「はふう~ばれちゃうかと思いました」
後ろに回した手に握られていたのは、菓子の料理教本であった。
「ばれない様に、して一刀さんを驚かせないと~喜んでくれたら~」
「ふふ~」
いつぞやのようによからぬ妄想に再び突入した。
「そんなところ触っちゃだめですよ・・・・・蓮華様が見てらっしゃいます・・・・・あぁん・・・・もぅ・・・・だめですよぅ」
廊下の角で身を悶えさせ、下半身を右に左に振っている。
「はぅ!また、妄想しちゃってました~早く準備しないと間に合いません~」
そのまま、自分の部屋へと向かっていった。
「ふう~~~~~もう少し遅かったら危うかったな」
無理やり詰め込んだためか、瓦解した本棚の中に唯一料理教本だけが残っている。
「しかし・・・・・問題は、儂がこれを作れるかじゃが・・・・・」
何を思ったのか、珍しく頭を振り、先ほどの考えを振り払うようだった。
「なにを弱気になっておるのじゃ、相手はあの北郷じゃぞ、今まで闘ってきたことをおもいだせ」
今までくぐり抜けてきた死線のことを思い出す。
「しかし・・・・今回はさすがに相手がのう・・・・」
頭に浮かんだのは、北郷の姿、そしてそれを取り巻くこれからの呉を支えていくであろう者たち。
「若さか・・・・しかし、儂にも勝機はあるはずだ!」
ぐっと、拳を握ると先ほどの弱気な自分を戒めるためにか、一度自らの頭をたたき、作業を始めた。
外から、侍女と北郷が言い合う声が聞こえる、今すぐに出ていきたい気分に駆られるが、今回はその衝動を堪える。
「今はダメよ・・・・・・今は・・・・・」
体が一刀の声に反応し、出て行こうとうずうずしている。
何か意外と揉めているらしく、一刀の声は中々聞こえなくならない。
「もう!射っていいから!追い払って!」
自らの本能を押さえつけているためか、汗をかいている。
「一刀のばか・・・・・・」
意外と粘ってくれたことにうれしさを考え、頬を赤く染めた。
「喜んでもらうために・・・・・頑張らないと」
「はぁぁぁ、私、何であんなことを・・・・・嫌われてないよね?」
自分が先ほどとった行動を思い出し、顔を青くしている。
「でも・・・・ああするしかなかったよね」
一刀が来る直前まで着ていた、一刀からプレゼントされた服を眺めると一緒にゴマ団子を作ったことを思い出して、顔を赤く染めた。
「うぅ・・・・・・だめ・・・・一刀様の顔が浮かんで・・・・・作業が進みません」
いざ、作業を始めようとすると顔を赤く染めていた。
「でも・・・・一刀様の喜ばれる顔が見たいから・・・・」
そうして何時か、作業を開始する。
「くっ!なぜこの私が北郷を見ただけで、このような行動を取らねばならんのだ!」
言葉とは裏腹に、心臓は早鐘のように打っている。
「なぜだ?私は、北郷のことを好いているとでも言うのか?」
頭では否定しつつも、体はそのことを否定してくれない。
「あいつには、蓮華様が・・・・」
そのことを考えると、なぜか胸を締め付けられるように痛くなった。
「くそっ!なぜ私が・・・・・」
ぶつぶつと文句を言いながら、市へと降りて行った。
「はう~お猫様、かわいかったです」
先ほどの猫の行動を思い出して、顔を綻ばせると同時にそのそばにいた一刀を思い出してしまったのか、顔を真っ赤に染めた。
「一刀様・・・・はうあ!」
そうつぶやいた瞬間心臓が早鐘のように打っている。
「うぅぅぅぅ・・・・・もう、集中できません」
いつもなら簡単に集中できるはずなのに、最近は妙に一刀を意識しているためか、徐々に集中力まで落ち始めている。
「早く作って、一刀様にお渡ししないといけないのに・・・・」
気落ちしながらも、手付きはしっかりとしており、そのうち黙々と作業を進めていった。
「まさか、あんなところで北郷と出会ってしまうとは、誤算だった・・・」
自分が北郷に惹かれていることに気づいてはいたが、まさかここまで惹かれているとは思ってもいなかった。
「いや、私の注意力が散漫になっているのか、それに、料理長に指摘されてしまうとは、
私も、やはり乙女であったということか」
先ほど、調理場にいた料理長から、ここ最近になって急に女性らしくなったといわれてしまった。
「北・・・・・いや、一刀・・・・」
つぶやいただけなのに、顔が熱くなっているのがわかる。
「あぁ、気恥かしいがなぜだか心地よい・・・」
その後、自室に帰って少しの間は夢見心地で、何も手に付かなかったのは秘密である。
「危なかった、もう少しでばらしてしまうところだった」
いつも一刀があの通路を通っている事は知っているが、今回はあまりよく考えていなかったためか、そう言うことは完全に失念していた。
「・・・・・一刀、もう少し我慢してね、もうすぐ・・・・」
あげた後のことを少し考えて、顔を真っ赤にしている。
「ダメだ、まだ渡してもいないのに、渡したあとを考えるなんて・・・・」
自分で自分のことを抱きしめると、つい数日感じていた一刀の温かさを思い出すようで少し嬉しそうにほほ笑んだ。
「でも・・・・本当に受け取ってくれるのかしら」
受け取ってもらえなかった時のことを考えたのか、顔が少し青ざめた。
「そんなのは、やってみないと分からないはずだ」
拳を握り闘志を燃やしているがそこには、一刀が絶対に受け取るという確証はなぜか存在しなかった。
「もう!なんであんなところに一刀がいるのよ!」
今、雪蓮の手には先ほどまで山積みになっていたどす黒い何かであった。
「もう少しで見られちゃうところだったじゃない」
自らの失敗を見て欲しくないためか、少し無理矢理に別れてしまったことを若干後悔していた。
「今のうちに一刀への思いを貯めておけば“ばれんたいんでー”にはあふれそうな思いを受け取ってくれるはず」
その溢れんばかりの思いで一刀が少し引いてしまうことなどは全く考えていない。
「一刀・・・・・なんでこんな思いをさせるの?」
その問いかけを行っても、本人がいるわけでもないので返事が帰ってくることはなかった。
ついに九つの旋風は竜巻へと変貌を見せている、個々の竜巻の大きさこそ異なるがその圧倒的な力はどれも同じである、すでに竜巻同士がぶつかりはじめ、融合もすでに時間の問題である、いまここで個々の竜巻は一つとなり、嵐へと至る
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一刀と話し、隠し事をして去って行った呉のキャラを書きました