No.572651

人類には早すぎた御使いが恋姫入り 五十五話

TAPEtさん

これで1部を終了。
この次の解説編を別で置きます。
愚痴ってたら長くなりましたが良ければそちらもどうぞ。

2013-05-04 00:25:37 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:4179   閲覧ユーザー数:3347

以後、董卓によって書かれた宮中の日誌にはこう書かれた。

 

劉玄徳が探索隊を送った後、陛下より青州、冀州、并州の3州を任され『公』の爵位を与えられる。

元袁紹軍の兵が飢えていたため劉備軍の兵糧を分けるが量は少なく三日も凌げない。

 

翌日、洛陽城から四方5里に降り注がれた大雨が止む。

探索隊が天の御遣い、北郷一刀と典軍校尉の曹孟徳を連れて帰ってくる。

北郷一刀は目を覚まさず洛陽に居た人々が嘆いた。

連合軍を集めた袁本初は宮殿の地下で頭を貫かれ死んだまま発見され、その姿を見た者達が皆その非道い死に様を見て恐れた。

 

兵糧を得るために虎牢関の連合軍のところへ陛下自ら虎牢関へ向かわれる。

劉玄徳と曹孟徳、董仲穎がお伴した。

 

虎牢関で連合軍の中で内紛が発生。残っていた袁紹軍の兵が壊滅され、袁紹軍が持っていた兵糧の約半分が燃やされる。

虎牢関にいた連合軍の諸侯たちが陛下の前に礼を示す。

連合軍の盟主袁本初が既に死し、他の諸侯たちが袁本初の虚言によって集められたものと訴えたため反逆の罪は問わず見過ごす。

 

しかし、勅書を燃やしたり、内紛を起こして罪のない民たちの血を流したことで袁公路、曹孟徳の軍師荀文若、孫文台の娘孫伯符が咎められる。劉玄徳と董仲穎の進言があったため、荀文若と孫伯符の罪は赦されるも、袁公路は道理を犯した罪を問い与えられた位を取り上げる。

涼州牧馬騰の娘、馬孟起と幽州牧公孫伯珪は咎められるも義を以って行ったことが認められ赦される。

以後袁本初が燃やした勅書を袁公路を除いた各諸侯たちに再度与える。

既に勅書を持っていた孫伯符にはその勅書の印章を明らかにすると諸侯たちは袁本初の蛮行に再び身を震わせた。

 

残された袁紹軍の兵糧を劉玄徳に任せ残された袁紹軍の兵を率いるように命じる。

残された兵たちは袁家の私兵でなく冀州で集められた民草であるため劉玄徳には彼らを率いる真っ当な資格がある。劉玄徳が受け入れたこの袁紹軍の兵の数、実に4万を超えた。都を修復するための資金を集めるために、袁紹軍の鎧を全て回収して国庫に戻す。

 

勅書を受けた諸侯たちは劉玄徳、曹孟徳を除いて己の領地へと戻る。

袁公路も自軍を率いて予州に戻る。

これをにて袁本初によって作られた反董卓連合軍は解散となった。

 

陛下が曹孟徳に丞相の任を与えるも曹孟徳が天の御遣いが目覚めるまで任を正式に受けることを拒むため保留にする。

 

これらが行われた10日間、北郷一刀は目を覚まさなかった。

 

 

皇帝SIDE

 

「華陀?」

「うむ」

 

燃やされた洛陽城の前に劉備軍と曹操軍が共同で敷いた陣地の余の臨時居所にて、曹孟徳と劉玄徳が居る場で余は言葉を述べた。

 

「華陀は本来で五斗米道(ごとべいどう)を起こした張魯の門下に居た者で、医術に才能がありその才で敵と味方を分けずそこに治すべき病を持った者が居る場所に現れてその才を施す天才で有名です」

「聞いたことがあるわ。河北で黄巾党が活発であったころ、西涼では五斗米道があって民草から米をもらい自分たちの道を信じるようにしたとか…」

「話だけ聞いたらない民から米を奪ったように聞こえますが、実際は裕福な人からそんな入道のための対価に支払わせてその米を使い飢える民草へ救恤を行うなど善行を施しました」

「へー、良い人たちなんですね」

「それで、その華陀という者が居たら、一刀が助かると、そう仰るのですか」

 

曹孟徳は己の体も丈夫ではない状態で一日の大体の時間を北郷一刀の側に居ることに遣った。

典韋と楽進などの将が北郷一刀の看病を続けていたが、北郷一刀は未だ目を覚まさず、やっと命だけを保っている状態であった。

そしてそんな日々が続いていることに曹孟徳は不安な感情を隠せないほど気が立っていた。

 

「確信はないが、既に北郷一刀が気を失って十日が過ぎた。気力を補充するために辛くも色んな薬剤を得て使ったが好転する様子もない。華陀という者の能力が本物であるなら彼を助けることが出来るやもしれない」

「じゃあ、その華陀さんっていう方がどこに居るか知っているんですか?」

「…怪我人を探すために放浪する人なため、定められた居場所が居るわけではありませんけど、五斗米道の総本山である漢中に人を出しています。そして運が良ければ華陀自らここで戦があったことを知り訪れるかもしれません」

「どこに居るかもしれない者、いつ探せるかもわからない者に一刀の命を託すつもりはありません。私は私なりの考えがありますのでこれで失礼致します」

 

そう言い捨てて曹孟徳は先に席から立った。

 

「そ、曹操さん」

 

劉玄徳が曹孟徳を呼んだが、曹孟徳は答えず天幕を出た。

 

「…すみません、陛下」

「玄徳が謝ることではない。それに余や月も孟徳の気持ちが分からぬわけではない」

「判っています。だからこそ曹操さんにその事を知らせようとしていたのも…」

「実は一刀さんを探した直後もう華陀さんを探すために手配していたのですが、なかなか見つけることが出来ませんでした。本来なら見つけた後に知らせるつもりだったのですけれど…」

「…それにしても曹孟徳の様子が心配でならない」

 

曹孟徳は北郷一刀の心配に余念がなかったが、曹孟徳本人も決して丈夫な状態ではない。安定しなければ己の身も壊しかねない。

だからこそ曹孟徳には安心して己の身を見て欲しかったが本人は頑固で聞こうとしなかった。

 

「…私たちももうそろそろ平原に戻らなければいけません」

 

劉玄徳は河北に戻らなければならなかった。

既にここに長く居続けるほどの兵糧もなかったし、何より彼女には袁家を潰して河北の覇権を握ってもらわなければならなかった。

河北の袁家をこのまま残しておけばまたいつでも余とこの国の安寧を脅かすであろう。

北郷一刀も劉玄徳の器を高く評した

だからこそ劉玄徳にはこの位を与えたのだ。

そして余自ら見た劉玄徳も、確かに並ならぬ人間だった。

 

「出来れば一刀さんが目覚めるまで待っていたかったけど、流石にもう限界です」

「玄徳の気持ちを分からぬものではない」

「はい、ですけどこれ以上ワガママを言っているわけでもいきません。他の娘たちにも今日中に平原に戻る準備をするようにと伝えています」

「…余たちに出来ることがあればなんでも言ってくれ」

「構いません。これは一刀さんが私にくれた新しい試練なんですから。私の力で切り抜きたいと思います」

「…それのことですけど、劉備さん、宜しいでしょうか」

「ふえ?」

 

その時、月がそう言っては私の方を向いた。

 

「陛下、申し訳ありませんが、これを機に私、陛下の側から離れようと思います」

「なっ!」

 

私は突然の月の言葉が詰まった。

 

「何故…」

「劉備さんのことを見て判りました。今回の件、私のワガママのために一刀さんがあれほど犠牲なさったにも関わらず、結局多くの人たちが死んでしまいました。しかし洛陽に居た人たちは劉備さんと曹操さんのおかげで死なずに済みました。それで私は判りました。本当に人々を救いたいと思うのなら、その人たちを同じ場所に立っていなければならないって」

「月……」

「だから、私は劉備さんと一緒に河北に行こうと思います。少しでも多くの人たちを助けられるならそれが私の本望です」

「……そうか」

「本当に申し訳ありません、陛下」

 

月は深く頭を下げたが、

 

判るか、月。

 

あの時長安へ向かう途中で洛陽に戻ろうとしていた時からこれを予感していたのだ。

誰も死なない日を願ったそれがお前のワガママならば、何があってもお前とだけ一緒に居たいと思ったのが余のワガママだったのだ。

 

「月の思いがそうであるなら余は何もいうことはない。玄徳、月のことをお願い出来るか」

「構いません。仲間が多く居たら居るほど良いですから」

「月の将の呂布と張遼は戦場に立てば二人とも万夫不当で、軍師たちも皆有能だ。特に賈詡は月の側でいつも月を支えてくれていた。きっと頼りになる」

「…ありがとうございます」

「少し余に時間をくれないか。最後に月と二人きりに居たい」

「はい…では失礼します」

 

劉玄徳が礼をして天幕を出ると余は月を見た。

 

「『相国』の位は返上致します。しかし、どこに居ても陛下を想う心は変わらないでしょう」

「…月」

「はい」

「この広い天下にて、母と姉たちを失った余はいつも一人だった。そんな余に…お前は唯一の親友であった。それはこれからも変わらない」

「陛下……」

「どこに居ても……余のことを…わす…れ……」

 

それ以上流れようとする涙を耐えられなかった余は顔を月の胸に埋めた。

 

「陛下…」

「月……月……」

 

余と月はそうやって残った時間をそうやって…一緒に泣きながら過ごした。

 

 

雛里SIDE

 

北郷さんを見つけて今までずっと楽進さんと典韋さんが交互に面倒を看ていましたけど、今日回軍するということで今回だけ典韋さんに場を譲ってもらいました。

 

北郷さんは最初に見た時よりは血色が戻っていました。

楽進さんと典韋さんが昼夜もなく側で看病したおかげです。

そして曹操さんもほぼ一日中北郷さんの側を離れず看病していました。

今はちょっと出かけているみたいです。桃香さまも一緒に呼ばれて行きました。

 

「……」

 

顔色は最初の時の屍のように見えた時と比べればすっかり良くなりましたけど、それでもまだ目を覚ますことはありません。

天はどうしてもこの人を自分たちの元へ連れて行くつもりなのでしょうか。

私たちの願いに応えてくれた対価とでも言うのでしょうか。

 

そんなことを考えてたら、私たちが居る天幕に風が入るのを感じ振り向きました。

 

「何故あなたがここに居るの」

「曹操さん…典韋さんに今回だけ変わってもらいました」

「そう…あなた達は今日戻るらしいわね」

「…はい」

 

出来れば北郷さんが目覚めるのを見てから帰りたいのですけど、桃香さまもそれを我慢して皆に帰ると言っているのに私だけワガママを言ってるわけにもいきません。

 

「少し退いて頂戴」

「あ」

 

曹操さんの手にはただいま造ってきたのかまだ少し湯気が立つ薬湯を持っていました。

私が席を譲るとそこに座った曹操さんは持ってきた薬湯を匙で掬い冷やしてから少しずつ北郷さんの口の中に入れました。

こうして十日間、曹操さんたちは一刀さんの面倒を見ていたのです。

特に曹操さんは自分の体のことは気にもせず一刀さんの看病に励んで他の将たちを困らせていました。

 

「あまり無理をして倒れてしまっては、後で北郷さんが起きては自分を責めるかもしれません」

「黙りなさい」

 

曹操さんの低い声に私はビクッと体を震えてました。

 

「あなたは自分が大切に思う人が死の境を渡ろうとしてるのに自分の体のことなんて考えられるの?何も判らないなら黙っていて頂戴」

「……」

 

判らないわけがないと反論しようとしましたけど、ふと言葉の重みが違うということに気づいて口を閉じました。

きっと荀彧さんや他の人たちもこんな曹操さんの様子にそれ以上何も言えず引き返したのでしょう。

 

これ以上ここに居ても、看病の邪魔でしかならないようです。

 

「…失礼します」

「……」

 

最後に北郷さんの顔を少し離れたところで見た私は、外の風が中に入らないように小さく入り口を開いて素早く外へと出ました。

 

「……」

「あわ」

 

そしたら天幕の前にかの呂布さんが立っているのを見ました。

 

「……」

「…あ、あの…入らないのですか?」

「…恋はここに居る」

 

私が聞くと呂布さんはそう言って何もせずただ天幕の入り口を黙々と見つめていました。

気になりましたが、これ以上長居する必要もなかったので、私は自陣に向かって脚を運びました。

 

「……」

 

 

春蘭SIDE

 

「あんときウチの部下のうち一人がアンタに撃とうとしてたんや」

 

陣の端、突如現れた董卓の武将、張遼が私を呼び出した。

話したいことがあると言ってついていってみる突然張遼は虎牢関で私と対峙していた時の話を始めた。

 

「あんときアンタに掠った矢は北郷アイツが撃ったもんやったけど、ウチの部下が射た奴がもし立っていたアンタに当たってりゃアンタの脳天貫いとる」

「アイツが私を助けるためにわざと私の脚を狙って矢を撃った。そう言いたいのか?本人がそう言ったのか?」

「いや、言っとらんが…ウチはそんな風に感じた。その証拠にウチが北郷を連れて逃げてる時あんなこと言ってたし」

「あんなこと…とは何だ?」

「…『借りは返したぞ、夏侯元譲』ってな」

 

借り…?

私がアイツに貸しなんて作ったことなどあったか…?

……分からん。

 

「覚えてないのか」

「全くない。そもそも私がアイツを助けることなんてするわけがない」

「そうか。でもそれなら何で北郷はそこまでしてアンタ助けようとしたん?おかげであんたの妹に殺されそうになったやろ」

「……」

 

秋蘭。

あいつは今頃陳留に居るだろう。

私は…あいつに何もしてあげることが出来ない。

私は華琳さまの覇道のために忠誠を誓ったのだ。

それを邪魔する者ならそれが実の妹だとしても…許しはしない。

 

「どうした、惇ちゃん、元気なさそうやな」

「べ、別に…なんだ、その惇ちゃんとは」

「今考えたアダ名、ええな、即興で考えたけど。惇ちゃんって」

「貴様、ふざけてるのか?虎牢関での続きがしたいのか」

「おお、ええな。ウチはいつでも構わへんで。あん時は中途半端に終わっちゃったからな」

「……ふん!」

 

今騒ぎなど起こしては華琳さまの気が散る。控えよう。

 

「何や。やっぱり元気ないな。あんときの調子の良いアンタはどこ行ったん」

「華琳さまがあんな様子なのだ。元気で居られるわけがあるか」

「まぁ……そりゃあなあ。恋もすごぶる心配してるみたいやったし」

「あの呂布が?何故アイツを…」

「あぁ、それがちぃっと話しにくいんだけどな……」

 

 

「こら、沙和。しっかり捕まえてぇな」

「うぅ…思ったより重いの、凪ちゃん」

 

そんな話をしているうちに向こうで真桜と沙和が現れた。

 

…なんだ、ありゃ。

 

「おい、お前ら、何をしている!」

「あ、春蘭さま」

 

何で二人で倒れた凪を運んでいるんだ?

 

「アイツはなんでまた倒れたのだ」

「あぁ…これ実はウチらが眠らせたんや」

「最近凪ちゃんが無理しすぎてるみたいだったから…休んでって言っても全然聞いてくれなくて…」

「二人で相談して眠る薬飲ませて眠らせちゃったんよ。だから今部屋に運んでるっちゅうこと」

「お前ら…とんでもないことするな」

 

後でそいつが知ったら大暴れするぞ。

 

「怒っても仕方ないで。ウチらはウチらなりに凪のこと考えてるんやからな」

「そうなの。隊長の看病で凪ちゃんが倒れちゃったと言われたら元モ子もないの」

 

確かにこいつらが親友を想う気持ちも判らなくもないが、今の凪からすると、そんな友達の気遣いさえも面倒なものに思えるかもしれない。

少なくとも今の華琳さまはそんな風に見受けられた。

 

でも…

それでも……これが親友としての立場で行動か

 

「判った。さっさと部屋に入れろ。外は寒いからな」

「わかってるのー」

「じゃあ、ウチらはいくでー」

 

二人はそのまま凪を連れて行ってしまった。

…私も行くか。

 

「話は終わりか、張遼」

「あ、うん…あぁ、それとな」

「じゃあ、私はもう行くぞ」

 

私は行きたいところがあった。

 

 

華琳SIDE

 

……最初の時よりは大分良くなっている。

だけど目覚めるまでは安心できない。

 

彼の体はしっかりと回復しているはずだった。

だけど、なんというのかしら。

まるであの世からの使いが彼を連れて行こうと引っ張っているような…

そんな気分がする。

私を彼から離れさせようとする何かを感じる。

 

だからもっと離れたくなかった。

春蘭や桂花が何と言っても聞かなかった。

目を離した瞬間、彼が消えてしまいそうで…怖かった。

 

……

 

「…誰なの?」

 

あまり人が出入りすると外の寒い空気が中に入ってきて良くない。

 

「私です」

 

春蘭ね……。

 

「何故あなたがここに来たの」

「華琳さまを見守るためです」

「…私のことは大丈夫だと言ったはずよ」

「はい、ですが、ここで見守らせてください」

「……」

 

駄目と言おうと思った私は、ふと彼女の声が震えていることに遅くも気づいた。

そう、気づくのが遅かった。

考えてみると、もう大分前の話だった。

 

春蘭が泣きたくもなるものだった。

私があまりにも自分のことしか考えてなかったあまりに……。

自分が誰か忘れていた。

 

私は彼女の方を振り向いた。

 

「春蘭」

「はい」

「……おいで」

「…はい」

 

春蘭はそう応えて私が座っている椅子の近くに来てそのまま膝を付いて私の膝の上に顔を埋めた。

私はそんな春蘭の頭を優しく撫でた。

 

「秋蘭のことはごめんなさい」

「……」

「でも私も他に道がなかったわ」

 

彼女の行動を黙認した上では、一刀のことを考えずとも、この軍はもう私の理想を叶えるような場所ではない。

 

…と、思っていた。

 

「もし、私が私の覇道を曲げてでもあなたの妹を許すと言ったのなら、あなたは私が彼女を犠牲にする方を望んだかしら」

「……私は…華琳さまだけのモノです。例え華琳さまがどんな事をなさるとしても、私は貴女のために剣を振るいます」

「……」

「だけど、時々華琳さまがこうして悩まれてる時に…何も出来ない自分を思い返してみると…情けなくて…頼りなくて…死にたいほど悔しいです」

「…ごめんなさい」

「華琳さまのせいじゃありません」

「いいえ、私のせいよ」

 

私は両手で春蘭の顔をそっと優しく寄せ上げて目を合わせた。

春蘭の顔はもう涙で酷いことになっていた。

 

「私があなたが信じてる私より強くないからこうなったのよ」

「華琳さま……」

「そして、あなたも私が思い込んでるほど強いだけではない。そういうことよ」

「……」

「辛かったわね。ごめんなさい」

「華琳さま……うわあああぁん!!」

「はい、はい……」

 

春蘭は泣いた。

春蘭が私に怒られたことが悲しくて泣いた以外に私に泣き付いたことなんて何時ぶりだろう。

いつも戦場では凛々しくもいつもたくましい春蘭も、何事にも一騎当千の英傑のように振る舞えるわけでもなかった。

 

私は何も言わず春蘭の頭を撫でた。

 

こんな弱くなった私でも、

それでもあなたは私を頼ってくれるのね。

 

可愛い娘。

 

「春蘭」

「……」

「ありがとう。貴女みたいな娘が側にいてくれて私はとても幸せよ」

「華琳さま…」

「これからも私の側に居なさい。ずっと…」

 

一刀さえいれば他には何も要らない…そういうわけではなかった。

今の私が居るのはこの娘たちの頑張りがあったから。

この娘たちが居てくれなければこれからの私も存在しない。

これからもこの娘たちの助けが必要になる。

だからこの娘たちがまた泣くことになったら、それは私が足りないせいになる。

彼の側で言っていた言葉たちが恥ずかしく思えるほど私のせいになる。

 

 

 

(中略)

 

 

劉玄徳が平原に向かって出発した時、董仲穎が彼女にお伴し、賈文和、呂奉先、陳公台が後に続いた。

張文遠だけは洛陽に残り陛下を守った。

翌日曹孟徳が陳留に戻ることを決めると陛下を陳留にお供して行った。

偶然だろうか。

御使いが目覚める日は曹孟徳が陛下を連れ陳留に辿り着く昨夜であった。

 


 
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