫌みたいだ
その後は特に会話もないままダンボールを生徒会室まで運んだ
「これで終わりね」
「楯無さんはこれからどうするのですか?」
「ん~ちょっと書類整理。お手伝いはもう大丈夫だよ。軽く目を通しておくだけだし、この資料は他の人に見せるわけにはいかないの。邪魔だからって訳じゃないから」
う~ん、もう少し手伝おうと思ったけどそう言うことなら仕方ない
「じゃあ、何かあったら言ってくださいね。俺にできることがあったら手伝いに行きますから」
「……うん、期待しているね。それとちょっとここでお茶していかない? お礼もかねて」
楯無さんのお誘いを受け、生徒会室でお茶をごちそうしてもらうことに
ローエンさんが入れてくれた紅茶がおいしい。ふと、楯無さんが見ていた資料を見てみると俺は驚いた
「た、楯無さん。良ければその資料……見せてくれませんか?」
「え? どうしたの?」
楯無さんは驚いた様子で、資料を見せてくれた……これは……どういうことだ?
ジュディスさんもその資料を見て、俺が驚いた理由を納得してくれたようだ
「一夏さん、説明していただけますか?」
「……体験で入る中学生と期間限定の特別教員、手伝いの職員、ここに世界樹大戦の参加者がいます。全部で三人、しかも俺の知り合いです」
ローエンさんの質問に答える。中学生は蘭のこと、特別教員はナターシャとチェルシーのことである
そのことを伝えると二人は難しい顔をしていた
「……一夏君、このことを決めた人に聞いてみるわね。確かにこれだと、この学園に世界樹大戦の参加者を集めていることになるわ」
この学園には、12人の参加者が集まることになる
何か仕組まれているのではないか。そう思えて仕方なかった
そんな微妙な空気のまま、お茶会は終了した
スキット
ジュディスの考え
「……どう思いますか? ジュディスさん」
部屋に戻った後、俺はジュディスさんに質問してみた
「この学園に世界樹大戦の参加者が集まっている事よね? 参加者のうち4分の3が集められるのは確かに気になるわね。偶然で片付けにくいわ」
俺もそれには同意見だ
「けど、どうしようもないと思うの。それに……考えたって何も解決しないわ」
……確かにそうなんだけど……
「仮に理由が分かっても何もできないでしょ? だから頭の片隅に置いておくくらいでいいんじゃないのかしら?」
それもそうか
ん? ノックの音だ
「一夏? 少し話があるんだけどいいかな?」
「シャルか、ああ……ジュディスさん、このことは……」
「話さなくてもいいと思うわ」
「それもそうですね、今開ける」
俺はすぐにドアを開け、シャルと話をすることにした
「……多分、あの子のパートナーならすでに知っていそうだしね」
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夏休み編 その1です
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