意識を失う前、一刀が最後に見たのは歪に笑う程遠志の顔だった。
「あれは何だ・・・思春わかるかしら?」
褐色の肌をした少女は川面に浮かんだ物体を見て、思春と呼んだ少女に問いかける。
「は。・・・どうやら人のようです。・・・息はあるようです。蓮華様。如何いたしましょうか。」
思春と呼ばれた少女は蓮華と呼んだ少女に伺いを立てる。川を力なく漂ってて生きている人間というのは、不審人物。と判断するのに十分なようだ。
「今の私たちに手を出して得するような勢力は少ないし、間諜の類なら改めて切ればいいわ。それに見捨てても寝覚めが悪いもの。助けてあげて。」
その日の昼過ぎとある屋敷に人が担ぎ込まれた。
一刀が目を覚ましたのは担ぎ込まれてから3日たったある日のことであった。
一刀は救助してくれた二人と屋敷の広間で対面していた。
「この度は本当になんと言ったら良いものか・・・有難うございました。」
(この人達が助けてくれたのか!屋敷の規模からかなりの位の人みたいだが・・・)
二人の名前もまだ知らないことに今更ながらに気がついた一刀は名前を聞くことにした。
「申し訳ない。助けた恩人のお名前も聞いておりませんでした。俺は北郷一刀と申します。お二方のお名前をお伺いしても宜しいですか?」
その言葉に二人は困ったように目を見合わせると
「あ~。うんそうね。私の名は・・・そう、王峻よ。王峻と呼んで頂戴。こっちは沙亮よ。」
若干目を泳がせながらそう答えた。
(どう考えても偽名・・・だな。まぁ気にすることじゃない。おそらく・・・名前を簡単に話せないほど位の高い人なのだろう。その立場の人が助けてくれた。不審な人間・・・火種を抱えたようなものだ。裏があるとしても、感謝しこそすれ、疑う所ではないな。ならここは空気を読むべきか・・・)
そう考えた一刀は素直に二人の名前を受け取ることにした。
「王峻様と沙亮様ですね。重ね重ね有難うございました。」
そういう一刀に王峻はホッとした表情を一瞬見せると
「困ったときはお互い様だ。そう気にしないでくれ。・・・まだ体調が優れないようね。空き部屋はあるから、暫く逗留すると良いわ。」
と言ってくれたので、一刀はありがたく体調が回復するまで世話になることにした。
どうやら考えた通りに王峻は名家の子女らしい。とわかったのは面会した日から数ヶ月経ったある日のことだった。この頃になるとそれなりに体調も回復し、世話になる代わりに簡単な仕事を引き受けるようになっていた。引き受けた仕事が終わったので報告のために王峻を探していたところ、中庭から剣戟の音が聞こえた。一瞬にして体が戦闘態勢に入るのを感じながら一刀は中庭の様子を伺った。
「蓮華様。受けているだけでは勝つことはできません。少しは攻めてください。」
「くっ・・・言わせては・・・おかぬ!」
中庭では王峻と沙亮の二人が修練をしている最中だった。それを見た一刀は頃合を見計らって2人の前に出て行った。王峻はどうかわからないが、沙亮が気がついている可能性があったからだ。いらぬ疑いを受ければこちらを敵視するかもしれない。そう判断した為だ。
「おー。頑張ってるなぁ。修練かい?」
数日も立つと敬語がなくなる程度には打ち解けていた。王峻と沙亮のそばに行き話しかけた。
「北郷か。・・・あぁ。王家は気付いているかもしれないが名家だからな。何があるかわからん。その為だな。」
「なるほど」一刀は相槌を打つと何か言いたそうにしている沙亮に気がついた。目で先を促すと
「北郷。よければどれだけ体調が戻ったか打ち合ってみないか?その体つき・・・結構やるんだろう?」
沙亮は「そこの棚にあるモノから選べ」と目線で棚を指し示した。一刀は軽くため息を吐きながらも自らが使っていた大鉞に最も似た変わった形状をした戟を手にとった。一刀が手にとった獲物に二人は多少驚いたようだ。一刀が持った戟は一般的な戟とは違い、斧のような月牙と呼ばれる物が穂先についている戟刀と呼ばれる物だった。
「変わったものを選ぶ・・・」
そう言いながら沙亮は重心を深く落とし刀を体で隠し機を伺う。対して一刀は体を軽く落とし両手で戟刀を持ち右手を顔の横に付ける八相の構えを取った。
「・・・ふっ!」
沙亮は滑るように一刀に近付き切りつけようとするが、一刀の石突が邪魔をし思うように近付けず空を切ってしまう。一刀は返しとばかりに戟刀を縦に回転させ逆風に切り上げるものの、沙亮はソレを受け止め、その勢いを持って後ろに大きく飛ぶ。正に一進一退の攻防が展開されていた。
何合打ち合っただだろうか。本調子でない事もあり、上手く呼吸ができず、思ったより早く息が上がってきた隙を突かれ、戟刀を打ち落とされ沙亮の刀が首元に突き付けられていた。
「お見事・・・すごいな。」
「貴様こそな・・・北郷。」
やはり武人なのだろう。なにかが通じたのか、打ち合って仲良くなれた気がした。
「凄いわ!思春と此処まで打ち合えるなんて!」
興奮した様子で王峻がこちらに駆け寄ってくる。聞きたいことが多いらしく、暫く質問攻めに合った。やる事がある。と女官に王峻が連れて行かれたのは日が落ちかけた頃だ。
「王峻様も貴様が気になって仕方がないらしい。」
連れて行かれる王峻を見ながら沙亮はそんなことを言った。
「確かにあの質問の量には驚いたけど・・・な。」
矢継ぎ早に質問を繰り返す王峻を思い出し苦笑する。ふと、桃香のことを思い出した。
少し顔を曇らせると沙亮はなにか思い当たったらしく
「確か崖から落とされ流されてきたんだったな。村に誰か待たせているのか?」
と聞いてきた。
「ん、あぁ。心配してるだろうな~ってね。」
(かなり気になるけど、路銀まだ心許ないしな。しばらく稼ぐか。この調子なら賞金稼ぎもできそうだ。・・・となると武器か・・・言ったら貸してくれっかな。いや、これ以上借り作るのもな・・・)
そんなことを考えてると沙亮はこちらの考えてることを察したのか
「ふっ・・・そうか。賞金稼ぎでもするか?その前に武器だな・・・良い鍛冶屋がいる。明日にでも王峻様に伺いを立てて紹介してもらおう。」
翌日、王峻に会いに広間まで行くと、既に王峻と沙亮が待っていた。
「来たか。沙亮から話は聞いている。鍛治屋を紹介する。」
そこまで言うと沙亮がなにか王峻に耳打ちする。中途半端に声を抑えるものだから言葉の端々が聞こえてくる。
「い・・・です・・・この機会を・・・交換・・・」
「えぇっ・・・そ・・・恥ずかしい・・・わかったわ・・・」
「ほ、北郷!あなたに わ、私の真名を預けるわ!私の真名は・・・蓮華・・・だ。」
後半はヤケに尻窄みで聞き取りにくかったが、なんとか聞き取ることができた。
「私の真名は思春だ。よろしく頼む」
対照的な態度の蓮華と思春を前に一刀は知らず微笑むと、改めて二人に自己紹介をした。
はしがき。
やっと主人公が(話の上に)再登場です。
川に流されて蓮華さんに拾われるとか地図見てんのかよってレベルですよね。
いいんです。そういう設定ですから!なので都合により蓮華さんの初期位置がズレてます。
しかし、戦闘をきれいに書ける人って凄いですよね。
自分で書いてて何回も書き直しましたもの。アレでも。
相変わらずこのキャラはこんなこと言わない!って言われそうな会話内容ですが
お目こぼしいただけると幸いです。
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超展開一丁入ります!
正直、スマンカッタ。
頭空っぽにしてぼーっと見れば
余りのくだらなさに悟りが開くかもしれません。
王峻と沙亮・・・一体何権と何寧なんだ・・・