No.561314

人類には早すぎた御使いが恋姫入り 五十一話

TAPEtさん

『御使いの娘たち』
という変な表現を持ちかけて、

御遣いの娘たちの出番。
この戦に終止符を。

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2013-03-31 22:41:44 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:4167   閲覧ユーザー数:3491

一刀SIDE

 

タイムマシン。

 

空間の代わりに時間を前後に移動する機械のことで、現代にても空想の産物とされるモノの一つだ。

 

だが、俺はそれを不可能と見なかった。

最も不可能と見る理由がなかった。

人にできないことが俺にできない理由に繋がるわけではなかったから。

人にできないことを出来てこそ、俺という存在は生きる意味を持つのだから。

 

だが、結局のところ、俺が作った機械は『タイムマシーンではなかった』。

この機械が俺を連れてきた場所は、俺が生きる世界の過去でなく、まったく別の世界の歴史の名かに連れてきた。

 

だがそれでも構わなかった。

むしろそうであったこそ興味深かった。

実に興味深い生活だった。

 

「……」

 

琉流が意識を失っている時間は然程長くないだろう。

本来ならこんなことをしてはならない。

一度搭乗者を振りきって不試着したじゃじゃ馬のような機械だ。

もし琉流の身に何かが起きるとすれば……。

 

しかし、もう持たなかった。

 

「すまない」

 

俺はタイムマシーンの席に固定された琉流を見ながら言った。

もうこの病んだ体じゃ移動時の抵抗を耐えることが出来ない。

 

既に設定は住んでいる。

本来なら正確が計算のために何週間もかかる作業だが、動く時間が短いと考える変数が少ない。

 

最後に琉流の隣にあるもう一つの座席にメモを残しておいて、俺はタイムマシーンを稼働させ、そこから出た。

機械は外からの接触を完全に遮断した時点で動き始め、一瞬光りだすといつの間にそこから消えていた。

跡形もなく消えたタイムマシーンがちゃんと稼働したと確認して、俺は適当な壁に背中を任せ、そのままするりと座り込んだ。

息をすることすら辛い。

体が焼けるみたいだ。

 

「…さあ、来い」

 

今すぐに俺の前に現れろ。

 

しばらく俺は『耐えることをやめる』つもりだ。

 

でも、その耐えないことさえ止めたくなったら、

 

その時は俺の右手にある黒いモノの出番だろう。

 

使いたくない。

 

だから……

 

「……ぅああああああああ!!!!」

 

誰も居ないという『安堵感』にならない安堵感に俺は少し我慢をやめることにした。

 

 

桃香SIDE

 

「そんな……!」

 

燃えている洛陽城を目にして、私の体は震えていました。

酷い。

あそこに居ただろう人々。

あの人達が生きてきた場所。

それがすべて燃え上がっていました。

 

「朱里ちゃん、皆に進軍を急ぐように伝えて!早く洛陽に行って火を消さないと…」

「……あの火は洛陽の一部だけが燃えているわけではありません、桃香さま。既に洛陽の全部が燃えていると見て間違いないでしょう。私たちだけではとても消火することは出来ません」

「だからって何もしないで見ているわけには行かないじゃない」

「それに、問題は洛陽だけではありません」

「どういうこと?」

 

朱里ちゃんは洛陽城の前に展開している袁紹軍を差しながら言いました。

 

「袁紹軍は洛陽にたどり着いているものの、何の動きを見せていません。洛陽の消火作業はおろか、軍が動揺してざわめいているのがここからでも判ります」

「…袁紹さんは一体何を考えているの?」

「恐らく燃えている洛陽を前にして放心したのでしょう。どの道まともに軍を動かせる状態ではないはずです」

「……」

 

これが袁紹さんを説得できる最後の機会かもしれない。

 

「朱里ちゃん、一人で袁紹さんと話がしたい」

「無理かと思います。今の袁紹さんなら桃香さまを見た途端殺そうとするかもしれません」

「護衛はつけるよ。でも軍が全部動くのは駄目。コレ以上無駄な争いを広げたくないの」

「…鈴々ちゃんは居ませんし、愛紗さんに知らせたら絶対反対するでしょう。星さんと…曹操軍の方にお願いしてましょう」

「ありがとう、朱里ちゃん」

「はわわ、後で愛紗さんに怒られる覚悟はありますよね?」

「うっ…それは後で考える…」

 

もっとも、無事で行って来られるかもあやしいけど…。

ううん、きっと大丈夫。大丈夫にしないといけない。

これは私にしか出来ないこと。そう思いながらやらなきゃいけない。

 

「袁紹軍に伝令を…今から其処へ向かうと伝えてください。そして星さんと曹操軍の将の方々にこちらで来られるようにお願いしてください」

「はっ!」

 

「その必要はないわ」

「!」

 

この声は…!!

 

 

袁紹SIDE

 

「軍を動かせないって、どういうことですの!」

 

わたくしは劉備軍を殲滅してきなさいと言ったはずですわよ!

それなのに軍が微動だにしていないこの状況は一体どういうことですの!

わたくしの命に逆らうつもりですの?

 

「もう無理ですよ。ここに来るまで休まず走ってきている上に、こんなモノまで見せられたら、もうまともに動ける兵なんて残っていませんよ」

「そんなことは知りませんわよ!袁家当主であるわたくしが戦えと言ったら戦うのがあなたたちの仕事ではありませんの!戦えないなどと腑抜けたことを言う兵士なら切り捨てなさい!そしたら周りの連中も動くはずですわ!」

「麗羽さま、いい加減に諦めてください!私たちは負けたんですよ!」

「負けたですって!一体誰にですの!」

 

一体わたくしが誰に負けたというんですの!

一体誰がわたくしに勝ったというんですの!

 

わたくしはまだ誰にも負けてなどいませんわ。

 

「こうなったらもういいですわ!斗詩さん、猪々子さん、あなたたちだけでも劉備の首を討ち取って来なさい!たかが5千の雑兵などあなたたちにとってないのも同じでしょう!」

「麗羽さま……」

「姫…本気か…」

 

なんですの。

何故二人ともそんな目でわたくしを見ますの。

 

「あなたたちまで…わたくしに従えないというのですの……」

「お願いです、姫……今ならまだ遅くありません。最初からやり直しましょう。私たちは姫のためにならなんでも出来ます。でも、それも姫を守るためにすることです。今やもう、私たちにできることは姫を連れてここを逃げ出す以外にできることなんてないんですよ」

「…逃げる?」

 

わたくしが…この袁本初に逃げろと言うのですの?

 

「失礼致します」

 

その時、劉備軍の兵装をした者が突然現れました。

ここまで来るなんて私たちの兵士は一体何をしていましたの!

 

「劉備さまよりの伝令です。間もなく劉備さまがこちらに参られます。袁紹さまとの談話を願っていらっしゃってます」

「劉備さんが…」

「劉備……」

 

劉備…このわたくしをあざ笑うために来るんですの?

誰でもなく、連合軍で一番弱っちかったあなたがわたくしを…!

 

「…来ると言いですわ。帰りなさい」

「はっ!」

「姫…良いんですか」

「…拒む理由はありませんわ」

 

例え、万が一にでもわたくしが負けたなどということがあったとしても、

決して…

決してあなたに負けたわけではありませんわ…!

 

「袁紹さん…」

 

劉備…来ましたわね。

 

「劉備」

 

目の前に現れた劉備に向かって一歩ずつ歩いて行き、そして、腰にある剣を抜いたわたくしは

 

「かぁくごおおお!!」

「姫!何を…」

 

わたくしは劉備に向かって剣を振り下ろしましたわ。

いや、おろそうとした。

しかし、刃物同士がぶつかる音がした後に聞こえた声は……

 

「目を眩ませたの、麗羽」

「なっ…!」

「まるで劉備以外には目に見えてなかったわね。一体何があなたをここまで追い詰めたのやら…」

「華琳さん……何故あなたが劉備を…」

 

いつの間にそこに立っていたのか、いえ、最初から『劉備の隣』に立っていたのですの?

 

「あなたに何かと言いたいことはあったのだけれど、あまりにも呆れされて忘れてしまったわ」

「華琳さん…!!」

 

華琳さん…

その目……あなたもその目ですの!

そんな目でわたくしを見ること、誰であろうと容赦しませんわよ…!

 

 

華琳SIDE

 

「曹操さん…ありがとうございます」

 

私が虎牢関を出たのは、劉備が洛陽に向かうのを確認した後だった。

単騎で劉備が居るところまで追いつくにはそれほど難しいことではなかった。

劉備が袁紹と出会おうとした所に丁度良く劉備軍に近づいたことは否めないけどね。

流石にそこは天運だったわ。

 

隣で少し驚いた様子を見せながらも落ち着いた声で礼を言う劉備を見て、彼の凄さにまた驚いた。

最初に会った村娘のような様子はなく、英雄と呼ばれるにふさわしい風格を出していた。完全に人を変えてしまったわね。

それに比べて、麗羽、あなたはどうなの。

名門を率いる当主としての建前の品格さえもまったく感じ取れない今の様。

あなたは私が知っていた麗羽よりも遥かに劣っているわ。

覇道のための大きな板図で、あなたを一番大きな敵になるだろうと思っていた頃もあった。

でも、今のあなたはもうそこら辺の雑魚な諸侯たちを何も変わらない。

 

「あの孫策の妹が言った通りね。堕ちたわ、麗羽」

 

これ以上あなたのような人物を歴史の表舞台に居させることは、これを歴史として覚えるだろう子孫たちに見せて恥じらいにしかならないわ。

 

「降伏しなさい、麗羽」

「なん…ですって」

「何度も言わせないで。今この場で私と、劉備の前で降伏しなさい。さすれば命までは取らないであげる」

「…曹操さん」

「劉備、コイツはね。元からこういう奴なのよ。自分の首に刃物が行かないと状況が把握できないの。そんな奴と話し合いで円満に終わらせようとするのは時間の無駄よ」

「華琳さん…よくもわたくしをここまで侮辱してくれましたわね」

「侮辱した?勘違いしないで頂戴。今まで私が何一つでも、あなたを貶めたことなんてあって?すべてはあなたから始まったことよ。…まぁ、それが判らないのだからあなたは今のあなたでしかないのだけれど」

「何を訳の分からないことを……ここはわたくしの軍のど真ん中でしてよ?こんな状況でわたくしがあなたたちに降伏すると思いまして?」

「『軍』ですって?はっ!烏合の衆を通り越して本当の烏頭が率いているこの集まりに当てるほど軍という言葉は軽くないわ」

「なっ!」

「…良いわ。証拠が欲しいわけね」

 

私は『絶』を下ろして周りの兵たちに向かって叫んだ。

 

「良いか!袁紹の将兵たちよ!我が名は曹孟徳!今より私は貴様らの大将の首を討ち取る。この君主に命を賭けられる者から前に出よ!だが覚えておくがいい!この戦争にて、お前たちの君主が何をしてきたか!貴様らの命を如何にも安く思い、使い捨てたか!この者が貴様らの命を賭けるに相応しい人間だと思い疑わぬものは私の前に出よ!」

 

動かない。

一兵たりとも、見ているだけで動かない。

 

「な、…なっ!」

「これが現実よ」

 

それも当然でしょう。

今この兵士たちを動かしているのは、名門の出のあなたという存在でも、大義でもなく、死にたくないという気持ち、それだけ。

絶望がこの場に満ち溢れている。

この軍はもう死んだ軍よ。

 

「と、斗詩さん!あなた達まで…!」

「……」「……」

 

「皆さん、私の話を聞いてください!」

 

劉備が口を開けた。

 

「私の名前は劉備玄徳。黄巾の乱で義勇軍を引き上げて名を挙げ、今の位に居る者です。あの時私は力なく死んで行く人々を守るために皆で力を合わせようと言っていました。そしたら多くの人達が自分たちを守るために私に力を貸してくれました。そして、そうやって自分たちを守った人達は他の力のない人たちを守るためにも命を賭けて戦ってくれました」

 

劉備は一度言葉を切って周りを見回した。

兵士たちの視線は今劉備に集中していた。

 

「今ここに居る皆さんの顔には恐怖が見えます。ここに居る皆さんは皆戦いたくない戦いに命を賭けられ、そして死んでいく仲間たちを見てきたと思います。これ以上戦いたくない、死にたくないと思うだろうと思います。自分たちを守るためでもなく、命を賭けるほどの大義があるわけでもないこの戦に皆さんが命を賭ける必要なんてありません!」

 

兵士たちがざわめく。

恐怖に乗って言葉が伝わっていく。

 

「ここに居る私と曹操さんには、皇帝陛下より授かった勅書があります。そして私の勅書には私に冀州のすべてを任せると書いてあります。今皆さんの命を握ってるのは袁紹さんではなく、この私です。そして私はこの場で皆さんに告げます。皆さんの『命を預けられた者』として、あなた達の命は私が守ります。皆さんの命、家族たちの安泰、すべて私が保証します」

 

君主の立場から言わせてもらうと、

とんだハッタリだった。

彼女は今責任の取れないだろう言葉を言っていた。

 

でも、劉備の言葉は、恐怖に満ちて頼る場所を探していた兵士たちに、その民たちに確かに届いていた。

 

「その代わり、私もあなた達にお願い事があります。武器を捨て、降伏してください。私があなた達を助けられるように、私に機会をください。私のいう言葉が嘘だろうと思うなら今すぐ私を刺しても構いません。でもこれは今まで私と志を共にしてくれた人たちと、私と共に居て死んでいった人たちの名誉にかけて、私の本心です」

 

カラン

 

と、剣が落ちる音が聞こえたのは、本当に驚くことに、劉備が長い話を終わらせた直後だった。

すぐにもう一つ、こんどは槍が落ちる軽い音。

次に剣、それからは重なって判らないほどたくさんの武器たちが地面に落ちていった。

 

「な…なんなんですの、これは…何なんですの!!」

「聞こえるのかしら、麗羽。この音が…あなたが堕ちていく音よ」

 

劉備のちょっとした演説に折れる兵士たちよりもあなたの人望の無さにもっと呆れてしまうのは、私が人への評価を誤っているのかしら。

 

「姫…」

「……」

 

麗羽は俯いていた。

四方には武器を落として音と、劉備の名を連呼する声まで聞こえる始末。

麗羽が見ることのできる方向は上と下2つしかなかった。

ここで天を仰ぐことが出来る程の者なら、ここまでも来なかったでしょうね。

 

「既にあなたの言葉は不要のようね。この軍は既に自ら降伏を選んだわ。後は貴女だけよ」

「……殺してやりますわ」

「……」

「貴女も…あの男も…何時か絶対に……」

 

……。

これ以上言っても口が酸っぱくなるだけね。

後は部下たちに任せましょう。

 

「それにしても、貴女もやるようになったわね。あんなハッタリができるようになるなんて」

 

私は劉備にそう言った。

だけど、劉備の顔にはやり遂げたという安堵感より、更なる憂いの顔が見えていた。

そしてその視線の先には、今でも燃えている洛陽があった。

倒れた城門の向こうの姿は地獄を彷彿とさせた。

この距離でもその熱が感じられるほど、熱く、赤く燃えていた。

 

「この炎、消すことは出来ないでしょうね」

「…ここまでする必要があったのでしょうか」

「…麗羽を止めるには一番手っ取り早かった、と彼なら言うでしょうよ」

「……中に人たちは居るのかな」

「流石に避難させたでしょうね。幾ら彼でも数万の洛陽の民を無駄に死なせたりはしないわ。…最も彼は『無駄』が嫌いなのよ」

 

やる時には完膚なきまでやるけれど…。

 

「私、今から帰って雨乞い祭りの用意をしようと思います」

「…人手で消火できるような火ではないしね。無駄だろうと思うけど、まぁ頑張りなさいな」

「華琳さんはこれからどうするのですか。やっぱり、一刀さんを…」

「ええ、最初からそのつもりでここまで来たもの」

 

今度は逃さない。

ここで彼を見逃してしまったら、またどこで会うだろうか。

その時は敵だろうか、味方だろうか。

 

探さないと。

 

「派手なのが好きなのよ。彼は。誰もがこの火に目を奪われている時、静かに去っていくつもりでしょうね」

「それじゃあ、もう洛陽に居ないかもしれないんじゃ…」

「そうかも知れない」

 

正直それだと何の当てもないわ。

普通に考えて、ここに居た董卓軍がどこかに行ったとすれば、董卓の本拠地の長安でしょうけど、一刀がどこに行くだろうかはまったく想像つかない。

 

「だけど、諦めるつもりはないわ。今度こそは、彼を見逃さないと決めたもの。あなたにも、孫策にも絶対に渡さないわ」

「……」

 

そんな私を見ながら劉備は少し悲しみが滲む微笑みを見せた。

憐れみ…?

 

「羨ましいです」

「何?」

 

でも思いの外彼女はそう言った。

 

「私、一刀さんがあの会議場に居る時、もう私の元を去るだろうと思った時、ずっと私の側に居てくださいって言うことができませんでした。だってそんなワガママ言ってしまったら一刀さんの期待に背くことになっちゃいそうだったから」

「……」

「そんなに風に言える曹操さんが羨ましいです」

「劉備…」

 

その時だった

突然、周囲がピカッと輝いた。

 

「!」

「な、何ですか?」

 

一瞬目を奪われそうなぐらい強い光がして、

 

「これは…」

「さっきまではこんなもの…」

 

 

桃香SIDE

 

それは大きな…球?

判らないけど、球体の物体でした。

こんなもの見たことも聞いたこともありませんでした。

 

「これって何なんですか」

「待ちなさい、劉備。得体も知らない物を触っちゃ…」

 

私はその球体を手で触れました。

そしたら、球体は突然動き出しました。

 

「ひやあっ!」

「劉備!」

 

私が後ろに倒れると曹操さんが驚いてそんな私を捕まえて動く球体の後ろに引っ張りだしました。

球体はまるで蓮の華のように中心から花びらが開くように開かれました。

そしてその中に居たのは…。

 

「…え?典韋ちゃん?」

「流琉…!」

 

中には典韋ちゃんが椅子に座ったまま気を失っていました。

典韋ちゃんを見た曹操さんはさっき私に言った言葉なんてものともせずに開かれたその物体の中に入りました。

 

「流琉…!流琉!!」

 

眠っている典韋ちゃんを優しく起こすのかと思いきや、何度揺らしても目を覚まさない典韋ちゃんを見て曹操さんは不安になったのか鼻に手を近づけて息をしているのか確認しだしました。

 

「息がしているわ。…でもどうして起きないの?流琉、起きなさい!流琉!」

「ふぁっ!?曹操さん!」

 

一刀さんを探せないかもしれないという焦りのためでしょうか。典韋ちゃんの頬をおもいっきりを引っ叩こうとする曹操さんを手を私は慌てながら引き止めました。

あんな風に叩いたら起きている人も気を失いそうです。

 

「曹操さん、落ち着いてください!」

「……っっ!」

「…あれ?」

 

華琳さんを止めつつ視線を下に移した私たちの目に、流琉ちゃんが座っている隣の椅子にあった紙切れが見えました。

 

「これは…」

「ちょっと見せてみなさい」

「ああ、曹操さん、私にも見せて下さいよ」

 

曹操さんはその紙切れを荒い手使いで開きました。

その一瞬、

 

「!!」

 

私がその内容を背中から見る間もなく、曹操さんはその手紙を閉じました。

 

「え?な、なんですか。なんて書いてあったんですか?」

「…一刀からよ」

「え?」

「この機械は一刀の物よ…ここに流琉を入れてここに跳ばしたのよ」

「それってどういう…曹操さんはこれが何か知っているんですか?」

「判らないわ。ただ、彼に初めて会った時、彼はこう言ったの。自分は『時を移動する機械』に乗って来たって」

 

時を…移動する?

どういうことですか?

 

「それじゃあ、一刀さんは今どこに…」

「…ここに流琉だけ入れたってことはまだ送ったその場所に居たはずよ。彼はこの機械がどこにあるか知らなかった。でも……この洛陽で探した……っっ!!」

 

その時、曹操さんは城壁の方を見ました。

 

「……あの馬鹿!!!」

「!!」

 

突然そう叫んだ曹操さんは、乗ってきた自分の馬に乗りました。

 

「ちょっ、曹操さん。どこに行くんですか」

「一刀の居るところよ」

「どこに居るかわかるんですか?その中に居場所が書いてあったんですか?」

 

私の質問に答えず、曹操さんはそのまま馬を走らせました。

そして曹操さんが向かった先は、燃え上がる洛陽の中。

倒れた城門を通って曹操さんは火の海の中へ単騎で乗り込みました。

 

「曹操さん!!」

 

まさかあの中にまだ一刀さんが残っているというのですか?

自殺行為です!

まさか一刀さんってこの中で死ぬつもりなんじゃ……。

 

「…こうしてる場合じゃない」

 

私は機械の中にまだ残っていた典韋ちゃんを担って、乗ってきた馬に典韋ちゃんを乗せました。一人では大変だったので横にいた袁紹軍の兵士さんの一人に手伝ってもらいました。

袁紹さんだけを残すことに不安は残ったんですけど、今は一刀さんと曹操さんのことの方が心配でした。

 

 

華琳SIDE

 

崩れ落ちる町の建物たち。

まさに火の海、いや、地獄とでも言ってやろうかしら。

だけど彼を探さないといけないという心が自分の身の安全を考えるそれを遥かに上回っていた。

そもそもそんなこと考えていたらここまで単身で来たりなんてしても居なかった。

 

向かう先はたった一箇所。

 

皇宮。

 

あんな得体の知らない物が洛陽にあったのに誰も知らなかった。私の耳にも入らなかった。

だとしたら洛陽の誰も気づかないだろう場所にソレがあったとしか考えられない。

洛陽に誰も知らない一番に秘められし場所。

 

そこは宮殿内でも一番安全である場所。

皇帝本人の部屋だった。

 

木で建てられた宮殿の柱が崩れ落ちていく。

乗ってきた名馬『絶影』が驚いて声を上げると、私は馬を落ち着けられずそのまま倒れた。

 

「ひゃっ!」

 

馬は驚いてここまで来た道を戻ろうとしたけど、丁度そこに落ちた木材につぶれてそのまま断末魔を上げた。

惜しい馬を失ったわね…。

落馬した私だったけど、止まっているわけには行かない。

ここで止まっていたら彼も探せずあの馬のようになるまでよ。

 

「っっ!」

 

燃える床を走りながらふと思う。

ここまでする必要があるのかと。

この私が自ら命を賭けるほど、彼は大事なのかと……。

 

「…そんなの決まってるじゃない」

 

迷ったかも知らない。

彼がどこに居るか確信した瞬間、私は行くことを迷ったかもしれない。

あの紙の中に書いてあった『二文字』がなければ……

 

「一時はこの世のすべてを賭けても得られないだろうと思ったソレを……この命一つ賭けて得られるとしたら本望よ!」

 

クググ…

 

と宮殿が本格的に崩れる音がした。

 

なんとかたどり着いた皇帝陛下の御所。

だけど一刀は見当たらない。

 

「待って…」

 

部屋の壁に空いた空間があった。

中を覗くと、下に続く階段があった。

 

「……迷ってる暇はないわね」

 

既に戻ることさえも許されなかった。私は飛び込むように階段の下へと飛び降りた。

 

・・・

 

・・

 

 

火の燃える音も聞こえなくなって

長い長い階段が続いて先に、やがて階段の終わりが見えた。

何もない暗い部屋だった。

 

いや

 

「……やぁ…」

「……」

 

彼が居た。

 

一刀が壁に背を任せたまま倒れていた。

 

「流琉は…元気か?」

「…今人の心配ができる状態のつもり?」

 

暗い中で見える彼の姿は…離れてみてもとても健康とはいえない状態だった。

 

「こんなところで何をしているの」

「待っていたんだよ、お前を…」

「……言いなさい」

 

私は彼に近づきながら言った。

 

「ここまで来て冗談なんて言わせないわ。私も冗談なんて言うつもりはない」

 

私は半分本気で彼に向かって絶を振るった。

 

「言いなさい。でないと本気で頸刎ねるわよ」

 

そして鎌の先が彼の頭があった真横の壁に刺さった時、彼は私が紙の中で見た、私をここまで連れてきた魔法の言葉を言った。

 

 

 

「話をしよう……『華琳』」

 

 


 
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