No.562302 真・恋姫†無双 異伝 「伏龍は再び天高く舞う」外史動乱編ノ三十四2013-04-03 19:35:59 投稿 / 全10ページ 総閲覧数:6083 閲覧ユーザー数:4780 |
「我が名は曹操!北郷に一騎討ちを申し込む!!」
突然の曹操よりの言葉に皆驚きを隠せなかった。
「俺と一騎討ち…?何を突然…」
俺もまた例外では無かった。
「一刀様、そんな言葉に乗る必要はありません!」
「そうじゃな、どうしても一騎討ちという事になったとしても、お館様が出る
必要は無い。儂が相手をしてやるわ」
凪と桔梗がそう反対意見を言う。
ふむ…確かにここで一騎討ちに応じる必要は何処にも無い。それにもし曹操
が俺に勝った所で戦に勝利するわけでは無い事位、彼女も分かっているはず。
「どうする、朱里?俺は申し出を受けるべきなのか?」
「軍師としての意見を申し上げれば、此処であんな申し出に乗る必要はありま
せん。一人で出て来たのを幸いに矢を浴びせかけて討ち取ってしまえば良い
のです。でも…ご主人様があえて一騎討ちに出るというのなら、私は止めま
せん。但し…」
「但し?」
「必ず生きて帰って来るのが条件です。おじい様とおばあ様にひ孫の顔を見せ
なくてはなりませんからね」
ここでじいちゃん達の事を持ち出すか…厳しい事を言う。
俺は視線を曹操の方へ向けると、彼女の顔を見ながら考え込んでしまう。
一人の人間としては、曹操の申し出を受けてあげたい部分も無いではないの
だが…よし、決めた!
「曹操!」
俺の声に曹操はさっと身構える。
「あなたの心意気は分かった!だが…」
俺の『だが』という言葉に曹操の眼が泳ぐ。
「俺達は一軍を率いる将である!自分を信じてついて来てくれた者達へ対する
責任の為にも一時の感情で動く事は出来ないし許されるものでも無い!申し
訳ないがその申し出は却下だ!!全軍、敵将はそこに見えたり…討ち取って
手柄とせよ!!」
俺がそう言って後ろに下がると同時に桔梗を先頭に北郷軍が曹操の軍に躍り
かかる。
「この…北郷!私のこの世での最期の願いすら跳ね除けるというのか!?」
曹操の叫びが聞こえて来たような気もしたが、兵達の喊声にかき消されてい
ったのであった。
・・・・・・・
「敵軍ほぼ壊滅しました!残るは『郭』の旗印の軍勢のみ、数は約三百!」
「曹操は!?」
「分かりません…死体は隈なく探しましたがそれらしいものは」
ならば生きていると考えた方が良いな…まあ、とりあえずは目の前の敵勢へ
の対処だな。
「さて、どうするか…ここまで来てあっさり降伏してくれるわけもないだろう
しな…普通に考えればここは押し包んで射殺してしまえばいいのだろうが…
どうしたものか」
俺がそう考え事をしていたその時、風がやって来た。
「風…あれ?確か輝里達と一緒だったんじゃ…?」
「お願い事があって戻って来ました」
あれ?珍しく普通の口調だ。
「あの軍勢は風に任せてもらえないでしょうか?」
「風に?…でも、確かあの軍勢を率いているのって…」
「はい、風はお兄さんに仕える前に彼女と一緒に旅をしていました。だからと
いって命を助けようとか手加減しようとか思っているわけではないのです。
ただ、彼女の死に水はせめて風の手で…」
そう言っている風の眼は真剣そのものであった。
「分かった…ならばあの軍勢は風に任せる。但し条件がある」
・・・・・・・
郭嘉の目の前で北郷軍が散開して行くが、その目の前に部隊が一つ残ってい
た為、郭嘉も動けずにいた。
「郭嘉様、敵軍が…」
「分かっています。でも我らがこれ以上動けば、目の前にいる部隊にやられま
す…くっ、ここに来て…風!」
郭嘉は忌々しげに吐き捨てながら目の前に翻る『程』の旗を睨み付けていた。
・・・・・・・
「程昱様、敵軍全く動きませんが…」
兵士の報告を聞きながら風の眼は真正面にいる郭嘉を見つめていた。
(稟ちゃん…本当に降伏するつもりは無いようですね。ならばもはや容赦はしま
せん!)
「全軍、指図の通りに動いてください!」
郭嘉の面前で風の部隊は二つに分かれる。
「郭嘉様!」
「落ち着きなさい…風、その手は喰いません!」
郭嘉は二つに分かれた片方に照準を決め、突撃をかける。
しかしその瞬間、その部隊はさらに二つに分かれ、その後ろから『楽』の旗印
の部隊が現れる。
「なっ…バカな!」
郭嘉の顔は驚愕に包まれていた。
・・・・・・・
凪の部隊が郭嘉の軍に攻撃を仕掛けるのを見た風は、すかさず側面より攻撃を
かけさせる。
「本当は風一人で決着をつけたい所ではありましたが…お兄さんのお言葉の方が
優先ですしね」
風はそう呟いていた。ちなみに一刀よりの条件とは一人では戦わず、凪の部隊
も使って作戦を立てるようにという事であった。
・・・・・・・
「風様、敵将を捕らえました」
凪が縛り上げた郭嘉を連れて風の前に現れる。
郭嘉は風を一瞥しただけで地面を見つめたまま動かなかった。
「凪ちゃん、彼女の縄を解いてください」
「はっ、分かりました」
縄を解かれた郭嘉は憮然とした顔で風を睨みつける。
「どういう事です…まさか情けをかけようなどというつもりですか?」
「それこそまさかですね。風は貴女を殺すつもりで作戦を立てたのです。貴女が
今生きて此処にいる事自体、ただの偶然に過ぎません」
「ならば何故!?」
「ちょっとお話をしたかっただけです。縛られたままでは尋問しているみたいで
嫌でしたので」
風のその言葉に郭嘉の顔は少し和らいだが、
「話…?まさか私にも北郷に仕えろとか言うつもりなら断る。それは既に議論し
尽くした話だ」
憮然とした態度はそのままであった。
「いえいえ、そのような事は…それにもう北郷軍には軍師は風を含めて五人もい
ますから稟ちゃんの居場所は無いですからね」
風にしれっとそう言われた郭嘉の唇は苦々しげに歪んでいた。
「なら何の話だ!」
「稟ちゃんは本当に朱里…諸葛亮に勝てると今でも思っているのですか?」
「なっ…」
風にそう聞かれた郭嘉は地面の一点を見つめたまま押し黙ってしまった。
「風とて軍師の端くれ、自分より優れた知の持ち主がいる事に対して嫉妬や羨望
が無かったわけではありません。でもそれ以上に彼女の知識の源泉を知りたい
という気持ちが強かったのです…一体何をどうしたらあのような神がかった知
を得る事が出来るのかと」
「それを得る為に北郷に仕えたというの?」
「それだけだと半分ですね」
「半分…?それじゃもう半分は?」
「お兄さん…北郷一刀が風の好みの殿方だったからですよ」
風はそう言って、はにかんだ笑みを見せた。
「なっ…そんな理由で?」
「おやおや、乙女にとっては重要な理由ですよ。無論、お兄さんが漢の為、民の
為に骨身を惜しまない所も理由ですけどね」
「…でも、確か諸葛亮は北郷の…」
「そうですねー、既に正妻の座は占領されてますねー。でも、風は正妻に拘って
いるわけではありませんしねー」
風のその発言に郭嘉は完全に開いた口が塞がらない状態になっていた。
「何と言うか…いろいろ負けた気分ね」
「おやおや、実際に稟ちゃんは風達に負けてますよねー」
「ぐっ…事実だけに反論出来ない」
・・・・・・・
「というわけで、この人をどうするのかはお兄さんにお任せしますねー」
風は通常の口調でそう告げて郭嘉を俺に引き渡すと曹操の捜索の方へ戻ってい
ったのであった。
「どういうわけでだ?(上記の二人の会話を一刀が知る由も無いので)…まあ、
それはともかく…あなたが郭嘉殿ですね?」
俺は面前にいる眼鏡の女性に改めて話しかける。
「ええ、私が郭嘉です。そういえば貴方とは初対面でしたね」
「とりあえず…貴女の身柄は一旦我が軍で預かります。貴女へのご沙汰は、この
戦が終わった後に陛下より下されるのでしばらく窮屈でしょうが我慢を」
こうして郭嘉はしばらく閉じ込められる事になったのであった。
「ええい、一体どうなっておるのだ!?」
夏侯惇と恋の一騎討ちはなかなか決着が着かずにいた。その間、彼女の所には
全くと言っていいほど戦況が伝わって来ず、自分の眼で確かめに行く事も出来
ない状況に苛立ちを覚えていた。
「お前達の負け…おとなしく降伏しろ」
「何をたわけた事を!我ら…いや、華琳様が負ける事など天地がひっくり返った
とてあり得ぬわ!!」
恋に降伏を勧められるも、そう言って断るやり取りを既に十回ばかり繰り返し
ていたのであった。
「なら…もう終わりにする」
「終わり?ようやく私の強さが分かったか!おとなしく降伏すれば命までは取ら
ん…『…本気で戦う』…なっ、どういう事だ!?まるで今まで本気ではなかっ
たかのような言い草に聞こえるが!?」
「うん、月と詠と一刀と朱里におおよその戦の決着が着くまでお前を足止めする
程度の力で戦えって言われた…だからそうしてた。でももう大体終わったから
ここも終わりにする」
そう言った恋の五体より今までに無い程の闘気が溢れ出す。
「ぐっ…この!夏侯元譲がその程度で怯むと思うなよ!?」
夏侯惇もそう言って剣を構える。
「なら行く…」
「来るなら来てみろ!」
ガギィン!!
二人の得物が交差したその直後、立っていたのは恋のみであった。
「止め…」
恋が止めをさそうとしたその瞬間、夏侯惇は最後の力を振り絞り、その攻撃を
捻ってかわすも、川に転落してそのまま行方が分からなくなってしまったので
あった。
「…逃げられた」
「どぅりゃぁぁぁぁぁ!!」
「ふん、その程度か」
許楮が得物を振り回すが、華雄はそれを余裕をもってかわしていた。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ、お前!何でさっきからボクの攻撃をかわしてばっか
りなんだよ!!」
「ふっ、知れた事…それが我が主と盟友からの指示だからだ」
「指示って何だよ!」
「お前の足止めをするという事だ。だから本気で仕掛けずにかわしてばかりいた
のだ…でももう戦況は決まったようだし、こちらからも攻撃する事にしよう」
華雄はそう言って得物を構える。その身から発せられる闘気に許楮は圧倒され
ていた。
「行くぞ、許楮。たぁぁぁぁぁぁ!!」
華雄が戦斧を振り下ろす。それを許楮は何とか受け止めるが、
「甘いわ!おぉぉぉぉぉーーー!!」
華雄が雄叫びと共にさらに力を込めると、許楮の得物が真っ二つに切り裂かれ、
その一撃は許楮に襲い掛かる。
許楮は何とか身を捻ってかわしたものの、華雄が間髪入れずに繰り出した横殴
りの一撃をかわす事が出来ず、刃にこそ当たらなかったが、柄の部分が脇腹を
直撃してその衝撃で昏倒し、華雄によって捕らえられたのであった。
・・・・・・・
「よし、これでほぼ片付いたと見ていいだろう」
「華雄さん、ご苦労様です」
雛里が寄って来てそう華雄に声をかける。
「何、大した事はしていない。雛里の言う通りにしただけだしな」
華雄がそう言って雛里の頭を撫でると、雛里は『あわわ』と言いながらも嬉し
そうに微笑んでいた。
「それでは戦はほぼ決したという事じゃな。ならば我らも南皮へ向かうぞ!」
陛下の号令と共に全軍が移動を開始する。
「おそらくもう大丈夫だとは思うけど、何時何処で残党が襲って来るか分からな
いわ。皆も警戒だけは怠らないようにね」
詠が近衛兵にそう指示をする。
「でも一応これで終わったって事でいいんだよね?」
月が馬を寄せて来て詠にそう嬉しそうに話しかける。
「あくまでも『とりあえず』よ。むしろこれからが大変なんだから」
・・・・・・・
既に戦がほぼ決したのは伝わっていた為、近衛兵の中には弛緩した空気が漂っ
ており、その内の何人かが隊列を離れて木陰で用を足していた。
「結局俺達何もしなかったな」
「当然だろ、実際俺達近衛兵が活躍するような事態になる位なら最初から陛下も
こんな所まで来ないだろうしな」
「ああ、早く洛陽に帰って酒飲みてぇ」
「俺さ…帰ったら祝言を挙げるんだ」
「へぇ~俺の所はカミさんが臨月でさぁ、帰った頃には産まれてるかもしれねぇ
んだ~」
特にここまでやる事も無かった近衛兵達は、もはや周りを警戒する事も無く、
完全にだらけきっていたのであったが、突然そこに風を切るような音がしたか
と思うと、その近衛兵達の首は全て胴から離れていたのであった。それは斬ら
れた本人達も気付かなかったらしく、斬られた首はだらけきった顔のままであ
った。
「どうやら完全に隙だらけのようね…しかも武官の殆どは前線に出ているようだ
し…今こそ」
それを斬った者は殺した兵の服を着るとそ知らぬ顔で隊列に入り、劉弁のいる
中央へ向かっていったのであった。
続く!
あとがき的なもの
mokiti1976-2010です。
結局ここで一刀が一騎討ちをする事はありませんでした。
そしておおよそ戦は決したようですが、まだ諦めてない方がいるようで…。
さて、どうなる事やら?
一応次回はこの続きからお送りします。命に忍び寄る者の正体は?
命は、一刀達はどう対応するのか?
それでは次回外史動乱編ノ三十五でお会いいたしましょう。
追伸 結局、今回の命の台詞は一言だけだった…本当はもうちょっと
考えていたのですが。
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お待たせしました!
全ての策が破られ、完全に追いつめられた曹操。
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