No.571395

ソードアート・オンライン 黒と紅の剣士 第五話 トールからの褒美

やぎすけさん

キャリバー編も終了間近。

2013-04-30 00:58:34 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:3083   閲覧ユーザー数:3046

キリト視点

【トール】

北欧神話に於いて、主神オーディンや道化神ロキと並んで有名なアース神族の雷神。

雷を呼ぶハンマーを携え、巨人を次々打ち倒すその姿は、多くの映像作品やゲームのモチーフになっている。

それが今、俺たちの仲間になってくれているのだから、心強いことこの上ないが、美女だと信じて助けたクラインにとっては、かなり複雑な心情だろう。

 

スリュム「スウゥーン・・・卑劣な巨人めが、我が宝【ミョルニル】を盗んだ報い、今こそ贖ってもらおうぞ!」

 

雷神トールは、右手の黄金槌を振りかざし、分厚い床を踏み砕かんばかりの勢いで突進する。

対する霜の王スリュムは、両方にふうっと息を吹き付けると、そこに氷の戦斧を生み出した。

生成された斧を勢いよく振り回し、叫び返す。

 

スリュム「小汚い神め、よくも儂をたばかってくれたな!そのひげ面切り離して、アースガルズに送り返してくれようぞ!」

 

荒々しいその声には、NPCにはないはずの怒りの感情が感じられるような気がする。

まあ、それも仕方ないのだろう。

婚礼を待ちわびていたはずの女神フレイヤが、実は敵対種族のオッサン、雷神トールだったのだから、スリュムが怒るのも無理はない。

広間の中心で、金ヒゲと青ヒゲの大巨人たちは、黄金のハンマーと氷のバトルアックスを轟然と撃ち合わせた。

発したインパクトが城全体を揺るがす。

だが、クラインはだけは、この期に及んでもなおフレイヤの巨人化、もとい、オッサン化のショックから立ち直れず呆然と眼を見開いていた。

 

シノン「トールがタゲ取ってる間に全員で攻撃しよう!」

 

部屋の後方から、援護射撃を行っているシノンが鋭く叫んだ。

まったくその通りだ。

雷神トールが、最後までこの戦闘に参加していてくれる保証はない。

俺も剣を振り、声を張り上げた

 

キリト「よし、全員攻撃!ソードスキルも遠慮なく使ってくれ

 

回復を済ませたデュオを含む、メンバー全員が一斉に床を蹴り、スリュムに四方から肉薄した。

 

クライン「ぬうおおおお――――ッ!!」

 

ひときわ強烈な気合いを放ち、愛刀を大上段に振りかぶって突進するクラインの目尻にきらきら光るものがあったような気がしたが、見なかったことにするとしよう。

スキルディレイも気にせず、俺たちはソードスキルを次々に繰り出す。

アスナもワンドをレイピアに持ち替え、神速の連続突きを霜の王のアキレス腱に見舞っている。

その隣では、リズベットとガッシュが両手で握ったメイスと槍を小指の先に叩き込む。

 

スリュム「ぐ・・・ぬむゥ・・・!」

 

たまらず唸り声を漏らしたスリュムが、ぐらりと体を揺らし、ついに左膝を床に着いた。

王冠の周囲にきらきら黄色いライトエフェクトが回転している。

スタン状態だ。

 

キリト「ここだっ・・・!!」

 

俺の声に合わせて、全員が現在発動可能な最強の攻撃を放った。

眩いライトエフェクトが、膝を着く巨人の周囲を包み込み。

更に、上空からはオレンジ色に輝く矢が豪雨の如く降り注ぎ、デュオの剣から出現した炎のドラゴンがスリュムの頭を直撃する。

 

トール「ぬうゥン!地の底へ還るがよい、巨人の王!」

 

最後に、とどめとばかりにトールが右手のハンマーをスリュムの頭に叩き付けた。

王冠は砕けて吹き飛び、一時は鉄壁と思えたボスモンスターは、地響きを立てて仰向けに倒れた。

HPゲージはすでに消滅しており、巨体の四肢とヒゲの先が、ぴきぴきと軋みながら氷のへと変わっていく。

 

スリュム「ぬっ、ふっふっふっ・・・今は勝ち誇るがよい、子虫どもよ。だがな・・・アース神族に気を許すと痛い目を見るぞ・・・彼奴らこそが真の、しん・・・」

 

漆黒の眼窩に瞬いていた燐光も、薄れ、消えかけるスリュムが、低い笑い声とともに発した言葉は、最後まで聞こえる前に炸裂した、トールのストンプによって掻き消された。

凄まじいエンドフレイムが巻き起こり、霜の巨人の王は無数の破片となって爆散した。

エフェクトの圧力に思わず手をかざし、数歩下がった俺たちを、雷神トールは遥かな高みから金色の両眼で睥睨した。

 

トール「やれやれ、礼を言うぞ、妖精の剣士たちよ。これで余も、宝を奪われた恥辱をそそぐことができた。――――どれ、褒美をやらねばな。」

 

雷神は左手を持ち上げ、右手に握る巨大なハンマーに触れる。

すると、嵌っていた宝石が外れ、それは光を放って、小さな人間サイズのハンマーへと変形する。

本体の縮小版である黄金のハンマーを、トールはひょいっとクラインに投げ落とした。

 

トール「【雷槌ミョルニル】、正しき戦のために使うがよい。では――――さらばだ。」

 

トールが右手をかざした瞬間、青白い稲妻が広間を貫き、反射的に眼をつぶった俺たちが次に瞼を開けた時には、そこにトールの姿はなかった。

メンバー離脱ログが小さく浮かび、最下部のHP/MPゲージが消滅した。

スリュムの消滅地点に、ドロップアイテム群が滝のように転がり落ちては、パーティーの一時的(テンポラリ)ストレージに自動格納されて消えていく。

それらが収まると同時に、ボス部屋に溢れかえっていた黄金オブジェクトが消滅していった。

残念ながらこれらは入手不可能だったらしい。

まあ、どうせもう全員のストレージはいっぱいで、ろくに持てなかったと思うが。

 

キリト「・・・ふぅ・・・」

 

俺は剣を鞘に収めて小さく息を吐くと、とりあえずクラインの隣に歩み寄り、肩に手を置いて言った。

 

キリト「伝説武器ゲット、おめでとう。」

 

クライン「・・・オレ、ハンマー系のスキルびたいち上げてねェし。」

 

煌びやかオーラ・エフェクトをまとう片手用戦槌を握ったまま、泣き笑いのような顔を作る刀使いに、背中に武器を戻した槍使いが後ろから声を掛ける。

 

ガッシュ「じゃあ、リズにやったらどうだ?喜ぶと思うぜ。」

 

クラインの心情を知ってか知らずか、子供っぽい笑みを浮かべる槍使いの意見に、クラインのパートナーも賛同する。

 

エルフィー「それいいね。できるかはわからないけど、それで鍛えられたら、相当強い武器ができると思うよ。」

 

デュオ「やめておけ。武器を鍛える道具(ハンマー)としてじゃなく、溶かして武器の材料(インゴット)にしかねない。」

 

リズベット「ちょお!いくらアタシでもそんなことしないわよ!」

 

リズベットが反論すると、隣でアスナが真顔で言う。

 

アスナ「でもリズ、伝説級(レジェンダリー)溶かすとオリハルコン・インゴットがすごく出来るらしいよ。」

 

リズベット「え、ホント?」

 

クライン「あ・・・あのなあ!まだやるなんて言ってねェぞ!」

 

ハンマーをひしっとかき抱いて喚くクラインに、周囲から和やかな笑いが起こった。

その瞬間、体の芯まで揺さぶるような重低音が大ボリュームで響き渡った。


 
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