No.573822

双子物語-46話-

初音軍さん

これからの話とまとめた話。進路についてどうするか、考える双子。理想は現実となれるのか。その時になったらどう受け止められるのか。そういうのを考えた話です。ちょっとばらけてますが(笑

2013-05-06 23:25:33 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:365   閲覧ユーザー数:359

 

 

【彩菜】

 

 夏休みが終わって普段と同じ、日常に戻ってから私は気が抜けたように部屋の窓を

開けて縁に肘を乗せてからその上に顎を乗せて窓からの景色を眺める。

 

 お爺ちゃんの別荘ではなく実家に戻ってるから見えるのは住宅ばっかりだったが

私は目から入る景色はまったく頭には入っておらず、別のことを考えていた。

 

 その内容は高校を卒業してからのことだ。まだ2年の私にはちょっと早いかなと

思いつつも、それが実現したら私の気持ちは最高潮に達することができるだろうと

感じていた。

 

 しかし、それが現実のものとなるには自分の中で行動するための自信と決意に

確かなる強さを感じることができずにいた。それは前に私が起こした件がきっかけ

なのだけど。

 

 トイレに行こうと廊下を出ると階段を下りてる途中の母さんを発見して

私も後を追って声をかけた。

 

「母さん、ちょっと話があるんだけど」

「なに? 彩菜が相談って珍しいわね」

 

 相変わらず余裕のある笑みを浮かべて私と向き合い目を合わせると脳裏に

昔雪乃に酷い目に合わせた日のことを思い出して一筋の汗が流れる。

怖いのか、暑いからなのかはわからなかったけど。もう私は逃げたくはなかった。

 

「卒業したらしたいことがあるの」

「ん?」

 

「私、雪乃と同じ大学行って!別の住まいで二人暮らししたいの!」

 

 言ったった。

 

 前に雪乃ともみくしゃな状況になった時に地獄を見るような恐怖を思い出し。

手が汗ばんで軽く震えが来ていた。が、返ってきたのは予想外の言葉だった。

 

「そういうのは本人に聞けばいいのに」

「え・・・?」

 

 想像にもしなかった穏やかな表情で笑っていた。

あまりにびっくりして私は阿呆な顔をして母を見つめていた。

 

「どうして?」

 

 聞き返す私に母は「何を当たり前なことを」と言われる。

こういうことは当人同士で話し合って決めれば問題ないと言われて

私は昔のことを掘り返して聞いた。

 

「あれは彩菜が雪乃を傷つけそうな勢いだったし。母として娘の身は守らないと」

 

 言った後。家事に戻ろうとして一度立ち止まる母は振り返ってひとつ付け足してきた。

 

「この2年間。彩菜はずいぶんと成長したと思うし。私は彩菜を信頼してる。

その期待を裏切らないようにね」

 

 姿が消えるまで見届けた後にさっきの言葉を反芻するように頭の中で

響かせていた。

 

 私のことを信頼している。

 

 私も…大事な妹をもうあんな目には合わせたくないって痛いほど感じた。

 

 拳を強く握り締めて俯いていた顔を上げ、頷いた。

そして雪乃と連絡をするために携帯を手に取った。

 

 

【雪乃】

 

 学校は休みで特にやることはなく、体調もあまりよくなかったから

私はベッドで横になって眠っていた。

 

 すると枕元に置いてあった携帯がブルブルと震えだした。

呼び出しか。母だろうか。

 

 傍にあった携帯を手にとってだるそうに起き上がり、確認をする。

そこには彩菜の名前が表示されていた。メールではなく電話のようだった。

 

「もしもし」

『雪乃!』

 

「どうしたの?」

『ちょっと聞いて欲しいことがあって…』

 

「うん…」

 

 彩菜のことだからおおよその見当はついていたが、私が思っていたより

だいぶ先の話を持ち出してきた。

 

「卒業してから…」

『そう、一緒に暮らして欲しいんだ』

 

 今の言葉だけ聞くとちょっとしたプロポーズに聞こえなくもない。

これを春花が聞いたら狂喜乱舞しそうな気がする。

 

 前のことを思い出したけれど、だいぶ時が経ってくれたおかげで

落ち着けることができた。むしろそれを思い出して辛いのは彩菜の方かもしれない。

 

 彩菜は私と違って心が繊細だから。

それにそれを聞いて嫌な気持ちはなかったから私は自然な気持ちで答えていた。

 

「いいよ」

『そっかー、だめかー…え!?今なんて』

 

「だから、いいよって。一緒に暮らそうか」

『え、嘘!? ほんと!?』

 

「嘘つく必要ないでしょうが」

 

 あまりの反応に思わず笑ってしまう。どうやら姉からしたら断られるのが前提

みたいな考えだったのだろう。あまりにあっさり了承したから驚いたらしい。

 

 それにしても心臓に悪そうな喜び方である。

あっ、電話の向こう側で母が彩菜がうるさくて怒られてるのが聞こえてきた。

なんだか家に戻ってきたような気がして気持ちが和んでいた。

 

『怒られたから切るね~』

「うん」

 

 元気がなくなった声と共にプツッという音がして聞こえなくなった。

私は仰向けに寝転がると目を瞑り、腕を目の上に当てるように乗せて笑いを堪えていた。

気のせいか袖の部分が濡れてきた気がした。

 

 

 

 気がつくと部屋の中の色合いが変わっていたような気がした。

どれくらい寝たのだろう。体の疲れはそこそこ癒されていたが、少し気だるかった。

 

「おはようさん」

「瀬南…」

 

「この時間におはようもおかしいか」

 

 ルームメイトがおかしそうにケラケラと笑って言う。

私の方は笑うことはなく口角を上げて頷いていると、私の気持ちに気づいてか。

私の座っている近くまで来てから瀬南は隣に座る。

 

「何かあったん?」

「別に…」

 

 一年ほどしか一緒にいないのに本当によく見てくれている。

その気遣いは嬉しかったから、言葉を濁した後に終わらせないように

次の言葉を発した。

 

「ねぇ、瀬南。卒業後、仲が良い子たちとバラバラになって寂しいとは

思わない?」

「はい?」

 

「何となくそう思いついて」

「ふむ…」

 

 少し考える素振りを見せてから、瀬南は再び笑顔になって返してきた。

 

「そりゃ寂しいよなぁ~」

「…」

 

「でも、人生なんてそんなんの繰り返しやし。私は慣れたなぁ」

「そういえばそうか」

 

「あ、でも…」

 

 一度私から視線を外して天井を見ながらそういう会話をしていると

ふと、顔をもう一度私に向けて目を再び合わせると。

 

「ゆきのんから離れることになったら、しんどいと思うわ」

「瀬南…」

 

「でもまあ、まだ先のことやしな。今から考えても意味ないわ」

「それもそうね」

 

「ゆきのんはそんなことより、来年の生徒会のことを悩んでた方がええわ」

「そういえばそんなことあったわね…」

 

 本気で忘れていた。

そんな私を呆れ半分楽しさ半分の複雑な表情で見ている瀬南。

 

「そんな大事なことを忘れられるなんて、ゆきのんは大物やね」

 

 返す言葉もなくて私は苦笑をしてこの話題を切り上げた。

確かにこの先のことを考えると今この話をするのも場違い過ぎであった。

 

「じゃあ、私少し用事があるからもう少し寝てな」

「うん」

 

 瀬南が出ていくまで見届けると私は布団をかけて目を閉じた。

夏休みの疲れが出てるのか、すぐに眠りに就くことができた。

 

 

「あっ、先輩。体調は大丈夫ですか?」

 

 次に起きた時は寮での食事の時間の半分を過ぎていた。

私は食堂に足を向けると、嬉しそうな顔をしながら心配そうな言葉を

かけてくる。

 

「まぁまぁかな」

 

 お礼を言った後に感想を述べる。完全に回復とまではいかなかったが

ご飯が食べたくなるくらいには元気になったから問題はないだろう。

 

「これから一緒にどうです?」

「まだ食べてなかったの?」

 

「はい、先輩と一緒に食べたくて」

 

 この可愛い発言である。

 

 私は叶ちゃんのこの真っ直ぐさが好きだ。

付き合うようになってからは一気に距離が縮んだような気がして

気楽に話せるようになっていた。

 

 ただ私の方は良いけど叶ちゃんは生真面目というか恥ずかしがりやというか。

付き合ってる状況なのにキスもほとんどないのが少し寂しかった。

 

「先輩、浮かない顔してますけどどうかしました?」

「ちょっと食の進みが悪いかな?」

 

「はぁ、でもその時点で3人前以上は食べてますよね」

 

 考えてることとは違って食べてる量はいつものように多め。

普通より大盛りに設定されてる私の名前がついた丼で3杯である。

普通の女子と比べたらもっと多いくらいだろう。

 

 叶ちゃんも運動してるからかなり食べる量は多い方だから

そういう感覚なのだろう。

 

 私がこの学園に来てからというもの、次々と大盛りメニューの名前に

私の名前がついてくるのは、今までこんなに食べた子がいなかったからだろうか。

ちょっと気恥ずかしい。

 

「悩みがあったら何でも聞きますから!」

 

 叶ちゃんはとても綺麗な笑顔を向けて私を見ている。

まさか私が彼女の恋愛が消極的なことを考えてるとは思いもしないだろうな。

私も積極的じゃないほうだからこれでも割と満足はしているけれど。

 

 食事が終わり、二人は途中で分かれて部屋へと戻った。

 

 

 学校がある日。授業をこなして部活へ向かう最中に夏休みでの先輩の言葉が

脳内で蘇った。

 

 私は選択を決めきれないまま、日々を過ごしている。

果たしてこれでいいのだろうか。

 まだ半年はあるけど、逆にいえば半年しか時間は残されていない。

 

 部室の前まで歩いてきて静かにドアを開けると部室はガランとしていた。

ここに来た頃の私の心の中によく似ていると思えた。

 

 しかし、それも周りのおかげで少しずつ色が足されていってどんどん賑やかに

なっていった。一度ぬくもりを知ってしまうともう昔には戻れない。

 

 私は彼女達に感謝をしている。だったら可能な限り手伝ってもいいのではないか。

もっと相応しい人材が現れるまでは。

 

 先輩の卒業、生徒会のこと、彩菜との卒業後の話。これらがごっちゃになり

整理しきれずにいて、つい口から言葉が漏れてしまう。

 

「消えるって寂しいことだね…」

「先輩?」

 

「あっ、叶ちゃん」

「消えるって何でしょうか。先輩は、いなくならないですよね」

 

 いつの間にか私の目の前にいた彼女の言葉は私が卒業するまでの間という

意味で言ったのかと思っていた。

 他の誰もいない静かな空間で二人並んで、いつもの和やかな空気とは違った

しんみりとした雰囲気になっている。

 

「大丈夫よ。いなくならないわ」

 

 何も考えずに気楽にそういう言葉をついた。だけど、彼女にとってのその確認は

私が思っていたより深く根深いものであったことはだいぶ後のことになって

知ることになる。

 

 ともあれ、その場はそれで治まって私達は微笑みながら部の活動に入った。

やるのは二人での共同の作品作り。お世話になった先輩のためにみんなで意見を出し合い

製作を二人で行っている。

 

「今日はみんな遅いわね」

「そういえば、今日はみんな忙しいそうで先輩が来る前に帰っちゃったんですよね」

 

「そういうことは早く言おう」

 

 思い出したように言うものだから大したことじゃないんだろうけど、

一応叶ちゃんにそういうと、恥ずかしそうに謝っていた。

 

 特に何かあったわけではないけれど。久しぶりにのんびりできた日常が

送れて心身共にリラックスできた。叶ちゃんと手を繋ぎながら寮への道を歩きながら

だらだらとお喋りして。

 

 こういうことが幸せなことなのかもしれないと、再認識する私だった。

 


 
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