「お前さんが来てもう半年が過ぎたんだな」
「そうですね」
「早いもんだ。ここにきて携わった事件ってどれぐらいだ?」
「まあ事件の規模問わずに単純な件数なら11件…ってところですか」
もっともその約半分とも言える5件はSランク以上の違法魔導師逮捕だったが。
「そんなお前さんが異動か…。お前さんは間違い無く108隊の主力だったんだが…」
「すみません。でも色んな部隊を見て回りたいのが俺の元々の希望だったので、皆が説得しても俺は自分の意思を変えるつもりはありません」
「お前さんを無理矢理に引き留めるつもりは無いさ。ウチの中にもそう言った奴はいねえだろうし」
「…ありがとうございます」
そう…今日付けで俺は108隊を離れ、来週から別の部署に異動する。
明日からはここに俺はいない。
感慨深いものが込み上げてくる。
ここにいた隊員は皆良い人達だったからな。
「来週から勤務するのはどこの部署だったっけか?」
「自然保護隊です。管理世界の各地に存在する自然の調査や密猟者の逮捕が主な仕事の内容ですね。ミッドの保護隊には配属されませんでしたが」
「てぇ事はミッドにはいねえって事だな?」
「まあ、そうなります」
元々はミッドの端っこにある自然保護隊を希望してたんだが、今の所『人手は大丈夫』との事で俺は別世界の自然保護隊に配属になる。
地上所属の俺が別世界に配属か…。
まあこれも経験と思って受け入れるしかないわな。
「ギンガやスバルは寂しがるなぁ」
「いやいや!一生会えないって訳じゃ無いですし、今度も半年から長くて1年程しか勤めませんから」
その気になればいつだって来れる訳だしね。
「ま、健康には気を付けて頑張れや。ここにはいつ遊びに来てくれてもいいからよ」
「はい!お世話になりました!」
敬礼してゲンさんに返事をする。
「それとお前さんは今日付けで『一等陸士』に昇進だと上からのお達しが来てる」
「マジですか?」
この半年で階級が2つも上がっちゃった。ゲンさん曰く異例の早さらしい。
これには俺も苦笑するしかないわな。
確かに高ランクの違法魔導師ばっか逮捕してるから周りから見たら『この昇進の早さは当たり前』らしいんだけど。
「お前さんなら10代で地上のトップに立てるんじゃないか?」
笑いながら言うゲンさん。
「トップはレジアス中将が適任ですよ」
俺は素直な意見で返す。
ミッドを守りたいという強い意志と人を惹き付けるカリスマ性は確かなものだからな。
「ていうか10代でそこまで昇り詰めるなんてまず無理じゃないですか?」
実際やるとしたら『闇の書事件』レベルの事件を何件解決しないといけないのやら…。
「そうか?お前さんなら絶対出来ると思うぞ?」
「買い被り過ぎですよ」
それに中将への昇進には筆記試験やレポート提出が必須であり、かなりの難関らしいから現場で功績を上げるだけではいかんのだ。
こういうところは非戦闘員で事務関係の仕事に勤めている人の方がなり易いと思う。
現場担当は勉強に割ける時間があまり取れないから。
「ま、お前さんがそう言うならそういう事にしといてやるさ。これから隊舎の食堂に行くんだろ?」
「はい。ワッキーさん達が送別会を開いてくれるらしいんで」
「俺もこの書類片付けたら顔出すからよ。先に楽しんでいてくれや」
「はい。お先に失礼します」
部屋を出て食堂に向かう。
隊員の人は皆食堂にいるのか歩いている間は誰にも出会う事が無かった。
そして食堂へ足を踏み入れると
「「「「「「「「「飲むぞー!飲むぞー!カルタスが飲むぞー!!」」」」」」」」」」
「ちょ!?俺ですか!!?」
「「「「「「「「「「一気!!一気!!カルタスが一気!!」」」」」」」」」」
「無理ですよ!!俺そんなにのむぐうううぅぅぅっっっっっ!!?」
「飲め飲めカルタスー♪」
既に出来上がっている隊員一同が一人の隊員を煽り、ワッキーさんが無理矢理何か飲ませていた。
その人こそ後のギンガの上司であり捜査主任になる『ラッド・カルタス』である。
現在の階級はワッキーさん同様に一等陸士である。そして俺より4歳ほど年上だ。
「ははははは、どんどん飲めよカルタスー……ん?」
あ、ワッキーさんが気付いた。
「おー!!やっと今日の主役がきたかー」
「「「「「「「「「「遅いぞー」」」」」」」」」」
「いや…その主役を差し置いて始めてるってどういう事なんでしょうか?」
「飲みたくなったんだからしょうがないだろー。なー皆ー?」
「「「「「「「「「「そうだそうだー」」」」」」」」」」
この酔っ払い共…。
呂律はまだちゃんとしてるからそれ程酒は回っていない様だが…。
「それで、カルタル一士は大丈夫なんですか?」
「ダイジョブダイジョブ。ノンアルコールのビールだから」
「…いくらノンアルコールでも一気飲みさせるのはいかんでしょう?そもそもカルタス一士も未成年ですしノンアルコールとは言ってもビールは体裁っていうものが…」
「ん?…そうだな。ノンアルコールじゃなくて炭酸飲料の方が良かったな」
「違えよ!!一気飲みさせるのを止めろって言ってんだよ!!」
思わず叫んで突っ込む。
「まあまあ今日は無礼講だ無礼講。パーっと騒いで楽しくやろうや」
「いや無礼講っていってもですね…」
「それよりおつまみ無いのかー?」
「え?買ってきてただろ?」
「あれだけじゃ足りねえしあまり美味くない」
「そりゃいかんな。折角の送別会なんだ」
「「「「「「「「「「長谷川二士、美味いもの作ってくれ」」」」」」」」」」
「主役に給仕させんのかよ!!?」
それと俺一士に昇進したよ……ってこれは流石に知ってる訳無いか。今聞いたばっかだし。
「「「「「「「「「「美味い物が無いから仕方ないんだ」」」」」」」」」」
一字一句違わず、綺麗にハモってるのがまたムカつく。
俺が何言っても酔っ払い共の耳には届かない様で
「…何故に俺が…」
結局おつまみを作っている俺だった………。
「ただいまー」
「お帰りなさいユウキ」
夕方、家に帰ってきた俺を出迎えてくれたのはユーリだ。
「ただいまユーリ。皆は?」
「レヴィとディアーチェは宿題の最中、メガーヌは夕食の準備中。シュテルはルーとお風呂ですね。私はリビングでテレビ観てましたし」
「そっか」
皆それぞれ自由に過ごしているみたいだ。
「俺も部屋に戻るかな。ユーリは?」
「まだテレビを観たいのでリビングに戻ります」
「じゃあ、晩ご飯の用意が出来たら教えてくれ」
「分かりました」
階段を上がって自分の部屋に戻る。
しかし部屋にいたのは…
「あ、ユウおかえりー」
俺の部屋でベッドの上に寝転がり、漫画を読みながら寛いでいるレヴィだった。俺が部屋に入ると顔だけこちらに向けて言葉にする。
「…ユーリからは宿題していると聞いたんだが?」
「今日の分はやったよ。今からは僕のフリータイム♪」
「そうか。んで、何故俺の部屋にいるんだ?」
「漫画読みにきたから」
「…自分の部屋に持っていけばいいのに」
「戻るのメンドクサーイ」
ブーたれるな。自分の部屋を新しい部屋に引っ越したお前が悪い。
今のレヴィの部屋は以前より俺の部屋と若干離れたからな。
と言っても面倒臭いという程の距離でもないだろうに。
「とりあえず着替えたいから一旦部屋から出てくれないか?」
「んー?僕の事は気にしなくて良いよー」
「いや…俺は気にするから」
「動くのメンドーイ」
だらけ過ぎだろコイツ。
「じゃあ転移魔法で部屋まで送ってやる」
「わざわざ歩いて行ける距離を転移魔法で送るなんて魔力の無駄遣いだよユウ?」
だったら自分で歩けや。
「…もういい。こうすれば問題無いな」
「ふえ?」
パチンッ
キョトンとした顔をしているレヴィに軽くデコピンをかます。
「みゃっ!!?」
「
すかさず俺はレヴィの視力を奪う。
「わわっ!?見えない!?何も見えないよ!!?」
「落ち着け。一時的に視力奪っただけだ。着替え終わったら元に戻してやるから」
俺は半袖を脱ぎながらレヴィに言う。
「むう~。ユウ、僕こんなやり方は酷いと思うんだけど?」
「お前が出て行かないからだろ?」
パサッ…
半袖を脱ぎ、次はズボンを脱ぐ。
カチャカチャとベルトを外す音が室内に響く。
「だったら僕を部屋まで運ぶとか」
バサッ…
「浮遊魔法でも使えってか?」
ゴソゴソ…
タンスから替えのズボンを出して穿く。
「そうじゃないよ。お…お姫様抱っことかあるじゃん////」
続いて新しい半袖のシャツもタンスから取り出し、着替える。
よし、着替え完了だ。
「お姫様抱っこねぇ…」
俺はレヴィにかけた
「うん…って、視える、視えるよ」
「今、解除してやったからな」
「着替えも終わってるし…」
「…まさか着替えてるところを見たかったとか言わないよな?」
「ソ、ソンナコトナイヨ?(実は見たいと思ったんだけどなぁ…)////」
声が上擦ってる。視線もキョロキョロと泳いでるし。
「お前もそういう事に興味持ち始めたんだなぁ…」
「そういう事って?」
「男の身体について」
レヴィも思春期に入ったって事か?成長してる様で嬉しいけど…
「だからと言って俺の着替えを覗こうとはするなよ?」
覗きなんてされたら今後は結界使うか
「………大丈夫だよ。覗こうなんて思ってないから」
今の間は何!?
「そ、それよりさ!!ユウはどうなのさ!?」
「どうって何が?」
「女の子の身体に興味とかないの?」
凄い事聞いてきますねレヴィさん。
「俺はまだ思春期には突入してないぞ、多分」
「本当に?僕の身体とか興味無い?おっぱいもちょっとずつ大きくなってきてるんだよ」
ベッドの上で立ち上がり、『ほらほら』とか言って胸を反らしてアピールしてくる。
確かに少しだけだが女性特有の膨らみが出ている様には思える。
「残念だけど興味無いな」
「即答されると傷付くんだけど!?」
「知らんがな」
落ち込むレヴィを見ながら洗濯物をカゴに入れる。
コンコン
俺の部屋の扉が外側からノックされる。
「どうぞー」
ガチャッ
「ユウキ、晩ご飯の準備が出来ましたよ」
「ありがとユーリ。レヴィ、晩ご飯だってさ」
「出来たの!?行く行く!!」
漫画を本棚に直し、一足先に部屋を出ていくレヴィ。
ついさっきまで落ち込んでたのに。
アイツにとっては食べ物は何より優先されるって事か。
「レヴィもいたんですね」
「俺が着替えると言っても部屋から出て行こうともしなかったしな」
「まさかレヴィがいる状態で着替えたんですか!?」
「ちゃんとレヴィに覗かれない様に対策を施した上でな」
「そ、そうですよね」
ホッと一息吐いて安心した様な様子のユーリ。
まさか『レヴィに着替えてる所を見せる様な奴』とでも思われてたのだろうか?
だとしたら流石にショックだ。
「とりあえず先にリビング行ってくれていいぞ。これ、洗濯機に入れたら俺もすぐに行くし」
洗濯物を持って階段を下り、洗濯機に洗濯物を入れてからリビングに戻ると風呂上りのシュテルとルーテシア、それに自室で宿題をしていた筈のディアーチの姿もあった。
「皆揃ったわね?」
「「「「「「はい(うん)(うむ)(はーい)」」」」」」
「それじゃあ…」
「「「「「「「いただきます」」」」」」」
こうして長谷川家での賑やかな夕食が始まる………。
「…つまりユウキは来週から別の部署で働くのですか?」
「ああ。世界もミッドとは違う管理世界だ」
夕食を食べ終えた現在、俺は自分の部屋に戻ってベッドの上に正座している。
そんな俺の太ももを枕代わりにし、仰向けになっているのはシュテル。
ここ最近はよくシュテルに膝枕をしてる様な気がする。具体的にはデレーチェ降臨事件のすぐ後からだが。
あれから時々、シュテルを始め他の魔導師の皆も変身魔法の練習してたみたいだ。
ただ、誰も未だに成功していないんだよね。かと言ってディアーチェみたいに中途半端な失敗もないし。
魔法自体が不思議な事に発動しないらしい。
原因は未だに分からず謎である。
しかし皆は諦めずに今も尚練習の最中である。
「ユウキ、手が止まっています」
「はいはい」
ナデナデ…
「ん…////」
そしてナデナデも要求してくるシュテル。幸せそうな表情浮かべちゃって。
「で、シュテル達はどうなんだ?防衛隊の仕事について」
ある程度は仕事にも慣れてきた頃だと思うんだが…。
「そうですね。今の所は訓練で自分を鍛えながら、時折犯罪者を逮捕するというのが私達の現状ですね」
俺がシュテルを見下ろす様な形で喋るのに対し、シュテルも俺を見上げながら答えてくれる。
「犯罪者か…。Sランクを超える様な奴とか?」
「私達はありませんが、亮太や椿姫は何度かあるみたいですね」
あ、亮太と椿姫も高ランク魔導師と遭遇した事あるんだ。
俺達転生者ってどうしてこうも高ランク魔導師と遭遇する確率高いんだろうね?
「後、デスクワークではレヴィが毎回悲鳴を上げますね」
「あー…」
何だかその光景を容易に想像出来る。
書類作業してると段々頭がフラフラし始めて最終的に机に突っ伏してる姿を。
「シュテル達は?ちゃんとデスクワーク出来てる?」
「一応は。どうしても私達だけで書類の処理が出来ない場合はちゃんと上の人にお願いして対応して貰ってますから」
「そっか」
「それよりもユウキが行く世界っていうのはどんな所なんですか?」
「ん?ちょっと待ってくれ」
俺は空中にディスプレイを表示して次に配属される自然保護隊のある管理世界についての情報を開示してみる。
「第61管理世界『スプールス』。自然の豊かな場所で希少生物もそれなりにいるらしい」
キャロが機動六課に来る前に過ごしていた世界だったりする。
「平和そうな世界ですね」
「だからこそその希少生物を捕まえて違法売買する密猟者もいるそうだ」
しかもそれなりの頻度で出現しているな。非魔導師の密猟者の割合が多いが魔導師の密猟者も偶に現れてる。ランクは高くてA、大体がCランクか。
それに対して保護隊の常駐魔導師はAランクが3人、Bランクが4人の計7人みたいだ。
「ユウキ、無茶だけはしないで下さいね」
「分かってるって。心配してくれて有り難うな」
心配そうな表情をするシュテルに返事をする。
ガチャッ
「ユウキよ。この問題なのだが…」
と、ここで新たな来訪者が。
計算ドリルを持って部屋に入ってきたディアーチェがこちらを見て言葉を止める。
目が鋭いものに変わっていき
「…ユウキ、何をやっている?」
声を震わせながら聞いてくる。
あれ?怒ってる?
「シュテルを膝枕してる」
「はい。ユウキに膝枕して貰ってます//」
シュテルはディアーチェを見て答える。
どことなく優越そうな表情を浮かべて。
「ぬぐぐ…」
それに比べて悔しそうな表情をするディアーチェ。
…だが、少しすると今度は勝ち誇った表情をする。
「ま、まあこの程度で怒る程我は器の小さい人間ではないしな」
『膝枕以上に良い思いをしてるから』とは本人談。
『ふふん』と胸を張るディアーチェとは逆に今度はシュテルの表情が険しいモノへと…。
「《…ですがあれは自分の意思でやった訳ではないのでしょう?》」
「《確かに自分の意思が100パーセントではない。動物の本能に突き動かされたのは否定せん。だが我がユウキとき、キスしたのは事実だ》////」
俺の目の前で何やら念話してる様子の2人。
険悪な雰囲気だ。頼むから家族同士のマジ喧嘩とかしないでくれよ?
「《き、キスぐらいで勝ったつもりですか?ユウキは鈍感ですからディアーチェの気持ちにあれぐらいで気付く訳が無いでしょう?》」
「《だが我が一歩抜き出たのは確実だ》」
ますます勝ち誇った感じのディアーチェに『むうう…』と唸りながら睨むシュテル。
「まあ、念話で何言ってたか知らんけど落ち着こう、な?」
『よしよし』とさっきより優しげにシュテルの頭を撫でる。
「そ、そうですね。ユウキに迷惑掛けたくはありませんし…(さっきより気持ち良い撫で方です)////」
『ふにゃっ』と表情を崩したシュテルを見て一安心……したつもりが
「(ぐぬぬ…いくらユウキとキスして我がリードしているとはいえ、他の女とイチャつくのを見せられると…)」(ギリギリ)
ディアーチェから歯軋りの音が聞こえる。
さっきまで君、怒りを抑えて余裕ぶってたよね?何でまた怒りの沸点が上がってきてるのさ?『器の小さな人間じゃない』って言ってたよね?
「……………………」(ふふん♪)
シュテルさんや。アンタも何故そんな勝ち誇った顔で挑発するように見るのさ?
というかこのまま放っておいたらマズいかな。
「ディアーチェ、俺に会いに来た用件は?何か宿題の事で聞きに来たみたいだけど?」
「…この問題の解き方を教えて貰おうと思ってきたのだ」
ブスッとしながら計算ドリルを俺の側まで持ってくる。
ふむふむ…この問題か。
「ここはこうして…先にこっちを計算するんだよ」
「む?言われてみれば…そうかそうか」
「で、次に最初のこれを計算して…」
「最後にこの二つを足せばいいのだな?」
「うん。理解した?」
「うむ。なら次の問題だが…これも今の問題と同じ要領で解くと………こうなる訳だな?」
次の問題も今の解き方と同じやり方で簡単に解く。
「正解。良く出来ました」
思わずディアーチェの頭も撫でてしまう。
「ふ、ふん。解き方さえ理解すればこれぐらい当然だ//」
口ではそう言うが撫でられて嬉しそう。
まだまだディアーチェも子供だねぇ。
「……………………」
…で、今度はシュテルか。あっちが立てばこっちが立たず。
何この無限ループ?
俺は終始2人のご機嫌、不機嫌な感情に板挟みになり心臓に悪い時間を過ごすのだった………。
少し時が流れ、今日から新しい部署に配属された俺。学校には休む旨を担任の先生に連絡済みだ。シュテル達は仕事が無いので普通に登校している。
そして目の前には俺を出迎えに来てくれた2人の局員さんが。
「初めまして。今日から自然保護隊に配属される事になりました長谷川勇紀一等陸士です」
敬礼して挨拶する。
「スプールスへようこそ。俺は保護官のタントっていうんだ」
「あたしはミラ。タントと同じ保護官よ」
「よろしくお願いします」
俺達は揃って頭を下げる。
軽く自己紹介を済ませた後、自然保護隊のベースキャンプへ移動する。
「???ここはお二人だけで調査してるんですか?」
資料には、常駐魔導師含めてここの保護隊は20人程いるって書いてた筈なんだけど。
「ははは、そんな訳ないって。他のメンバーは今、自然や動物の調査に行ってるんだろうよ」
「あたし達は君を迎えに行くためにここに残ってたって訳」
「そうなんですか」
「まあ、俺とミラが今日はベースキャンプに残る当番だからな。昼食の時間が近付けば他の皆も戻ってくるだろうよ」
俺が家を出てここに到着したのは午前9時頃。
なら後3時間程は他の局員さんには会えないって事か。
とりあえず俺はここでの主な仕事の内容についてタントさん、ミラさんから教わる。
もっとも俺は自然や希少動物の調査もそうだが密猟者の逮捕も行ってほしいとの事だ。
まあ、俺もその辺りの事は納得している。
「それとこの世界で過ごしている生物は刺激さえしなければいきなり襲い掛かってくる事はないから」
「分かりました」
後は現在の調査区分と調査済み、未調査区分の区域を地図を見ながら教えて貰う。
昼までの間はこれまでの調査結果を纏めた資料やレポートを読んで過ごす事にする。
「しかし配属初日からマジメだね。今日ぐらいは仕事とかしなくても誰も何も言わないのに」
「ボケーっと過ごすのもアレなんで」
「だからって資料なんて読まなくても、小説やら携帯ゲームぐらいなら貸してあげるよ?」
「いえ、それはまたの機会で良いです」
資料を見ながらミラさんと会話する。
「(うーん、この世界の生物を狙う訳だ)」
この資料やレポートに書かれている生物の情報を見て思う。
以前、解決した違法売買の一件の時にやりとりされていた希少生物の何匹かがこの世界に生息している生物だった。
どの生物も高額で取引されてたのを思い出す。
あの時無事に保護した生物は皆元の世界に帰したと聞いたけど、この世界にあの時の生物はちゃんと戻ってこれただろうか?
出来れば無事を確認したいが正直見分けがつかんからなぁ。
その後も資料やレポートを読みふけっている内に昼まで時間は進むが
「…誰も帰ってきませんね」
「いつも昼前には帰って来る筈なんだが…」
「何かあったのかしら?」
既に人数分の昼食も作り終えた2人と会話している。
けど一向に誰も帰って来ず、連絡も一切無い。
何だか不吉な予感が。
予想外のトラブルにでも巻き込まれたか?
その予想が当たると知るのは更に10分程後の事だった。
突然調査している局員の1人から連絡が入る。
『ミラ!タント!た、助けてくれ!!』
「どうしたの?」
『み、密猟者が現れたんだが、ソイツが強力な魔導師で…隊の皆でも足止めがやっとなんだ!!ほ、本部に応援の要請を…』
ブツッ
それだけ言うと通信が切れた。
「これってかなりマズい状況じゃない?」
「ああ、常駐魔導師全員で足止めがやっとだなんてヤバいよな」
ミラさん、タントさんの表情が険しいものに変わっていく中、俺はすぐに現場へ急行する準備をし始める。
「…って、どこ行くの!?」
「いや、現場の皆さんを助けに行こうかと」
「だが、相手は相当に強力な魔導師らしいぞ?君一人では…」
「だからと言って見捨てる訳にはいかんでしょう?」
「それはそうだが…」
「せめて本部からの応援が到着してからでも…」
「応援の要請をしても承認が下りて局員が現場に到着するまで結構時間が掛かりますよ?その間に隊の皆さんが殺されたら本末転倒ですし」
「「……………………」」
「まあ、相手がどれだけ強いのかは知らないですけどまずは隊の人達を救出してきます」
一応俺も高ランク魔導師に分類される訳だし、相手が強くても時間稼ぎぐらいは出来るでしょ。
まあ俺は密猟者を捕まえる気満々だけどな。
「まあお二人は応援の要請をしてここで待っていて下さい」
バリアジャケットを纏ってすぐに飛び立つ。
「………あっちか」
一つ大きな魔力の反応がある。この反応の主が密猟者なんだろう。
俺はそっちに向かって飛んでいく。
誰一人死んでいない事を祈りながら………。
「ははははは。弱い、弱すぎるぜ管理局の犬共ぉ」
「「さすがアニキだぜ」」
俺が現場上空に到着し、下を見下ろす。
そこには高笑いしてる奴とその傍らで褒め称えている二人の取り巻きらしき連中がいた。
保護隊側の人は常駐魔導師の人達が地に突っ伏しており、非魔導師の人達は彼等を庇う様に立ちはだかっている。
「ほらぁ、お前達はかかってこんのか?俺は密猟者だぜぇ?」
「「「「くっ、くそっ」」」」
密猟者のランクはSランクってところかねぇ?
もう魔導師がいないからって余裕ぶってやがる。
倒れている保護隊の人達は誰一人死んではいない様だ。
とりあえずとっとと介入して密猟者を逮捕しますか。
俺は保護隊と密猟者の間に降りる。
「んん?何だテメエは?」
「今日から自然保護隊に配属された新入りの局員だ」
「新入りぃ?その新入りが俺に何の用だぁ?」
「お前達を公務執行妨害と密猟の現行犯で逮捕する。武装解除し、大人しくしろ。さもなくば武力行使で対応させて貰う」
「お前みたいなガキが俺を逮捕ぉ?」
密猟者のリーダーと思われる男は取り巻き達と顔を見合わせて
「「「がははははははははは」」」
一斉に高笑いを上げ始めた。
どうせ子供の俺が逮捕なんて出来る訳無いとか思ってるんだろうな。
馬鹿みたいに笑ってる密猟者たちは一旦無視して
「そっちの魔導師の人達は大丈夫ですか?」
「あ、ああ。だが早く治療しないと」
確かに魔導師の人達は全身から血を流している。
殺傷設定で攻撃を受けたからだろう。
「応急処置をします」
そう言って俺は魔導師の人達に治療魔法を掛け、傷を癒す。
もっとも表面上の小さな傷を癒しただけで深い傷は治せていない。
「とりあえず皆さんをベースキャンプに転移させますんで倒れていた人達は寝かせておいて下さい」
「き、君はどうするんだ?」
「アレをとっ捕まえてすぐに戻りますから心配はご無用です」
未だに笑ってる密猟者の一味を指差して答える。
「し、しかし…」
「大丈夫ですから。じゃあ、そういう事で」
保護隊の人達の足元に転移の魔法陣を展開させ、ベースキャンプまで転移させる。
「これでよし、と」
「おいおい、本当に俺と闘り合うつもりかよ?」
「命知らずなガキだなぁ」
「ガキだから理解出来てねーんじゃないッスか?」
「違ぇねぇ」
「「「がははははははは」」」
…いい加減鬱陶しくなってきたのでもう潰すか。
まずは結界を展開し
「
「「「あ?」」」
間抜けな声を揃って上げている3人を(取り巻き二人は非魔導師だが面倒なので一緒に)
「お前等は寝とけ」
3人をヘパイストスで攻撃。
「「ぎゃあああああ」」
取り巻き二人は片付いたが本命のリーダー格の男には避けられ、若干距離を取られた。
「テメエ!!いきなり魔法ぶっ放すなんてそれでも管理局員か!?」
「いや、いきなりじゃないし。ちゃんと『逮捕する』って忠告したから」
ついでに『武力行使する』とも勧告済みだ。
だから早速砲撃を行っても問題は無い。
しかし魔法を避けるか…。てっきりシールドを展開しようとして魔法が使えない事に驚き、硬直してる間にヘパイストスに呑み込まれて終わるかと思ったんだが。
高ランク違法魔導師を捕まえる時のいつも通りの展開に行かなかった事に内心ちょっと驚く。
コイツはそこそこの場数を踏んでると見た。
「クソガキが!!コイツを食らいやがれ!!」
杖型デバイスの先端を俺に向け、魔法を放とうとしてるのだろうが、まだ奴は
「っ!!?どうなってやがる!?魔法が出ねぇ!!?」
予想通りの反応をする密猟者。
ま、初見で
だが、動揺して視線が逸れた相手を見逃す程俺も優しくは無いんでね。
「せいっ!!」
ドゴッ!
「があっ!!」
密猟者はそのまま後方に吹き飛ぶ。
「ぐううっ!!テメエ!!!」
が、意識を奪うまではいかなかった。
攻撃が当たる直前に自ら後方に飛び、ダメージを若干緩和された。
ヨロヨロとフラつきながらも立ち上がり
「死ねぇ!!」
密猟者が懐から取り出したのは………拳銃!?
密猟者は何の躊躇いも無く俺の方に銃口を向けて引き金を引く。
パンッ!!
乾いた音が鳴るのと同時に弾が発砲され、こちらに迫って来るが
「イージス!!」
ダイダロスが即座にイージスを展開し、弾が障壁にぶつかる。
キインッ
甲高い音が一度鳴り、弾は障壁を貫けず弾かれる。
「く、くそっ!!」
拳銃ですら通じないと理解するや否や密猟者のリーダーは取り巻き二人を放置し、逃げようとする。だが逃がす訳にはいかない。さっきの一撃を当てた事で条件は満たした。
「
俺はすかさず相手の視力を奪う。
「なっ!!?何が起きたんだ!?何も見えねぇ!!」
混乱する密猟者に再び接近し
「今度こそ眠れ!!」
首筋に手刀を叩きこんで密猟者の意識を落とす。
質量兵器の不法所持も罪状に加わったな。
倒れた密猟者のリーダーからデバイスと拳銃を取り上げ、取り巻きと共にバインドで縛り上げる。取り巻き共は拳銃こそ持っていなかったがサバイバルナイフを持っていたので当然没収。
こうして俺は初日からまた犯罪者を逮捕する訳になったのだが
「何でこう、高ランク違法魔導師ばっかり…」
高ランク違法魔導師の犯罪者に出会う自分の遭遇率を呪わずにはいられなかった………。
~~あとがき~~
第六十三話のあとがきで行ったアンケートの結果を発表します。
結果として
Q1=①持たせるべきだろう。
Q2=①話数が掛かってもいいのでSts原作入るまで空白期はじっくりと。(他作品との絡みも当然書く。)
となりました。
Q1、Q2共に②に投票して下さった皆様には申し訳ございませんが…。
ていうかここまで沢山の方に答えて貰えるとは思ってなかったため投票数の多さにビックリしました。
読者の皆様、ご協力ありがとうございます。
後、『ユニゾンデバイスは勇紀だけ』という意見もいくつかあったのでこの案を採用してユニゾンデバイス所有者は勇紀一人にしたいと思います。
ユニゾンデバイスは2体予定です。(もしアギトが絡むとすれば3体ですかね。まだアギトについては悩んでいるので。多分シグナムのパートナーになるとは思いますけど…)
それと『エンジェロイドをユニゾンデバイスに』という意見もありましたが自分はこのアンケートを取る前から『エンジェロイドをユニゾンデバイスにするつもりはない』と決めていたので期待して下さった皆様には申し訳ございませんがご了承願います。
また何かしらアンケートを取るかもしれませんのでその時も良ければご協力よろしくお願いします。
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神様の手違いで死んでしまい、リリカルなのはの世界に転生した主人公。原作介入をする気は無く、平穏な毎日を過ごしていたがある日、家の前で倒れているマテリアル&ユーリを発見する。彼女達を助けた主人公は家族として四人を迎え入れ一緒に過ごすようになった。それから一年以上が過ぎ小学五年生になった主人公。マテリアル&ユーリも学校に通い始め「これからも家族全員で平和に過ごせますように」と願っていた矢先に原作キャラ達と関わり始め、主人公も望まないのに原作に関わっていく…。