それはバレンタインデーを控えた数日前。
「よいか、お主ら、北郷の言っておった、“ばれんたいんでー”だったか?まで時間はない、まぁ、渡すのは各個人の意思次第だ」
「祭様のお、おお話によりますと、一刀様に誰でもお菓子を“ぷれぜんと”してもいいのですか?」
「そう言っておったな、好きな男に女性が“ぷれぜんと”をする日だと」
「そうですか、私はこれで失礼します」
「ん?思春よ、もう行くのか?」
「はい、私には関係ないことですので」
「そうか、なら良いがの」
「な、なにか、疑っておられるのですか?」
「いや、別に何もないがえらく焦っているようじゃなと思っての」
「蓮華様の護衛に戻らないといけませんので」
そう言うと、荒々しく扉をあけると、焦ったように出て行った。
「それでは、解散するかの?どうした、亞莎」
「・・・・・・・・・・・私が、本当に一刀様に“ぷれぜんと”をしてもよいのでしょうか?」
「何を言っておる、言ったであろう好きな男に“ぷれぜんと”をする日じゃと」
うれしそうに顔を綻ばすとそのまま駆け足で外へ出て行った。
「わしも何か買・・・・・いかん、こういうときは手作りで気を引かねばな、只でさえ年が・・・・いかんいかん、これは考えてはダメじゃ」
頭を軽く振ると、部屋の外へ出てそのまま調理場へと向かった。
「あはは~いいこと聞いちゃいました~一刀さんに何を“ぷれぜんと”しようかな~」
あげる物を考えていると、その後のことがどうしても頭をよぎる。
「喜んでいただけましたか?あぁん、駄目です、一刀さぁん・・・・・そんなぁ・・・・お預けなんて酷いですぅ」
妄想に身を悶えさせている穏は自らの胸に・・・・・後は規約に触れるため省略されました。
「ふうぅぅ、いけないいけない・・・・・皆に負けないようにしなくちゃ・・・」
そうつぶやくと、いそいそと準備しそのまま市へと降りて行った。
「待っててください、一刀さん」
「お猫様~私は・・・・・・モフモフ~・・・・・・どうしたらいいのでしょうか?・・・・・・モフモフ~」
「にゃ~お・・・・・・にゃ、にゃー」
急に暴れ始めると、明命の腕から抜け出すと振り返りもせずに去って行った。
「お猫様は厳しいです・・・・・・はっ!お猫様は自分で考えろと教えてくれたのでは・・・・・きっとそうです、ありがとうございます、お猫様!」
お猫様が立ち去った方に深く頭を一度下げると、そのまま何処かへ走り去ってしまった。
「そうです、私は、一刀様にあれを・・・・・」
「うぅ~本当に私が・・・・・」
先ほどの祭の言ったことを思い出して顔を真っ赤にしている。
「好きな男の人・・・・・・一刀様・・・・・」
一緒に作ったゴマ団子と送られた服を思い出し、さらに顔を赤く染める。
「一刀様・・・・お慕いしております・・・・・なんて、言えません・・・・でも、作って、渡すくらいなら・・・・・」
服をいそいそと着替えるとそのまま調理場へと走って行った。
「なぜ私が、あのような男に“ぷれぜんと”をしなければいけないんだ!」
そう言いながらも、脳裏には一刀の顔がちらついている。
「だめだだめだ!なぜあの男に!」
雑念を払う様に頭を強く振る、しかし一向に消える気配はない。
「くそっ!なんなのだあいつは!・・・・・・・しかし、日ごろの礼に・・・いかん・・・それではまるで私がやつのことが!」
何かを苦悩しながらも、足は徐々に市へと近づいている。
「悩んでも仕方あるまい・・・・・・蓮華様に茶菓子を買いに行こう」
「ふむ、困ったのう、よく考えれば菓子など作ったことがない」
手の込んだものを作ろうと考えていたのか、部屋に一冊だけあった料理の本を探しているのだが、なかなか見つからない。
「北郷に料理を作るために買った本が、まさかこんなことに役に立つとはな」
見つけたのは300ページ以上はありそうな料理教本であった。
「ふうむ、あ奴はどのような物が好きなのかよくわからんが、このあたりを作っておけば問題ないのじゃろうが・・・・これでは、奴の興味を引かんか・・・・ならば、これか・・・」
次々とページをめくり、徐々に難しい方へ向って行っている。
「これなら、いいだろう・・・・北郷の驚く顔が楽しみじゃ」
「一刀に“ぷれぜんと”するもの・・・・・」
小蓮は悩んでいた、いつも強請る側なので喜ばれるものが分からない。
「お菓子をあげるんだよね・・・・じゃあ、一刀から教えてもらったあのお店にしよ♪」
一度、一刀に連れていってもらい一刀もおいしそうに食べていた菓子を思い出した。
「そうだよね、一刀に喜んでもらうのが一番だからね」
自分に言い聞かせると、そのまま市の方へ走って行った。
「ふむ・・・・北郷はなにが喜ぶか・・・・」
自室に帰り、書物をいろいろ漁ってはいるが、なかなかいいものが出てこない。
「他の者とは異なるものでなければ意味がない」
難しく考え、すでに迷路に入りかけていた。
「仕方ない、菓子でも作・・・・」
その時、目に入ったのは小蓮が置いて行った阿蘇阿蘇という雑誌であった。
「ふむ・・・・・これは・・・・・これなら」
珍しく雑誌片手に、市へと降りて行った。
「一刀は、どのような物を好むのだろうか」
寝台に腰掛けて考えては見る物の、全く浮かんでこなかった。
「菓子以外の“ぷれぜんと”でも構わないのだろうか?」
いい所に気づいたというべきなのだろうが、蓮華はそれによりさらに悩むことになった。
「何を悩んでいるのだ・・・・・しかし、一刀の喜ぶ顔が見たいの・・・・」
「どうすればいいの?」
誰もいない空間に声をかけるが、何の返事もない。
「あぁ!もう!なんで、うまくいかないのよ!」
調理場は混沌と変貌し始めている、雪蓮の周りにはどす黒い何かが存在していた。
「祭はあんな簡単そうに作るのに、何で私にできないのよ!」
本人が聞いたら怒りそうなことではあるが、そのことは念頭にも置いていないような感じで、一心不乱に料理をしている。
「も~だめ、手作りのものなんて・・・・・でも、手作りのほうが、喜んでくれるよね?一刀」
ここには居ない一刀に話しかけているが、全く方向性が定まることはない。
今、嵐の前兆ともいえる複数の小さな風が巻き起こった、風は目的地に着くまでに大きくなり、やがて融合し小さな旋風も竜巻と化し、ゆくゆくは大きな嵐へと変貌する
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後編に行く間の話で、全員の苦悩を書いてみました、後編を楽しみにしていてください。