No.573828

神綺さまがお宅を訪問

初音軍さん

さぁ、誰のお宅へお邪魔するのでしょうか。ちなみにうちの神綺さまは親バカです。

2013-05-06 23:33:53 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:2635   閲覧ユーザー数:2627

 

 こちら魔法の森の中にある一軒家の前からわたくしこと、神綺がお送りします。

 

 というリポート感覚でマイクを持つような仕草をしながらアリスちゃんの住んでる

場所の前で一人テンションが上がっていた。

 

 神という仕事をしているからたまには息抜きも必要だろうということで

アリスちゃん分を補給するために来た。

 

 邪険にされるのはわかりきってはいたが、それでも娘と戯れるのは

この上なく幸せなことなのだった。

 

 しかし、息抜きとかみんなの前で言うと反論されそうなので

そっとお忍びで来たのだが、帰ったら夢子ちゃんからたっぷり

説教をされるかと思うとゾッとする。

 

 と、とにかく今はアリスちゃんと会って堪能しようと考えて

ノックをした。

 

 コンコン

 

 しばらく経っても誰も来ず。

 

「あれ?」

 

 コンコン

 

 もう一度ノックをするも再び静寂しか訪れない。

 

「おかしいなぁ」

 

 出かけた様子は数時間見張っていたところ、感じ取れなかった。

さすがに私の気配を感じていたわけではあるまい。

 

 ポンコツとか仕事をしないとか散々言われる私だが

腐っても神という感じで私以上の者はこの辺にはいないはずだが。

 

 まさかあの泥棒猫な魔女が連れ去ったとかあるまいか。

彼女の魔法の経験と魔力量は計り知れない。

できないことはないが、あの病弱がそんなにも長い時間高度な

魔法を使えるはずはないだろう。

 

 となれば、居留守か!

 

「アリスちゃーん」

 

 本当はこっそり会ってびっくりさせようとしたのに予定が狂った。

私は口元に手を添えて大き目な声でアリスちゃんの名前を呼んだ。

しかし返答はない。中には気配を感じる。

 

 それにいつもは誰か来るとアリスちゃんの魔力をまとった

人形が出迎えてくれるのも今はなさそう。

 

 中で何かあったのだろうか。

 

「こうしちゃおれん」

 

 こんな人気のない森で何か辛い思いをしていたら大変だ。

私は両手を広げて自身の魔力を具現化させ、一つの棒状の何かを作る。

それでこの棒状の何かを鍵穴に差し込んで操作をした。

 

 変幻自在のこの魔力の棒なら僅かな隙間でも魔力で感じ取って

形を作る。用は鍵を作って開けてしまえばいい。

 

 壊すのは手っ取り早いが、それだと後でアリスちゃんに

怒られて絶交とかされかねないので、それだけは止めておいた。

 

 カチャッ

 

 小気味の良い音が聞こえてドアノブを回すとあっさりと

扉が開いた。

 

 ゴクリという音を立てて、静かに中へと入っていく。

すると気配は人形を制作している部屋へと感じられた。

私はゆっくりとその部屋の前まで行って覗き込むと

うなされてるように机に顔を突っ伏してるアリスちゃんの

姿があった。

 

「アリスちゃ…!」

 

 言いかけて止めた。ただ徹夜して寝ているだけかもしれない。

そっと彼女の背後に近づいて額に手を当てる。

 

「熱があるわね」

 

 アリスちゃんが起きないように私はお姫様だっこ風に

アリスちゃんを持ち上げて近くのベッドへと運んだ。

 

「後は・・・」

 

 私は考えて一度台所を覗いて何かないかと色々探すことにした。

台所に寄るとずいぶんと綺麗にされていて感心すると

近くにあった桶に水を汲んでタオルを浸した。

 

「よしっ」

 

 桶を持ちながらこぼさないようにゆっくりと運んで

アリスちゃんの前に来ると膝をついて。

桶の上で濡らしたタオルを強めに絞った。

 

 氷がないからすごく冷たくはできないけど

無いよりはマシだろう。

 

 ゆっくりと熱が籠った彼女の額に絞ったタオルを広げて

畳んだものを乗せる。

 

「ん…」

「アリスちゃん苦しそう・・・」

 

 妖怪になってもまだこういう苦しみはあるようだ。

魔法使いは獣系の妖怪と違って体は丈夫じゃないから。

何だか人間の時の幼いアリスちゃんを私は思い出していた。

 

 手を繋ぎながら楽しく話している実の親子のように

過ごしてきた日々を…。

 

 

 思い出してる内にアリスちゃんの意識が戻って私の姿を

捉えると私は慌てて手を振って苦笑して弁解をする。

 

「ち、違うの。アリスちゃんにちょっと会いたくなって!

邪魔だったら帰るから」

 

 慌てるようにその場を立つと私の腕を娘は掴んできた。

 

「もう少し居て…」

「え…」

 

 居ての後に微かにママという言葉が聞こえた気がしたけど

気のせいだろう。昔と違ってもう貴女は大人になってしまったから。

 

 実の母ではないけれど、子供のころから見てるから

すっかり私の中では自分で産んだ子だと思えるくらいは愛情が

あった。

 

 そこは神としては失格な気がしてならない。

 

「アリスちゃん、安心してね」

「うん…」

 

 もう一度寝るまで見届けると、着替えと料理の準備を始めた。

先に着替え用の下着と寝間着を運んで着替えやすいように

傍に置いておいた。

 

 その時、スーッスーッと静かで穏やかな寝息が聞こえて

ホッと胸を撫で下ろした。あまりに寝苦しそうだと可哀想に感じるから。

 

「アリスちゃん、ママがんばるからね」

 

 夢子ちゃんでも呼べばもっと適切な教えてくれそうだけど

来るまで少し時間かかるし、しばらくやれなかった家事を

してみたかった。

 

 ごはんの時間までまだ余裕がある。少し掃除でもしようかと

振り返ると、アリスちゃんの手作りの人形たちが整列してある

棚に目がいった。

 

 近づいてみるとプロが作ったように精巧で大切にしているのが

見ていてよくわかった。ずっと薄暗いこの家で、灯りらしいのは

立ててある蝋燭くらい。

 

 興味が出た私はアリスちゃんが小さな頃からしていたように

魔力の糸を指先から伸ばして人形に取り付けた。

 

 人形は拒むことなくそれを受け入れて私が念じて意識を

人形に移すと人形は簡単に私の思うように動いてくれた。

 

「これは楽しいわね」

 

 この技法を教えられるのは私か夢子ちゃんくらいの

力がないと無理だろう。

 

 私の家に巫女たちが侵入してきてから使っていたこの力。

貴女は大事にしていてくれたのね。

 

 そう思うと胸から熱い気持ちが込みあがってきた。

 

「さて、お掃除でもしましょうか」

『シャンハーイ』

『ホーラーイ』

 

 人形たちは掛け声を上げて近くにある掃除用具にそれぞれ手を伸ばして

掃除を自動的に開始した。

 

 作ったときにそういうプログラムでも埋め込んであるのだろう。

別の棚からは危なそうな気配をかんじるからそれだけは

動かさないようにした。

 

 なんていうか、直感からして爆発しそうな人形だったから。

 

 それからしばらくして、綺麗になった部屋を見渡して

満足いくと今度は料理を始めることにした。

 

 台所を調べて、少し古びた野菜と少量のおこめを発見。

おかゆでも作ろうか。

 弱った体には柔らかくて温かいものがいいだろうし。

思い立ったらすぐ実行。

 

 小さなお鍋を取り出してコンロに火をつける。

火をおこすのは面倒なので私の魔法から使わせてもらった。

生米を入れて水を張ってしばらくは様子を見る。

野菜は調味料を加えて煮ものにしてみた。

 

 味見はしたけれどなかなかの出来であった。

私は満足気に料理を持ってベッドへ向かうとアリスちゃんは

上半身を起こしてボーッとした眼差しを私に向けていた。

 

「ごめんね。勝手に入ってきちゃって」

「ううん…」

 

 元気がない。これは相当研究にのめりこんでいたなと察した。

魔法使いはあまり食料は必要としないと聞くが

何かしら口にした方が元気になる気がした。

 

「美味しくなかったらごめんね」

「ありがとう」

 

 私からお皿を受け取るとアリスちゃんはゆっくりと

おかゆを口に運んだ。

 

「美味しい…」

 

 すると嬉しそうな表情とは違って涙が徐々に溢れてくるのが

見えた。私はアリスちゃんのベッドの端に両腕を置いて

上目使いで娘の顔を覗きこんだ。

 

「もし良かったらいつでも帰っておいで。みんなアリスちゃんに会いたい

はずだから」

「うん…」

 

「もう私たちは貴女を縛るつもりはないわ。気軽に遊びにきてね」

「うん…」

 

「それと、魔女と居るときの貴女はとても輝いてる。

もし風邪を治したら会いに行くことを優先しなさい」

「え・・・?」

 

 私の最後の言葉に耳を疑ったのか驚いた顔をして私の顔を見た。

 

「私はいつだって娘の幸せを願ってる。

なんだかんだで私はあのパチュリーって子を信頼してるのよ」

「母さん」

 

「でも親だからね。かわいい娘がとられるのはやはり寂しいのよ。

許してね」

「ありがとう」

 

 それから二人で長い間話をしていて、アリスちゃんが寝るのを

見届けると額に触れて熱を測った。

 

「もう大丈夫ね」

 

 あまり長居しても仕方ないから、と言って出ようとしたが袖を掴まれて

動けなくなった。

 

「もう少し居て・・・」

 

 寂しそうに呟くアリスちゃん。熱っぽくて潤む目が愛おしくて抱き締めたくなる。

本当はこれは私のすることじゃないかもしれない。

 

 でもアリスちゃんの彼女さんも病気がちだし。そういう子に任せるのも

気が引けてしまう。

 

「しょうがないわね」

 

 本当は一緒にいたくて仕方ないけど、夢子たちが言うように子離れを

しなくちゃいけない時が来るのだろうか。

 

 眠りについたアリスちゃんの顎の下を指で愛でるように撫でながら想う。

 

「ママ・・・」

 

 いや、いちいち私の気持ちをキュンキュンさせるアリスちゃんが悪いんだ!

今の言葉で鼻血が出そうになるのを堪えて私はいつまでも飽きることのない

アリスちゃんの寝顔を、断腸の思いで中断させて家を出た。

 

「しっかりね」

 

 アリスちゃんの様子を見たり、からかおうとしたけど。

予想外のことで予想外の萌えも得られたのはよしとする。

 

 これだけすればアリスちゃんはちゃんとした子だから

後は自分で出来るでしょう。名残惜しく家を見ながら私は背を向けて飛んで

魔界へと帰った。

 

 

 後で勝手に抜け出したことを夢子ちゃんに怒られて

溜まった仕事を山のように積み上げられたのは言うまでもなかった。

 

「ふえぇぇぇ!夢子ちゃんの鬼いいいい!」

 

 私の叫びは虚しく響きながら、大量の書類を終わらすまで解放されることは

なかったのだった。

 


 
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