「んっ……んふ……んん……はふぅ。あっ、あぁっ……ご主人様っ、そこは…」
洛陽の一刀の部屋から“男女”の声が聞こえてきた。
そしてその部屋では紫苑が妖艶な表情を浮かべ、更に二人の喘ぎ声、そして淫猥な雰囲気や匂いを醸しだして
絡み合い、生々しい空間ができていた。
そんな二人が絡み合っている姿をこっそり覗いているある女性がいた。それを覗いていた女性は声を押し殺し
て
(うわー、すごい…。愛紗ちゃんもああいう風に愛されているのかな…)
一刀と紫苑の行為を見ながら、そう考えていたのは桃香であった。桃香は今まで見た事のない光景を目の当た
りにし、食い入る様に見入っていた。一刀と愛紗が結ばれたという話は聞いていたが、実際に一刀と紫苑の行
為を見ると、まだ経験のない桃香は只々驚くばかりあった。
(でも紫苑さんの表情を見ていたらすごく気持ち良さそう…。でも私は…)
一瞬暗い表情を浮かべたものの、しかし目の前で紫苑が一刀を求め、そして幸せそうな顔をしながら一刀に寄
り添っている姿を見て羨ましいとも思っていた。
そしていつの間か自分でも知らないうちに“一人遊び”を始めてしまった。
一刀と紫苑の行為が高ぶると桃香の動きも自然と早くなり、一刀たちに知れない様、声を押し殺していたが、
やがて我慢ができなくなり
「はぁぁ」
思わず声を出してしまったが、幸い一刀たちには気付かれずに済んだ。
声に気付かれなかったことが安心したのも束の間
ガタッ
自分の身体の位置を変えた際に物音をたててしまい、一刀たちが言葉を発する前に桃香は慌ててその場から逃
げる様に走り出した。
桃香の行動を影で見ていた女性がおり、慌てて逃げる桃香を見て
「桃香様…」
誰にも聞こえぬよう一言呟いていた。
慌てて自分の部屋に戻った桃香は興奮冷めやらぬ様子であったが
「私だってご主人様が好き……それに私が始めて好きになった人でもあるんだけど……でももう名前がない私
がご主人様を好きなったらいけないの」
しかし桃香の心の中では、一刀は好きであるが、自分の命を救って貰った上、一刀を好きになってこれ以上紫
苑や皆に迷惑を掛けたくないというのもあり、自分さえ我慢すれば波風立たずに済むと考え付いた。
「そう私は…ご主人様の身の周りの世話できればそれでいいの…ウッ…」
桃香は布団に寝ながら、自分を納得するように呟いていたが、今の自分の顔を誰にも見られたくなかったの
か、決して枕を離そうとしなかったのであった。
「ハァ~」
翌朝、桃香は一仕事終え、椅子に座り少し休憩したが、それは一段落付いたため息と昨日の事を思い出し、悩
んでいる様なため息が入り混じたような感じであった。
「でも昨日あれ凄かったな…」
「桃香様。仕事をさぼって何をしているのですか?」
「ひゃあ!?あ、愛紗ちゃん!」
桃香が丁度昨日の事を思い出していたら、背後から愛紗が急に愛紗が出てきたことに驚いた。
「ち、違うよ、愛紗ちゃん。今、仕事が終わって休憩していたところなの。今、お茶入れるわね」
桃香は愛紗の返事も聞かず、さっきの事を悟られない様にお茶を入れ始めた。
「そんな私の事を構わずとも」
「良いの。丁度、私もお茶が飲みたかったから」
「でも…こうしてまた愛紗ちゃんと一緒にゆっくりとお茶が飲めるとは思ってもみなかったよ」
「申し訳ありません。私たちが力足りなかったばかりに…」
愛紗が申し訳なさそうに桃香に頭を下げようとするも
「そんな事ないよ、愛紗ちゃん!寧ろ私の方こそ、愛紗ちゃんに辛い思いをさせて申し訳ないと思っている
の。それに今、こうして無事生きて、ご主人様の侍女として仕えているだけで満足だから」
桃香は確かに今こうして一刀の侍女として仕えることに満足していたが、一人の女性として一刀を好きである
事を愛紗に悟られる訳にも行かず、咄嗟に嘘を吐いた。
しかしそんな桃香の嘘に愛紗は静かに
「……では桃香様なぜ昨晩、ご主人様の部屋の前でどうしてあんなことをされていたのですか?」
昨日、物陰が桃香の様子を見ていたのは何と愛紗であった。
「えっ!?え~と何の事かな、愛紗ちゃん」
「……桃香様、全て言った方がいいですか?」
「……ごめんなさい」
「そ、そんな謝る必要はありません、桃香様。でもどうしてあんな真似を…」
素直に謝る桃香に逆に困惑した愛紗は理由を尋ねる。
「……ご主人様が好きだもん…」
「だったら…」
「それくらいの事は分かっているよ!ご主人様に好きだと言えば、ご主人様は拒まずに寵愛は貰えるのは。で
も私にはそんな資格はないの!全てを失い、命を長らえているだけの私に…ご主人様に好きと言える資格はな
い…」
「それに…愛紗ちゃんとの誓いを破った私に…そんな権利はないの。それじゃ仕事があるから…」
「桃香様…」
桃香は涙を浮かべながら、愛紗の返事を待たずに振り切るようにその場を離れ、愛紗はただそれを見送るしか
なかった。
「そこまで桃香が苦しんでいたとは…」
「別に私たちに遠慮することないのに」
流石にこの事を黙っていることはできず、愛紗は一刀と紫苑に報告。報告を聞いた二人は難しい表情を浮かべ
ていた。
「何とか…なりませんか?」
愛紗は桃香を受け入れて貰うよう一刀に懇願したが、一刀は難しい顔をしていたが、紫苑は
「ご主人様、どうされたのですか?難しい顔をされて、まさか私に遠慮して…」
紫苑は一刀が遠慮して桃香の受け入れを拒否するのでは一瞬思ったが、一刀の考えは別にあった。
「ただ桃香を受け入れるのは問題ないけど、できれば桃香、愛紗、鈴々の三人の関係も修復出来ればと思って
ね」
一刀の説明を聞いて、紫苑は納得したが、愛紗は怪訝そうな顔をして
「別に私たち、仲違いはしておりませんが…」
一刀の言葉に愛紗は反応したが、紫苑はそれを察し
「違うわよ、愛紗ちゃん。ご主人様は桃香ちゃんたちが桃園の誓いを破った事を気にしていると言ったでしょ
う。それを何とかしようと仰っているのよ」
「でもどうやって…」
「ああ、勿論愛紗と鈴々に協力して貰うけど、どう?」
一刀の説明を聞くと愛紗は喜んで賛成し、一刀たちはその準備に取り掛かったのであった。
二日後、桃香は用事が終ってから中庭に来る様に紫苑から言われていた。
中庭に行く途中、桃香は咲き乱れる桃を見て溜め息を吐いていた。
「ハァ…」
乱世で立ち上がったが、自分の力不足の為、全てを失ってしまった。ただ全力でやり抜いた事に後悔はしてい
ない。しかし、結果無事元の鞘に収まったとは言え、桃園の誓いを破った事に愛紗や鈴々に申し訳なく思い、
そして一人寂しく誰からも愛されることなくこのまま朽ち果てるのかと思うと少々気が重くなっていた。
「あー!ダメダメ。こんな暗い考えしてたらご主人様たちにばれちゃう。よし」
パチン
桃香は自ら両手で顔の頬を叩き、気を入れ直して中庭に向った。
「あーお姉ちゃん、遅いのだ!鈴々、待ちくたびれたのだ!」
桃香が中庭に到着すると機嫌悪く待ち侘びている鈴々がいた。
「へっ?どうして鈴々ちゃんがここにいるの?」
「お兄ちゃんや紫苑に呼ばれてここに来たのだ!」
そしてよく見ると一刀や紫苑、そして愛紗、鈴々に翠、蒲公英、星、朱里、それに旧漢の将である雛里や凪た
ちも集まっていた。
「これは…」
何も聞かされていなかった桃香に紫苑が
「ごめんなさいね、桃香ちゃん。驚かすような事をして、一度皆を集めてお互いの親睦を深めようと食事会を
するのにこうして集めたの」
「はぁ…」
桃香はただ親睦を深める為なら、なぜ自分を驚かせ黙っていたのか、理解していなかった。
すると紫苑がフッと微笑みながら一刀の方を見ると一刀が桃香に驚きの言葉を投げ掛ける。
「桃香、折角…こうして皆、集まっていい機会だ。愛紗と鈴々ともう一度誓い直ししたらどうかな?」
「えっ…それは」
一刀の思いがけない言葉に動揺する桃香。
「桃香様、私たちとまた誓いを立てる事が嫌なのですか?」
「そんな事ないよ、愛紗ちゃん!ただ私から誓いを破った様な物なのに…」
「あれは仕方がないのだ!でも二度と同じ失敗をしなければいいのだ!」
桃香が拒絶感を示したのに対し、愛紗と鈴々は再び桃香と誓いを立て直す事に躊躇いは無かった。
「でも…」
「桃香、君が躊躇う気持ちは分かるが、二人の気持ちを汲んでやったらどうだい」
「桃香ちゃん。ここまで貴女を慕ってくれているのよ。二人の気持ちを無駄にするつもりかしら?」
一刀と紫苑から言われると桃香は涙ぐみながら
「もう二人とも…こんな頼りない私とまた誓いを結んでくれるの…」
「勿論ですとも、桃香様」
「当然なのだ」
「……ありがとう、二人とも。ご主人様に紫苑さん、お願いがあるのですが」
「何?」
「どうしたの?」
「はい。お二人にも私たちの誓いに加わって欲しいのです」
「えっ!」
「それは…」
桃香の提案に流石に一刀と紫苑は驚いたが
「それはいい考えです、桃香様。私たちが間違った道に再び進まない様、お二人には見守っていただければ」
「愛紗の言う通り、鈴々も賛成なのだ!」
二人が賛成の姿勢を示し、桃香が懇願するような顔をすると流石に提案した一刀が断る理由も無かったので
「こんな事になるとは……分かった桃香、その申し出受けるよ。それで加わるのに一つお願いがあるのだが、
ここには居ない璃々も誓いの一員として加えたいのだが」
一刀の提案に桃香たちは璃々の事を知っていたので加える事に異存はなく、璃々の代わりの乾杯に第三夫人で
もある翠に頼むことにした。
「フフフ…璃々には申し訳ないけど、まさか私たちがここで桃園の誓いに立ち会うとは思ってもみませんでし
たわ」
「まったくだ」
一刀と紫苑は、このような形で桃園の誓いに加わるとは思っていなかったが、これも
そして元気を取り戻した桃香が
「それじゃいくよ~私達!」
「姓は違えども、姉妹の契りを結びしからは!」
「心を同じくして助け合い、みんなで力無き人々を救うのだ!」
桃香、愛紗、鈴々と言葉を紡いでいく。そして紫苑が
「同年、同月、同日に生まれることを得ずとも!」
「願わくば、同年、同月、同日に死せんことを!」
最後に一刀が言い終わると、紫苑とお互い目が合い、そして桃香たちは俺を見て頷いた。
「「「「「乾杯!」」」」」
そして璃々の代わりに乾杯の杯を交した翠は、杯を大事に抱え一刀に手渡し、後日これを璃々に渡したのは別
の話である。
これを切欠に宴会が始まり、それぞれが談笑し始めていた。
そんな中、一刀、紫苑、桃香、愛紗はそんな集まりから少し離れ話をしていた。
「ご主人様、紫苑さん、愛紗ちゃんありがとうね。こんな事して貰って…」
桃香は申し訳なさそうに一刀や紫苑、愛紗に頭を下げる。
「そんな気にすることないよ」
「愛紗ちゃん、ごめんね。心配ばかり掛けて…」
「いいえ。桃香様は私にとっては、いつまでも義姉なのですから。妹として姉の心配するのは当然です」
「あら、それでしたら、私が桃香ちゃんの姉になるかしら」
紫苑の発言に一刀は、ある事が頭に浮かんだが、危険を感じ取り自ら地雷を踏む必要ないと察知し、敢えて無
言でいた。
紫苑は構わず話を続け、笑みを浮かべながら
「では妹なら、姉の言うことは聞けますよね」
「できる事とできない事がありますが…でも無茶な事言わないで下さいね…ハハハ」
紫苑の笑みに桃香は何か裏があるのではないかと逆に身構えるが紫苑は桃香の不安を無視するかのように
「心配いりませんわ。そんな無茶を言うつもりはありません」
「桃香ちゃん…、貴女、ご主人様と添い遂げる気あるかしら?」
「へっ?ど、どういう事ですか!?」
桃香は紫苑の言葉に驚いていると紫苑は
「あらあら、言葉の通りですわ。私やご主人様は、桃香ちゃんの事を思って言っているの。愛紗ちゃんから
色々と聞いたけど」
紫苑の言葉に愛紗は顔を赤くしながら下に俯いて桃香と視線を合わせようとせず、桃香は
「あの~愛紗ちゃんからどういう風に聞いていますか…」
「全て聞いているわよ。部屋の前で…」
「はう!紫苑さん、これ以上は…」
桃香は紫苑の発言にこれ以上聞かされたら堪らないと泣きを入れてしまった。
「でもね。桃香さん、私も一人の女性としてご主人様を想う貴女の気持ちは分かるわ。もし貴女が良ければ、
一緒にご主人様の傍にどうかしら」
「紫苑さん、その申し出は嬉しいですが…、なぜそんなご主人様の横に大勢の女性をいることを容認するので
すか?」
桃香は紫苑の申し出は嬉しかったが、疑問点もあった。どうして一刀の元に大勢の女性いることを容認してい
るのか。そうすると紫苑は蓮華の時と同様の答えを返答した。
「うふふ♪ご主人様の様な魅力的な男性を一人占めにするのは勿体ないですわ。だからご主人様には色んな女
性に磨いて貰い、更に輝きが増して欲しい。だからこそ、好敵手が多ければ多い程、皆は努力を重ねる。そし
てその上で私がご主人様の一番になりますわよ」
紫苑は微笑みながら言うと更に言葉を続けた。
「それにご主人様はね。貴女みたいに可愛くて困っている人を放っておけないのよ♪」
「あ~もういいだろう紫苑」
これ以上、紫苑が話をしたらもっと恥ずかしい話が出てきそうと感じ取った一刀は話を切って、改めて桃香に
話を始めた。
「とまあ、紫苑の言った通り、女の子に対して気の多い事は否定できないけど…。でもどうして桃香はこんな
俺の事が好きになったのかな?」
一刀が尋ねると桃香は静かに自分の想いを語り始めた。
「……ご主人様は私に再び生きる機会をくれました……!」
「そしてご主人様は自分の理想を信じ、そして皆に愛され戦ってきました……!」
「そんなご主人様を見て、私は好きになった……でも私、名前も無くして何も出来ないけど…こんな私がご主
人様を好きなったらいいの?」
桃香は自分の想いを正直に述べた。
「……桃香、ありがとう。桃香の気持ち、本当に嬉しいよ」
一刀は桃香をやさしく抱きしめた。すると桃香は静かに泣いていた。
「…どうした、桃香?」
「こうされて嬉しいから泣いているの…」
一刀は桃香が泣いている原因が分からなかったが、桃香は更に言葉を続け
「嬉しくても、女の子は泣くんです。心が喜びに震えて、涙を流すんだよ」
すると紫苑が
「あらあら、ご主人様イチャイチャされるのは結構ですが、場所を変えられた方が宜しいかと…」
「えっ?」
周りをよく見ると、愛紗は仕方がない顔をしながらも桃香の幸せな姿を見て
「良かったですね、桃香様。でも負けませんよ」
対抗心を露わにすれば、更に
「……★■※@▼●∀っ!?このエロエロ魔人!イチャイチャするなら、隠れてしろ!!」
「本当だよね~ご主人様これは高く付くよ~♪」
「ハァ…主……時と場所を考えて下され…」
「はわわ…大胆でしゅ」
翠たちは呆れていたが、前もって紫苑から根回しを受けていたのでこれくらいの愚痴で済んでいたが、後日そ
のお礼をさせられたのは言うまでも無かった。
「いやぁ~、ウチとこの大将はホンマにオモロイなぁ~流石、種馬と呼ばれるだけあるわ」
「だよねー。沙和もあんなことされて見たいのー」
「お前達!桃香様は真剣なんだぞ!」
更にこの様子を見ていた凪たちが茶化す者もいれば、
「お姉ちゃん良かったのだ」
「ひぐっひぐっ……桃香様良かったでしゅ…」
「良かったな。桃香」
鈴々、雛里、白蓮は一刀が桃香を受け入れた事に安堵していた。
周りから言われると流石の一刀も一旦桃香を離して小声で周りに聞こえない様に
「……夜に部屋に訪いを入れるから、それまで待ってて。ちゃんと桃香の気持ちに応えに行くからさ」
一刀の問い掛けに桃香は黙って頷いた。
「ありがと、ご主人様」
夜、情事を終えた後、桃香は一刀に静かにお礼を述べていた。
「私はご主人様に会えて本当に良かったと思っているんだよ。今、こうして私がいるのは、全部ご主人様のお
かげだもん。ご主人様がいなかったら、きっと愛紗ちゃんと会えず、鈴々ちゃんと一緒に死んでいたかもしれ
ない」
「それは偶然で、また愛紗と会うことができたかもしれないだろう?」
「偶然でも良いの。また愛紗ちゃんたちと誓いを立てることができて、そして私は愛紗ちゃんと鈴々ちゃんみ
たいに表に立つ事はできないけど、後ろでご主人様の役に立てるよう頑張るから、私を見捨てないでね」
「ああ…見捨てるものか…」
一刀は静かに桃香の唇を奪いながら、桃香の温もりを感じていた。
~おまけ~
こちら荊州では…
「どうしたのですか黄忠さん。浮かぬ顔をして…」
「ああ璃々さん、昨日変な夢を見まして…」
「あれ?黄忠さんもですか、実は私も変な夢見たのですが…。何か出し抜かれたような夢を見て…」
「一体、何の前触れでしょうか…」
「前触れというよりは…またお母さんが何かやらかした様な気がする……」
璃々はそう呟いたが後日、その予感は見事に的中して、紫苑から新たに桃香が加わった事の手紙が送られてく
ると新たにライバルが増えた事に頭を抱えていた璃々であった。
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とうとうこの作品も100話に到達してしまいました。ここまで応援下された方々には大変感謝しております。
また前回の投稿でお気に入り900人を超えて喜んでいます。
今回は色々と都合主義な場面となっていますが、ご容赦願います。
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