No.566381

魏エンドアフター~反乱~

かにぱんさん

投稿間隔が開いてしまった上に今回は短めです。
そして前回の閲覧数と支援数が凄くてびっくりしました(;´Д`)
嬉しい限りですありがとうございます。
し、しかしプレッシャー(・.・;)

2013-04-15 12:30:05 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:13268   閲覧ユーザー数:8451

凪が于吉を討ち取った事で、無数に湧き出ていた白装束達は跡形もなく消えた。

その場にあるのは、獅子に葬られた者の残骸のみ。

 

「さてと、ここからだな」

 

「……ああ」

 

馬超の言葉に、星が同意する。

白装束を退け、一刀、董卓達を救い出すことは出来た。

だが問題はここからだ。

正体不明の相手ではない。

連合軍という、この大陸で名のある者達が集まった巨大な組織を相手にしなければならない。

それも大将はあの袁紹。

どんな理由があろうと、彼女が一刀の起こした行動を許容するはずがない。

それは曹操や、袁術の客将となっている孫策にも言えることだ。

彼女達は甘くない。

たとえこれが、董卓本人の望まない戦であったとしても。

 

「……来たか」

 

桃香や愛紗達も、朱里と雛里を一刀の傍へつかせ、外へ出た。

前方に曹旗、右方に孫旗。

この状況は、誰がどう見ても絶望的だった。

だが自分たちは決めたのだ。

誰一人として、その瞳が絶望に染まっている者はいない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目の前の者に、曹操は息を呑んだ。

あれだけの大人数を一人で蹴散らし、

圧倒的な力で、導師のような男を追い詰め、殺した。

それも普通の殺し方ではない。

頭を握りつぶしたのだ。

自分の前に出ていた夏侯惇、夏侯淵も、その異様な光景に愕然とした。

銀の髪を雨に濡らし、その場に立ち尽くす、手足に蒼き炎を纏った者。

防具により顔の上半分しか見えず、はっきりと確認は出来ない。

 

「……お主は、何者だ」

 

いち早く我に帰った夏侯淵が、言葉を発する。

 

「…………」

 

答えはない。

戦場とは思えない程の静寂が辺りを包み、雨音だけが耳に届く。

その間、誰も言葉を発しない。

発せない。

曹操の誇る兵達も、目の前で繰り広げられた攻防に、完全に戦意を失っている。

ガチガチと歯を鳴らし、辛うじて腰を抜かす事無く、その場に踏みとどまっている。

恐怖を植え付けるには十分すぎるものだった。

しかし、曹操、夏侯惇、夏侯淵の三人は違うことを感じていた。

遠隔の者をも威圧する程の怒りを、殺意を向けた者とは思えない程に、

こちらを一瞥した彼女の目は──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「祭」

 

「うむ」

 

孫策達が到着した頃には、既にそこで起こっていた事は終わっていた。

地面に散らばる夥しい量の肉塊。

そして雨により出来た水たまりは、全てが赤く染まっている。

関羽や張飛達と共に馬超、呂布、張遼がいることも気になるが、それよりも目を引くものがある。

それらから少し離れた場所に佇んでいる者。

自分たちとは別方向から来たであろう曹操達の前に立っている蒼き炎。

 

「……奴じゃな」

 

ひと目で解る。

この異様な光景を作り出したであろう人物。

先ほど感じた恐怖は、幾分和らいでいるが、それでも肌で感じる憤怒。

それを向けられていた者は、もう居ないのだろう。

街の惨状は凄まじいものだった。

建物等は壊れていない。

むしろ本当にこの場で戦があったのかと思うほどに無傷のまま。

しかし、地面に散らばっているものもそうだが、地形が変わってしまっている。

まるで巨大な爪か何かで根こそぎ抉り取られたかのように、深く刻まれた痕跡。

その痕跡は、肉塊に刻まれた傷跡と重なっている。

つまり、人体を”貫通”し、尚地面を抉り取ったという事。

普通に戦っていれば、まずこんな状態にはならない。

いや、ならないのではなく、出来ない。

そして、手や足という、人体のほんの一部だけが転がっている。

他の部位は?一体何をされたらこうなる?

理解の及ばない光景に、恐怖は膨らんでいく。

そしてその恐怖は伝播する。

今ここで下手を打てば、間違いなく自分たちは壊滅する。

曹操達同様、呉の兵達も、目の前の異質な光景に嚥まれてしまった。

 

何が起きていたのかは解らない。

何と戦っていたのかも解らない。

只、北郷一刀という人物を筆頭に、董卓に関わる戦いが起きていたことは解る。

そして、その董卓達と劉備軍が手を組んでいる事も解る。

何故なら、関羽や趙雲といった顔ぶれの中に、張遼や呂布達が居るのだ。

そして、それらに守られるように、少女が二人。

庶民というには、あまりにもかけ離れた姿だ。

服装からして、貴族か何かの娘という可能性もあるが、ならば既に逃げていなければおかしい。

おそらく、あの二人が董卓と賈駆なのだろう。

ならば、この状況を捨ておくわけにはいかない。

この状況を見逃すということは、この戦いで散っていった兵達の死が無駄になってしまう。

 

「行くわよ、祭」

 

「うむ」

 

 

孫策達は、再び桃香達へ向かい歩を進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「凪」

 

佇んでいる凪の後ろから声がかけられる。

振り返ると、愛紗と星が走り寄ってきていた。

 

「……はい」

 

今までの事が嘘のように、凪の状態は落ち着いている。

手足に纏っていた炎も収まっていた。

それを確認し、二人は少なからず安心した。

もしも、あのまま凪が怒りに囚われてしまったら、と。

そう思ってしまう程に、彼女が見せた怒りは凄まじかった。

 

「主は……応急処置だが命に別状はない。

 疲労困憊のところへ更に出血が重なって貧血を起こしたのだろう。

 体の傷も、避ける事は出来ずとも急所は全て外すように受けていたようだ」

 

安心した。

心の底から安堵した。

 

「あの……」

 

消え入るような小さな声が凪にかけられる。

愛紗達の後ろへ隠れるようになっていて気づかなかったが、月と詠も来ていた。

 

「…………」

 

目を向けると黙りこんでしまう。

隣に居る詠も何を言っていいのかわからないのか、言葉を探すように視線が下を向き、動いている。

自分のせいで一刀が──と、思っているのだろうか。

 

「刀を」

 

「え?あ、う、うん」

 

詠の持っていた桜炎を受け取る。

突然刀を要求された詠は訳も解らずそれを手渡す。

自分の主が怪我を負った原因である自分たちに罵声や憎しみをぶつけるわけでもなく、凪は静かにそれを受け取る。

その間も、曹操、孫策達はこちらへ近づいてきていた。

 

 

 

そして、もう接触しようかというところで、両軍は足を止めた。

歩み寄るこちらに対し、関羽や趙雲、呂布、張遼といった面々が得物を構えているのを確認し、戦闘の意思があることを理解する。

 

「劉備。

 ……お前が董卓の為にそこまでする理由は何だ?」

 

曹操はここで起きていた戦いの一部を目の当たりにしていた。

劉備達が何故董卓を庇うのかという疑問は残るが、今重要なのはそこではない。

この状況で、董卓側についたという事実が重要なのだ。

 

「たとえここを切り抜けたとしても、董卓軍についた事実は変わらない。

 董卓達と共にずっと追われ続けるつもりか?」

 

「望まぬ戦に巻き込まれたとしても、それは己の能力不足が招いた自業自得。

 太守をしているのならばそれくらいの危機を回避するのも一国を授かる主としての器量。

 それが出来ぬから董卓は破滅の道を歩んだ。

 そんなつまらぬ人間を助ける為に、お前は己の志を捨てるというのか」

 

曹操はこの戦の全てを理解していた。

理解して尚、彼女はそう口にするのだ。

 

「お前が黄巾討伐の際に口にした志は、このようなところで潰えてしまうものなのか。

 人々を救うというお前の望みはその程度のものだったのか」

 

「……っ」

 

その言葉をぶつけられた桃香は、咄嗟に言葉を返すことが出来なかった。

確かに曹操のいうことは最もだ。

しかし、だからといって一刀を見殺しにするような事をして、董卓を見殺しにするような、

そんな自分が人々を救えるはずはないと思ったのも事実。

夢見人と言われても、理想を追い続ける莫迦な人間だと言われても、それを恥じたことはない。

しかし、まだ一軍の主としての経験が圧倒的に少ない桃香は、曹操の言葉に上手く切り返すことが出来なかった。

そして、桃香が言い淀んだのを見ると、曹操は心底がっかりしたような、失望の表情を見せた。

 

「……どうやら私の見込み違いだったようね。

 貴方はいずれ私の前に立ちはだかる好敵になってくれるものだと思ったのだけど」

 

そのまま孫策達のほうへ向き、

 

「孫策。貴方達はどうするつもりかしら。

 私は今、あの者達を潰すことになんの躊躇もなくなったわ」

 

劉備軍を潰す、と、そう明言した。

 

「そうねぇ……、伊達酔狂でこの戦をめちゃくちゃにされちゃったら、あたし達が莫迦を見るだけだものね」

 

各軍の大将二人の言葉を聞き、愛紗達は臨戦態勢に入った。

もう、逃れられない。

自分たちの人々を救うという想いは、世に届かなかったのだと悟った。

ならば、全力を賭して、武人として戦う事が最後の足掻きだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少数とはいえ桃香たちが連れてきた兵達よりも遥かに数は上回っている。

それに今はこの場だけの数だが戦闘が始まれば後方に控えている両軍の兵達と共に袁紹軍も押し寄せてくるだろう。

もう、月達の率いていた董卓軍の兵達も残っていない。

たとえここで凪が武力によってこの状況を突破出来たとしても、

それからはずっと、月達のように、連合軍の裏切り者として追われ続け、世間からは暴政の主に加味した存在として疎まれる。

そうなれば、桃香達が掲げている、弱き者を救うという志は、その想いは、人々に届かぬまま、

こんなにも綺麗で真っ直ぐな心を持った人たちが、不名誉な扱いを受け、終わってしまう。

桃香達が世へ出れば、どれだけの人たちが救われることだろう。

ここで彼女達の志が消えるということは、その”救えたはず”の人々も救えない。。

ここで自分たちの頸を差し出し、劉備軍の手柄として上げれば、桃香達はこの危機を脱する事ができる。

実際、そうなる覚悟を決めていた。

自分たちは一刀に助けられた。

生きる意味を教えてもらった。

たとえここで尽きる命であったとしても、それまでの自棄になっていた自分とは違う。

意味のある最後だと思える。

最後に、本当に素晴らしいと思える人に出会うことが出来たのだから。

だから、自分たちを救う為にこの方達がこの先の未来を失うのなら、自分の頸を差し出す覚悟もできていた。

それを実行するために一歩踏み出そうとしたところで、月の前に凪が立ちはだかった。

 

月の行く手を阻むように立ち、そのまま両軍を見据える。

 

そして、あの時感じた恐怖が、今一度その身を包んだ。

 

身の毛がよだつ、あの感覚が。

誰もがその気配に息を呑む中、曹操は違和感に気づいた。

確かに恐ろしい。

己の武を極め、心身ともに鍛えあげられた者でなければ正気を保っていられないだろうと思う程に。

だが、今彼女が自分たちに向けている視線は、殺そうとしている相手に向けるものではなかった。

ここにたどり着いた時に、こちらを一瞥した時の目と同じ。

殺意や怒りの一切篭らない──

 

 

 

 

 

彼女の向けるその瞳は、只、悲しそうだったのだ。

 

 

 

 

「……何故、そんな目を向けるの?」

 

そのあまりにも悲哀の篭った視線に、問いかけずにはいられなかった。

 

「…………」

 

しかし、曹操の問いかけに答えはない。

そして、そんな感情を込めているのに、身を引く意思は見せない。

 

「何故、そんなにも辛そうに戦おうとするの?」

 

まるで曹操らしからぬ語りかけ方に、夏侯惇も夏侯淵も戸惑いを覚えた。

 

そして、凪が静かに口を開く。

 

「……貴方は、自分の一番大切なモノを失ったことがあるだろうか」

 

「……?」

 

「貴方は……自分の命よりも大切なモノを、自分達のせいで失ったことがあるだろうか」

 

突然の話に、困惑する。

でも、それが彼女の原動力になっているものの話なのだと理解できる。

だから曹操は黙って凪の言葉を待つ。

 

凪は知っている。

この世界の曹操は、まだそんなことを体験したことはない。

一刀を失って初めて、自分と同じような気持ちになったはずだから。

だから、この世界の曹操は、まだ失うことの本当の怖さを知らない。

覇道の為ならば、と、そう考えているはずだ。

 

「皆に喜びを与えて、皆が喜んで、一緒に喜んでくれるはずだった人が、自分の目の前から消える。

 たったひとつの、皆の中心にあった欠片が、一番無くてはならない欠片が、消えてしまう」

 

「…………」

 

「そんな経験を、したことがあるだろうか」

 

はっきりとは言わない。

しかし解る。

伝わってくる。

彼女の誓った決意の原点がそこにあるのだと。

 

「あの人はどこまでも優しいから、ここで劉備軍がこの先の未来を失うことを良しとはしないでしょう。

 自分のせいであの方達の未来を消し去ってしまったと思うでしょう。

 あの人の心は折れてしまうでしょう。

 だから、これは”北郷一刀”と”楽獅”、”二人”の反乱です」

 

深く息を吸い込み、

 

「もう、二度と失くさない。

 その為なら私は──」

 

しっかりと、己の揺らがぬ意思を込め、

 

 

 

「例え、それが”貴方”であったとしても、あの人の前に立ち塞がるのなら、打ち砕いてみせる」

 

 

 

そう、言ったのだ。

 

「…………」

 

この戦いは、北郷一刀と自分だけが引き起こしたものだと明言した。

目の前にいる凪が、何を体験したのか、曹操は解らない。

しかし、これだけの武と義を持った武人が、己の全てを捧げるほどに心酔している人間。

北郷一刀。

黄巾討伐の際にも見たあの青年。

彼の姿を思い描いた途端、曹操は気づいた。

目の前にいる楽獅と名乗る者と、北郷一刀の共通点。

そのどちらもが、自分に向ける視線が、全く同じなのだ。

悲しみ、苦しみ。自分を見るとき、ふたりともそんな感情を秘めているのだ。

決して、初めて合う人間に向けるものではない。

決して、敵になろうとしている人間に向けるものではない。

 

直後、凪が桜炎を抜き、月や桃香達を囲うように、そして凪自身と桃香達を隔てるように、地面に刃を走らせる。

その場から動いたわけでもないのに、深々と地面を抉り、広範囲に渡り地面に跡をつけた。

その溝は、雨によって塞がれる事はなく、刀を伝い、その跡に沿うように淡い、蒼い炎のようなものが残る。

 

 

 

 

「この方達の意思も、志も。

 あの人の想いも、信念も。

 全て私が守ります」

 

 

 

 

月の考えていることが解っているかのように、

まるで月に言い聞かせるように凪が言う。

そして桜炎を自分の目の前に突き立てた。

まるでそれが、一刀の信念であるかのように、真っ直ぐに。

 

 

 

 

「たとえ矢が尽き剣が折れようと、

 我が闘志は尽きない。

 我が信念は折れない」

 

 

 

 

 

「我が誓いは、永遠に消えることはない」

 

 

 

 

 

両腕を広げ、拳を握りこみ、勢い良く自分の拳同士をぶつける。

鉄と鉄がぶつかる凄まじい音と共に、再び両腕に蒼炎が燃え盛り、

 

 

 

 

「ここを通りたくば、我が屍を超えてみせよ」

 

 

 

 

白銀の獅子は、そう名乗り出たのだった。

 

月の考えは、即座に全否定されたのだと解った。

 

頸を差し出すなど、とんでもない。

彼女は、凪はどこまでも真っ直ぐに。

どこまでも、どこまでも一途に、彼の想いを守る。

それが、自分の天命であるかのように。

己の中に、そう誓を立てて。

 

凪の名乗りを見た者達は、思わず息を呑んだ。

その強く、気高い意思に、姿に、一瞬、心を奪われた。

それは、敵であるはずの曹操や孫策達も同じだった。

 

 

 

あとがき

 

なかなか行き詰まってます。

行き当たりばったりの辛いところですね。

頑張ります。

 

ちなみに前回頂いたコメントに弱ってない一刀ってどれくらい強いの?というものを頂きました。

ふるぱわー一刀君の場合、この世界から約二年後~であるもとの世界では日常生活に支障を来すレベルで頑張れば愛紗、春蘭、霞等と並ぶくらいには強くしております。

でも支障が出ないレベルの普通に本気って感じなら三羽烏(凪を除く)よりちょい上くらいです。

(この飛ばされた世界では愛紗よりすこし弱いくらい)

主人公補正が掛かりこの世界では恋に勝利しております。というよりも実力では余裕で負けています。

只一刀の武術がこの大陸には無いものと仮定しておりますので、それの対処が解らないという事からそれなりに戦闘が成り立っています。(という設定)(*´Д`)

 


 
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