#37
さて、ようやく回想が終わりました。これで、俺や波才が恋たんと一緒に虎牢関前に居る理由を理解できたと思う。
「さて、向こうは今日も袁紹が出てくるみたいだな」
「あぁ、あの名家の馬鹿っすね」
「知ってんのか?」
隣に立つヒゲヅラ眼鏡もとい、波才が呟く。
「黄巾党の時には袁紹の軍にも攻められたんすけど、楽に逃げる事が出来たんすよ」
「なるほど」
ま、あの袁紹だしな。
「さて、どうする、恋たん?」
「ん…来た奴を、倒す……そうしてたら、いつか、勝つ……」
「おっ、流石は呂布っすね! その通りでさぁ!」
「おいおい、袁紹んトコに何万いると思ってんだよ」
相変わらず波才は馬鹿だ。
「アタイだけっすか!? 呂布だって言ってるんすよ!?」
「波才…」
「ひっ!? ななななんでもないですぅ!?」
恋たんのひと睨みで縮こまる波才。弱いなぁ。
「恋…」
「……へっ?」
「恋、て呼ぶ……」
と思ったら、なんと真名を預けるようだ。はて、何か理由になりそうな事はあったか?
「あ、あの…いいんすか?」
「ん…ご飯、美味しかった……また食べたい」
「そいつぁ嬉しいですね。そんじゃ、ありがたく受け取らせて頂きやす。生憎と、アタイには真名がないんで、これまで通りっすけど」
そういや、前回も霞にそう言ってたな。真名も考えといてやるか?
「んと、じゃぁ……はっちゃん」
「おっ、恋もそう呼んでくれるんすかい? これまた嬉しいすね」
「天和と同じ呼び方だな」
そんな和やかな戦前。
「ぎゃぁあぁぁああああっ!」
「たっ、助けてくれぇぇええええええ!!」
敵兵の叫び声が響き渡るなか、俺たちはそれぞれの得物を振るっている。俺は逆手に持ったクナイ、波才は同じく逆手の双曲刀、恋たんは……あんな重そうな戟を軽々と振り回していた。それどころか、その度に敵が何人も飛ばされていく。すっげー。
「うわー、やっぱ恋は呂布っすね」
「なんだよ、そのトートロジーは」
「とーとろ…なんすか?」
「んにゃ、何でもない」
俺と波才はそれぞれ敵に斬りつけながらも言葉を交わす。そんな余裕を持てる位に、敵が弱いって事だけど。
「言ったじゃないっすか。黄巾党の時に、恋1人に3万がやられたんすよ。誇張じゃなくて」
「あー、そんな話もあったな」
「味方だからいいけど、敵だった時は、そりゃもう恐ろしくて」
「知らんがな」
知らんがな。
「なんで2回も言うんすか」
「行数稼ぎだ。気にするな」
「?」
そんな事を話していれば、ドドドド……と馬蹄の音が近づいてくる。
「おっ、霞さんっすね」
「なんという無双ゲー……楽しそうだなー」
「いや、その感想もどうかと……よし、お前ら、一旦下がれ! 張遼隊が走り抜けるぞ!」
「「「「「応っ!」」」」」
波才の指示に、部下たちは敵を弾き、そして後退する。恋たんは……
「……さがる」
「「「「「応っ!」」」」」
アレだけで通じるのか。すげーな。
「はっはっはぁ! 死にとうなかったら、尻尾巻いて逃げぇや! ま、逃げても殺すけどなぁ!!」
そして駆け抜ける霞たん達。爽やかな笑顔で、なんとも恐ろしい事を叫ぶ。うわ、ホントに逃げてる奴も巻き込んでやがる。
そんなこんなで、1日目が終了。圧勝だった。
「いやー、袁紹んトコの兵は雑魚やな。ありゃ、数だけや」
「ぱくぱくもきゅもきゅ…はっちゃん、おかわり……」
「あいさー!」
気をよくした霞たんは酒を呷り、恋たんは俺の部隊が作った料理に舌鼓。波才も商売人、あるいは料理人としての自覚が強くなってきたのか、恋たんのお代わり要請に気勢よく応え、料理の山を持ってくる。
「それで、明日はどーするんすか、ねねちゃん」
恋たん以外の食事も落ち着いたところで、波才がねねたんに問いかける。
「今回袁紹が出て来ましたが、アレだけやれば、もう出てくる事はおそらく無いのです。また、連合最大勢力が再びやられた事で、諸侯の大半が怖気づいてる事が予想されるのです」
「って事は、次は強い奴が出てくるいうことか」
「霞殿の言う通り、精兵と名高い曹操、あるいは汜水関で軍功を上げた孫策が出てくるのではないかと。あと、霞殿の騎馬隊対策として、公孫賛か馬超も出てくるかもしれないのです」
名高い軍の名前ほとんど出してんじゃねーか。そりゃ当たるだろ。どこの駄プロファイリングだ。
「じゃぁ、作戦はどうするんだ?」
「基本的には、今日と同じなのです。ただし、いま言ったように騎馬隊が出てくるかもしれないので、霞殿にはそっちの対策をお願いしたいのです」
「ん、了解や」
まぁ、明日の作戦はそれでいいとして、俺にはひとつ懸念事項があった。
「なんや?」
「あぁ。今回は
「あ、気にしなくていいっすよ。社長がこんななのはいつもの事っす」
「波才、テメェ何様だぁああああああ!」
「ごもらっ!?」
テンプレのように、波才を殴り飛ばしておく。
はっちゃんは特殊な訓練を受けているので、この後スタッフが美味しく(^ω^)ペロペロ
さて、翌日。予想外にも、俺たちの目の前には劉備軍。それを挟むように、『公孫』の旗を掲げた白馬の騎兵隊。
「まさか劉備ちゃんとはなぁ」
「そういや、知り合いでしたっけ」
騎馬隊は霞たんに任せるとして、恋たんと俺たちは劉備軍か。
「ま、なるようになるか」
「うーす」
さて、頑張りますか。
*
という訳で始まりました、2日目の戦い。どうやら、恋たんは関羽ちゃんと張飛とやらと当たっているらしい。三国志では劉備・関羽・張飛の3人でやっと呂布と互角だったらしいけど、劉備ちゃんは弱っちぃし、恋たんにとっては大した事もないかもしれない。
「で、俺はアイツか」
俺の視線の先には、『趙』の旗を掲げた部隊。趙雲かよ。バレちまうじゃねーか。
「行かないんすか、社長?」
「んー…考え中」
どうしたものかと思案する。正確には、どうしたらギャグに持ってけるかと思案する。
そして決定。
「よし、波才。趙雲と戦って来い」
「あいさー」
俺の指示に、波才は疑う事無く返事をする。まぁ業務命令だから逆らいようもないんだけど、趙雲の噂くらい聞いた事無いのか、コイツは?
「っしゃぁ! 俺らの敵はアイツらだ! 皆殺しにすんぞ!」
「「「「「応っ!」」」」」
流石は波才。普段はあんなのでも、100人の部下をまとめて賊ってた奴だ。率いる力はある。
「俺は隠れて様子を見るから」
「倒したら
「あぁ、『倒したら』な」
俺の首肯に、波才は勢いよくかけていった。
数分後。
「 」
「なんだ、弱いな」
波才は見事にやられていた。死んじゃいない。槍の柄で殴られて気絶しただけだ。
「まぁ、よい。名乗りを上げれば、士気も上がるだろう」
そんな風に戦闘態勢を解く趙雲。その瞬間。
「秘技・
「ぎゃぁあああああああああ!!?」
背後から近寄った俺は、趙雲の鼻孔に擦り下ろした生姜を突っ込んだ。
「鼻が! 鼻がツンとするぅぅううううううううっ!!!」
ゴロゴロとのたうち回る趙雲。爆笑もんだ。
「
「目がっ! 目がぁぁあああああああああっ!!?」
「あっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃ!!」
あー、駄目だ。笑いが止まんねー。
*
数分間転げ回っていた趙雲だったが、ようやく落ち着きを取り戻し、立ち上がる。
「く…死ぬかと思ったぞ……」
「死ななかったんだからいいじゃねーか」
「それはそうだが――――」
俺に対して何事かを言い返そうとした趙雲が固まる。
「どうした?」
「そ、そのヒゲヅラ眼鏡は……まさか」
おっと、バレちまったようだ。だが。
「北郷、なのか?」
「はて、誰の事ですかな?」
「惚けるな。そのような被り物を作れる者など、北郷以外に居るものか」
「とんと分かりませぬが……お嬢さんもこの仮面に思い入れがあるようですな」
「当然だ」
言いながら、趙雲は眼を赤く腫らしたまま立ち上がる。そして、懐に手を入れ、ある物を取り出した。
「おや、お嬢さんもその仮面をお持ちですか」
「当然だ。お主から貰ったのだからな。それより、ひとつ聞きたい事がある」
「どうぞ?」
さて、どんな質問なのやら。
「正義のヒゲ仮面が董卓軍に居るという事は、暴政の噂は偽りであったと考えてよいという事であろうか」
「さて、どうでしょう? ま、あっしのような商人が、数の上では圧倒的に劣勢のこちら側に居るという事がどういう意味なのかを考えれば、自ずと分かる事かと」
「ふむ」
俺の返答に、趙雲は顎に手を当てて考え込む。
「……そうだな。後でウチの軍師と話してみる事にしよう」
「それもよろしいかと。そいじゃ、そろそろ他の場所の戦いも終わりそうですし、あっしはこれにて」
「うむ、また会おう」
別れの挨拶をし、趙雲は背を向ける。
ふひひっ。
「おらぁああっ!
「くっさぁぁああああああああああああああああああああああああ!!!!!?
その瞬間、背後から飛びかかり、刻んだ大蒜の山を趙雲の顔にぶち撒けた。
あとがき
という訳で、#37でした。
☆ちゃんがいじられるのも、いつもの事。
そして、この後どうしようか考え中(現在進行形)。
ま、なんとかなるだろ。
ではまた次回。
バイバイ。
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そんなこんなで#37。
今回は〇ちゃんがいじられるよ!
どぞ。