No.571326

【南の島の雪女】姉妹デート(1)

川木光孝さん

雪の降らない沖縄県で、雪女が活躍するコメディ作品。
南の島の雪女、第10話です。(基本、1話完結)

2013-04-29 22:51:07 投稿 / 全8ページ    総閲覧数:434   閲覧ユーザー数:434

【あらすじ】

白雪は、なぜか、デートに誘われていた。

しかも女性に、である。

その相手は、同じ雪女である六花。

上司である風花とともに、白雪を追いかけ、沖縄まで来て、

ついに白雪の居場所をつきとめた六花。

「風花さんたちに、お姉ちゃんの居場所を教えてほしくなかったら

 わたしといっしょに、遊んでくれるかな? お姉ちゃん」

六花はそう言って、白雪をデートに誘おうとする。

白雪の返答は…

 

 

【主な登場人物】

 

白雪 … 沖縄に来た雪女。風乃の家に居候している。事情により、他の雪女に追われている。

 

風乃 … 白雪と一緒に暮らしている高校生の女の子。ボケ役。

 

六花 … 白雪を追いかけてきた雪女。白雪の自称妹。白雪に過剰な姉妹愛(?)をそそぐ。

 

風花 … 雪女。六花・霜花と一緒に、白雪を捕まえようとしている。しつこい。

 

霜花 … 雪女。まだ幼い女の子で、風花や六花に世話される様子も目立つ。

 

枯野 … 雪女。雪女の里から派遣され、風花たちが勝手な行動をしないよう監視している。

 

 

【自称妹、あらわる】

 

母親

「白雪、ちょっといいかしら」

 

白雪

「なんだ、お義母さん」

 

母親

「白雪の妹さん? が玄関まで来ているんだけど…」

 

白雪

「…俺に妹はいないはずだが」

 

母親

「そう? おかしいわねぇ。

 たしかに、『お姉ちゃん…いえ、白雪さんはいますか』って

 言ってたわよ。その女の子。

 小学生だか中学生だか、それくらいのかわいい子だったわ」

 

白雪

「会わせてくれないか、その自称妹とやらに」

 

平日の午前中のことだった。

 

風乃が高校に行ったあと、朝ごはんの後片付けを終えた白雪は、

風乃の部屋に入って、テレビを見ていた。

そんなとき、風乃のお母さんから声をかけられた。

 

白雪の妹が玄関に来ているらしいのだ。

白雪は、自分に妹がいないことを、はっきり自覚していた。

では、なぜ、いないはずの妹が、今、玄関にいるのだろうか。

 

白雪

(俺の妹か…)

 

白雪は、胸の中で高鳴るものを感じていた。

心当たりがあるからだ。その自称妹に。

 

白雪

(俺のことをお姉ちゃんと呼ぶのは、あいつしかいない。

 あいつは、俺をしつこく追いかけてきた。

 でも、こんなに早く俺の居場所を知るなんて…。

 あー、めんどくさいことになってきたな)

 

白雪は、軽い目まいをおぼえながらも、ようやく玄関にたどりつく。

そこに待ち受ける自称妹とは。

 

六花

「…お姉ちゃん。

 やっぱり、ここにいたんだね」

 

白雪の姿を見て、うれしそうに瞳を輝かせるその少女は、

名を六花(ろっか)と言う、まだ幼さの残る雪女である。

 

白雪

「…六花。やっぱりお前か。

 沖縄まで来やがって。ほんとにしつこい奴だな」

 

白雪は、めんどくさそうな顔をしたが、口元は少しゆるんでいた。

 

六花

「しつこくてごめんなさい。

 でも、逃げるお姉ちゃんが悪いんだよ。

 沖縄まで逃げちゃってさ。

 早くお家に帰ってきてよ。みんな、心配してるよ」

 

白雪の帰郷を願う、六花。

そんな六花の願いもむなしく、白雪は全国を転々とめぐり、ついに沖縄まで来てしまった。

 

六花

(…でも、もう帰ってこないよね、お姉ちゃん)

 

白雪への想いは日増しに高まっていくが、もう帰ってこないのだろうと

少しあきらめかけている気持ちもある。その心境は、複雑なものがある。

 

白雪

「六花。そのハンカチ」

 

六花

「え?」

 

六花の右手には、白いハンカチがにぎられていた。

白雪は、白いハンカチを見て、どうやって六花がここまで来たのか、把握した。

 

白雪

「そのハンカチ…俺のだろ?

 …また、俺の匂いを嗅ぎつけてきたのか?」

 

六花

「そうだよ。

 このハンカチには、お姉ちゃんの匂いがしみこんでるからね。

 それを嗅ぎながら、ここに来たの。

 くんくん…くんくん…」

 

右手ににぎったハンカチを、鼻に寄せ、その匂いをかぐ。

六花は、うっとりとした表情を浮かべ、満足そうだ。

 

白雪

「……そんなことだろうと思ったよ。

 よく、そんな10年以上も前のハンカチを持っていられるな。

 ほんと、毎回毎回、お前は。

 嗅覚、いったいどうなってるんだ。犬かよ」

 

六花

「犬だと思うなら、私に首輪をつけて世話してよ、お姉ちゃん!」

 

白雪

「知るか。お前は首輪のいらん野良犬だ」

 

六花が白雪の居場所を、匂いでかぎつけるのは、これが初めてではない。

以前も、何度か同じような方法で、白雪の居場所をつきとめていた。

そのたびに、白雪から、嗅覚のすごさを驚かれるのだった。

 

もっとも、それは、白雪の匂い限定の嗅覚だが。

 

 

【六花の目的】

 

六花

「わたしがここに来た理由、わかるよね。

 …風花さんたちに、お姉ちゃんの居場所を教えてほしくなかったら

 わたしといっしょに、遊んでくれるかな? お姉ちゃん」

 

白雪

「ああ、わかったよ、わかったわかった」

 

これで何回目だろう。

六花のいつもの手口だった。

 

白雪を嗅覚で見つけ出し、

風花たちに、居場所を知られたくなかったら遊んでほしい。

 

全国を逃げ回っている間、これを何度も繰り返された。

 

実際、風花たちに居場所を知られたら、たいへん面倒なので

白雪としては受けざるを得なかった。

 

六花

「えへへ、デートだ、デートだ」

 

はしゃぎながらも、頬をほんのりと赤くして、少し恥ずかしそうな顔の六花。

自分が今、だいたんなお願いをしているという自覚はあるようだ。

 

母親

「まあ、姉妹でデートなんてかわいいわねぇ」

 

白雪

「お義母さん…いつからそこにいた?」

 

いつのまにか、白雪の横に、お母さんが立っていた。

どうやら、六花との会話はすべて聞こえていたらしい。

 

 

【窓の外の…】

 

六花は半ば強引に、白雪とデートの約束を取り付けると、

白雪と手をつなぎ、一緒に家を出て、道を歩き出す。

 

六花

「こっちこっち、お姉ちゃん!」

 

白雪

「おい、あまり強くひっぱるな。

 って言うか、デートって、どこに行くんだよ」

 

白雪は、六花に手をひっぱられ、どこかへ連れていかれようとしていた。

 

六花

「わたし、ここに来る途中、近くでハンバーガーのお店を見つけたの!

 そこに行こう!」

 

白雪

「ハンバーガーの店? この近くに?

 …ああ、あったな、そういえば」

 

近所の公園のすぐそばの、ハンバーガー店。

M&Aという看板がある、あのお店だ。

 

平日の午前中ということもあるせいか、店内は空いていた。

 

「あそこの窓側の席に座ろ、お姉ちゃん」

 

「おう」

 

窓側の4人がけの席に、2人で座る。

 

「おい、六花。向かいの席に座れ。

 わざわざ俺の隣に座ってどうする。

 せまいだろうが」

 

六花は、白雪の隣に、ちょこんと座り込んでいた。

 

「お姉ちゃんの隣がいいんだもん」

 

そう言って、白雪の腕に、抱きつく。

 

「こらこら、抱きつくな。恥ずかしいだろ。

 まったく甘えん坊さんだな…」

 

そんな仲良し(?)ふたりに忍び寄る、黒い影がふたつ。

 

黒い影たちは、お店の窓の外から、ふたりをのぞきこみながら、何かを話している。

 

風花

「見つけましたわよ、白雪。六花も…」

 

霜花

「おー、しらゆきだ、しらゆきだ。

 ひさしぶりに見たー」

 

お店の窓の外には、2人の雪女の姿。

1人は大人の女性で、もう1人は小さな女の子である。

大人のほうの名は風花といい、子供のほうの名は霜花といった。

 

風花は、白雪を、追いかけまわしている。

白雪に対して積年の恨みがあるのか、

それとも白雪捕縛の手柄が目当てなのか、どっちにしても定かではなかった。

 

それはともかく、執念深い風花は、

部下である霜花・六花を引き連れて、全国津々浦々をめぐり、沖縄にまで来た。

そのしつこさは、白雪がうんざりするほどである。

 

風花

「まったく、六花も、ぜんぜん警戒心が足りてませんわね。

 わたくしたちが後をつけていることに、ぜんぜん気づいていませんわ」

 

霜花

「ハンバーガー食べたーい」

 

風花

「いまはお待ちなさいな。

 こっそり近づくのが先ですわよ。

 耳をすませて、よく会話を聞きませんと。

 そのあと『話はすべて聞かせてもらった』とかっこよく登場ですわ」

 

耳をすませてみれば、少し開いた窓の向こうから、

白雪たちの会話が聞こえてくる。

 

白雪

「バカザナ(風花)と霜花も沖縄に来ているのか?」

 

バカザナ、とは、白雪をしつこく追いかける、

腐れ縁的な存在である風花(かざばな)のあだ名だ。

白雪は、風花のことを、よく「バカザナ」と親しみをこめて呼んでいた。

悪意が少しだけ含まれているが、あくまで親しみである。

 

六花

「うん。いま、3人で一緒に住んでいるの」

 

白雪

「住んでるだと?

 雪女が、クソ暑い沖縄に住むか? 普通。

 ぜったい暮らしにくい環境だぞ…」

 

白雪は、自分のことを棚にあげ、風花たちの沖縄暮らしを心配する。

 

六花

「そうそう。

 とくに風花さんなんか、トシのせいか、すぐ暑さにやられちゃうし」

 

白雪

「はっはっは! バカザナも大変だな!

 そんなことなら、すぐに沖縄から帰れってんだ!」

 

風花

「くぅー、私の悪口を言うなんて…。

 あとでおぼえてらっしゃいよ、六花…白雪…」

 

悪口を言われた雪女は、心の中に、ぼうぼうと怒りの炎を燃やす。

 

 

【黒い炭酸飲料の正体】

 

店員

「ルートビアのおかわりは無料ですので」

 

別のお客さんに接客している従業員を見て、白雪は首をかしげる。

 

白雪

「るーとびあ? 何だそれは」

 

六花

「お姉ちゃん。今、わたしが飲んでる飲み物だよ。

 このお店の名物なんだって」

 

六花の持つルートビアという黒い液体は、コップの半分くらいに減っていた。

 

白雪

「ほう。その黒い炭酸飲料か。

 コーラかと思ったぞ」

 

六花

「飲んでみる?」

 

白雪

「飲んでみようか。お前の、貸してみろ」

 

六花

「どうぞどうぞ、でも、ちょっとクセがあるから

 気をつけてね」

 

白雪

「心配するな。炭酸飲料くらいは飲めるさ」

 

白雪は、ルートビアを一気に口に運ぶ。

 

ルートビアという飲み物は、風味が独特で、湿布のような匂いがして、薬っぽい。

そのためか、飲み手を選ぶ。

白雪は…

 

白雪

「ぶはっ!! なんじゃこりゃ!」

 

あわなかったらしい。

白雪は、言いようのない味に、思わず、すぐそばの窓の外に向かって、

ルートビアの黒い液体をぶはっと吐き出した。

 

吐き出された黒い液体は、窓の外にひそんでいる風花の頭に噴射される。

 

風花

「きゃああああ!? な、なんですの、この黒い液は!」

 

突然の黒い液体の来襲に、身構えることすらできず、なすすべもない。

 

悲鳴を聞き、「誰かいるのか」と白雪が窓の外を見てみれば、そこには、

黒い液体を頭からかぶって、泣きそうな顔をした風花の姿だけがあった。

 

ちなみに、霜花はM&Aの店内に入って、いつのまにかハンバーガーを注文していた。

 

 

【4人の雪女】

 

店内では、4人がけの席に、白雪・六花と、

風花・霜花が向かい合って座っていた。

 

風花

「……」

 

気まずそうに沈黙する風花。

頭にかかった液体は、おしぼりかタオルでふきとっており、

今はきれいな顔をしている。でも、表情はくもったままだ。

 

かっこよく登場するつもりだったのに、恥ずかしいところを見せてしまった。

風花はそれをとても残念に思っていた。

 

霜花

「もぐもぐ」

 

霜花は、ハンバーガーとポテトフライを食べまくっている。

まわりの気まずい雰囲気など気にせず、マイペースに食べる。

 

白雪

「六花、お前、バカザナにあとをつけられていたな…。

 まったく。少しはうしろを警戒しろ」

 

六花

「ごめん、お姉ちゃん…」

 

風花

「ほほほ。おさっしのとおりですわ。

 六花のあとをつけて来たんですのよ。

 早朝、わたくしたちの部屋から

 こっそり抜けていくから、あやしいと思いまして」

 

霜花

「もぐもぐ、すとーかーだね、もぐもぐ…」

 

風花

「霜花、食べながら話すのは、マナーが悪いですわよ」

 

ぐきゅるるるるるる。

腹の音。

 

風花は、「うっ…」と恥ずかしそうに、下にうつむく。

腹の音の主がまるわかりだった。

 

六花

「ポテト、どうぞ」

 

風花

「ありがたいですわ…」

 

風花は、さしだされたポテトを口に運んだ。

 

 

【雪女が熱々のポテトを食べている件について】

 

風花

「白雪。あなたを捕まえに来ましたのよ。

 さっさとお縄につきなさいな」

 

と言いながら、ポテトを手にもっている風花。

すでに2~3本食べており、おいしかったのか、満足げな顔だ。

 

白雪

「…ファーストフード店で、座ってポテト食いながら、

 そんなセリフを言われても、いまいち緊迫感がないな」

 

六花

「むぐむぐ…お姉ちゃん。これ食べたら、早く逃げよう。

 もぐもぐぱくぱく、ぐびぐび…。

 店員さん、ルートビアおかわり!」

 

ハンバーガーやポテトをせっせと口につめこみ、ルートビアで流し込む六花。

急いで逃げようとしているわりには、食い意地がはっているようだ。

 

霜花

「わう、じゅーす、こぼしちゃったです」

 

霜花の服に、じゅーすがこぼれ、世界地図のように広がっていた。

 

風花

「もう、霜花ったら。

 ちゃんとコップつかんでないから、そうなりますのよ。

 どれ、こぼしたところを見せてごらんなさい。

 あーもう、こんなによごしちゃって…」

 

風花は、霜花の汚れたところを、ティッシュでふきとろうとする。

 

白雪

「母子か、お前らは…」

 

白雪は、周囲の雪女3人の行動に、あきれるしかなかった。

 

 

【逃走しよう】

 

六花

「わたし、ちょっとトイレに行ってくる」

 

席を立ち上がろうとする、六花。

 

白雪

「…ん?」

 

白雪は、自分の手が、ぎゅっとされたような感覚をおぼえた。

驚いて下を見ると、六花の手が、白雪の手をにぎっている。

 

どうして、俺の手をにぎっているのだ?

少し考えて、白雪は、「ああ、逃げるのだな」と判断した。

 

六花

「……」

 

真剣な目で、白雪を見つめる六花。

 

白雪

(わかったよ、六花。

 手をつないで逃げるんだろ?)

 

目で合図する。

六花に手をにぎられながら、白雪は店を飛び出した。

 

それはあっというまのことで、風花は、逃げていく二人を見送ることしか

できなかった。

 

風花

「な、なんですって…あのふたり、逃げるつもりでしたのね!

 霜花、すぐにあとを追いかけ…」

 

風花は、ちらりと目の前のテーブルに目をやる。

そこには、白雪と六花が食べ残したハンバーガーやポテトフライが、まだまだあった。

 

風花

「まだまだこんなに食べ物が残ってますわ。

 …食べ物を粗末にしてはいけませんわね」

 

お腹の空いていた風花は、追いかけるより前に、

とりあえず目の前の食べ物から処分することにした。

 

 

< 続く >


 
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