No.571709

訳あり一般人が幻想入り 第14話

VnoGさん

◆この作品は東方projectの二次創作です。嫌悪感を抱かれる方は速やかにブラウザの「戻る」などで避難してください。

2013-05-01 00:18:39 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:732   閲覧ユーザー数:720

 

 

 

「あの、咲夜さん……」

「どうかしたの? 小悪魔」

 

 レミリアを寝かし付け、自分も紅魔館内の点検し終えて自分の寝室に向かうところに小悪魔がおずおずと咲夜を呼び止める。

 

「優さんのことなんですが……」

 

 小悪魔は目線を外して暗い表情で言う。

 

「なに? またあの外来人がなにかやらかしたのかしら?」

「あ、いえ違うんです。ちゃんと働いてくれていますし、問題は一応ないんですが……」

「? はっきり言って頂戴。一体何が言いたいの?」

 

 小悪魔の引っかかるような煮え切らない言葉に苛々しだした咲夜はバッサリと返答を要求する。

 

「あの……優さんは図書館の仕事は合わないかと思います。ですから他の仕事の方に任せたほうがいいと思います」

 

 

 

第5話 自戒

 

 

 

 

 今、横谷は困難に立ち向かっていた。それが起きたのは夕食の片付けと皿洗いが終わり、咲夜から部屋へ戻る許可をもらい、自分が寝る部屋へ直行している時だった。

 

「……あれ? 何階のどこの部屋だったっけ? あぁ……なんで思い出せないし……」

 

 今日一日で色々なストレスを受け、心身ともに疲れが(うごめ)いて短期記憶が正常に動かないでいた。

 

「咲夜にもう一度……いや、やめよう」

 

 案内してくれた咲夜にもう一度尋ねようと踵を返すが、その足を止める。

 ずっと動いているであろう咲夜を探して、わざわざ戻って聞くより闇雲に自分の部屋を探したほうがいいのではないか、という考えがひとつ。

 もしかしたら咲夜も覚えてはいないのではないか、という根拠なき可能性がひとつ。

 

「教えてまだ一日も経っていないのよ? あなたの脳みそはどうなっているのかしら?」などと言われるのが嫌だから、という潜在的逃げ腰がひとつ。

 この三つが相俟(あいま)って横谷は、正規ルートではまともに動かないので迂回ルートで霞がかった記憶の答えを探しながら、自分の部屋を探しに歩き出す。

 

「ええっと、トイレ掃除したときは何階だった? 地下に行って、その後は順繰りに戻れば取りあえず四階か?」

 

 辿り着いた解答を答えと信じ、まずは四階まで上がる。だが上がってみたものの横谷の目から周りを見てここは違う、と廊下の雰囲気と感覚で決める。

 B型は行動を起こすとき、よく勘や雰囲気で動くらしい。医学的には血液型に行動は左右されないと言われているがまさにB型の人間の行動である。

 そして横谷は三階に降りたとき、これまたちらっと見渡した後に感覚でここだ、と決めて自分の部屋を探す。方法はたった一つ。

 

「全ての扉を開けよう。ここは勘よりそれが確実だ」

 

 斯くして横谷の部屋捜索が始まった。

 

 三一四番:誰もいない部屋。上着がないので違う。

 三一三番:隣と同じく違う部屋。

 W.C.:調べるまでもない。

 三一二番:誰もいない部屋。ベッドの上にメイド妖精の服が置いてあった。

 三一一番:メイド妖精がいた。

 

 「あ、すんません。間違えました」

 

 三一〇番:中二病な技名を大声で叫ぶメイド妖精がいた。

 

 「エターナルブラックシャインフレアー!」

 「……なんかごめんなさい……」

 

 三〇九番:着替え中のメイド妖精がいた。

 

 「!?」

 「わぁぁ、ごめんなさいっ! ……Dくらいか……」

 

 三〇八番:なにやら鉄の歯車がベッドの上に置いてあった。

 

 「メタル……ギア……!?」

 

 三〇七番:ベッドの上に優の上着があった。横谷の部屋だ。

 

「あぁ、疲れたァ……」

 

 横谷は心身の悲鳴を口にしながらベッドに直行し、電池が切れたように倒れこむ。

 

「いつもこんな調子なら、ぶっ倒れちまうぞ……ん~……だはぁ!」

 

 横谷は靴を脱いで枕の上に頭を置き身体を目一杯伸ばした後、頭を空にして天井をぼんやりと眺める。

 

(サンキュ、じゃ~な)

 

 不意に、魔理沙が立ち去るときの言葉が脳裏によぎった。その言葉に釣られるように図書館でのやりとりを思い返し独りごちる。

 

「なんで、アレだけのことで怒ってんだよ俺。いつものことだろうが」

 

 思い返せば、魔理沙の前に小悪魔にも質問して怒っていた。そして言い終わるとここまでするつもりはなかったと心の中で今さらの否定をしていた。

 だが謝罪はひどく素っ気無いものになってしまった、魔理沙に対しては謝罪すらもしていない。いつものように感情を出さずに受け止めていれば、親の仇のように怒ることはなかった。それでも抑えることができなかった。

 ここで一悶着を起こしたら自分の生命が危うくなるかもしれないから、事を荒立てることはしないと暗に肝に銘じていたはずなのに、それでも制御ができなかった。

 体が疲れていた、心が病んでいた。そう言われたら実はそうだったと言いたい。いつもの生活とは違うせいで心の制御ができなかった。その言い訳が通じるなら謝罪の時に言えばよかった。

 それでも自分は余程でない限り――特に紫にされてきた数々の所業――抑えられることができると自負していた。外の世界での忌避(きひ)したい経験に養われた自分は、どんなことにも心が揺れ動されることはないと自信を持っていた。

 

 なにがいつものように、肝に命じ、自負し、自信を持っていたなのだろうか。今じゃ考えて抑えるまでもない場面ですら、抑制出来ていないでいる。

 

 余計な気遣いで自分に災いが降ってくることは、とるに足らないこと。嘘を付かれることも、いつものこと。あの二人は自分を傷つけるためにしたのではない、なのに自分は二人を傷つけてしまった。自分の勝手な猜疑心(さいぎしん)のせいで。

 なんであんなに怒鳴る必要があったのだろうか。自分が言った説教は実のある説教だったのだろうか。否、どちらもなかった。頭ごなしに、ただ自分勝手の思いを怒鳴り散らしただけである。

 自分の感情を制御するどころか、相手の心を傷つけている。これでは外の世界の関わりたくない人間を演じているではないか。

 自分はいつの間にくだらない愚かな人間になったのだろうか。もしかしたら生まれてからもうそんな人間になったのかもしれない。素晴らしい人間がどういう人かはわからないが、今の自分はなりたくない人になり代わっている。

 なりたくない(やから)になって、感情リミットを解除して、言いたいことを言って、気分がすっきりしただろうか、心が晴れやかになっただろうか。

 自分の数少ない良心が働いて反省し、リミットを外した代償として体が倒れてすっきりしたと言えるだろうか、心が晴れやかになったと言えるのだろうか。

 相手の好意を無下に返す程、勝手に違う解釈で相手に非難を浴びせる程、心が狭くねじ曲がった人間はいない。そんな人間にあの二人は、親密とはいかなくても態度を変えずに接してくれるだろうか。

 

 

 横谷はその人間に当てはまり、なりたくない輩と複合して自分が下劣な人間になっていると感じて自分自身に嫌気が差し、それと同時にあの二人が自分のことをどう思っていしまっているのか気になってしまう。

 しかし二人が自分をどう思っているのか、今までと変わらずに接してくれるか、と願っている自分の浅ましさに。嫌がる存在になることを避けたがっている弱い自分に、横谷はさらに嫌気が差す結果となる。自分がどう思われようと、この世界にずっと居座るわけでも、ましてや再訪することなんて考えてないのに。

 

 どれくらい経ったのだろうか。自問自答を繰り返して自分のプライドと正義感と良心が、心に重くのしかかって自分を卑しい存在にしていく。

 いつまで繰り返せばいいのだろうか。どこまで苦しめれば心が軽くなるだろうか、どこまで虐めれば自分は赦すのだろうか。繰り返してもどうにもならないというのに。

 

「…………ああ、くさくさする。カルシウムが足りないせいだ。最近カルシウムを摂ってないから、いらんところで怒っちまうんだ」

 

 横谷は押し潰されそうな心を救うため――むしろ責任を逃れるため、保身を守るために開き直って自分で的確だと思う言い訳を言って眠りに入ろうとする。

 

「ったく、アイツからもらったコイツ、全然使えねぇな。本当に効力あるんだったらこの状況を打破するような力を出せってんだ」

 

 不意に右腕に付けているブレスレットに目が入り、これを授けた人と貰い受けた物に悪態をつく。横谷が付けているブレスレットは、タヱが横谷の上京前にお守り的な意味合いで渡したものである。

 どうせロクな物じゃないんだろう、とずっとどこかにしまっておくつもりだったが、周りの髑髏をあしらい水晶も付いてと、デザイン的に横谷の中のいわゆる中二病に触れてしまい、出かけるときにはファッションの一部として身につけていた。

 しかし身につけても特に良い事が起こるわけでもなく、対人とのトラブルなものが以前より減ったくらいである。いや、このブレスレットの効力というより、自分のことを知る人がいない場所へ行ったからこそそういったことが少なくなるのだろうが。

 

「もう、寝よう。気にしたら、気にしたら負けだ……もう忘れて明日に備えよう」

 

 そう言って横谷はまるで幻想郷と隔てた世界に入ったかのように身体を横に丸めて、頭まで布団を被って眠る。


 
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