No.569194

SAO~菖蒲の瞳~ 第四十一話

bambambooさん

四十一話目更新です。

《水晶石》の収集のため、サチはシリカと共に第四層を訪れた。

コメントお待ちしてます。

2013-04-23 21:12:09 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:1057   閲覧ユーザー数:1011

 

第四十一話 ~ 強さとは ~

 

 

【アヤメside】

 

「キュイ、《エネミーサーチ》」

 

「キュィ!」

 

俺の指示に、自信たっぷりに返事をしたキュイは、前に伸ばした右腕を伝って手のひらに移動する。

 

手のひらに到着したキュイは、そこで一旦静止して神経を張り詰めたと思ったら、見えない糸に引っ張られるように耳が垂直に持ち上がり、瞳が虹色に輝きだした。

 

《エネミーサーチ》は、一定時間の間、索敵圏外に存在するモンスターの位置をマップに表示させる《索敵》スキルの強化オプションだ。

 

ちなみに、プレイヤーも使える。

 

「何度か見たことあるけど、やっぱり神々しく見えるわよね……」

 

「だな。普段のキュイとは大違いだ」

 

少し離れた位置でキュイを眺めるキリトとアスナは、感嘆の声を洩らした。

 

ビーストテイマーとしては、使い魔が誉められるのは鼻が高いものがある。

 

「……キュィ」

 

「お疲れさま」

 

小さく鳴き声を上げて、索敵が終わったことを知らせるキュイに、俺は労いの言葉をかけながら頭を撫でた。

 

「キュゥ~~~♪」

 

撫でられたキュイは、気持ちよさそうに目を細めてふにゃんとした声で鳴く。

 

「いいなあ。私も使い魔欲しいなぁ……」

 

ぼそりと呟くアスナに、キュイを撫でる手を止めて胸ポケットに移してから、絶対やらないぞといった目を向けると、アスナは苦笑いを浮かべて「わかってますよ」と言った。

 

「過保護だよな……。ところで、次はどっちにいるんだ?」

 

「マップによると……あっちだな。北西方向」

 

キリトに聞かれ、俺はキュイの《マッピング》スキルから派生した《広域マップ》を一瞥し、一番近くにいるモンスターのいる方向を指差した。

 

「次で何体目でしたっけ?」

 

「十四体目」

 

「思ったよりドロップしないな……」

 

「《天眼石》はCランクアイテムだから、そんな簡単にはドロップしないだろう」

 

「はぁ……」

 

キリトは、少し疲れたように息をつくと、ふと思い出したかのように呟いた。

 

「シリカとサチは大丈夫かな?」

 

「………………急ぐぞ二人とも」

 

 

【シリカside】

 

「大丈夫でしたか、サチさん?」

 

ロックトータスを倒した私は、短剣を鞘に収めてからサチさんの元に近寄る。

 

サチさんは、長槍を握り締めたまま、まだ小さく震えていた。

 

「うん……大丈夫、ありがとう」

 

心配になって槍を握るサチさんの手を上から被せるように握ると、震えが止まり、サチさんは恥ずかしそうな顔をした。

 

「またポップするかもしれませんから、早く移動しましょう」

 

「うん」

 

やや急かすように私が言うと、サチさんは槍を背中に背負ってから小さく頷く。

 

そのときの表情は、少しだけ無理をしているように見えた。

 

「サチさん、手を繋ぎませんか?」

 

「え……?」

 

突然の私の言葉に、サチさんは目を丸くして驚いた。

 

かくいう私も、本当に無意識のことだったので内心自分に驚いていた。

 

「あっ、えーと……そ、そのっ、私さっきみたいにおっちょこちょいなところありますから、手を握ってもらってると安心かな~、って思って」

 

「さっき?」

 

「小石につまずいて転んだときです!」

 

「ああ……」

 

サチさんは納得したように呟くと、お姉さんのような微笑みを浮かべて手を差し出した。

 

とっさに思い付いた適当な理由なのに、納得されてしまったことに恥ずかしさと、ほんのちょっぴり不満を感じながら、私はサチさんの手を取った。

 

「それじゃあ、行こう」

 

「は、はい」

 

サチさんに手を引かれながら、私は少し考えていた。

 

どうして、サチさんあんなに怯えていたのだろう。

 

 

それからは、運の良いことにモンスターに出会すことなく採掘ポイントまでたどり着くことが出来た。

 

岩山の頂上付近で口を開ける洞窟の奥に、一カ所だけ水晶が群生している岩の裂け目があり、そこでピッケルを使うと高い確率で《水晶石》が手にはいる。

 

ポイントに到着した私とサチさんは、繋いでいた手を離し、それぞれアイテム欄から買っておいた《ピッケル》をオブジェクト化させた。

 

「こんなところあったんだ……きれい……」

 

オブジェクト化させたピッケルを握り、岩の裂け目を覗き込むサチさんが、頬を弛めて感嘆の声を漏らす。

 

「そういえば、宝石とか見るの好きなんでしたね」

 

目を輝かせるサチさんを見て、私は笑いながら言った。

 

「来たのは初めてですか?」

 

「うん。五層くらいまでは、少しでも早く上の層に行きたいって思いが強かったから、効率重視でこんな山奥の洞窟まで来なかったのよ」

 

「それ、結構もったいないことしてます! きれいなところは他にもいっぱいありましたよ!」

 

無数のテーブルマウンテンを、橙色から濃紺色へと変色させながら沈む第二層の夕焼けや、第二十二層の静謐な針葉樹林を、鏡のように一寸の狂いもなく映しだす湖を思い浮かべて、私は少し興奮気味にサチさんに説明した。

 

「あとはですね――――あっ!?」

 

他に二つオススメポイントのお話をしたとき、ここに来た本来の目的を思い出した私は、慌てて口を噤んだ。

 

「す、すみません、勝手に話し始めちゃって……」

 

「大丈夫だよ。私もいい話を聞けたから」

 

申し訳なく思い、身を竦めて頭を下げるが、サチさんは気にした風もなく頭を横に振ってくれた。

 

「それで、ここに向かってピッケルを振るえばいいんだよね?」

 

「は、はい。……あ、でも、ここもモンスターがポップするので、交代しながらの方がいいですね」

 

「う……うん、分かった。じゃあ、私が先でいいかな?」

 

私がそう言うと、サチさんは少しだけ顔を引き吊らせ、また怯えたような表情を作った。

 

「お任せください!」

 

胸を叩いて自信たっぷりに言うと、サチさんは少し安心したような表情になって裂け目に向き直った。

 

そのままピッケルを担ぎ、裂け目を目掛けて振り下ろすと、カァァンッ! と、武器強化のサウンドエフェクトより低い、けれど、どこか似た音が洞窟内に響き渡った。

 

サチさんには秘密にしているが、実を言うと、この低く響く音はモンスターを引き寄せる効果に近しいものを持っているらしい。

 

そのため、フィールドやダンジョン、特に洞窟内で採掘作業をしていると、高い確率でモンスターとエンカウントしてしまう。

 

どうやらモンスターとの戦闘を恐がっているらしいサチさんに、このことを話すべきだったのかそうでなかったのかは、私には分からなかった。

 

私が悩んでいる間も、ピッケルは振るわれ、金属音が洞窟中に響き渡り反響する。

 

「うーん……ハズレ」

 

三回目の金属音が響いたあと、獲得できたアイテムを見てサチさんが小さく呟いた。

 

「よし、もう一回」

 

自分を応援するように小さく言うと、サチさんはピッケルを握り直してもう一度振るった。

 

その様子を眺めていた私は、《索敵》スキルを使って周囲を警戒しながら、リズムよく刻まれる軽快なピッケルの音に耳を傾けていた。

 

カァァンッ! カァァンッ! カァァンッ! …………。

 

「……サチさん?」

 

不意に、ピッケルの音が止まった。

 

「疲れましたか?」

 

「ううん。そうじゃないよ」

 

冗談めかしてそう言うと、サチさんは言葉とは裏腹に、どこか疲れたような声で返した。

 

訝しみながらサチさんの方を向くと、何かを耐えるようにピッケルを握り締め、儚げに頭を振って否定するサチさんの姿が目に映った。

 

「……ねえ、シリカちゃん。一つ、聞いてもいいかな?」

 

「なんでしょうか?」

 

「怖くないの?」

 

「へ?」

 

突然の質問に、私は戸惑いの声を上げた。

 

「今、怖くないのかなー、って。ほら、ピッケルの音って、モンスターを呼び寄せちゃうでしょ?」

 

「知ってたんですか」

 

「うん。前に、装備を強化するためにギルドの皆で採掘して、呼んじゃったことがあったからね」

 

懐かしむように、サチさんは言った。

 

「それで、シリカちゃんは怖くないの?」

 

「怖くは……無い、ですね。さすがに、最前線より十層以上、下の階層ですから」

 

「そっか……。シリカちゃんはすごいね」

 

サチさんの質問の真意が分からないまま、思ったままの事を口にすると、サチさんは褒めるような、羨むような、あいまいな表情をして言った。

 

「私はすごく怖い。だって、本当に死んじゃうかもしれないんだよ……?」

 

ピッケルを握る両手に視線を落としながら、サチさんは静かに語った。

 

「私はね、本当は圏内から出たくなかった。でも、皆と離ればなれになって、一人ぼっちになるのがそれ以上に怖かったから、気持ちを押し殺して皆について行くことにした。それでも、最近我慢の限界が来て逃げ出しちゃったんだ」

 

自嘲するような笑みを浮かべたあと、サチさんは続けた。

 

「でもそのとき、みんなが私を探し出してくれて、ケイタが『サチは一人にならない。僕がついてる』って言ってくれたとき、凄くうれしくて、皆に心配かけないためにも、私もこのままじゃいられないなって思った。でもやっぱり攻略は怖いから、他で何か皆の助けになるものはないかなって考えて、思いついたのが《生産職》につくことだった」

 

「そのとき、たまたま一緒にいたアヤメさんかキリトさんのどちらかに《工芸》スキルの話を聞いて、今日、取得のために最前線に来たんですね」

 

「そう。それで、採取クエストの話を聞いたとき、やっぱり素材は自分の力で集めないとダメなんだって実感して、覚悟を決めた。……でも、やっぱりダメ、すごく怖いよ」

 

最後の一言は、涙声だった。

 

「私よりも小さいシリカちゃんが頑張ってるのに、情けないよね……」

 

涙をこぼさないようきつく眼を閉じ、泣き声を漏らさないように唇を噛みしめる。

 

「情けなくなんかないです」

 

「……え?」

 

私の呟きに、サチさんは目を開いて不思議そうな顔をした。

 

「サチさんは情けなくありません。怖いのに、克服しようと努力するサチさんが情けないはずありません!」

 

私は、サチさんの不安を吹き飛ばすように声を大にして叫んだ。

 

「……そう思う?」

 

「はい」

 

夜色の双眸を濡らし、今にも泣き出しそうなサチさんに力強く頷く。

 

「……ありがとう」

 

「い、いえ、なんか偉そうなこといちゃってすみません……」

 

「ううん、気にしないで。それに、なんか元気出た」

 

やわらかい表情を浮かべるサチさんに感謝の言葉を言われ、急に気恥しくなる。

 

「それじゃあ、モンスターが出てくる前に終わらせちゃおう」

 

「あ、はい、そうですね!」

 

 

【アヤメside】

 

「おまえさん、なかなか良い目を持ってるねえ」

 

時間は少し流れ、サチがクエストを受注した翌日。

 

町外れの小屋にいる俺たちの目の前には、この小屋の主である老婆が、作業台の椅子に腰掛けながらにこやかに笑っていた。

 

その手には、漆黒と透明の二種類の(ぎょく)が交互に繋がるブレスレットが下げられている。

 

漆黒の玉が《天眼石》で、透明な玉が《水晶石》。

 

そして、全ての光を受け止め吸収する黒と、全ての光を屈折させ素通りさせる透明の、二色の玉で成るブレスレットには、《防御力+5%》の効果が与えられた。

 

それはつまり――――

 

「合格だよ。おまえさんに、わたしの技術を教えてやるよ」

 

「よっし!」

 

「やった!」

 

「サチさん、おめでとうございます!」

 

キリトが小さくガッツポーズをし、アスナはその腕に飛び付いて今の喜びを表現する。シリカに至っては、少し涙目だった。

 

「あ、ありがとうございます!」

 

サチが喜色満面の笑みで頭を下げると同時に、サチの目の前にウィンドウが出現した。

 

不可視モードであるため、本人以外には何と書いてあるか分からないが、おめでとうを意味する文と、《工芸》スキルを獲得した旨が書いてあるのを想像するに難くない。

 

「それと、コイツは餞別だよ。あげたかった人にあげなさい」

 

そう言いながら、老婆はブレスレットをサチに差し出す。

 

サチはそれを丁寧に受け取ると、大切そうに自身のアイテム欄の中に収めた。

 

「困ったことがあったら、また来なさい。いつでも大歓迎だよ」

 

老婆は最後に笑いながら言うと、身を翻して作業台に向き直った。

 

それ以降、サチへの関心が無かったかのように、次の受注者が来るまでの決められた動作に戻った。

 

その事に、一抹の寂しさを覚えながら、俺はキリトたちと喜びを分かち合うサチの方に目を向けた。

 

「Congratulations」

 

「ありがとう、アヤメ。キリトもアスナもシリカちゃんも、手伝ってくれて本当にありがとう」

 

「キュキュィ!」

 

真摯な態度でもう一度頭を下げたとき、胸ポケットがうごめき、抗議するような鳴き声と共にキュイが顔を出した。

 

「キュイちゃんもありがとう」

 

そう言ってサチがキュイに微笑みかけると、急に恥ずかしくなったのか、キュイは一声鳴くとすぐにポケットに潜り込んだ。

 

「お前はもう少し人に慣れような」

 

キュイの様子に苦笑しながら、ポケット越しに人差し指で突っつく。

 

「サチさんはこれからどうしますか?」

 

「そうね……取りあえず、このブレスレット渡しにいこうかな……?」

 

シリカの質問に、サチは嬉しさ半分、恥ずかしさ半分といった様子で答えた。

 

「えーと……ケイタさんでしたっけ?」

 

「うん、そう。……あ、あれ? 私、シリカちゃんに話したっけ?」

 

「お話の中にちょこっと出て来ただけですけど、やっぱりそうだったんですね~」

 

「え!? もしかして……」

 

「はい。鎌かけてみて正解でした」

 

ニヤニヤと意地悪げな笑みを浮かべるシリカを見て、サチは目に見えて狼狽えだす。

 

そして、意外とこういった恋バナが好きなアスナがこのネタを放っておくわけがなく。

 

「なになに? そのケイタさん、って人がアヤメさんの言ってたサチの好きな人?」

 

「アスナまで……もう、シリカちゃん!!」

 

キラキラと目を輝かせたアスナが、サチの顔をのぞき込むようにして尋ね、半歩退いたサチがシリカを睨むように見やる。

 

シリカは紅い舌をチロリと出し、反省した様子は見受けられなかった。

 

「でも、サチにとって大変なのはこれからだよな」

 

「そうだな」

 

そんな女の子なテンションに、当然乗り遅れた俺とキリトは、その喧噪を眺めながら言葉を交わした。

 

「そこそこ有名になるまでは、自分で素材を集めなくちゃいから、どうしてもフィールドに出ることになる。完全に克服しろとまでは言わないが、しっかり闘えるくらいにはならないとな」

 

「まあ、ケイタたちがいるし、なんとかなるんじゃないか?」

 

「そうだな……」

 

実際、出会って一、二週間の俺やキリトがアレこれ言うよりも、ケイタたちが面倒をみる方がサチからしても気が楽だろう。

 

「サチのことは、ケイタに任せるのが一番か。……一応、ケイタに話しておこう」

 

「それなら俺に任せとけ。そろそろ黒猫団抜けるつもりだから、そのついでに伝えとくよ」

 

「随分気に入っていたのに、どういう風の吹き回しだ?」

 

「なんとなくかな。俺には、こっちの空気の方があってる気がしたからさ」

 

「……なるほど。アスナと一緒の方がいい、というわけか」

 

「アスナと? 確かにそうかもな」

 

普段は斜に構えるキリトにしては珍しく、無邪気な笑みを浮かべる。

 

ただし、その表情からは《友達として》という色合いが強く、色恋のものとは大きくはずれていた。

 

アスナも、まだまだ大変そうだな。

 

そんなことを考え、肩を竦める。

 

「というか、そろそろサチを助けた方がいいんじゃないか? 質問責めにされて目を回してるけど……」

 

「本当だ。……はぁ、そこまでにしとけよお前ら。サチには露天商の準備とか、やることがまだいっぱいあるんだぞ」

 

「それなら、私の友達に鍛冶師がいるから、その子に聞くのが一番ですよね」

 

「それいいですね。アヤメさんもそう思いませんか?」

 

「……だな」

 

リズベット追加。すまん、助けられそうにない。

 

「それじゃ、各自解散でいいか?」

 

『はい』

 

俺の提案に、アスナとシリカはハキハキとした声で答え、サチはどこか疲れた様子で頷いた。

 

「それじゃあ、お疲れ様」

 

その一言を最後に、俺たちは解散した。

 

 

【あとがき】

 

以上、四十一話でした。皆さん、如何でしたでしょうか?

 

努力する人が情けないはずはない。

何もしない人こそが情けない。

だから、自信を持ってください。

 

シリカちゃんはそんなことをサチに伝えたかったんでしょうね。

 

最後の女の子なテンションはなんとなく書きたくなって書きました。

百合はそこまでではないけど、かしましいのは結構好きなんです。

 

さて、次回は《小竜》のお話になります。

多分、小話みたいなゆるい空気になりますかね。やっと出番だよピナ。

 

それでは皆さんまた次回!

 


 
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